« 居酒屋ぼったくり 6 (秋川滝美) | トップページ | 真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者 (大沼紀子) »

2017年5月15日 (月)

豊田市能楽堂の「さつき能」を観てきました!

今度の日曜休みにどこか気分転換に行きたくてネットを検索していたら、豊田市能楽堂の2017年5月14日(日) 14:00「さつき能」を発見。ネットから座席予約して支払いは当日会場で、というのも無駄がなくて気に入りました。

演目は狂言「因幡堂」と能「盛久」。平盛久が京から鎌倉まで護送され処刑されるところ、観音様の加護を得て命拾いする話。幽霊が出てきて、生前の恨みつらみを聞かされ、成仏させてくれと迫られるより平和でいい。ネットでは出演者などの情報はわからないけれど「ま、いいか」。

せっかく名古屋から豊田市まで出かけるなら他になにか見るべきもの、食べるべきものはないかと調べたところ、豊田市美術館で「東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展」を開催しています。日曜日の美術館は混むだろうけれど、10時の開館にあわせて行けば時間に余裕はあります。

Img_0139

嫌な予感は当たるもので、チケット売り場で並び、入館するためにまた並び、たいへんな混雑でした。しかし、最初のほうのちいさな絵でも、緑の山あいを霧が流れていく様子をみると、その場に吸い込まれそうでした。これがもっとおおきな襖や障壁画になったらどうなるのだろうとワクワクします。あいにく人混みは苦手なので、駆け足で見てまわりましたが、海では波の音、風の音が聞こえ、潮の香りが漂い、最後の「山雲」は、山懐で緑の匂いやひんやりした霧に包まれているような錯覚に陥りました。目で見ているだけのはずなのに、音が聞こえ、匂いがして、温かさ冷たさを感じるのです。不思議です。

Img_0145

豊田市美術館はとても立派な建物で、小高い丘のうえにあり、周囲は公園になっています。散策していると「挙母城(七州城)隅櫓跡」というのがありました。ここは昔、お城があったのですね。なるほど、見晴らしがよいわけです。

豊田市能楽堂は豊田市駅のすぐ東。駅へ戻る途中にあった担々麺と麻婆豆腐の店「虎玄」で「担々つけ麺」をいただきました。

Img_0150

担々麺をつけ麺にしたらこうなるのだろうなという感じ。シメはつけ汁にご飯を入れて雑炊にしてもらい満腹になりました。ごちそうさま!

まだお昼だから、能までには時間があるので、松坂屋のスターバックスで読書にしました。「トールドリップコーヒーのホットにデイリーとキャラメルソース追加で」とお願いしたら「コーヒーとミルクの割合はどうしますか?」。お、わかってますねぇ。「今日はパイクプレイスか。それじゃコーヒー7割で」。スタッフの対応力も味のうち、ですね。

Img_0151

豊田市の駅前に降りたとき「豊橋と似てるな。路面電車はないけど」。名古屋から豊田市は、岐阜同様、30kmほどの距離なのに、岐阜がJR快速で20分なのに対して、豊田市までは1時間かかります。地下鉄鶴舞線で名鉄乗り入れとはいえ各駅停車だから仕方ないか。近くて遠い街です。

ちょっと早いけれど能楽堂のある「豊田参合館」という大きなビルへ向かうと3Fから7Fに豊田市中央図書館が入っています。3Fで『本―その歴史と未来 』という大型本を手に椅子に座りました。

Img_0153

電子本が普及するなかで、紙の本はどうなっていくのか。その意義と未来を問う一冊です。図版が豊富で、シェイクスピアのファーストフォリオの製本例も載っていて『ビブリア古書堂の事件手帖7』を思い出しました。

そのビルの8Fに能楽堂があります。受付で名前を告げて、代金と引き換えにチケットを受け取ります。座席予約してあるので開演に間に合えばいい。急ぐ必要がないのは気楽です。無料のイヤホンガイドを借りると「あ、小さい」。名古屋よりコンパクトでアンテナ内蔵型。これならシャツの胸ポケットに入ります。今回の公演パンフを見ると、囃子方の笛が藤田六郎兵衛で大鼓が河村眞之介。「よしっ!」。わたしはこのおふたりのファン。能のお囃子が好きなのです。

Img_0154

能楽堂へ入ると「名古屋と同じだ」。そりゃそうですね。

Img_0155

この能楽堂は全400席。今回は脇正面席に座りました。あとでわかったことですが、ここの椅子はお尻が痛くなるし、ビニールの座面が滑るので疲れます。わたしは1時間が限界です。

開演前、能楽ライターの石淵文恵さんによる演目解説がありました。「盛久」は現在能なので直面(面をつけない)だということもあって、上演される機会が少ないそうです。しかも愛知では珍しい金春流ということで、今回企画した人はチャレンジャーだとか。いいじゃないですか。面白い!

