SF/ファンタジー

2018年8月 5日 (日)

天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (森博嗣)

天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (講談社タイガ)

天空の矢はどこへ? 』は「Wシリーズ」第9弾。

ストーリーには新鮮味を感じなくなっているのに、どうして続巻が読みたくなるのかわかりました。ひとつは、クローンや人工知能など、現代の先にある未来を覗き見ることができることと、人間と人工知能との間にあるはずのない機微(ユーモアなど)が微妙に描かれていること。それが面白いのです。

今回は、人工知能の「脱走」が愉快でした。ネットを自在に移動する人口知能プログラム「トランスファ」に相通じる発想。しかし、単体として「生存する」ためには電源が不可欠。さて、どうするのか!?

理由の如何を問わず、メインコンピュータ(人工知能)が反乱を起こしたら、その管理する社会は崩壊しますね。将来「21世紀前半、人工知能の実用化が開始された」と歴史に記されるのでしょう。自制的かつ賢明なる発展を望みます。

お勧め度:★★★☆☆

2018年6月30日 (土)

グリフォンズ・ガーデン (早瀬耕)

グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA)
グリフォンズ・ガーデン』は『プラネタリウムの外側 』の前日譚ということなので、こちらを先に読んでみました。

主人公は東京の大学院を出ると、札幌にある知能工学研究施設、通称「グリフォンズ・ガーデン」に就職したのです。しかも、由美子という恋人と共に。

物語は PRIMARY WORLD と DUAL WORLD が交互にあって、後者の世界での恋人は佳奈といいます。登場する女性はいずれも素敵で理想的。つまり、恋愛小説でもあるわけです。

合わせ鏡に映る鏡像を「無限」だという彼女に対して、主人公は「光はいつか消滅するから無限ではない」と主張し、さらに二人の会話が続くのがすごいところ。正しいかどうかは別として、彼らの会話はなかなか興味深い。それが本作の魅力でもあります。

さて、PRIMARY WORLD の主人公は、大学のバイオコンピュータ IDA-10 の中に「世界」を構築してみることにしたのですが、一体なにが起こるのか!?

あとがきを読んでびっくり。これはそもそも大学の卒論だったというのです。それが1992年に本になって、2018年に『プラネタリウムの外側 』が発表された。その間、2014年に『未必のマクベス 』という作品があります。いずれ読んでみたいと思います。

お勧め度:★★★★☆

2018年6月25日 (月)

血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (森博嗣)

血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (講談社タイガ)

血か、死か、無か? 』は、Wシリーズ第8弾。前巻でマンネリを感じて飽きてきたのですが、なぜか続きが読みたくなってしまう、不思議な本です。

早瀬耕の『グリフォンズ・ガーデン 』を読むと、理系の知的会話が愉快で、それに比べるとWシリーズのハギリ博士は事件に巻き込まれるわりには、おっとりしていて軽いし、発想の根拠が(SFだから?)見えにくい。おまけに、根っこのところでは結局マガタ・シキ博士に行き着いてしまう。

でも、登場するガジェットには反応してしまう。博士の「メガネ」は一度使ってみたい。翻訳や検索、録画、赤外線ビューワー機能まであって、007も真っ青の優れモノ!

今回、以前護衛だったウグイが登場します。彼女が部屋に入ってくると「一気に目が覚めた。そういう機能が彼女にはあるようだ。彼女の視線を実装した目覚まし機が開発できるのではないか」。(笑)

他にも「なるほど、それで僕のところへ飛んできたわけか」
「飛んできたわけではありません」

「え、どうしたの? 目の色が変わったね」
「私の目には、そんな機能はありません」

まるで漫才です。大真面目だから余計に可笑しい。

お勧め度:★★★☆☆

2018年4月15日 (日)

パーマネント神喜劇 (万城目学)

パーマネント神喜劇
パーマネント神喜劇 』は万城目学の新作。神様が主人公のユーモア小説です。取材されているという設定で始まったのですが...。

1. はじめの一歩
2. 当たり屋
3. トシ&シュン
4. パーマネント神喜劇

神様の世界も世知辛いようで、出世のためには信者を増やし、手柄を立てなければならないようです。そうしないと左遷されてしまう!

さて、この神様の運命や如何に?

