« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »

2014年6月

2014年6月30日 (月)

ロートレック荘事件 (筒井康隆)

ロートレック荘事件 (新潮文庫) ロートレック荘事件』は筒井康隆の書いた本格ミステリー、なのかなぁ。ミステリーについては詳しくないので、きちんとしたレビューはできません。これを叙述トリックというのでしょうか。

夏の避暑地の別荘に集まった画家と若い女性とその家族たち。オーナーが集めたロートレックの作品が飾られ、小説にも気品を添えています。

が、突然の銃声で女性がひとり、またひとりと殺されていきます。そ、そんなぁ。血も涙もない犯人。それは一体…!?

最後まで読んでひっくり返りました。一瞬なにが起こったのかわからず、やがて騙されたことに気づくのです。いえ、騙されたというのは正確ではありません。わたしが勝手に勘違いして読んできたのです。そう仕向けたのは作者ですが。

漫画でもアニメでも映画でもなく、小説というメディアだからこそ成立した「事件」です。

お勧め度:★★★★☆

2014年6月27日 (金)

魔法使いにキスを〜(株)魔法製作所 2nd Season (シャンナ・スウェンドソン)

魔法使いにキスを (創元推理文庫) 魔法使いにキスを』は「魔法製作所」シリーズ第7弾。前作で、ケイティが魔法の力を得て、オーウェンやロッドから密かに魔法を使う訓練を受けていました。でも、なにかがおかしい。だんだん魔法が効きづらくなってきて…。

「魔法使いたちがエルフを抑圧している」という噂がエルフたちの間で広まり、MSIに勤めるエルフたちの退職が相次ぎます。噂のもとを調べていくとエルフロードのシルヴェスターがなにやら企んでいるらしいことがわかってきます。オーウェンとケイティはデートを兼ねて調査していたところ…え、なにこれ???

オーウェンが書店のオーナーで、ケイティは書店内カフェのウェイトレス!?

それでも違和感を我慢して読み続けていけば事態が飲み込めてきます。暴力に対しても機転で乗り切ろうとするケイティが素敵!

「めでたし、めでたし」で終わるから続編はないのかと心配になります。(続きますように!)

お勧め度:★★★★☆

2014年6月26日 (木)

マージナルオペレーション F (芝村裕吏)

マージナル・オペレーション [F] (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション [F] 』は「マージナルオペレーション」シリーズ全5巻のあとに出た短編集、Fragmentsです。
  1. マフィアの日
  2. 父について
  3. 赤毛の君
  4. ミャンマー取材私記
  5. チッタゴンにて

以上、5編を収録。1は、バンコクの病院に入院中のソフィアのボディガード梶田の日常。2は、少年兵のひとりハサンの独白。ここでいう父とはアラタのこと。3は、ジニのことだろうと容易に想像がつくのですが、東京滞在中の話だとは思いませんでした。4は、女性ジャーナリストのイーヴァがアラタ(とジブリールとジニ)にインタビューする話。5は、3000人の子供たちの新しい仕事をバングラデシュで探すアラタです。

「マジオペ」の余韻を楽しめる一冊です。

お勧め度:★★★★☆

2014年6月25日 (水)

マージナル・オペレーション 05 (芝村裕吏)

マージナル・オペレーション 05 (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション 05』は、「マージナル・オペレーション」シリーズ最終巻。

中国は膨張政策を採り、ミャンマー国境を侵犯。山奥の村を事実上、取り込んでいく。それを防ぐのがアラタたちの仕事。子供たちを3名ずつのチーム に分け、偵察と地雷敷設などの妨害工作を繰り返す。すると中国軍は偵察機やヘリ、爆撃機を投入。アラタの意図に反して戦線は拡大していきます。敵の神経を 逆撫でして戦い続けた結果、敵の規模は膨らみ「14万人 Vs. 3,000人」という絶望的な状況を招きます。さぁて、どうしましょ?

「僕は戦いじゃなくて仕事をしてるつもりだよ。子供を育てる事業だ。戦いは手段だ。目的じゃない」

子供たちを戦わせたくないのなら、国際機関に協力を依頼するなりなんなり方法はあるだろうと思いつつ、それでは「マージナル・オペレーション」が終わってしまう。だから、これはファンタジー。

紛争を軍事力によらず解決する。これもファンタジーなのでしょうか?

