現代小説

2018年6月21日 (木)

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 (田中経一)

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 (幻冬舎文庫)
ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 』は、皇居の料理人だった直太朗が第2次大戦中、満州で完成させたレシピを再現してほしいと依頼された“最期の料理請負人”の佐々木が主人公。

借金を抱える佐々木は高額の報酬に目が眩んで引き受けるのですが、手がかりは乏しいし、依頼主の意図が掴めないし、なにやら雲行きが怪しい...。

それって「究極のメニュー?」と思ったのですが、ちょっとちがうみたい。料理の物語なのですが、美味しい場面は少なく、どちらかというと「料理ミステリー」。現在と過去の場面が交互に出てきて、テンポよく進みます。

作者がやたら料理にくわしいので、他に著書がないかと調べたらなくて、なんとTV番組「料理の鉄人」の演出家だったそうです。納得!

お勧め度:★★★☆☆

2018年6月10日 (日)

トッカン 徴収ロワイヤル (高殿円)

トッカン 徴収ロワイヤル
トッカン 徴収ロワイヤル 』は「トッカン」シリーズ第4弾。

1. 幻の国産コーヒー
2. 人生オークション
3. 徴収官のシャランラ
4. 五年目の鮭
5. 招かれざる客と書いて本屋敷真事と読む
6. 対馬ロワイヤル

主人公の「ぐー子」も鏡トッカンに鍛えられて、ひとりで動けるようになってきました。トッカンに一喝されて「うぐっ」と固まってしまうことなく言い返せるようになってきました。同僚の木綿子いわく「もう徴収に敵はいないんじゃない?」。

そんなぐー子ですが、1本150円のペットボトル飲料代を節約するためにオフィスの冷水機にかじりつき、150x5=750円でケーキを買うことを楽しみに生きてる小市民なのでした。

「雑誌やネットの記事がごはんものであふれかえるはずだ。もっとも身近で、もっとも手軽でもっとも安価に人を幸福にできるのはおいしいごはんなのである。(そうだ。肉だ。コンビニ飯食ってる場合じゃない!)」

しかし、昼はコンビニ「コーヒー+からあげ」、夜はコンビニ「スイーツ」。なんだか随所に妙なリアリティを感じてしまいます。作者は最後に「この作品はフィクションです。本当に本当にフィクションです」。なんだか怪しい。

お仕事小説としてはイチオシ! まちがいなく笑えます。(それでいいのか!?)

お勧め度:★★★★★

2018年6月 7日 (木)

海の見える理髪店 (萩原浩)

海の見える理髪店
海の見える理髪店 』 は直木賞をとった短編集。

1. 海の見える理髪店
2. いつか来た道
3. 遠くから来た手紙
4. 空は今日もスカイ
5. 時のない時計
6. 成人式

表題作は「よくしゃべるおやじだなぁ」と思っていたら、それがそのまま小説のストーリーになってる。淡々としていて、重い。

他の短編も、生活感が濃く漂っていて、読んでいて憂鬱になってきます。残念ながら、わたしの好みではありませんでした。

お勧め度:★☆☆☆☆

2018年6月 4日 (月)

遺譜 浅見光彦 最後の事件 (内田康夫)

遺譜 浅見光彦最後の事件 上 (角川文庫)
遺譜 』は「浅見光彦最後の事件」というサブタイトルに惹かれて読んでみることにしました。以前『不等辺三角形 』を読んで、他の「浅見光彦シリーズ」も読もうかと思ったら100冊以上あって断念したのです。

わたしが子供の頃、母親が「(同い年の従姉妹とちがって)うちの子は推理小説を読まない」と心配していたのを覚えています。たぶんホームズとかクリスティとかのことでしょう。最近わかったのですが、わたしが嫌いなのは推理小説ではなくて(フィクションとはいえ)人が殺されることなのです。小説でも漫画でも映画でも「殺人」が軽すぎます。

それでも本作は気になって上下巻読んでみました。浅見光彦シリーズは2作目でしかありませんが、主人公は控えめで探偵気取りではないところがいい。本作でいえば、オーストリアからドイツ、神戸、丹波、篠山としっかり取材されたようで、旅行記としても楽しめます。

「その辺りに、石の文化を持つヨーロッパと、木と紙の住居文化の日本との相違を感じる」とさりげないフレーズに思わず相槌を打ってしまうこともあります。そう、なぜ日本の建築は木だったのでしょうか。すぐに燃えてしまうのに。と、脱線できるところも魅力です。