お勧め度:★★★☆☆

2018年4月11日 (水)

無限の書 (G・ウィロー・ウィルソン)

無限の書 (創元海外SF叢書)
無限の書』は、サイバーパンクとアラビアンナイトが融合したSFファンタジー小説。たしか日経夕刊の文化面でも紹介されてたと思います。23歳の反体制派ハッカー・アリフが、ネットとリアルと幽精(ジン)の世界を股にかけて悪戦苦闘するさまが面白いのです。

中東の専制国家で弾圧されてきたアリフは、アラビア人とインド人の混血のため、まっとうな職業にもつけず、ネットで抑圧された人々を守ってきました。上流階級の恋人が父親が決めた婚約者にもっていかれ、入れ替わりに渡された一冊の本がジンの言葉を綴った、本物の『千一日物語』だったので、これが騒動の始まりだったのです。果たして、その本は歴史的価値以上になにかあるのでしょうか?

ジンは人間に忘れられた都市に好んで住むらしく「最近はデトロイトが人気だ」とか、ジンといえば思い出すのが「アラジンと魔法のランプ」だったり、あちこちに散りばめられたユーモアが効いてます。アリフの言動にいらいらしていると、彼の幼馴染のダイナが「あんたは信念をもってるんじゃない。状況に流されてるだけよ」と一刀両断。スッとしました。

ジンが登場しなくても、本書はわたしにとって異世界小説。砂漠と宗教、金と強権に囲まれた国のありようは想像を超えていました。また、絶体絶命のピンチに陥ったアリフと仲間たちは一体どうなるのか。終盤は目が離せませんでした。

文句なしに面白い!
読み応えのあるエンタメ小説をお探しの方にお勧めします。

お勧め度:★★★★★

2018年4月 4日 (水)

図書館島 (ソフィア・サマター)

図書館島 (海外文学セレクション)
図書館島』は、紅茶諸島の富農の家に生まれたジェヴィックが、家庭教師ルンレの影響で首都ベインへ赴き、運命に翻弄される物語。2段組で350ページの長編小説は読み応えがあります。語り伝える声を重んじ、文字を持たない紅茶諸島から、文字を本(ヴァロン)として残し伝える文化を持つ国への旅は、ジェヴィックにとって大きなギャップだと思うのですが、彼は憑かれたように(危険さえ顧みずに)突き進んでいくのです。

作者の筆は、登場人物の様子や内面はもちろん、その土地の自然、文化、風俗、習慣、言い伝え、信仰など、事細かに書き込んでいきます。ただ、細かいだけに「槍をつくって魚とウナギを捕る」なんて書いてあると「槍でウナギは無理じゃない?」とツッコミたくなることもあります。

そうして情報の波に翻弄されていると、さりげなくストーリーが先に進んでて慌てる、のくりかえし。これは一度読んだだけでは消化しきれません。

ジェヴィック人生最大の出会いが、ベインへの船上でであった少女ジサヴェト。彼女は不治の病に冒され、一縷の望みをつないでベインの東の果てまで母親と旅しているのです。彼女と再会したとき、ジェヴィックは…。

「図書館島」というタイトルから『図書館の魔女 』のような展開を期待したのですが、図書館が舞台の物語ではありませんでした。原題は"A STRANGER IN OLONDRIA"。「オロンドリアの旅人」とでもいうのでしょうか。そのほうがしっくりきます。

お勧め度:★★★★☆

2018年3月26日 (月)

肺都 アイアマンガー三部作 3 (エドワード・ケアリー)

肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)
肺都』はアイアマンガー三部作の完結編。LONDONではなくLUNGDONなので「肺都」と漢字を充てたようです。アイアマンガー一族は「ロンドン」ではなく「ランドン」と呼んで恨んでいます。それというのも、人が物に変わってしまう疫病(?)が拡がったため、ロンドンは、ヴィクトリア女王は穢れの町を住民ごと焼き払ったのです。命からがら逃げ出したアイアマンガーたちはハイドパーク近くの屋敷に潜伏するのですが...。

本書の紹介文に「物語はいかなる想像も凌駕する驚天動地の結末を迎える」とありますが「驚天動地」なのは読者ではなくロンドンです。アイアマンガーたちは新たな居場所を獲得するためにロンドンとの決戦に臨みます。

ロンドンの警察はアイアマンガーを逮捕するより射殺したいらしい。大混乱のなか、クロッドとルーシーはまたも離れ離れになり、読者はやきもきします。アイアマンガー一族の非道を止め、静かな暮らしを求めるクロッドを凶弾が襲います。

さて、一体どうなってしまうのでしょうか? あとは読んでのお楽しみ!

