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2018年9月

2018年9月25日 (火)

姫町能の「道成寺」を観てきました

おおきな釣鐘が登場する「道成寺」は一度観てみたいと思っていたのです。

しかし、いちばん安いB席の前売りが1万円はちょっと高い。さらに、わたしが好きな笛の藤田六郎兵衛さんが6月に他界され、ショックで気が抜けてしまいました。わたしを能に引き込んだのは、あの笛の音だったのです。

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しかし、二日前になって「せっかくのチャンスだから」と思い直し、ネットからチケットを予約。当日、前売料金で入ることができました。姫町財団設立記念公演が、藤田六郎兵衛さん追悼公演になってしまいました。あぁ、あの笛が二度と聴けないなんて返す返すも残念です。一方「道成寺」の小鼓は、人間国宝の大倉源次郎さん。『大倉源次郎の能楽談義』を読んで以来、聴きたかったので楽しみです。一流の能楽師、囃子方を間近で見ることができるのも能の魅力です。

午後1時半開演かと思いきや、まず解説が入ります。これが長くて、能「千手」が始まったのは1時55分。5時半終了予定は大丈夫なのか。それと名古屋能楽堂定例公演では無料のイヤホンガイドが有料でした。(1000円払って借りて、返却時に500円バック)

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「千手」は、一ノ谷の合戦で敗れた平重衡が鎌倉に護送され、せめてもの慰めにと酒宴がもようされ、そこへ遣わされた千手の前と重衡の心の交流を描きます。

意外に長かったからか休憩が入ります。その後、狂言「萩大名」。愚鈍な大名は31文字の短歌すら覚えることができず、太郎冠者(召使い)が必死にフォローするのですが...。狂言は(能とちがって)なにを言っているのかわかるし笑えるので、深刻なストーリーの能の合間には気分転換にもなります。

その後の仕舞2本は退屈。次の舞囃子「安宅」に登場した囃子方を見て「あ、大倉源次郎さんだ!」。背が高いなぁ。わたしはシテ方より囃子方が気になるので仕方ありません。堪忍してください。大倉源次郎さんの右手が柳の枝みたいに動いています。双眼鏡で見ると指がすごく長い。それがパラパラと自在に動いて、指の腹や先を巧みにつかって鼓を打ちます。なんかすごい!

「道成寺」では、まず狂言方が作り物の鐘に太い竹を通して4人で運んできます。高さが170cmほどあるので竹を頭上に掲げなければならず辛そう。舞台中央に置くと、今度は天辺に結んであるロープをほどいて、天井の輪っかに通します。天井まで5mはあるだろう輪っかにどうやって通すのか。「まさか梯子を立てるわけにもいかないだろうし」と思っていたら、長い竹竿が2本持ち込まれました。作法があるのか、持って回った手順を踏んで一方の竿の先にロープの先端を挟んで、ひとりがそれを輪っかに通したところをもうひとりが先端を掴んで引きおろします。ここで思わず拍手が湧きます。(笑)

そのロープをシテ方が5人がかりで引っ張って鐘を引き上げます。以前「バックステージツアー」で骨組みだけの鐘を見ましたが、その状態で60kgはあるとのこと。つまり、いまは70kg以上? 「動滑車を使えば半分の力で上がるのに」って、そういう問題ではありませんね。

圧巻は、白拍子に化けた大蛇が道成寺の新しい釣鐘の法要に潜り込んで舞を舞うシーン。大鼓につづいて、小鼓がシテ方のほうに向きなおり「一騎打ち」を繰り広げます。ふだんは涼しい顔で鼓を打っている大倉源次郎さんの表情がおおきく動きます。「あぁ、小鼓が見えないから白拍子さん、ちょっと移動してくれないかな」。舞うといいつつ、ほとんど動かないから、能を見ながら寝てしまう人がいるのも無理ありません。寝不足は能鑑賞の敵です。

「鐘入りは危険で、間違えると大怪我をする」と聞いていたので、鐘が落ちる瞬間に飛び込むのかと思ったら、上のパンフレットの写真のように、シテがちゃんと鐘の下に入ってから、ゆっくり鐘を下ろし、あと数十センチのところでドンっと落とすので危険はありません。鐘の下端にはクッションが入っているので軟着陸。それを舞台では「雷が落ちたのか!?」と大騒ぎ。

鐘のなかで衣装替えをするようですが、間狂言が終わったのが25分後。鐘の中は暑くないのかな。舞台の照明は結構熱いのです。

ともあれ、たいへん見ごたえのある曲でした。ありがとうございました。

ちなみに、すべて終わったのは午後6時15分でした。

追記:名古屋能楽堂へ足を運んだときには、ロビーで能などのチラシを探します。面白そうで、開催日時が都合のよいものを探すと、ネットよりもヒット率が高い。そこで見つけたのが、10月5日に名古屋芸術創造センターで行われる文楽(夜の部)「義経千本桜」道行初音旅と「新版歌祭文」野崎村の段。気づくのが遅かったけれど、名古屋能楽堂の事務室で調べてもらったら、まだいくらか席が残っていたのでチケットを買って帰りました。久しぶりの文楽なので楽しみです!

