時代小説

2017年9月14日 (木)

あきない世傳 金と銀 4 貫流篇 (高田郁)

あきない世傳 金と銀(四) 貫流篇 (時代小説文庫)
あきない世傳 金と銀(四) 貫流篇』はシリーズ第4弾。大坂天満の呉服商「五鈴屋」の五代目店主・惣次の女房・幸が主人公。この時代、女性は商店の主人になることは禁じられている中での奮闘記。

前作で、惣次はその傲慢さから取引先の信頼を失い「あんたとは取引できんが、幸さんなら喜んで」と言われ轟沈、行方不明となりました。さあ、主人が出奔したなどと知れては店の信頼はガタ落ち。さて、惣次の祖母・お富久は(家出した)三男坊・智蔵に店を継いでくれるよう頼むのですが…。

読み始めれば、その後のおおまかな展開は見えてきます。落ち着くところに落ち着くだろうという安心感からゆったりとした気分で楽しめました。「水戸黄門」的というか「正義は勝つ」という安心感というのか、これが時代劇(時代小説)の王道なのかもしれません。『みをつくし料理帖』もよかったけど、本シリーズもわたしのなかの評価が上がってきました。

今回は人形浄瑠璃(文楽)に引っ掛けた部分があって、それも面白かった。新手の手法で次々に商いを広げていく様子が痛快です。ただ、世話になった人のピンチには「売られていない喧嘩をも買う」幸でした。はやく続きが読みたい!

お勧め度:★★★★★

2017年9月10日 (日)

墨龍賦 (葉室麟)

墨龍賦(ぼくりゅうふ)
墨龍賦(ぼくりゅうふ) 』は、武士の家に生れながら東福寺に入れられ、のちに絵師として生きていくことになる海北友松(かいほうゆうしょう)を描いた物語。表紙絵は彼が建仁寺で描いた雲龍図です。

若き日の友松は、東福寺でのちの安国寺恵瓊と出会い、狩野永徳に弟子入りし、明智光秀の側近・斎藤内蔵助とも親しくなっていきます。恵瓊は毛利家のために働き、織田信長が勢力を拡げていく中で本能寺の変が起きて…。

とんでもない乱世を生き、絵師として人生を全うした男の物語。次々に「天下人」が入れ替わる時代には、歴史は強者によって都合のよいように書き換えられるもの。しかし「絵に魂を込めるなら、力ある者が滅びた後も魂は生き続けます。たとえ、どのような大きな力でも変えることができなかった魂を、後の世のひとは見ることになりましょう」。

2017年春の京博での展覧会を見逃したのが悔やまれます。

お勧め度:★★★★★

2017年9月 4日 (月)

鬼神 (矢野隆)

鬼神
鬼神 』 は、平安時代の大江山酒呑童子討伐を描いた小説。酒呑童子は「鬼」ではなく「人」だったのではないかという視点が新鮮です。

冒頭、山奥で母親と二人暮しの公時が、畑を荒らす熊と取っ組み合いをしています。あれ、坂田公時って「金太郎」じゃないですか。それじゃここは足柄山? でっかい鉞を振り回して熊の頭を飛ばしてしまいます。

そこへ源頼光が訪れて公時を武士として鍛えるべく都へ連れて帰り、彼を含めて頼光四天王(渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武)が揃います。けれど、山育ちの公時は都になじめず、大江山の偵察に出向いて、頭領の朱天の人柄に触れ、討伐などしないよう頼光に願ったのも虚しく、朝廷から酒呑童子討伐を命じられます。

朝廷や公家には己の欲を満たす「都合」があり、朱天たちには里の者たちを食わせていく「都合」がある。人として正しいのは朱天たちだとわかっていても頼光や公時は逆らうことができない。その葛藤に胸が締め付けられます。大江山の「鬼」は皆殺しにされてしまうのでしょうか。最後まで目を離すことができません。

これは大人向けの「金太郎」です。「ぜひ能で観たい」と思ったら、あるんですね「大江山」。でも、酒呑童子は鬼として成敗されてしまいます。つまりは都側の見方です。それが、時の権力者に擁護されてきた能の限界かもしれません。

お勧め度:★★★★★

2017年7月25日 (火)

平家物語 犬王の巻 (古川日出男)

平家物語 犬王の巻
平家物語 犬王の巻 』は『平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)』を現代語訳した作者による番外編ともいうべき一冊。能を観るようになって興味はあったものの敷居が高かった『平家物語』を初めて読破できたのが、先の日本文学全集だったのです。

本書も語りの文学として、予想以上に面白いものでした。

猿楽の名家に生まれながら、全身あまりの醜さに面をつけさせられ放任された、不遇の子「犬王」と、父親と壇ノ浦に潜っては平家の遺物を引き上げて生計を立てていた「友魚」が出会って物語は始まります。