お勧め度:★★★★★

続きを読む "マージナル・オペレーション 05 (芝村裕吏)" »

2014年6月24日 (火)

マージナル・オペレーション 04 (芝村裕吏)

マージナル・オペレーション 04 (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション 04』はシリーズ第4弾。

ミャンマー北部、中国からの国境侵犯を防ぐため、アラタたちは傭兵部隊として5カ所の村を攻略したのですが、敵は戦闘ヘリを投入。あっさり取り返されてしまいます。

「敵は頭がいいに限る。プロ意識が強ければなおいい。」

これはわかります。頭が悪い、あるいは逆上した敵は何をするかわからない。でも、頭がよければ、ある程度読める。少なくとも馬鹿はしないと判断できる。スポーツでも素人はなにをするかわからないから相手をしづらいことがあります。

「戦争は意見の隔たりではじまり、意見の一致で終わるものだ。僕は敵と意見を一致させたい。戦争は無益だ。にらみ合うくらいにしようじゃないかと。」

戦争を始めるときは終わらせ方を決めておかないと泥沼化します。満州事変以後の日本がそうでした。挙句、アメリカに原爆でトドメを刺された。もう戦争、殺し合いはたくさんです。

ミャンマーやタイの政治、経済、風俗、習慣等、実際に現地で取材しているらしいことが伝わってきて好感が持てます。作者は好きなんでしょうね、日本人観光客がいない場所が。(笑)

戦闘員すべてがカメラとマイク付きのGPSゴーグルを装着し、指揮官は各員の位置、状況を把握した上で個別に指示できる。だから、

「基地から120km離れた山中より、200km離れたホテルの方が戦場に近くて便利がいいというのは、ある意味現代の縮図めいたものを感じる。」

日本国内の米軍基地に配備する無人偵察機をカリフォルニアから直接コントロールすることも可能なわけです。

一方、アラタとジブリールのラブコメは、相変わらず。ジニからはっきりとジブリールの気持ちを聞かされても、まだとぼけるアラタは大物ならぬ馬鹿者です。次作で完結。楽しみでもあり、終わってしまうのが寂しくもあり。

お勧め度:★★★★★

2014年6月22日 (日)

ナニワ・モンスター (海堂尊)

ナニワ・モンスター (新潮文庫) ナニワ・モンスター』は『チーム・バチスタの栄光 』の海堂尊の作品。番外編ですが、他の作品と絡んでいるので、併せ読むと楽しめます。

村雨知事は当選当時、テレビの討論会で「浪速をギャンブルとお笑いの帝国にしたい」と言い放ち、旧空港を閉鎖、跡地にカジノを作り、その稼ぎで医療と介護の無料化を実現させようと物議をかもします。そこに、スカルムーシュ(大ボラ吹き)彦根が目をつけ、村雨に秘策を授けます。

現実の「大阪都構想」は市と府の行政が重複する無駄を省き、云々と言いますが、どこを目指しているのやら将来設計が見えないし、名古屋市長の「中京都構想」に至っては言葉だけが先走ってます。その点、彦根の提案は日本を変える、抜本的政策。それだけに抵抗が大きいことは容易に想像がつきます。だから小説とし て面白い。

新型インフルエンザ「キャメル」を利用した、浪速府に対する 霞ヶ関の陰謀。「そこまでやるか!?」という驚愕の政治フィクションかと思いきや、彦根が出てくると当然医療の話になって「あぁ、またか」と食傷気味なわけですが「死亡時画像診断」を追求する点が、すべての海堂作品の通奏低音として響いています。

元厚労省官僚の検疫官・喜国いわく「地球にとってウイルスのようなヒトを鎮圧するために、神は様々な実験をしている。抗ヒト薬剤開発のためのモルモットとしてトリやブタを選び、今回はラクダを仲介に選ぶ」。

ラストで村雨知事がぼそっと「何か新しいことをしようとすれば、最後はいつもひとりぼっちだ」。可哀相だけどトップの宿命かも。

物事を見るとき、小さな枠組み(地域、分野、立場など)にこだわらず、もっと広い視野で将来を俯瞰する大切さを教えてくれる作品でもあります。本書だけ読むよりは他の海堂作品を読んでからのほうが楽しめることは確かですが、この本は取っ掛かりとして面白いから息子たちにも勧めたいと思います。