お勧め度:★★★★☆

2018年6月 1日 (金)

名古屋駅西 喫茶ユトリロ (太田忠次)

名古屋駅西 喫茶ユトリロ (ハルキ文庫)
名古屋駅西 喫茶ユトリロ 』 は、ちょっと懐かしい喫茶店が舞台の、ご近所グルメ小説です。近年コメダやスタバなどのチェーン店が増えてきて、個人経営の古い喫茶店が減ってきたのは寂しい。太田忠次は名古屋在住の作家さんなので、名古屋の風景をリアルに描いてくれます。

1. 手羽先唐揚げと奇妙なイタズラ
2. カレーうどんとおかしなアフロ
3. 海老フライと弱気な泥棒
4. 寿がきやラーメンと家族の思い出
5. 鬼まんじゅうと縁結びの神
6. 味噌おでんとユトリロが似合う店

カレーうどんもいいけれど、それより味噌煮込みうどんやあんかけパスタじゃないのかなぁ。わたしは大阪出身で、東京と名古屋で暮らした経験から、食べ物がおいしい(好みに合う)のは大阪。ただし、お金さえ出せば東京ではおいしいものが食べられる。名古屋は特筆すべきグルメはないものの、おいしいもの、おいしい店はあります。

おいしいものを食べれば幸せになれます。幸せ探しはどこに住んでいてもできるはず。だからグルメ小説は好きです。

お勧め度:★★★☆☆

2018年5月29日 (火)

活版印刷 三日月堂 海からの手紙 (ほしおさなえ)

([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫)
活版印刷三日月堂: 海からの手紙 』はシリーズ第2弾。川越にある古い活版印刷所を再開した孫娘・弓子が主人公。彼女はすでに親もないけれど悲壮感はなく、常にマイペースで淡々としています。だれかを活版印刷で手助けできればというスタンスがチャンスを呼び寄せているようです。

1. ちょうちょうの朗読会
2. あわゆきのあと
3. 海からの手紙
4. 我らの西部劇

今回は、朗読会のプログラム、名刺、豆本、そしていよいよ本を刷ろうという話が出てきます。印刷を通じて、なにかを「作る」ことに心惹かれます。

お勧め度:★★★★☆

2018年5月25日 (金)

活版印刷 三日月堂 星たちの栞 (ほしおさなえ)

([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)
活版印刷三日月堂 』は、川越にある古い活版印刷工場に越して来た孫娘・弓子が、周囲の人間に請われて「手キン」でカードや栞を印刷してみたことから人の輪が広がっていくお話です。

1. 世界は森
2. 八月のコースター
3. 星たちの栞
4. ひとつだけの活字

活版印刷とは、判子状の活字を並べ、インキを塗り、紙に押し付けて印刷する技術。日本語の場合、書体、サイズのちがいもあるため、かな漢字記号など含めると膨大な数の活字が必要になります。いまはそれをパソコンで編集し、印刷所にデータを渡すだけで本ができてしまいますが、昔はこうだったのです。ピンと来ない方は「大人の科学マガジン 小さな活版印刷機」をお勧めします。

「手キン」のことを読んで思い出したのは、学生時代に使っていた英文タイプライター。ヨイショっとキートップを1センチ以上押し込んで、ようやく活字がインクリボンを叩きます。Aなど左手の小指ですからうまく力が入りません。押し付ける力によって文字の濃淡と上下位置が微妙に変わるので、慣れるまでに時間がかかりましたが、おかげでブラインドタッチを覚えました。Apple ][ パソコンのキーボードに初めて触ったときは、あまりの軽さに驚きました。キーを「叩く」のではなく「軽く押さえる」だけ。さすがアメリカ人が作った機械です。

カタカナ、ひらかな、英数字、漢字と複雑な文字体系をもつ日本語だからこそ「マンガ」が発達したと養老孟司氏は『京都の壁 』で書いています。アメコミがつまらないのはシンプルなアルファベットのせい? その理屈がいまひとつピンと来ないのですが、日本文化の根底に日本語があることは確かです。

西尾の岩瀬文庫で「枕草子」の写本を見て、崩し字が読めないことにショックを受け、くずし字は活字に合わないので置き去りにされたという展示を見て再びショックを受けました。

