テンペスト (池上永一)
『テンペスト
』では、19世紀の琉球王朝を舞台に、13歳の少女・真鶴が(性別を偽り宦官の孫寧温として)科試を突破し首里城の評定所筆者として王府の改革に挑みます。厳しい父親から逃げ出した兄との再会。宦官に対する嫌悪から、容赦ない改革に対する反感、嫉妬、憎悪。伏魔殿と化した王宮で生き残ることはできるのか?
単行本2冊が文庫本4冊になって出ています。文庫1巻は「なんて面白い小説なんだ。今年ベスト1だ」。高田郁の『澪つくし料理帖』『あきない世傳』シリーズのように、健気な少女が運命に抗いながら成長していく物語として楽しめました。
が、2巻になると希望と絶望が表裏の木の葉が激流に弄ばれる落差についていけなくなりました。意思の強さに畏れさえ感じさせたかと思うと、政敵の脅迫に幾度もあっさり膝を追って自らの主張を曲げてしまいます。情けない。倒錯した性も同様。女を捨てて男として生きると決めたから恋が成就することはない。そうはわかっていても自分のなかの女を殺しきれない。この小説の行き方にはわたしはついていけません。
琉球の本格時代小説に見えますが、時々、作者の「軽口」が出ます。13歳の少女が、王の側室の衣装代を節約するのに「どうせすぐに脱ぐのだから不要。過剰包装です」なんて言いますか? 愉快ではありますが、場の雰囲気が壊れます。
身も心も(作者に)ボロボロにされた寧温が後半戦をどう戦うのか。清国と薩摩藩との微妙な政治力学のなかで琉球をどう生かすのか。竜の導きと父親の遺言が伏線になっているはずなので、紆余曲折の末たどりつく先は見えるような気がします。
後半戦も主人公の女「真鶴」と男「寧温」がトグルスイッチのように切り替わります。まるで映画『ミセス・ダウト』。真鶴といっしょに側室(あごむしられ)になった真美那は聡明な美人なのですが天然系破天荒「お嬢様爆弾」。真鶴/寧温が至極まっとうな神経の持ち主だけに好対照で、なかなか愉快なキャラです。
日本に開国を迫ったアメリカの黒船が、先に琉球に足がかりを求めてやってきます。したたかなペリー提督に対抗できるのは寧温しかいない。しかし、寧温は八重山に流罪にされ、真鶴は王の側室になっています。琉球危うし!
と、シリアスな展開も天変地異のように突如巻き起こるコメディパートによって崩れ去るのです。面白いけど疲れます。竜と遺言はどこ行ったぁ!?
お勧め度:★★☆☆☆
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