SF/ファンタジー

2017年10月20日 (金)

書架の探偵 (ジーン・ウルフ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
書架の探偵』は「図書館に収められているミステリー作家のリクローンが探偵として活躍する」という紹介文と、古い図書館の書棚を描いた表紙を見て、一冊の本の中にAIとして作家の記憶を封じ込めてあって、彼と対話しながら、知恵を借りて事件を解決していく物語だと思ったのです。

が、予想は見事に裏切られました。その書架は、ワンルームマンションの出入口側の壁を取り払ってあり、蔵書ならぬ「蔵者」はそこで人間のように暮らしているのです。図書館の開館時間中は自分の部屋にいなければならず、閲覧や貸し出しの希望者がいたら要求に応えねばなりません。もしも長年、閲覧希望すらない状態が続くと最後には焼却処分が待っているとか。そう、蔵者は人間ではなく「物」扱いなのです。クローンに人権はないみたい。

父親につづいて兄も亡くしたコレット・コールドブルック嬢は、兄を殺した犯人の手がかりになりそうな一冊の本『火星の殺人』の著者であるE・A・スミスのリクローンを一週間借り出したのです。正体不明の敵に襲われ、攫われ、暴行され、散々な目に遭いながらも、スミスは丁寧な口調を崩すことなく、淡々と自分が果たすべき役割をこなしていきます。

途中、話がどこへ転がっていくのかわからず戸惑いましたが、最後はビックリ、どんでん返し。スミス氏が100年以上前に本物の人間だったときにどんな小説を書いてきたのかわかりませんが、この『書架の探偵』がいちばん面白いことは間違いないでしょう。

あ、蔵者には文章を書くことは禁じられていたのでした。もし駄文を書いたりすると作家としての価値が下がるからという図書館の都合で。でも、価値が上がるなら問題ないはず、ですよね?

お勧め度:★★★☆☆

2017年10月11日 (水)

怨讐星域 3 約束の地 (栃尾真治)

怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)
怨讐星域Ⅲ 約束の地』はシリーズ最終巻。地球を飛び立った宇宙船ノアズ・アークがついに約束の地・エデンの衛星軌道上に到着します。しかし、母船は着陸できないため、宇宙艇を建造し、その一方でエデンの地表に探査機を送り込み、データ収集を行うのですが…。

エデンには知的生命体が存在する兆候が見られる。地表の95%は海なので、残る5%の陸地で共存していくことは可能なのか。凶暴な敵となったら勝ち目はあるのか。最高会議は紛糾し、地表への降下計画は頓挫します。

一方、エデンでは首長アンデルスが「裏切り者の末裔は皆殺しにすべし」と唱え、少年兵に槍を持たせて訓練を行なっています。さぁ、ジャンプ組と宇宙船組が出会ったときに何が起こるのか、目が離せません。

ラストはご自分の目で確かめていただくとして、最後にサプライズが用意してありました。「なんじゃ、そりゃー!?」。生きていくって大変ですね。

SFとしてはツッコミどころ満載ですが「もし地球が滅亡するとしたら」というIFで始まる物語としては実に面白いものでした。それぞれの立場の人間がそのときどう感じたのかが丁寧に描かれていて、その都度「彼(彼女)に幸せになってほしい」と願わずにはいられません。

最後に、表題になっている「怨讐」について。内の結束を固めるために外に共通の敵をつくるという方法があることは理解できるのですが、地球滅亡をまえにしてアメリカの大統領が宇宙船で脱出したからといって、その何世代も後の子孫を皆殺しにするという恨みは筋違いだと思います。作者もそんなことは承知のうえで、現在の地球でも同様の「恨み」が存在することを想起させようというのかもしれません。

果たして人類に希望はあるのか。ドキドキしながら読んでください。

追記:星間移住つながりで、Amazonビデオで『インターステラー』と『オブリビオン』を観ました。後者は崩壊した地球が舞台なのですがアンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」が象徴的で面白かった。興味のある方はどうぞ!

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 8日 (日)

怨讐星域 2 ニューエデン (栃尾真治)

怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅱ ニューエデン 』はシリーズ2作目。宇宙船ノアズ・アークも、約束の地エデンも、人類は3世代目になっています。孫の世代になると、地球のことを教育でしか知りませんから、どうもピンと来ない部分が増えてくるようです。

昨年の降誕祭というイベントでは「かぶと虫」というグループの「昨日」という曲が披露されて盛り上がったとか。5世代目になると、地球の文化と文明もある程度戻ったようです。生きるのに必死だったから武器は進歩していないようで幸いです。ここは日本人が書いたからそうなのであって、アメリカ人なら銃を持たせているような気がします。人名などは翻訳物っぽいのですが、そういう意味では日本的なSF小説で、わたしにとっては逆に新鮮でした。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 5日 (木)

怨讐星域 1 ノアズ・アーク (栃尾真治)

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク 』は「太陽フレアによって数年後に地球が滅亡する」という予測のもと、アメリカ大統領と3万人は宇宙船ノアズ・アーク号で秘密裏に地球を離れ「約束の地」へ旅立ったのです。一方、大統領の娘ナタリーの恋人が星間転送装置を実用化。引き離された恋人を先回りして待つことに…。

