枕草子/方丈記/徒然草 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07)
『枕草子/方丈記/徒然草 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07)
』は、学校で習ったことはあっても全文を読み通したことがないので試しに手にとってみました。2016年10月に「岩瀬文庫」で見た枕草子の写本がまったく読めなくてショックを受け「それなら現代語訳で」と考えたのと、同シリーズの『平家物語』を読むことができたので、枕草子もなんとかなるのでないかと期待してのことです。
一条天皇の中宮定子に仕えた宮中で見たこと、聞いたこと、感じたことを軽妙なタッチで描き出す清少納言。「春はあけぼの」が「春は夜明けが好き」。胸がときめくもの、満ち足りるもの、気がかりなものはよいとして、いたたまれないもの、あきれはてるもの、憎らしいものをいくつも思い出して数え上げるというのはあまり楽しい作業とは思えません。馬は、牛は、猫は、滝は、川は、里は、草は、と書き連ね「歌集は万葉集、古今集」。宮中の様子や出来事を垣間見ることができるのも興味深い。宮中では鶯が鳴かないというのは本当でしょうか。
『方丈記』の現代語訳には驚きました。なにせタイトルが「モバイル・ハウス・ダイアリーズ」です。荒れ果てた京の町は物騒だからと、南の外れの日野にちいさなあばら家(掘っ建て小屋?)を建てて暮らしていたようです。地名、人名などの固有名詞がカタカナ表記になっていることもあって、方丈記だと知らずに読んだら、12世紀のSF小説かと思ってしまいます。30頁ほどの短い文章なので、高校生にタイトルを伏せて読んでもらい感想文を書かせたら面白そう。方丈記だと看破する人もいるでしょう。1180年の福原京への「首都移転」は『平家物語』にもありましたっけ。同じ出来事でも、見る人によって捉え方がちがうのがおもしろい。
『徒然草』が個人的にはいちばんおもしろかった。ひきこもりのボッチかと思ったら、宮中のことを知っているし、和歌や芸能にも通じてる。兼好というのは何者かと思ったら、父親が吉田神社の神職で、宮仕えもしていたけれど、その後出家したらしい。41段の「賀茂競馬」がいまでも行われているのはすごい。188段では「一事を必ずなさんと思うならば、他のことを破っても悔いてはならない」。202段では神無月には神様は伊勢に集まるとあるけれど、それって出雲じゃないのかな。226段では平家物語の作者は信濃前司行長とある。242段に「人間が求めるもの。第一に名声、第ニは色欲、第三は美味である」。1番目と2番目はわからないけれど3番目は同感です。
おかげさまで、ざっとではありますが、枕草子、方丈記、徒然草を読んで、どういうものなのかはわかりました。ふだん読んでいる時代小説とちがって、その時代を実際に生きている人が書いたものはひと味ちがいました。
お勧め度:★★★★★
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