お勧め度:★★★★★

2014年6月21日 (土)

モルフェウスの領域 (海堂尊)

モルフェウスの領域 (角川文庫) モルフェウスの領域』は『チーム・バチスタの栄光 』シリーズの海堂尊による、コールドスリープ(人工凍眠)をテーマにした小説です。この人の小説は面白いと思うのですが、全体に暗いのが難点。医療が「死」に近いからでしょう。読んでいて気持ちがどんどん沈んでいくのです。

おなじみ桜宮市の未来医学探究センターの地下で、特効薬を待つ5年間をコールドスリープして待つことにしたのが9歳の佐々木アツシ。彼は『ナイチンゲールの沈黙』で片目を失い、その後レティノ(眼の癌)が転移し、このままでは、もう一方の眼も失ってしまうのです。

アツシを見守るのは、父親の海外勤務により、多くの言語を習得し、医学の心得もある日比野涼子。彼女は5年間、ずっとアツシを見守り、目覚めたあとも彼を守ろうとします。

事前にコールドスリーパーに関する法律が制定され、その土台になったのがゲーム理論の第一人者・曾根崎教授による「凍眠八則」。坂本龍馬の「船中八策」にひっかけたものですね。
  1. 凍眠は本人の意志によってのみ決定される。
  2. 凍眠選択者の公民権、市民権に関しては、凍眠中はこれを停止する。
  3. 第二項に付随し、凍眠選択者の個人情報は国家の管理統制下に置く。
  4. 凍眠選択者は覚醒後、一月の猶予期間を経て、いずれかを選択する。以前の自分と連続した生活。もしくは他人としての新たな生活。
  5. 凍眠選択者が過去と別の属性を選択した場合、以前の属性は凍眠開始時に遡り、死亡宣告される。
  6. 以前と連続性を持つ属性に復帰した場合、凍眠事実の社会への公開を要す。
  7. 凍眠選択者は凍眠中に起こった事象を中立的に知る権利を有する。
  8. その際、入手可能な情報がすべて提供される。この特権は猶予期間内に限定される。
涼子はここに問題点を発見し、密かに曾根崎教授に反論する機会を窺っていたのです。前半は「ことば遊び」で退屈。凍眠から目覚めたあとのほうが面白い。コールドスリープ中も身体は成長し14歳相応になっているけれど、精神年齢は9歳のまま、とか。

海堂尊の小説には共通の場所と人物が使い回されていて、どの本だったか忘れたのですが、アツシの年齢の計算が合わないと思ったことがあります。その理由がコールドスリープだったのか、と感心していたら、あとがきによると、ミスの帳尻合わせだったとか。感心して損した。(笑)

お勧め度:★★★☆☆

2014年6月20日 (金)

アリアドネの弾丸 (海堂尊)

アリアドネの弾丸(上) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

アリアドネの弾丸(下) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
アリアドネの弾丸』は『チーム・バチスタの栄光 』シリーズ第5弾。今回はまたミステリー仕立てになっています。ミステリーは嫌いじゃないけど、人が死ぬのは嫌い。でも、今回も殺人の匂いがプンプンします。医療ミスと殺人は紙一重!?

冴えない神経内科医・田口公平はなぜか高階病院長に取り立てられ、本人もわけのわからないまま出世していきます。そして、ついに今度東城大学付属病院内に設立されるエーアイセンターのセンター長に任命されます。

そして、エーアイに必要となるMRIの最新モデル「コロンブスエッグ」が搬入され、設置していた技術者・友野が謎の死を遂げ、後半では、北山元刑事局長が同じ部屋で射殺され、そばには高階院長が拳銃を持って倒れていたのです。

単なるミステリーではなく、背景には、医療と司法のせめぎ合いがあります。「司法解剖」という警察にとっての聖域が、エーアイによって医療によって侵犯されることを恐れて潰しにかかっていることは明白。このままではエーアイセンター計画だけでなく、東城大学そのものが潰される。さぁ、どうする田口?