犬王が生まれたとき「あまりに醜怪で、これはもう毀れた人体がひり出されたのだと思うばかりだった」というのですから想像を絶しています。しかし、そのように生まれついたのには理由があって…。

世阿弥の時代、人気があったのに歴史から消えてしまった犬王と友魚。権力者によって「歴史は作られる」のでした。しかし、だからこそ、よりリアリティをもって犬王の存在を感じることができました。平家物語や能に興味がある方にお勧めします。

お勧め度:★★★★★

追記:能は意外と身近だったりします。能楽堂へ足を運べば観ることができます。愛知県であれば、名古屋能楽堂豊田市能楽堂岡崎城二の丸能楽堂の3ヶ所あります。一般教養だと思って能楽を冷やかしに行ってみてください。意外に気に入るかもしれませんよ。

2017年6月16日 (金)

蘇我の娘の古事記 (周防柳)

蘇我の娘の古事記
蘇我の娘の古事記 』は 百済人の父と娘が紡いだ「古事記」の物語です。その娘コダマというのは、じつは乙巳の変で暗殺された蘇我入鹿の娘だったのですが、本人はそれを知らされずに育つのです。

蘇我入鹿というと、まず思い出したのが文楽「妹背山婦女庭訓」。ここでは蝦夷、入鹿父子は悪者なのですが、本書ではちょっとイメージがちがいます。

『平家物語』や『徒然草』などは、河出書房新社の『日本文学全集』(池澤夏樹=個人編集)で生まれて初めて読破できたのですが『古事記』は無理でした。現代語訳されていても、ピンと来ないというか、つまらないのです。

そこで本書です。あちこちの語り部がコダマに語って聞かせる形で古事記の内容が綴られます。「古事記ってこんなふうに書かれたんじゃないかな」というフィクションなのですが、その時代背景や登場人物たちの立場や心情が丁寧に描かれており、そこから「古事記」の世界が見えてくるのです。

戦国時代や江戸時代の小説は数多く出ていますが、飛鳥時代となると文献が少ない(ない?)ために小説にもなりにくい。どこまでが史実で、どこまでが神話なのかわかりませんが、日本という国が生まれた話というのは、子供たちに語っていきたい「おはなし」です。愛国心の問題ではなく、自分の生まれた国について「こういう話もある」ということを知っておいてほしい。そういう意味で、本書は画期的だと思うのです。

ただ「蘇我の娘」が大活躍するわけではありません。時代に翻弄されながら彼女が家族とともに生きた時代を描いているだけです。

乙巳の変(中大兄皇子、中臣鎌足らが宮中で蘇我入鹿を暗殺して蘇我氏(蘇我本宗家)を滅ぼした飛鳥時代の政変)から、壬申の乱(天智天皇の太子・大友皇子(弘文天皇の称号を追号)に対し、皇弟・大海人皇子(後の天武天皇)が地方豪族を味方に付けて反旗をひるがえした)後までが想像できるだけでも面白い。古代史に興味がある方はぜひ!

お勧め度:★★★★★

2017年6月12日 (月)

どぜう屋助七 (河治和香)

どぜう屋助七 (実業之日本社文庫)
どぜう屋助七 』は、浅草で今もつづく老舗「駒形どぜう」の三代目のお話。ときは幕末、ペリーの黒船がやってきたり、京では新撰組が暴れたり、不穏な空気が漂うなか、江戸の町人たちは地震にも火事にも負けず、日々暮らしていた様子がよく伝わってきます。ラノベとはちがう、しっかりした文章は安心して読むことができます。

一、君は今 駒形あたり どぜう汁
二、アメリカが来ても日本はつつがなし
三、恋は思案の外 欲は分別の内
四、鯰もおごる神の留守事
五、鯨汁 椀を重ねて叱られる
六、冥土の旅へコロリ欠け落ち
七、きゅうりごしん しんごしん
八、風の神 雷門に居候
九、江戸の豚 都の狆に追い出され
十、きんのと変わらぬけふの味

日経新聞夕刊文化面の書評欄で取り上げられたのを見て読んでみたのですが、予想以上に面白かった。書評欄というのは他人の評価なので、読んでみなければ面白いかどうかわかりません。でも、紹介された本に興味が惹かれれば読みたくなるもの。

東京で暮らしていたときも、どじょうは食べたことがありません。いまも抵抗がある。うなぎやくじらは食べるのだから、単なる食わず嫌いなのでしょう、たぶん。

お勧め度:★★★★★

2017年5月 5日 (金)

継承 奧右筆秘帳 4 (上田秀人)