舞台は3つ。ノアズ・アーク船内と172光年離れた惑星、そして地球です。

実際にこんなことになったら一体どうなるのだろう? 読み進めるうちに引き込まれます。

ノアズ・アークが目的の星に到着するのは数百年後。地球を出発した人々の何世代も後のこと。冷凍睡眠かと思ったらそうじゃない。ただ次の世代にバトンを渡すためだけに生きるのでは、自殺者が増えるのもわかるような気がします。

一方、目的の星に転送された人たちも悲惨です。そもそも無事に転送された人は限られています。海上だったら溺死、高いところだったら転落死、山や木や石のある場所だったら合成死? 生き残ったとしても、水と食料を確保するだけでも苦労が絶えず、謎の捕食生物の犠牲者も後を絶たない。文明がリセットされた状態から未知を惑星の生活をスタートするのは、地球でのキャンプとは訳が違います。恐ろしい。

そして、もし地球が明日滅ぶとしても、最後まで見届けようとする人たちもいます。そうなったら毎日がまさに「神に与えられた」貴重な時間。そこに幸せを見出す人もいるのです。「自分だったらコレかなぁ。出不精だし」などと思いつつ読みました。

まさに三者三様の極限状態。

タイトルに「怨讐星域」とあるように、地球に取り残され組は、ノアズ・アーク組を深く恨んでいます。転送先のコミュニティでは「ノアズ・アークがこの星に着いたとき、裏切り者の子孫たちに鉄槌を下すのだ」と子供らに言い聞かせています。でも、これはちょっと違和感がある。アメリカ人なら「国民を見捨てた大統領」ということで糾弾できるけれど、日本人であれば文句をいう筋合いではないでしょう。

本作は3巻完結。さて、どうなっていくのか興味津々です。

お勧め度:★★★★★

2017年9月 7日 (木)

ふわふわの泉 (野尻抱介)

ふわふわの泉
ふわふわの泉 』 は、高校の化学部部長・浅倉泉が偶然、ダイヤモンドより固く、空気より軽い物質を作り出した。彼女はそれを「ふわふわ」と名付け、科学部の後輩・保科昶と共に、大々的に売り出しにかかったのです。どこで失敗するのかと思っていると、あれよあれよという間に規模が大きくなって…。

化学オタクの小説を読んだのは初めてで新鮮でした。ふわふわが様々な物に応用され、空を飛び、果ては宇宙にまで飛び出そうとする、壮大なSF小説です。荒唐無稽とも見えますが、いまのわたしには判断できません。数万光年の宇宙を旅するには人間の肉体がお荷物になるため情報化が必要だとか。いわば長門有希の親分ですね。つまり、人類にとって「シンギュラリティ」(人類が人工知能と融合し、生物学的な思考速度の限界を超越すること)は不可避だというのです。

ちょっと毛色の変わったSFを読んでみたい方にお勧めします。

お勧め度:★★★★☆

2017年8月30日 (水)

弥栄の烏 (阿部知里)

弥栄の烏 八咫烏シリーズ6
弥栄の烏 八咫烏シリーズ6 』 は八咫烏シリーズ第1部完結編。

1. 烏に単は似合わない
2. 烏は主を選ばない
3. 黄金の烏
4. 空棺の烏
5. 玉依姫
6. 弥栄の烏

1巻と2巻が同じ時と場所を、異なる登場人物の視点から描いた作品であったように、5巻と6巻もそうです。5巻は山神の「母」となる志帆が、6巻は若宮たちが、主人公です。ガールズサイドとボーイズサイドですね。

今回、初めてKindle版を買いました。iPhoneSEの4インチ画面で読む気はしなかったので、以前買ったKindle Fireを指定し、途中まで読んで3日ほど忘れていたら、持ち出したもののバッテリー切れで読めず。次回、朝100%充電して持ち出したにもかかわらず、昼休みに電源が入りません。帰宅後、すったもんだして、立ち上げ直して、なんとか読み終えましたが、Kindle Fireは信用できません。

バッテリーが切れたら読めないのは困るのと、Kindle Fireは重くて持ちにくい。滑りやすく落としたら壊れるという不安もあります。わたしはやっぱり紙の本がいい。単行本1,680円がKindle1,200円というのは他に比べれば安いほうですが、まだまだ高い。1,000円以下にすべき。Kindle Fireがだめなら iPhoneで読めないのかとKindleアプリを立ち上げてみたら、ちゃんと読めるじゃないですか。画面が小さいとはいえ、小説ならば読めないわけではないので、こっちで読めばよかった。

というわけで、今作は疲れました。(なんのこっちゃ?)