といってもグッチーは徒手空拳。イライラするほど物わかりが悪いのは、読者にもわかるように相手に説明させる係だから仕方ありません。そもそも、ここで引っ張り出すなら…そう、火喰い鳥(白鳥)です。

わたしはミステリーファンではないので、殺害方法のトリックには特に興味はありません。血なまぐさいのは苦手なので(田口先生同様)できるだけ血は見たくない。それよりは、暴力によらない知恵比べのほうが好みです。

しかし、文字通り命懸けですね、警察も。実際、ここまでやりかねない、ということでしょうか。

お勧め度:★★★★☆

2014年6月19日 (木)

ブレイズメス1990 (海堂尊)

ブレイズメス1990 (講談社文庫) ブレイズメス1990』は『ブラックペアン1988 』の続編。『チーム・バチスタの栄光 』シリーズの番外編なので、あわせて読んでも楽しめます。

心臓の詰まった血管を、別にバイパスをつなぐのではなく、詰まった血管そのものを交換してしまう天才外科医・天城雪彦がモナコにいる。彼に直接渡すようにと、高階院長から封筒を預かった世良は、学会のお伴のあと、単独でモナコへ向かい、天城に会うのですが…。

これまで読んだ海堂尊の小説に登場する天才外科医としては、速水、渡海、天城が挙げられますが、わたしは天城が気に入りました。人間的には破綻していますが、一直線に目的に向かう姿勢と、頭の回転の速さが魅力。読んでいてもスピーディで、テンポがいい。

対照的にテンポが悪いのが田口先生なのですが、彼は勝負強さが取り柄。運命に翻弄される世良先生をはじめとして、腹黒タヌキ高階院長もいい味出してます。

お勧め度:★★★★★

2014年6月17日 (火)

マドンナ・ヴェルデ (海堂尊)

マドンナ・ヴェルデ (新潮文庫) マドンナ・ヴェルデ』は『ジーン・ワルツ』の続編。というか、おなじ出来事を別の角度から描いた物語。

東城大学付属病院の産婦人科医・曾根崎理恵が母みどりに「ママ、私の子どもを産んでくれない?」。『ジーン・ワルツ』では理恵の勢いに爽快さを感じた部分もあったのですが、今回、理恵の母・みどりの側から見ると、生理的嫌悪感が拭えずページを繰る手が止まります。自分が産んだ娘の子供を産むのか!?

体外受精まではわかるけれど、代理出産を母親に頼むとは。日本で認められる代理母は「親族」であることだとか。しかも、代理出産した場合、母親はあくまで代理母であり、卵子提供者は母ではないらしい。法律が医療についてきていない。それはおかしいんじゃないかと作者は考えているのでしょう。だから、こんなフィクションを書いた。

体外受精は、子供が欲しい人には福音なのでしょうけれど、顕微鏡で弄んでいい対象ではないと、わたしは思います。医療の進歩は歓迎しますが、生命の根幹に関わる遺伝子は人間が操作すべきではない。悪用する人間が出てきて、いずれ自然の摂理が崩壊し、人類の手に負えない事態に陥り、手痛いしっぺ返しを喰らうことでしょう。そんなふうに考えているから、この小説に抵抗を感じるのだと思います。

前作『ジーン・ワルツ』 で感じた不安は的中。理恵の屁理屈は許せません。お勧めできないので「お勧め度」はありません。

2014年6月16日 (月)

イノセント・ゲリラの祝祭 (海堂尊)

イノセント・ゲリラの祝祭 (上) (宝島社文庫 C か 1-7)

イノセント・ゲリラの祝祭 (下) (宝島社文庫 C か 1-8)
イノセント・ゲリラの祝祭』は『チーム・バチスタの栄光 』シリーズ第4弾。

紹介文によると、今回は厚労省のグダグダが描かれるとか。医師としての作者の不満爆発か。と思ったら、冒頭の掴みは完璧。宗教団体のリンチ死事件に加納警視正と玉村警部補コンビが首を突っ込み、田口は白鳥に厚労省での会議へ招待されます。

