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2017年10月

2017年10月30日 (月)

左京区桃栗坂上ル (瀧羽麻子)

左京区桃栗坂上ル
左京区桃栗坂上ル 』 は 『左京区七夕通東入ル』、『左京区恋月橋渡ル』に続く3作目。久しぶりだと思ったら5年ぶりだとか。京都を舞台に、不器用な理系男子たちが、女子と関わる甘酸っぱい日常を描きます。

今回のヒロインは、幼い頃から父親の転勤のために日本中を引っ越して回った上原璃子。奈良で出会った安藤果菜とは親友になり、高校入学時に大阪へ越してきた璃子と再び交流が始まります。

全体にほんわかした印象があるのは璃子の性格でしょう。果菜には兄の実がいて、歴史オタクのぼんやりした雰囲気を纏って見えるあたり、璃子と似ているかも。そんなぼんやり男を璃子は「お兄ちゃん」と慕うのですが…。

文中には現れませんが、舞台は京都大学農学部。と聞くと森見登美彦を思い出しますが、瀧羽麻子も京大卒。吉田山や出町柳周辺の様子が目に浮かびます。璃子が、研究室で飼っているワニのモモちゃんを散歩に連れ出す下りは豪快で愉快です。周囲はみんな怖がるのだけれど、璃子だけは「かわいいのに」と呟く。動物大好きな璃子なのです。

前2作を読んでいなくても大丈夫。興味のある方はぜひどうぞ!

お勧め度:★★★★★

2017年10月26日 (木)

最後のプルチネッラ (小島てるみ)

最後のプルチネッラ (Style‐F)
最後のプルチネッラ 』 は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されているのをみて図書館で借りてきました。ナポリを舞台にした神の道化の物語です。

神に人生を与えられた道化は、あらゆる人生を経験していきます。記憶をもったまま転生を繰り返し、いつか神を笑わせるまで、それは続くのです。

「道化とは<ゼロ>であり同時に<すべて>である。プルチネッラになるためには、あらゆる役を演じ、自らのからだの中にいくつものからだの記憶を重ねてゆかなくてはならない」ということで、名門演劇一家のルカと、大道芸人ジェンナーロは「最後のプルチネッラ」になるべく劇場のワークショップに参加します。最初は互いに反発しあっていたふたりですが…。

「ナポリの<ごろつき>いわく「人生ってのはとびきりゆかいな遊びなんだから」。このあたりに国民性のちがいが感じられます。どんなにつらくても悲しくても笑いを忘れない、あきらめない人たちがいます。

「プルチネッラとは悲しみを抱きしめて、それでも生きて笑うことを選び続けたすべてのナポリ人、ナポリの魂なんだよ」。

仮面劇というと、わたしは能を思い出してしまいます。笑わせるのは狂言であって能ではないし、能に即興劇はありません。文化のちがいは好奇心を刺激します。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月23日 (月)

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン12 (小路幸也)

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン
ラブ・ミー・テンダー』は、我南人と秋実の出会いを描いた番外編、第12弾です。

昭和40年代なので、古書店「東京バンドワゴン」の堀田家は、勘一とサチ、それに一人息子の我南人だけなのですが、猫が二匹と、近所の大学生が出入りしています。それでも、平成の堀田家は4世代同居ですし、サチさんも幽霊ではなく、お元気です。(笑)

ロックバンド<LOVE TIMER>として活躍中だった我南人がコンサート帰り、やくざに絡まれている秋実を助け、怪我を手当てするため家に連れ帰ったことが発端です。事情を聞くと秋実は、歌手として活躍中の親友を助けるため、埼玉の養護施設を抜け出してきたというのです。

話を訊いていくと、偶然がいくつも重なって、芸能界の揉め事なら<LOVE TIMER>の顔を使えるということになって我南人は…。

久しぶりに小説を楽しく読めました。それこそ昭和のテレビドラマを観るように。持ち込まれたトラブルを仕切るのは主人の勘一なのですが、善人面するのではなく、立派な大人が(子供みたいに)悪戯を仕掛けるようで面白いのです。その悪戯が最後はとんでもない大騒ぎに発展するのですが、そこがフィクションならではの痛快さです。

「東京バンドワゴン」シリーズの愛読者であれば、絶対読むべきです!

お勧め度:★★★★★

2017年10月20日 (金)

書架の探偵 (ジーン・ウルフ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
書架の探偵』は「図書館に収められているミステリー作家のリクローンが探偵として活躍する」という紹介文と、古い図書館の書棚を描いた表紙を見て、一冊の本の中にAIとして作家の記憶を封じ込めてあって、彼と対話しながら、知恵を借りて事件を解決していく物語だと思ったのです。

が、予想は見事に裏切られました。その書架は、ワンルームマンションの出入口側の壁を取り払ってあり、蔵書ならぬ「蔵者」はそこで人間のように暮らしているのです。図書館の開館時間中は自分の部屋にいなければならず、閲覧や貸し出しの希望者がいたら要求に応えねばなりません。もしも長年、閲覧希望すらない状態が続くと最後には焼却処分が待っているとか。そう、蔵者は人間ではなく「物」扱いなのです。クローンに人権はないみたい。

