ミステリー

2017年10月20日 (金)

書架の探偵 (ジーン・ウルフ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
書架の探偵』は「図書館に収められているミステリー作家のリクローンが探偵として活躍する」という紹介文と、古い図書館の書棚を描いた表紙を見て、一冊の本の中にAIとして作家の記憶を封じ込めてあって、彼と対話しながら、知恵を借りて事件を解決していく物語だと思ったのです。

が、予想は見事に裏切られました。その書架は、ワンルームマンションの出入口側の壁を取り払ってあり、蔵書ならぬ「蔵者」はそこで人間のように暮らしているのです。図書館の開館時間中は自分の部屋にいなければならず、閲覧や貸し出しの希望者がいたら要求に応えねばなりません。もしも長年、閲覧希望すらない状態が続くと最後には焼却処分が待っているとか。そう、蔵者は人間ではなく「物」扱いなのです。クローンに人権はないみたい。

父親につづいて兄も亡くしたコレット・コールドブルック嬢は、兄を殺した犯人の手がかりになりそうな一冊の本『火星の殺人』の著者であるE・A・スミスのリクローンを一週間借り出したのです。正体不明の敵に襲われ、攫われ、暴行され、散々な目に遭いながらも、スミスは丁寧な口調を崩すことなく、淡々と自分が果たすべき役割をこなしていきます。

途中、話がどこへ転がっていくのかわからず戸惑いましたが、最後はビックリ、どんでん返し。スミス氏が100年以上前に本物の人間だったときにどんな小説を書いてきたのかわかりませんが、この『書架の探偵』がいちばん面白いことは間違いないでしょう。

あ、蔵者には文章を書くことは禁じられていたのでした。もし駄文を書いたりすると作家としての価値が下がるからという図書館の都合で。でも、価値が上がるなら問題ないはず、ですよね?

お勧め度:★★★☆☆

2017年9月29日 (金)

不等辺三角形 (内田康夫)

不等辺三角形 (幻冬舎文庫)
不等辺三角形』は、日経新聞夕刊の文化面で紹介されていて、地元名古屋が舞台になっていることに興味をもって、読んでみることにしました。

名古屋の覚王山日泰寺の東側に「揚輝荘」という、松坂屋初代社長が建てた、いわゆる私設迎賓館が舞台。現在は名古屋市指定文化財となっていて、北園は無料、南園の聴松閣が入場料300円。先月長男といっしょに訪れたところだったのです。長男の感想は「1ヶ月くらい借りて住んでみたい」。そりゃ最高ですね。エントランス2階部分の明るい書斎でゆっくり本を読んでいたい。

小説では丁寧に取材されたことがわかります。漢詩が出てきたところで「リアルと同じだ」。もう一方の舞台である東松島のことはわかりませんが、おそらく同様かと。あとがきによると本書を書き上げるのに5年かかったそうです。

浅見光彦シリーズ三部作の最終巻だとか。主人公の浅見光彦はフリーのコピーライターなのですが、警察庁刑事局長の兄を持つため、本人が望まずとも警察に顔が効いてしまうので、探偵として通用するようです。

探偵としては上品というか押しが弱いところがあるのですが、嫌味がなく安心して読むことができました。

お勧め度:★★★★★

2017年4月12日 (水)

ビブリア古書堂の事件手帖 7 ~栞子さんと果てない舞台

ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~<ビブリア古書堂の事件手帖> (メディアワークス文庫)
ビブリア古書堂の事件手帖7』はシリーズ第7弾の完結編。これまで挙げられたのは国内の古書でしたが、今回はシェイクスピア。栞子の祖父が母親を試そうとした仕掛けに栞子が挑みます。

1. 「歓び以外の思いは」
2. 「わたしはわたしではない」
3. 「覚悟がすべて」

どんなに価値のある本でも、自分のものにしてしまえば、どうしようと自分の勝手、なのでしょうか。わたしのような小心者には抵抗のある発想です。

栞子のお相手は物足りなかったものの、シリーズを通して楽しく読めました。

お勧め度:★★★★★

2016年9月 9日 (金)