お勧め度:★★★★☆

2017年8月27日 (日)

神様の御用人 6 (浅場なつ)

神様の御用人 (6) (メディアワークス文庫)
神様の御用人 (6) 』はシリーズ第6弾。

1. 東国の武者
2. 神様と兄と妹と
3. 親愛なる姉上へ

なにやら企んでいる幸太郎に「旅費は出すから」と言われ、ホイホイと東京までついてきた良彦(と黄金)。そこで平将門に出会い、自分を裏切った藤原氏の末裔に仕返しをしたいと御用を頼まれてしまいます。その末裔とは…。良彦のまえに突然現れる大国主神が可笑しい。

3話目は、いま話題の九州は沖ノ島。宗像三女神に呼び出されます。東へ西へと御用人も忙しい。

お勧め度:★★★☆☆

2017年8月24日 (木)

神様の御用人 5 (浅葉なつ)

神様の御用人 (5) (メディアワークス文庫)
神様の御用人 (5)』も5冊目。久しぶりです。能を観るようになって古事記に登場する神様が身近になったので『古事記 』を読もうとしたのですがダメ。退屈で読めないのです。そこで思い出したのが本書。そうだ、続きを読もう!

1. 天孫の鏡
2. 英雄、鳥を好む
3. 大地主神の恋わずらい?
4. えべっさんの草鞋

この本は神様の御用を承る係に任命された25歳フリーターの萩原良彦が主人公。方位神の黄金(狐)がお供というかお目付役で、大主神社の宮司の娘・吉田穂乃香(女子高生)が神様が見えるので時々良彦を手伝っています。

御用の多くは、人の信仰心を失い、力を削がれた神様に対する助力なのですが、良彦が黄金はもちろん、初対面の神様に対してもタメ口なのが可笑しい。そういえば、良彦は文庫版の古事記を持っていて、それで神様のことを調べています。どの文庫だろう?

1話目に「途端に態度を軟化させ始める黄金を、良彦は能面のような顔で見つめた」という下りがあるのですが、ここでいう「能面」とは無表情とか無感情という意味なのでしょうね。でも、わたしもまだ勉強中ですけど、能面っていろいろあるんです。

そういえば、彼らが暮らすのは京都・出町柳周辺。吉田穂乃香ということは、彼女の父親が宮司を務める神社は吉田神社がモデルでしょうか。4話では、穂乃香が出町(枡形)商店街の時計店に出かける様子が描かれています。

そのとき良彦は西宮にいて、出町柳まで戻るのは「意外と面倒くさい」。スマホアプリ「Y!乗換案内」によると、阪神線で梅田へ出て、大阪駅から環状線で京橋へ。京阪に乗り換えて出町柳まで約1時間半。森見登美彦の描く京都は「あぁ、あのあたりだな」と、すぐ眼に浮かぶのですが、本シリーズはなぜか風景が浮かびにくい。だから自分で想像を膨らませる必要があるのがちょっと寂しい。

お勧め度:★★★☆☆

2017年8月16日 (水)

青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light? (森博嗣)

青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light? Wシリーズ (講談社タイガ)
青白く輝く月を見たか?』は「Wシリーズ」の第6弾。

今回ハギリ博士がウグイと共に向かうのは北極です。海底5,000mに沈む潜水艦でいまも稼働するスーパーコンピュータ「オーロラ」の様子がおかしい。このままでは暴走するかもしれないから「説得」するか「停止」させたい。マガタ博士も登場します。

量子コンピュータが人工知能を加速する 』を読んだからか、急にAIが現実味を帯びて感じられるようになってきました。地球における人類の歴史、学問、文化、芸術のすべてを習得したAIが「考える」ことってなんだろう? 興味があります。

結局ハギリ博士は案内役。護衛のウグイもすこしずつハギリの冗談にも反応するようになってきました。人間、ウォーカロン、AIの区別があいまいになるというか、区別がなくなる世界が(SF的には)いつか来るのかもしれません。人類の人口減少傾向は事実ですし、未来社会を支えるのは「彼ら」なのかもしれません。

一方、今回は全体に割とほのぼのした展開で、のんびり楽しむことができました。ハギリ博士のまわりには「人間でない仲間」が増えつつあって、どこにでも現れるデボラに、オーロラが加わったようです。そんななかウグイは…?

お勧め度:★★★★☆

2017年7月20日 (木)

玉依姫ー八咫烏シリーズ 5 (阿部知里)

玉依姫 八咫烏シリーズ 5
玉依姫 』は現代日本から見た八咫烏シリーズの一冊。『十二国記』における『魔性の子』にあたります。

1. 雨宿り
2. 荒魂
3. 過去夢
4. 糺す
5. 神名
6. 落花
7. 帰還

高校生の志帆は、いっしょに暮らす祖母の反対を押し切って、母親が嫁いだ山内村の叔父を訪ねます。祖母が母を連れて村から逃げ出した理由が知りたかったからです。読者からすると、トラブルに巻き込まれにいく前に祖母からちゃんと話を聞くべきだと思うわけですが、こちらの心の声などお構いなしに志帆は生贄にされてしまいます。

だからどうした?と思うわけですが、問題の元凶である山神に仕えるのが八咫烏と猿なのです。

荒ぶる神を鎮めるために、若い娘を人身御供に出すという風習がその村には残っていたわけです。現代の日本で行方不明者を隠すのは容易ではないと思うのですが、警察もぐるだというのですからお手上げです。さて、志帆の運命はいかに!?

お勧め度:★★★☆☆

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