時代小説

2017年6月16日 (金)

蘇我の娘の古事記 (周防柳)

蘇我の娘の古事記
蘇我の娘の古事記 』は 百済人の父と娘が紡いだ「古事記」の物語です。その娘コダマというのは、じつは乙巳の変で暗殺された蘇我入鹿の娘だったのですが、本人はそれを知らされずに育つのです。

蘇我入鹿というと、まず思い出したのが文楽「妹背山婦女庭訓」。ここでは蝦夷、入鹿父子は悪者なのですが、本書ではちょっとイメージがちがいます。

『平家物語』や『徒然草』などは、河出書房新社の『日本文学全集』(池澤夏樹=個人編集)で生まれて初めて読破できたのですが『古事記』は無理でした。現代語訳されていても、ピンと来ないというか、つまらないのです。

そこで本書です。あちこちの語り部がコダマに語って聞かせる形で古事記の内容が綴られます。「古事記ってこんなふうに書かれたんじゃないかな」というフィクションなのですが、その時代背景や登場人物たちの立場や心情が丁寧に描かれており、そこから「古事記」の世界が見えてくるのです。

戦国時代や江戸時代の小説は数多く出ていますが、飛鳥時代となると文献が少ない(ない?)ために小説にもなりにくい。どこまでが史実で、どこまでが神話なのかわかりませんが、日本という国が生まれた話というのは、子供たちに語っていきたい「おはなし」です。愛国心の問題ではなく、自分の生まれた国について「こういう話もある」ということを知っておいてほしい。そういう意味で、本書は画期的だと思うのです。

ただ「蘇我の娘」が大活躍するわけではありません。時代に翻弄されながら彼女が家族とともに生きた時代を描いているだけです。

乙巳の変(中大兄皇子、中臣鎌足らが宮中で蘇我入鹿を暗殺して蘇我氏(蘇我本宗家)を滅ぼした飛鳥時代の政変)から、壬申の乱(天智天皇の太子・大友皇子(弘文天皇の称号を追号)に対し、皇弟・大海人皇子(後の天武天皇)が地方豪族を味方に付けて反旗をひるがえした)後までが想像できるだけでも面白い。古代史に興味がある方はぜひ!

お勧め度:★★★★★

2017年6月12日 (月)

どぜう屋助七 (河治和香)

どぜう屋助七 (実業之日本社文庫)
どぜう屋助七 』は、浅草で今もつづく老舗「駒形どぜう」の三代目のお話。ときは幕末、ペリーの黒船がやってきたり、京では新撰組が暴れたり、不穏な空気が漂うなか、江戸の町人たちは地震にも火事にも負けず、日々暮らしていた様子がよく伝わってきます。ラノベとはちがう、しっかりした文章は安心して読むことができます。

一、君は今 駒形あたり どぜう汁
二、アメリカが来ても日本はつつがなし
三、恋は思案の外 欲は分別の内
四、鯰もおごる神の留守事
五、鯨汁 椀を重ねて叱られる
六、冥土の旅へコロリ欠け落ち
七、きゅうりごしん しんごしん
八、風の神 雷門に居候
九、江戸の豚 都の狆に追い出され
十、きんのと変わらぬけふの味

日経新聞夕刊文化面の書評欄で取り上げられたのを見て読んでみたのですが、予想以上に面白かった。書評欄というのは他人の評価なので、読んでみなければ面白いかどうかわかりません。でも、紹介された本に興味が惹かれれば読みたくなるもの。

東京で暮らしていたときも、どじょうは食べたことがありません。いまも抵抗がある。うなぎやくじらは食べるのだから、単なる食わず嫌いなのでしょう、たぶん。

お勧め度:★★★★★

2017年5月 5日 (金)

継承 奧右筆秘帳 4 (上田秀人)

継承 奥右筆秘帳 (講談社文庫)
継承 奥右筆秘帳 』はシリーズ第4弾。このシリーズの各タイトルが漢字二文字で覚えづらい。それが何巻目なのかがわからないので、次に読む本を探すのに書名をいちいち調べないといけません。シリーズものにはタイトルに連番を振ってほしい。

さて、尾張徳川家の後継をめぐる問題に、駿府城で家康の書付が見つかった件が絡み、書付の真贋を見極めるために奥右筆組頭・立花併右衛門が派遣されるという異例の事態。書付を狙うものは複数いて、江戸に残された衛悟は併右衛門が心配でなりません。