なんというか、今回に限ったことではありませんが、厚労省の医療行政はボロクソです。現場の医師たちはよほど腹に据えかねているようです。たとえば、

「出世競争の世界では横殴りの刃が定期的に巡回してて、うっかり頭を突き出したら首がちょん切られてしまう。だから、目立たぬよう、遅れぬよう。これが肝心。」

「官僚には医療なんてどうでもいいことです。大切なのはカネと法律。法律の整合性と予算の分捕りが至上命題で、それ以外に傾注するのはバカだと信じる。それが官僚です。」

なんてセリフからも憤りと諦観が見られます。いつでも誰とでも代わりが効くのが官僚だとすると、独自路線を歩む白鳥は異物。弾かれてしまうのか、ゴキブリ並みの生命力で生き残るのか。この先も楽しみです。

ミステリー要素はなくても人間ドラマとして面白かった。

お勧め度:★★★★☆

2014年6月14日 (土)

ひかりの剣 (海堂尊)

ひかりの剣 (文春文庫) ひかりの剣』は『チーム・バチスタの栄光 』シリーズの登場人物の学生時代を描いた番外編。

「ナイチンゲールの沈黙」とか「イノセント・ゲリラの祝祭」といった洒落たタイトルが多いなかで「ひかりの剣」って、なんてベタな…と思ったら、人の名前でした。

東日本の大学医学部剣道部がトーナメント形式で闘う「第三十七回医鷲旗大会」を目指して、東城大学医学部剣道部の速水と、帝華大学医学部剣道部の清川が激突するという図式。老獪な高階病院長は剣道部の顧問です。

高階が清川に「才能とは、素質を磨く能力だ。このふたつを持ち合わせている人間は少ない。素質と才能の違い、それは努力する能力の差なんだよ」。これ、わかります。受験勉強でも努力できるかどうかが運命の分かれ目です。

高階が前園に「君が私に勝てない理由は簡単さ。私は毎日、手術室という命を削る闘いの場に身を置いている。メスという刃は竹刀より小さいが、その下で繰り広げられる世界 は、一歩間違えば相手の命を奪う真剣勝負。剣道場で行われている勝負よりはるかに厳しい。そこで毎日メスを振るっていれば、剣筋はおのずと磨かれる」。これはわからん。竹刀とメスをいっしょにされても困ります。

剣道は経験がなく、よくわからないせいか、楽しめませんでした。(残念)

2014年6月12日 (木)

ジーン・ワルツ (海堂尊)

ジーン・ワルツ (新潮文庫) ジーン・ワルツ』は『チーム・バチスタの栄光 』で有名な作者が書いた不妊治療を描いた作品。

主人公は帝華大学医学部の曾根崎理恵助教。その姓がずっと気になってて「ひょっとして」「え〜!?」。『医学のたまご』を読んだ方にはサプライズがあります。

理恵は閉院間近のマリアクリニックを手伝い、5人の妊婦が出産を終えるまでを描きます。子供が無事産まれるまでには幾多の障害があり、流産、奇形、先天性障害も決して珍しくない。そう聞かされると息子たちが元気に育ってくれたのは天恵だといえます。

出産は病気ではないから保険は効かない。ただし、万一のことがあれば医師の力が必要になるから産婦人科医の力を借りる準備もしておくように、と作中ではアドバイスしています。まだ見ぬ赤ちゃんの命を愛おしむ心は美しい。泣けてくるので自宅で読んだほうがいいと思います。

それにしても最後に理恵が取った作戦は見事! あくまでフィクションですが応援したくなります。

しかし、どうしても納得できないのが「2個の受精卵を戻してどちらが着床したかはわからない」という、理恵の最後の種明かし。妊娠を確実なものにするための医療行為であれば問題ないのですが、そこに悪意が入るととんでもないことになります。理恵のハッタリであることを祈ります。

お勧め度:★★★☆☆

2014年6月10日 (火)

医学のたまご (海堂尊)

医学のたまご (ミステリーYA!) 医学のたまご』は『チーム・バチスタの栄光 』で有名な作者が中高生向けに書いた「医学のススメ」的な一冊。男子中学生・曾根崎薫が「潜在能力試験」で日本一の成績を取ってしまい、なんと東城大学の医学部で研究することになってしまう。レティノプラストーマ(眼の癌)の発現に関する重大な発見をして論文を発表するという大騒ぎに!

