« キッチンぶたぶた (矢崎存美) | トップページ | 陰の季節 (横山秀夫) »

2014年11月 6日 (木)

等伯 (安部龍太郎)

等伯 〈上〉

等伯 〈下〉
等伯』とは、安土桃山時代から江戸初期にかけて、乱世を生きた絵師・長谷川等伯。先日ご紹介した『櫛挽道守』のように、武家でも公家でもない、懸命に生きる人たちの視点から見る時代は新鮮です。

等伯は幼い頃、絵仏師の長谷川家に養子に出され、そこの娘・静子と結婚します。養父母に可愛がられ、絵の腕も上げていくにつれ、京に出て絵の修行に専念したいと思うようになります。そんな折、ある事件をきっかけに養父母を失い、故郷を追われます。

途中、信長による比叡山の焼き討ちに巻き込まれ、幼子を抱いた僧が信忠の兵に囲まれたところに出合い、思わず武器を奮ってしまい、織田方から敵認定されてしまいます。その後、日蓮宗の寺院など、伝手を頼って、かくまってもらい、絵を描きながら、なんとか暮らしていくわけです。

それにしても、等伯の目から見た信長は鬼を通り越して魔王と呼ぶべきもの。これはたしかにやり過ぎです。世の中が全勢力を傾けて排除しようとしても不思議ではありません。

一方の等伯は、僧の自画像を依頼され、その姿形だけでなく、その信仰心、悟りの程度まで写し取るようにと言われ苦悩します。しかし、見事に描ききった等伯の名声は徐々に広がっていくのでした。

武家に生まれ、幼い頃は剣の修練に明け暮れ、絵仏師の家に入って以来、努力と艱難辛苦の末に絵師としての名声を得たことはよくわかるのですが、人としてはとん でもなく臆病な俗物なのです。対する狩野永徳も絵師としては一流でも、等伯を見下し、散々邪魔だてをし、人としては三流かと。本書からそんな印象を受けました。ただ、後世の人間としては、残された作品から等伯や永徳の人となりを偲びたいと思います。

お勧め度:★★★★★

余談ですが、下巻の306ページに、すでに亡くなった静子が登場します。後添えの清子の間違いでしょう。

« キッチンぶたぶた (矢崎存美) | トップページ | 陰の季節 (横山秀夫) »

時代小説」カテゴリの記事