お勧め度:★★★★☆

2018年3月22日 (木)

穢れの町 アイアマンガー三部作2

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)
穢れの町 』はアイアマンガー三部作の2巻目。3巻まで刊行されてから本シリーズを知って読み始めたことに感謝しています。続きがはやく読みたくて仕方ないから、待たずに済むのはしあわせなこと。

離れ離れになってしまったクロッドとルーシーが互いを探し求めて東奔西走。今回の舞台は、堆塵館のあったゴミ山と壁を隔てた「穢れの町」。ここは以前フィルチングと呼ばれていて、ルーシーが生まれ育った町です。この町の反対側にロンドンが広がっています。つまり、ゴミ山との緩衝地帯のような場所です。

しかし、ゴミ山の崩壊が始まり、穢れの町は大混乱に陥ります。さぁ、クロッドとルーシーは生き延びることができるのでしょうか?

お勧め度:★★★★★

2018年3月18日 (日)

堆塵館 アイアマンガー三部作1(エドワード・ケアリー)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)
堆塵館 (アイアマンガー三部作1) 』は、全3部作の1巻目。表紙絵がちょっと薄気味悪いので躊躇したのですが、読んでみたら面白いのです。

19世紀末のイギリス、ロンドンの外れに広大なゴミ捨て場があり、その中心に堆塵館(たいじんかん)という屋敷を建て、アイアマンガー一族が住んでいました。彼らは生まれると「誕生の品」を与えられ、それを一生つねに持っていることが掟なのです。

ちなみに、主人公クロッドの誕生の品は、浴槽のゴム栓。鎖がついているので懐中時計のようにして持ち歩いています。彼には「物」の声が聞こえるという特殊能力があり、誕生の品たちは自分の名前をしゃべるのですが、なにも言わない物もあります。

ちょっと「ハリー・ポッター」に似ています。主人公は不健康そうで虐められやすいのだけれど、意志はつよく、すごい能力を秘めています。

クロッドは16歳になると成人として結婚することになっています。そこへ召使いとして連れてこられたルーシー・ペナントと出会って恋に落ちてしまい(婚約者は決まっているのに)おもしろくなっ、じゃなくて大変です!

堆塵館は小ぎれいな部屋もあるのですが、なにせゴミ捨て場に囲まれているので、暗く、じめじめして、腐臭が漂うところ。そんな話を読みたくはなかったのですが、誕生の品の秘密がわかってくると、俄然おもしろくなって、一気に読み終えました。

クロッドとルーシーはそれぞれ追われて逃げるのに必死。なんとかしてふたりで脱出しようとするのですが、とんでもない状態で1巻が終わります。はやく2巻が読みたい!

お勧め度:★★★★★

2018年2月19日 (月)

コルヌトピア (津久井 五月)

コルヌトピア
コルヌトピア 』は、日経新聞夕刊の書評欄で紹介されていて興味を持ちました。植物群を計算資源化するというのです。それってコンピュータですよね。植物計算機(フロラ)とは、俄かに想像しがたいものだけに「おもしろそう」!

一方「コルヌトピア」とは、ギリシア神話に出て来る「豊饒の角」のこと。ヤギの角のような小型アンテナ(ウムヴェルト)をうなじに取り付けて、フロラと通信できるらしいのです。余談ですが、人間がハックされそうで怖い。

フロラ開発設計企業の調査官・砂山淵彦(すなやま・ふちひこ)は、二子玉川近くのグリーンベルトで起きた火災事故を調査するため出向いた先で、天才植物学者・折口鶲(おりくち・ひたき)と出会いますが、彼女との作業中に突然意識を失い倒れてしまいます。

SFなのですが、文学的表現が多く、最初は戸惑います。淵彦の友人・藤袴嗣実(ふじばかま・つぐみ)との出会いの場面で「源氏物語の藤袴、藤田嗣治の嗣に」と名前を説明するのです。好きな人にはたまらないのでは?

ひたきの研究には、フロラに適さない植物について、また植物と昆虫の関わりについてなど、なかなか興味深いものがあります。そもそも未解明の部分が大きいフロラを都市のインフラに取り込むとは大胆です。それ以前にウムヴェルトを着けている背景説明がないのが、わたしとしては怖い。

東京よりも赤道付近のジャングルをフロラ化したほうが効率がいいはず。逆に緯度が高い地域は「量子コンピュータを利用している」らしい。50年後、現実はどうなっているでしょう?

お勧め度:★★★☆☆

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