これまでのところ、本シリーズの舞台は、江戸城の将軍を含む上層部、御庭番ら忍集団、吉原が主なところ。欲にまみれた連中がやりたい放題。ただ、おとなしく殺されるわけにはいかないぞっと。

わたしはここで小休止。また気が向いたら続きを読みます。間が空いても、話を忘れても、ちゃんと人物紹介してくれるでしょうから。

お勧め度:★★★☆☆

2017年5月 3日 (水)

侵食 奧右筆秘帳 3 (上田秀人)

侵蝕<奥右筆秘帳> (講談社文庫)
侵蝕 奥右筆秘帳 』はシリーズ第3弾。大奥の御台所・茂姫に薩摩藩から女中が入ったという知らせが奥右筆組頭・立花併右衛門に届き「なぜこんな時期に?」と不審を抱きます。だれがなんのために女中を送り込んだのか…。

今回のテーマは大奥の闇。そこに薩摩藩の抜け荷も絡んできます。というわけで、護衛の衛悟は薩摩示現流を相手に戦うことになるのでした。いつも辛勝するものの「今回は勝てたが次回も勝てるとは限らない」という、当たり前のセリフがイタイ。

気軽に読めて、そこそこ楽しめる。娯楽時代小説としては秀逸なのですが「毎度おなじみ」老中や旗本たちの悪巧みとか、忍たちの思惑とか、襲撃シーンとか、パターンが見えてきました。でも、図書館で4巻まで借りたので一気読みします。

お勧め度:★★★☆☆

2017年5月 1日 (月)

国禁 奧右筆秘帳 2 (上田秀人)

国禁 (講談社文庫 う 57-2 奥右筆秘帳)
国禁 奥右筆秘帳 』はシリーズ第2弾。主人公は奥右筆組頭立花併右衛門という文官。武士とはいえ、刀を抜いたことがないような男。それが江戸城に巣くう闇に触れ、命を狙われる羽目に。やむなく隣家の次男坊・柊衛悟に護衛を頼んだという設定です。

併右衛門も衛悟もヒーローではありません。併右衛門は愛娘・瑞紀のために出世に汲々としているし、衛悟は兄から早く養子に行けとせっつかれているし、どちらも凡人です。いわば江戸を舞台にした凡人たちの闘い。「あ、これは死んだな」と思っても死にません。不死身です。

気になるのが、人物紹介や背景説明がしばしば繰り返されること。月刊誌に連載したのであればわかるのですが、見ると「文庫書き下ろし」。何度もおなじ説明を読まされるのが煩わしい。

今回のテーマは、津軽藩の抜け荷(密貿易)です。

お勧め度:★★★☆☆

2017年4月25日 (火)

密封 奧右筆秘帳 1 (上田秀人)

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)
密封<奥右筆秘帳> 』は、幕府への申請、届け出、依頼等の文書の内容をチェックし御用部屋へ取り次ぐ部署。ここを通さなければ幕府とのやりとりができないため、奥右筆組頭・ 立花併右衛門はそれなりに役得もあった。時は徳川家斉の治世。政はいわゆる官僚組織が慣例にしたがって進めるため、将軍には実権がなかった。

事件の発端は、田沼家の家督相続願い。田沼意次の孫である意明が赴任地で急死したというのだ。相続願いそのものには問題がなさそうだが、立花併右衛門は田沼家について調べているうちに江戸城内での刃傷沙汰に行き当たる。そのときから権力闘争の闇に巻き込まれていくことになって…。

立花家のとなりに柊家があり、そこの次男坊・衛悟と立花瑞紀は幼馴染。兄が家督を継いだため、衛悟は部屋住で肩身がせまい。養子先を探してはいるものの、剣術道場に通うほうが忙しい。そんななか、併右衛門が襲われ、身の危険を感じた併右衛門は衛悟を護衛として雇うことにした。

将軍の背後で暗躍する者、操られる者、出世のためには手段を問わない者ら、有象無象が現れ、衛悟もピンチに陥る。気丈な瑞紀に救われ、支えられ、甘やかなムードが漂うものの、鈍感な衛悟はなんにもわかっていないという、愉快な一面もある。