レターセットから始まって、喫茶店のショップカードとコースター、高校文芸部の栞、結婚式の招待状と、話が広がっていく様子が自然に描かれています。仮名文字だけ1組の活字で新郎新婦の名前を印刷したいのだけれど「ともあき」「ゆきの」では「き」が2個必要になるから無理だというから「クロスさせればいいのに」とわたしは思ったのですが、さて、どう解決するでしょうか。

古いモノや技術を見直す動きはアナログレコードでも見られます。理屈ではデジタルのほうが音質が優れているはずなのに、実際に聴くとアナログのほうが(わたしの場合)魂を揺さぶるから不思議です。

「三日月堂」は面白かったので、続編も読んでみようと思います。

お勧め度:★★★★☆

2018年5月18日 (金)

棲月 隠蔽捜査 7 (今野敏)

棲月: 隠蔽捜査7
棲月: 隠蔽捜査7 』 は久々のシリーズ第9弾。

頭が固いのか柔らかいのか、よくわからない警察官(僚)・竜崎伸也。私鉄に続いて銀行のシステムがダウン。大森署の署長として越境行為をものともせず、署員をそれぞれの本社に派遣。当然、上からクレームが来るけれど「誰が調べたかは問題ではない。警察として対処すればいい」と(下らない役人根性を)一蹴。これがいいのです。胸がスッとします。

スッとするといえば、竜崎妻もたいしたもの。大森署からの異動を打診されただけで動揺している本人を「大森署があなたを育ててくれたのよ」「離れるのを寂しいと思うのがふつうでしょ」と夫を一刀両断。

新しい職場でもご活躍を期待しております。

お勧め度:★★★★★

2018年5月15日 (火)

猟犬の旗 (芝村裕吏)

猟犬の旗
猟犬の旗 』は『マージナル・オペレーション 』シリーズにも登場する、日本の情報機関「イトウ家」(要するにスパイ)の物語。

『マジオペ』には女性スパイが登場しますが、こちらの主人公は『猟犬の國 』と同じペルー人男性。家族を人質に取られ、20年来、日本の治安を守るために働いてきました。どんなに日本語が堪能でも外人扱いなのが耐えられない様子。そういう意味では、日本は外国人に優しくないかもしれません。

『マジオペ』同様、日本という国を「外国人」視点で見るのがおもしろい。日本の「平和」とは何なのか、考え直すきっかけになるかも。

途中、主人公がトヨタ86に乗るのですが、わたしも初めて乗ったとき「あれ、スバルみたいなエンジンだな」と思った。じつはスバルが作ったって知らなかったのです。2L水平対向4気筒ですから高速ではパワー不足ですが、足回りが固めなのもあって思い切って踏めば意外によく走ります。ただし、楽しいのはドライバーだけ。パッセンジャーは乗り心地最悪で、とても寝てられません。わたしは現行ロードスターのほうがいい。もちろんMTで。

スパイ小説ですから、血なまぐさいことをさらっとやってのけるので心臓に悪いのですが、シリア人の少女を拾った主人公は『マジオペ』のアラタとジブリールを思い出させ、一気読みでした。『マジオペ』ファンにおすすめします。

お勧め度:★★★★★

2018年5月13日 (日)

正義のセ 4 負けっぱなしで終わるもんか! (阿川佐和子)

正義のセ 4 負けっぱなしで終わるもんか! (角川文庫)
正義のセ 4 負けっぱなしで終わるもんか!』はシリーズ第4弾。検事の凛々子も成長し、今度は尼崎に転勤。江戸っ子の凛々子が大阪弁をしゃべるのが可笑しい。

奇妙な縁で110番担当の警察官・虎子(文字通りトラキチ)や知能犯係の青井刑事と知り合い、汚職事件の告発状について捜査を進め、上司にガサ入れの許可を求めるのですが...。

妹の結婚問題やら祖母の怪我やらプライベートも忙しいけれど、事件をまえにはそんなことも言ってられません。紆余曲折を経て、札幌から(捜査のために)呼ばれて大活躍!は、よかったのですが、凛々子が軽いのは口だけではなかったようでちょっとザンネン。

サブタイトルにあるように、今回はこれまでの雪辱を果たす巻です。3巻まで読んできた方はぜひ!

お勧め度:★★★★☆

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