継承 奥右筆秘帳 (講談社文庫)
継承 奥右筆秘帳 』はシリーズ第4弾。このシリーズの各タイトルが漢字二文字で覚えづらい。それが何巻目なのかがわからないので、次に読む本を探すのに書名をいちいち調べないといけません。シリーズものにはタイトルに連番を振ってほしい。

さて、尾張徳川家の後継をめぐる問題に、駿府城で家康の書付が見つかった件が絡み、書付の真贋を見極めるために奥右筆組頭・立花併右衛門が派遣されるという異例の事態。書付を狙うものは複数いて、江戸に残された衛悟は併右衛門が心配でなりません。

これまでのところ、本シリーズの舞台は、江戸城の将軍を含む上層部、御庭番ら忍集団、吉原が主なところ。欲にまみれた連中がやりたい放題。ただ、おとなしく殺されるわけにはいかないぞっと。

わたしはここで小休止。また気が向いたら続きを読みます。間が空いても、話を忘れても、ちゃんと人物紹介してくれるでしょうから。

お勧め度:★★★☆☆

2017年5月 3日 (水)

侵食 奧右筆秘帳 3 (上田秀人)

侵蝕<奥右筆秘帳> (講談社文庫)
侵蝕 奥右筆秘帳 』はシリーズ第3弾。大奥の御台所・茂姫に薩摩藩から女中が入ったという知らせが奥右筆組頭・立花併右衛門に届き「なぜこんな時期に?」と不審を抱きます。だれがなんのために女中を送り込んだのか…。

今回のテーマは大奥の闇。そこに薩摩藩の抜け荷も絡んできます。というわけで、護衛の衛悟は薩摩示現流を相手に戦うことになるのでした。いつも辛勝するものの「今回は勝てたが次回も勝てるとは限らない」という、当たり前のセリフがイタイ。

気軽に読めて、そこそこ楽しめる。娯楽時代小説としては秀逸なのですが「毎度おなじみ」老中や旗本たちの悪巧みとか、忍たちの思惑とか、襲撃シーンとか、パターンが見えてきました。でも、図書館で4巻まで借りたので一気読みします。

お勧め度:★★★☆☆

2017年5月 1日 (月)

国禁 奧右筆秘帳 2 (上田秀人)

国禁 (講談社文庫 う 57-2 奥右筆秘帳)
国禁 奥右筆秘帳 』はシリーズ第2弾。主人公は奥右筆組頭立花併右衛門という文官。武士とはいえ、刀を抜いたことがないような男。それが江戸城に巣くう闇に触れ、命を狙われる羽目に。やむなく隣家の次男坊・柊衛悟に護衛を頼んだという設定です。

併右衛門も衛悟もヒーローではありません。併右衛門は愛娘・瑞紀のために出世に汲々としているし、衛悟は兄から早く養子に行けとせっつかれているし、どちらも凡人です。いわば江戸を舞台にした凡人たちの闘い。「あ、これは死んだな」と思っても死にません。不死身です。

気になるのが、人物紹介や背景説明がしばしば繰り返されること。月刊誌に連載したのであればわかるのですが、見ると「文庫書き下ろし」。何度もおなじ説明を読まされるのが煩わしい。

今回のテーマは、津軽藩の抜け荷(密貿易)です。

お勧め度:★★★☆☆

2017年4月25日 (火)

密封 奧右筆秘帳 1 (上田秀人)

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)
密封<奥右筆秘帳> 』は、幕府への申請、届け出、依頼等の文書の内容をチェックし御用部屋へ取り次ぐ部署。ここを通さなければ幕府とのやりとりができないため、奥右筆組頭・ 立花併右衛門はそれなりに役得もあった。時は徳川家斉の治世。政はいわゆる官僚組織が慣例にしたがって進めるため、将軍には実権がなかった。

事件の発端は、田沼家の家督相続願い。田沼意次の孫である意明が赴任地で急死したというのだ。相続願いそのものには問題がなさそうだが、立花併右衛門は田沼家について調べているうちに江戸城内での刃傷沙汰に行き当たる。そのときから権力闘争の闇に巻き込まれていくことになって…。

立花家のとなりに柊家があり、そこの次男坊・衛悟と立花瑞紀は幼馴染。兄が家督を継いだため、衛悟は部屋住で肩身がせまい。養子先を探してはいるものの、剣術道場に通うほうが忙しい。そんななか、併右衛門が襲われ、身の危険を感じた併右衛門は衛悟を護衛として雇うことにした。

将軍の背後で暗躍する者、操られる者、出世のためには手段を問わない者ら、有象無象が現れ、衛悟もピンチに陥る。気丈な瑞紀に救われ、支えられ、甘やかなムードが漂うものの、鈍感な衛悟はなんにもわかっていないという、愉快な一面もある。

全12冊のシリーズなので、しばらく楽しめそうです。

お勧め度:★★★★☆

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