「盛久」の詞章(文章)がパンフレットに挟んであるものの、総論や豆知識など話してもらえると参考になります。能楽ファンを増やすため、演目解説は名古屋能楽堂の定例公演でもやるべきです。詞章は上演中に見ていると舞台が見れないので、わたしは開演前に目を通すだけにしています。イヤホンガイドも石淵さんで(名古屋能楽堂とちがって)いろいろと話してくれます。さすがに能楽の楽しみ方をよくご存知で勉強になります。おなじ能楽堂でも名古屋と豊田ではいろいろとちがいます。ハコではなくココロイキが。

まずは狂言「因幡堂」です。家事を放棄した大酒飲みの嫁が実家に帰った隙に離縁状を送りつけた男が、ひとり暮らしは不便なので、新しい嫁がほしいと京の因幡堂に請願しにいくのですが、噂を聞きつけた嫁が一計を案じます。狂言ってやっぱり漫才の源流だと感じます。狂言は能とちがって聞き取りやすいので初めての方でも抵抗が少ないと思います。今度京都に行く機会があれば因幡堂(平等寺)を訪れてみたいと思います。

ここで20分間の休憩。階段でひとつ上の9Fに上がるとカフェがあって、そこでコーヒーを頼みました。窓外の眺めがいい。

Img_0156

能「盛久」が始まります。囃子方と地謡が舞台に上がると、ふつうはシテを呼び出すお囃子が始まるのですが、静かなままシテとワキ、ワキツレが橋掛りから入ってきます。これから平盛久が土屋三郎によって鎌倉まで護送されます。盛久は、京を離れるまえに日頃信心している清水の観音へ参詣したいと土屋に頼みます。観音様に手を合わせたところで、控えめに大鼓と小鼓が入ってきて「あ、お囃子のことを忘れてた」。このフェードインはいいです。とてもドラマチック。

輿の屋根だけを傘のようにワキツレふたりが盛久に差し掛けて一行は東へ向かいます。といっても、演者たちはほとんど動かず、まわりの風景だけが過ぎて行く様子がシテと地謡によって語られます。それが「森をすぐるや美濃尾張」は「身の終わり」というように言葉遊びが利いていて面白い。実際には20日余りかかったであったであろう道中で、一行が舞台をくるっと回ったのが2回。鎌倉に着いた盛久は、明日処刑という日、観音経を読誦し、その夜、不思議な夢をみます。

処刑当日、由比ヶ浜に引き出された盛久に振り上げた刀が手から落ちたと思ったら真っ二つに折れてしまいます。盛久の身に起こった奇蹟は源頼朝にも報告され、盛久は罪を赦されます。頼朝に召し出された盛久は烏帽子と直垂を身につけ、宴となります。早速京に戻ろうとする盛久を呼び止めた頼朝は、盛久に舞を一差し所望します。待ってました。わたしは男舞(直面の男、主として武士が舞う舞。笛、大鼓、小鼓が囃すテンポの速い壮快な舞)が好きなんです。だって、かっこいいじゃないですか。

お囃子が急にアップテンポになり、舞台は一気に盛り上がり、盛久は扇を手におおきく舞います。ポール・マッカートニー&ウイングスが歌った映画『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌 "Live And Let Die" のように、静かに始まった曲が途中からテンポが速くなるのを思い出します。そう、男舞はロックなのです。

そういえば、大鼓も笛も名古屋能楽堂ほど響きません。座席の位置にもよるのかもしれませんが、あまり響くと耳が痛いのでこれくらいでちょうどいいかも。最後の男舞はシテと囃子方を含めて、一体感と緊張感があってよかった。すばらしい!

今回の「盛久」には大満足です。良い舞台をありがとうございました。

« 居酒屋ぼったくり 6 (秋川滝美) | トップページ | 真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者 (大沼紀子) »

能楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1887876/70563130

この記事へのトラックバック一覧です: 豊田市能楽堂の「さつき能」を観てきました!:

« 居酒屋ぼったくり 6 (秋川滝美) | トップページ | 真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者 (大沼紀子) »