父親につづいて兄も亡くしたコレット・コールドブルック嬢は、兄を殺した犯人の手がかりになりそうな一冊の本『火星の殺人』の著者であるE・A・スミスのリクローンを一週間借り出したのです。正体不明の敵に襲われ、攫われ、暴行され、散々な目に遭いながらも、スミスは丁寧な口調を崩すことなく、淡々と自分が果たすべき役割をこなしていきます。

途中、話がどこへ転がっていくのかわからず戸惑いましたが、最後はビックリ、どんでん返し。スミス氏が100年以上前に本物の人間だったときにどんな小説を書いてきたのかわかりませんが、この『書架の探偵』がいちばん面白いことは間違いないでしょう。

あ、蔵者には文章を書くことは禁じられていたのでした。もし駄文を書いたりすると作家としての価値が下がるからという図書館の都合で。でも、価値が上がるなら問題ないはず、ですよね?

お勧め度:★★★☆☆

2017年10月17日 (火)

水の家族 (丸山健二)

水の家族
水の家族 』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されているの見て興味を持ちました。読み始めると、いとうせいこうの『想像ラジオ 』を思い出しました。そう、主人公は死者なのです。

半島の片隅、忘れじ川が流れる草場町に暮らす一家には、馬を育てる祖父、漁師の父、桃を育てる母、銀行員の兄と兄嫁、やくざな弟、天真爛漫な妹がいます。主人公は大学まで出してもらいながら親不孝な奴でして、家を飛び出したかと思ったら密かに舞い戻り、密かに死んでしまうのです。

そして、主人公は成仏できず、雨のこと、川のこと、山のこと、家族のこと、赤子のこと、馬のこと、魚のこと、亀のこと、凧のこと等々、自然と家族の営みを眺めながら自省を込めて語っていきます。本書のタイトルは「水の家族」以外にありえません。

作中「私は肉体無しの状態に疲れを覚える」とあります。幽霊ってそうなのでしょうか。疲れるのは肉体であって、肉体から解放された魂であれば疲労とは無縁だと思っていました。片足を失っても、まだそこにあるように感じるように、肉体もまたそうなのでしょうか。

三浦しをんが勧めてくれる本は骨太な小説が多く、読み応えがあり、新鮮です。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月14日 (土)

かんじき飛脚 (山本一力)

かんじき飛脚 (新潮文庫)
かんじき飛脚 』は、図書館で手に取った児玉清の『ひたすら面白い小説が読みたくて 』で絶賛されていたので借りてみました。文庫で560ページなので、そこそこ読み応えがあります。

幕府の松平定信は加賀藩の力を抑え込むことにやっきになっていました。加賀藩主前田治脩の内室が重い病だと知り、内室同伴で新年の宴に招くことにしたのです。もし同伴できなければ幕府から無理難題を吹っかけられることになりかねないため、加賀藩江戸詰要人 庄田要之助は浅田屋伊兵衛を呼び、加賀の秘薬「密丸」を急ぎ国元から取り寄せるよう言いつけたのでした。しかし、密丸のことも御庭番を通じて松平定信には知られていたのです。屈強な飛脚たちといえど、御庭番に狙われてはひとたまりもありません。さて、加賀藩の大ピンチ!

読み進めていくと、12月のことですから加賀は雪の中。途中難所がいくつもあります。それに加えて手練れの御庭番に邪魔されるのですから、ふつうはあきらめます。文字通り命がけなのですから、読んでいて気の毒になります。これもすべては性格の悪い松平定信のせいです。やることが陰湿で好かん。武力を背景に権力で人を押しつぶそうとするなんてひどい。

それでも飛脚は飛脚の使命を果たすべく全力を尽くします。果たして松平定信の鼻を明かしてやることができるのか!?

お勧め度:★★★★☆

2017年10月11日 (水)

怨讐星域 3 約束の地 (栃尾真治)

怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)
怨讐星域Ⅲ 約束の地』はシリーズ最終巻。地球を飛び立った宇宙船ノアズ・アークがついに約束の地・エデンの衛星軌道上に到着します。しかし、母船は着陸できないため、宇宙艇を建造し、その一方でエデンの地表に探査機を送り込み、データ収集を行うのですが…。

エデンには知的生命体が存在する兆候が見られる。地表の95%は海なので、残る5%の陸地で共存していくことは可能なのか。凶暴な敵となったら勝ち目はあるのか。最高会議は紛糾し、地表への降下計画は頓挫します。

一方、エデンでは首長アンデルスが「裏切り者の末裔は皆殺しにすべし」と唱え、少年兵に槍を持たせて訓練を行なっています。さぁ、ジャンプ組と宇宙船組が出会ったときに何が起こるのか、目が離せません。

ラストはご自分の目で確かめていただくとして、最後にサプライズが用意してありました。「なんじゃ、そりゃー!?」。生きていくって大変ですね。

SFとしてはツッコミどころ満載ですが「もし地球が滅亡するとしたら」というIFで始まる物語としては実に面白いものでした。それぞれの立場の人間がそのときどう感じたのかが丁寧に描かれていて、その都度「彼(彼女)に幸せになってほしい」と願わずにはいられません。