ビブリア古書堂の事件手帖 6 〜栞子さんと巡るさだめ

ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)
ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ 』は、シリーズ第6弾。栞子が田中敏雄に階段から突き落とされて怪我を負った足は治らないまま、いまも杖をついています。それでも本を読むには不都合はないと気に病むふうもない彼女はいったい何を考えているのでしょうか。

保釈中の田中敏雄は、太宰治の別の『晩年』を捜してほしいと大輔を通じて依頼してきます。そこで「古書探偵・栞子」が調査を開始。古書を追っていくと、その作家も含めて、関わった人間の過去と歴史が明らかになっていきます。なんと恐ろしい!(古書が嫌いになりそう)

栞子と大輔の初々しいお付き合いはちょうどよい息抜きになっています。そろそろ7巻を出してもらえるとうれしいです。

お勧め度:★★★★☆

2016年7月11日 (月)

暗礁 (黒川博行)

暗礁〈上〉 (幻冬舎文庫)

暗礁 』は「疫病神」シリーズ第3弾。やくざの桑原に賭け麻雀の代打ちを頼まれた二宮は、臨時収入に喜んだものの、例によって「疫病神」のトラブルに巻き込まれるのでした。お決まりのパターンですね。

今回の「シノギ」は、大手運送会社と奈良県警との癒着により生まれた裏金の争奪戦です。そこに桑原だけでなく、大阪府警のマル暴担まで絡んできます。作者はその筋のご友人がいらっしゃるのでしょうか。詳しすぎます。

二宮の父親はヤクザだったのですが「ヤクザとデカは同じ人種や。権力志向で一家意識が強い。縦社会で命令には絶対服従。刑務所の塀の上を歩いてて、たまたま中に落ちたんがヤクザで、外に落ちたんがデカ」というのが口癖だったとか。説得力ありすぎ。

すべてが金に絡んだ抗争。桑原の頭にはカネとミエしかありません。二宮も、桑原を疫病神だと忌み嫌いながらも、巻き込まれた元を取ろうと欲をかくから痛い目に遭うのです。たまには刺激があっても面白いけれど、続けて読むものではありませんね。

お勧め度:★★☆☆☆

2016年5月16日 (月)

えんま寄席 江戸落語外伝 (車浮代)

                  
えんま寄席 江戸落語外伝
      『えんま寄席 江戸落語外伝 』は「落語の世界の住人が死後にやってくる」と紹介されているから、亡くなった落語家が閻魔様のまえで一席披露するのかと思ったら、そうではなくて、4つの落語噺をつなげて、その落語の登場人物を閻魔様が裁くホラーミステリー、になるのかなぁ?
      
      今年になって文楽を見るようになって、落語にも興味があるので読んでみました。「芝浜」「子別れ」「火事息子」「明烏」という落語は実際にあって、オチ(下げ)を変えたり、話をつないだりしながら「落語ミステリー」に仕立てたもの。
      
      読んでいるうちに「この人はさっきの話の奥さんか」とわかってくるのですがややこしい。落語にくわしい方は、元ネタがわかるから楽しめる部分もあるでしょうが、元ネタを知らない私は戸惑うばかり。そもそも、これらの噺を聞いて笑えるのでしょうか? 暗い話が多いのですが。
      
      閻魔様登場以前に、実際の落語噺ありきなので、素人にはとっつきにくいというか、あまり楽しくなかった。落語にくわしい方が読まれたほうがよいかと思います。
      
      お勧め度:★★★☆☆
      

2016年2月13日 (土)

バビロン I 女 (野崎まど)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ) バビロン 1 ―女― 』は、野崎まどの新シリーズ第1弾。野崎まどは「究極フェチ」。なんでも究極まで突き詰めてみせる。今回は「女」を突き詰めるのでしょうか?