全12冊のシリーズなので、しばらく楽しめそうです。

お勧め度:★★★★☆

2017年4月21日 (金)

恋かたみ 狸穴あいあい坂(諸田玲子)

恋かたみ 狸穴あいあい坂 (集英社文庫)
恋かたみ 狸穴あいあい坂 』は、シリーズ第2弾。八丁堀同心の妻木道三郎を慕う結寿ですが、相手は身分違いのうえ、子持ちの寡夫。断りきれない縁談が進んでいき、妻木に打ち明けることもできぬまま時が過ぎて…。

・春の雪
・鬼の宿
・駆け落ち
・星の坂
・恋の形見
・お婆さまの猫
・雪見船
・盗難騒ぎ

不審な事件の行方も気になりますが、結寿の恋の行方のほうが気がかりです。ほのぼの系時代小説です。

お勧め度:★★★☆

2017年4月17日 (月)

狸穴あいあい坂 (諸田玲子)

狸穴あいあい坂 (集英社文庫)
狸穴あいあい坂』は、元火盗改の祖父と麻布で暮らす17歳の結寿(ゆず)が主人公。両親から縁談をしつこく勧められ、祖父宅に逃げてきた格好です。

狸穴でムジナを探す八丁堀同心の妻木と出会い、いつしか好きになっていくのですが、火盗改と町方はライバル同士で犬猿の仲。周囲の猛反対は火を見るより明らかで…。

・ムジナのしっぽ
・涙雨
・割れ鍋のふた
・ぐずり心中
・遠花火
・ミミズかオケラか
・恋心
・春の兆し

火盗改の娘だけあって結寿は、いざとなると肝が座っています。身近な人間が事件に巻き込まれると黙っていることができずに、町方の妻木に助けを求め、解決への糸口を掴むのでした。

殺伐とした事件も、どこかほんわかムードで包み込む流れが心地いい。続編として『恋かたみ 』『心がわり 』が出ています。

お勧め度:★★★★☆

2017年4月 8日 (土)

親鸞 完結編 (五木寛之)

親鸞 完結篇(上) (講談社文庫)
親鸞 完結篇』は「親鸞」シリーズ3部作の完結編です。東国から京へ戻った親鸞は目立たぬようにひっそりと暮らしていたのですが、専修念仏を敵視し葬ろうとする覚蓮坊はずっとチャンスを窺っています。「南無阿弥陀仏とひたすら唱えよ」というのであれば、争いがなくなり平和な世になるかと思ったら、そうはいかないようです。後世では一向宗となり多くの信者が命を落とすことになります。宗教と戦争の関係を思うと憂鬱になります。

釈尊の教えが文字ではなく語り伝えられたのかについて、親鸞いわく「その時、その場所、そこにいた人びと。そして釈尊の声があり、表情があり、気配がある。それは、ただ一度きりのものなのだ」。それは能の舞台のようです。歌舞伎や文楽はある時期、毎日おなじ公演を繰り返すけれど、能は原則その日、その時の一度きり。しかも舞台監督がいないから、リハーサルもない。

親鸞に縁のある人物、あるいはその子が現れ、物語は大団円を迎えます。

お勧め度:★★★★★

2017年3月29日 (水)

書楼弔堂 炎昼 (京極夏彦)

書楼弔堂 炎昼
書楼弔堂 炎昼 』は 『書楼弔堂 破暁 』の続編。明治30年代、師範学校を出た塔子は、薩摩武士だった祖父に「本など読む必要はない」「婿を取り夫を支えるのだ」などと怒鳴られるのに反発して家を飛び出し、出会ったのが松岡と田山の二人連れ。軽口の応酬がホームズとワトソンみたい。彼らは書店を探しているというので「あそこかもしれない」と案内したのが…。

探書漆  事件
探書捌  普遍
探書玖  隠秘
探書拾  変節
探書拾壱 無常
探書拾弍 常世

章番号が前巻からの続きで7から12。弔堂を訪れるのは、深い悩みを抱える人たち。それがとんでもない有名人だったりするから、今回の案内人・塔子は魂消ます。それがまた痛快なのです。自分の悩みを弔堂の主人に話しながら、一冊の本にヒントを求め、人生を模索していく物語。

また続編を期待しています!

お勧め度:★★★★★

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