サラバ! (西加奈子)

サラバ! 上 (小学館文庫)
サラバ! 』 に限らず、直木賞とか芥川賞とは距離(時間)を置く癖があるので、4年経ってようやく読んだのですが、非常にくたびれました。

はじめのうちは、ユーモラスな言い回しにクスクス笑いながら読めたのですが、その後も家族の紹介を通じて、延々と自分探しの旅が続くので何度挫けそうになったことか。

それでも、イランで生まれてエジプトで育ったという、異国の地での出来事はおもしろい。エジプトから帰国した母親の戸惑いが愉快。

「まず、スーパーの品数と清潔さに打ちのめされた。一時帰国のときは、宝物のように見えたそれらが、これから永遠に手に入るものだと認識してしまった途端、どうしようもなく贅沢で、ふざけたものに変わった。あらかじめ小さく切られたネギのパックを見て、母は「嘘やろ」と言い、レトルトの袋に書いてある「ここからお開けください」の矢印を見て「阿呆か」と言った。母が言うには、このままでは、日本人の手は退化し、脳みそも小さくなるに違いない、とのことだった」。

これはまったく同感です。日本の企業は日本人(顧客)を甘やかしすぎ。かまぼこや卵焼きくらい自分の手に包丁をもって切りなさい。中学高校入試に「生活力」という実技科目を加えるべきではないでしょうか。

お勧め度:★★★☆☆

2018年9月20日 (木)

料理人の光 ヤッさんIV (原宏一)

料理人の光 ヤッさんIV

料理人の光 ヤッさんIV 』 はシリーズ第4弾。前作からずいぶん時間が経っていますが、個性的なヤッさんは忘れようがありません。

築地市場は移転騒動中なので、ヤッさんは足立市場に現れたようです。

・河川敷食堂
・寮姉の献立
・タケ坊の道
・料理人の光
・日向灘の恋
・旅立つ舌

「ヤッさんシリーズ」ファンの方であれば、安心して読むことができるのでオススメです。

お勧め度:★★★☆☆

2018年9月15日 (土)

プラネタリウムの外側 (早瀬耕)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 』は『グリフォンズ・ガーデン 』の後日譚にあたる連作小説です。理系世界の恋愛小説というのは、文系のわたしには刺激的なのです。

北海道大学にある有機素子コンピュータでチューリングテストの研究を行うという名目で、じつは出会い系サイトで稼いでいる南雲助教のもとへ工学部2年の佐伯衣理奈がやってきます。彼女は元恋人の川原圭が札幌駅で列車に轢かれて死んだのは自殺ではないと確かめるため、有機素子コンピュータで会話プログラムを開発して川原圭の行動をシミュレートしようというのです。

有機素子コンピュータは、同じパラメータを設定しても解が一意にならないので、人間の会話プログラムを組みにはうってつけ。チューリングテストでは、ある人が、2台のコンピュータにテキスト入力して会話を行い、一方が人間、もう一方がコンピュータの会話プログラムが相手をします。どちらが人間なのか区別できなければ、そのコンピュータは知性を持っているといえるというもの。今でいうAI、人工知能の開発です。

出会い系サイトの「さくら」の補助システムとして開発を始めて、徐々にコンピュータに直接、人間(客)の相手をさせるようになっていきます。IDの盗用を防ぐため、登録したApple Watchをはめているときだけログインできるなど、コンピュータ好きには興味深い小説です。

前作同様、現実と仮想現実が交錯するなかで、物語は進んでいきます。さて、南雲助教が手がける会話プログラムはどこまで行くでしょうか。興味のある方はぜひご一読を! 前作を読んでいなくても楽しめます。

お勧め度:★★★★★

2018年9月10日 (月)

下町ロケット ゴースト(池井戸潤)

下町ロケット ゴースト

下町ロケット ゴースト 』は、シリーズ第3弾。

ロケットエンジンのバルブ、人工心臓の弁、そして今回は(耕運機の)トランスミッションのバルブ。なのですが、ピンチに陥るのは佃製作所ではなく、創業5年のベンチャー企業「ギアゴースト」。縁あって佃はギアゴーストに手を差し伸べることになるのですが...。

冒頭、佃製作所では耕運機のエンジンの改良が進み、納入先に採用を打診するのですが、これがピンと来ません。自家用車であればともかく、5%の燃費改善と言われてもピントがずれているような気がします。佃社長らしくない。

たしかに池井戸潤ではあるのですが、どうもキレがありません。これでは「下町ロケット」が墜落してしまいそう。

後編「ヤタガラス」に期待しています。

お勧め度:★★★☆☆

2018年9月 4日 (火)

フォー・ディア・ライフ (柴田よしき)

フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

フォー・ディア・ライフ 』は、探偵「花咲慎一郎シリーズ」の第1弾。『風のベーコンサンド 高原カフェ日誌 』といっしょに図書館で借りてきました。

新宿2丁目の無認可保育園の園長である花咲の前職は警官、しかもマル暴。いまでは園長として子供たちの面倒をみることが天職だと思っているのですが、とにかく金がない。金を稼ぐために探偵として、アブナイ仕事も受けるわけで...。

そういえば、このまえ黒川博之の「疫病神シリーズ」を読んだっけ。最近ヤクザものが多いなぁ。ただ「疫病神」よりは「花咲慎一郎」は救いがあります。金は欲しいけれど、心根の優しい男は、人として(カタギとして?)筋は通すのです。

家出人探しをしているうちに、とんでもない事件に巻き込まれていくわけですが、みんな丸く収まることを願わずにはいられません。

お勧め度:★★★☆☆

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