舞台は東京地検特捜部。検事の名は正崎善。正しく善き哉。検事にぴったりの名前です。相棒の事務官もいるので、まるでTVドラマ『HERO』みたい。そう、正崎も巨悪と闘うのです。

ただ、TVドラマよりもとんでもない、異常な事件が起きます。

製薬会社と大学による臨床研究不正事件の強制捜査で押収した資料の中から出てきた1枚の紙。それはFという文字で真っ黒に塗りつぶされ、毛髪と血痕が貼り付いていたのです。探していた証拠ではないものの、気になった正崎は調査してみることにしました。

森博嗣の『すべてがFになる』を連想しますが、その「F」とは別物です。

まるで警察小説のようで、表紙のイメージに反して本格的。ただ、そこはラノベですから、クスッと笑える要素も盛り込んであります。

さて、正崎は「犯人」を捕えることができるでしょうか。続編が待ち遠しい!

お勧め度:★★★★★

2015年12月28日 (月)

名探偵の呪縛 (東野圭吾)

名探偵の呪縛 (講談社文庫) 名探偵の呪縛 』は、図書館から別世界に紛れ込んだ主人公、探偵(金田一ならぬ)「天下一」の本格推理小説。

記念館の地下から盗掘されたお宝を探して出してほしい。そう、依頼された天下一。調査に赴く先で殺人事件が…。

その世界では「密室殺人」という概念がなく、現場に誰も出入りできない状態であれば自殺と断定する警察。なにかがおかしい。というか、なにかが足りない?

この街には過去や歴史がない。そう訊くと、カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を思い出しますが、おそらくそういう話じゃない。一方、この街を作った「クリエイター」伝説がある。

じきに盗まれたお宝が何かわかりますが、最後まで付き合いましょう。軽く、楽しく読めました。

お勧め度:★★★☆☆

2015年12月11日 (金)

白ゆき姫殺人事件 (湊かなえ)

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫) 白ゆき姫殺人事件 』は『告白』の湊かなえの作品ということで、鶴舞図書館で借りてみました。

「白ゆき姫」であって「白雪姫」じゃないのは「白ゆき」という美白化粧石けんを販売している化粧品メーカーの美人社員が惨殺されたから、マスコミがそう呼んでいるという設定。

週刊誌の記者の取材に応える形で進んでいき、巻末に「しぐれ谷OL殺人事件 関連資料」として、ネットのデータやら週刊誌の誌面などが載っています。

殺人は穏やかではないけれど、わかってしまえばミステリーでもなんでもない事件を、人の噂は無責任に無秩序に肥大化していく。無自覚の悪意の連鎖にマスコミが拍車をかける。日々わたしたちが目に、耳にしている事を、あらためて小説という形で見せられると、人間の愚かさや「いじめ」の根っこが見えて来る気がします。

ただ「面白かったか」というと星2つです。

お勧め度:★★☆☆☆

2015年12月 4日 (金)

天空の蜂 (東野圭吾)

天空の蜂 (講談社文庫) 天空の蜂 』は、東野圭吾の小説を(失礼ながら)初めて面白いと思った作品。航空自衛隊の小牧基地と名古屋空港、それに三菱重工業の工場群を思い出しながら読みました。

最新鋭の大型ヘリコプターをラジコンのように盗み出し、あとはGPSを使った自動操縦で敦賀にある高速増殖炉「新陽」(もんじゅ)の直上 1,000m でホバーリングを始めたのです。犯人の要求は、国内にある原発の即時停止および破壊。自動操縦で着陸はできないため、燃料が尽きれば墜落します。

誰が、何のために、どうやって?

その謎を解き明かしていくのがミステリーなのですが、それにいろいろと搦手で来るので退屈しません。無人で飛び立ったヘリに少年がひとりで閉じ込められるなんて、もうドキドキしました。

政府や電力会社が原発を止めようとしないのは予想の範囲内ですが、犯人の動機については深いものがあります。犯人は、犯罪者ではあるけれど悪人ではないと、わたしは思います。

原発だけでなく、沖縄の米軍基地の問題も「他人事」ではありません。これをきっかけに一度じっくり考えてみませんか。それはきっと小説を読むより大事なことですから。(苦笑)

お勧め度:★★★★★

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