最後に、表題になっている「怨讐」について。内の結束を固めるために外に共通の敵をつくるという方法があることは理解できるのですが、地球滅亡をまえにしてアメリカの大統領が宇宙船で脱出したからといって、その何世代も後の子孫を皆殺しにするという恨みは筋違いだと思います。作者もそんなことは承知のうえで、現在の地球でも同様の「恨み」が存在することを想起させようというのかもしれません。

果たして人類に希望はあるのか。ドキドキしながら読んでください。

追記:星間移住つながりで、Amazonビデオで『インターステラー』と『オブリビオン』を観ました。後者は崩壊した地球が舞台なのですがアンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」が象徴的で面白かった。興味のある方はどうぞ!

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 8日 (日)

怨讐星域 2 ニューエデン (栃尾真治)

怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅱ ニューエデン 』はシリーズ2作目。宇宙船ノアズ・アークも、約束の地エデンも、人類は3世代目になっています。孫の世代になると、地球のことを教育でしか知りませんから、どうもピンと来ない部分が増えてくるようです。

昨年の降誕祭というイベントでは「かぶと虫」というグループの「昨日」という曲が披露されて盛り上がったとか。5世代目になると、地球の文化と文明もある程度戻ったようです。生きるのに必死だったから武器は進歩していないようで幸いです。ここは日本人が書いたからそうなのであって、アメリカ人なら銃を持たせているような気がします。人名などは翻訳物っぽいのですが、そういう意味では日本的なSF小説で、わたしにとっては逆に新鮮でした。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 5日 (木)

怨讐星域 1 ノアズ・アーク (栃尾真治)

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク 』は「太陽フレアによって数年後に地球が滅亡する」という予測のもと、アメリカ大統領と3万人は宇宙船ノアズ・アーク号で秘密裏に地球を離れ「約束の地」へ旅立ったのです。一方、大統領の娘ナタリーの恋人が星間転送装置を実用化。引き離された恋人を先回りして待つことに…。

舞台は3つ。ノアズ・アーク船内と172光年離れた惑星、そして地球です。

実際にこんなことになったら一体どうなるのだろう? 読み進めるうちに引き込まれます。

ノアズ・アークが目的の星に到着するのは数百年後。地球を出発した人々の何世代も後のこと。冷凍睡眠かと思ったらそうじゃない。ただ次の世代にバトンを渡すためだけに生きるのでは、自殺者が増えるのもわかるような気がします。

一方、目的の星に転送された人たちも悲惨です。そもそも無事に転送された人は限られています。海上だったら溺死、高いところだったら転落死、山や木や石のある場所だったら合成死? 生き残ったとしても、水と食料を確保するだけでも苦労が絶えず、謎の捕食生物の犠牲者も後を絶たない。文明がリセットされた状態から未知を惑星の生活をスタートするのは、地球でのキャンプとは訳が違います。恐ろしい。

そして、もし地球が明日滅ぶとしても、最後まで見届けようとする人たちもいます。そうなったら毎日がまさに「神に与えられた」貴重な時間。そこに幸せを見出す人もいるのです。「自分だったらコレかなぁ。出不精だし」などと思いつつ読みました。

まさに三者三様の極限状態。

タイトルに「怨讐星域」とあるように、地球に取り残され組は、ノアズ・アーク組を深く恨んでいます。転送先のコミュニティでは「ノアズ・アークがこの星に着いたとき、裏切り者の子孫たちに鉄槌を下すのだ」と子供らに言い聞かせています。でも、これはちょっと違和感がある。アメリカ人なら「国民を見捨てた大統領」ということで糾弾できるけれど、日本人であれば文句をいう筋合いではないでしょう。

本作は3巻完結。さて、どうなっていくのか興味津々です。

お勧め度:★★★★★

2017年10月 2日 (月)

灯台守の話 (ジャネット・ウィンターソン)

灯台守の話 (白水Uブックス175)
灯台守の話 』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されていて「旅をする物語」に興味を持ちました。

Caperas

母を亡くした10歳の少女シルバーは、スコットランド北端のラス岬の灯台守ピューに後継者として引き取られます。ピューは盲目ですが、夜ごと、牧師バベル・ダークのお話をしてくれます。灯台守の仕事は光を守るだけでなく、船乗りたちから物語を集め、語ることなのです。

やがて灯台が無人化されることに決まり、シルバーはピューと別れ、ピューが物語を通して教えてくれた真実の愛を求めて彷徨います。そうしてシルバーとダークの魂の遍歴が交互に語られていくのです。

I Love You. この世でもっとも難しい、三つの単語。でも、他に何が言えるだろう?

物語ることで人は救われる。自分のつらい境遇さえも突き放してフィクションにしてしまうことができれば耐えられるかもしれない。全き闇と容赦ない光。荒波に翻弄され押しつぶされる船。それでも物語ることをやめない人間の、〈物語〉です。

お勧め度:★★★★☆

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