「大学の医学部に入るとたとえばこんな感じ」というのがよくわかりますが、いかにも児童書なので、最初は食指が動かず『イノセント・ゲリラの祝祭』に手を伸ばしたのです。しかし、その後『ジーン・ワルツ』を読んだら驚愕の事実が…!?

もし本書を読んで、医療に関わる小説が面白いと感じたなら『ジーン・ワルツ』という不妊治療をテーマにした作品を読んでみてください。生命の不思議を実感できます。

お勧め度:★★★☆☆

2014年6月 8日 (日)

夢見る黄金地球儀 (海堂尊)

夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫) 夢見る黄金地球儀』は、海堂尊が『ブラックペアン1988 』の次に発表した作品。お得意の医療エンターテイメント小説ではありませんが『ブラックペアン1988 』とおなじ1988年に、おなじ桜宮市を舞台にして、こんなコンゲームがあったというお話。看護師になるまえの浜田小夜にも会えます。

一億円相当の「黄金地球儀」を盗もうとするのですが、お粗末な契約書以外にも、一杯喰わされるのが目に見えてる。役人が保身を図るとしたら…?

ごめんなさい。わたしは楽しめませんでした。

2014年6月 6日 (金)

ブラックペアン 1988 (海堂尊)

新装版 ブラックペアン1988 (講談社文庫) ブラックペアン1988 』は『チーム・バチスタの栄光 』シリーズの番外編。東城大学付属病院長・高階の若き日を描いています。学生時代の速水、島津、田口も登場するのでお楽しみに!

ペアンというのは手術用の止血鉗子。金属製なので銀色のはずなのに、黒いペアンが佐伯病院長の手術セットにはあるのです。その理由は最後に明らかになります。

高階は、食道癌手術の新兵器「スナイプ」を引っさげて乗り込んできて実績を上げていきますが、ある時、佐伯病院長は、食道癌の手術を新米術者に任せ、高階に手術の立ち会いを禁じたのです。それは単なる意地悪かと思ったら、そこには佐伯なりの考えがあったのです。

大学病院における出世や利権をめぐる権力闘争、恨みや嫉妬など、全編通して胡散臭さ満点。唯一の希望が、次代の医療を担う若手の成長。

それぞれのキャラクターにはモデルが実在するのかな?

お勧め度:★★★★☆

2014年6月 4日 (水)

ジェネラル・ルージュの凱旋 (海堂尊)

ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)
ジェネラル・ルージュの凱旋』は、『チーム・バチスタの栄光 』、『ナイチンゲールの沈黙』に続く「田口・白鳥シリーズ」第3弾。

ページを繰ると『ナイチンゲールの沈黙』を読んでいるような錯覚に陥ります。それもそのはず。この2冊はひとつの物語の裏表。おなじ時と場所で起こったことを、視点を変えて描いたもの。あとがきで知ったのですが、長くなりすぎるので2冊に分けたそうです。つまり、物語としては青と赤で一冊なのです。

「ジェネラル」とは東城大学付属病院救命救急センター部長・速水の異名。「ジェネラル・ルージュ」とは「血まみれ将軍」という意味らしい。紹介文によると、速水医師は納入業者から収賄を行っているとの告発を受けたというのですが、それがなぜ「放逐」ではなく「凱旋」するのか。そこが見所です。

いやぁ、ここまでの3作の中でいちばんカッコよかった。下巻では感動しました。1作目は心臓外科、2作目は小児科、そして今作は救命救急センターが舞台。2作目に『螺鈿迷宮』が絡み、今作が『極北クレイマー』につながっていく。刊行順に読むことにしているので、つぎは『ブラックペアン1988』です。

厚労省の変人官僚・白鳥の部下・姫宮は頭脳明晰、性格も悪くないのですが、動くとドジばかり。こんな娘に料理を作らせたら大惨事になるでしょう。一方の白鳥も頭脳明晰ですが、性格が悪い。でも愛嬌があるから許せます。

医療の理想と現実の狭間で繰り広げられる、登場人物たちによる丁々発止のやりとりが、なかなか鋭くて面白い。

お勧め度:★★★★★

2014年6月 2日 (月)

螺鈿迷宮 (海堂尊)

新装版 螺鈿迷宮 (角川文庫) 螺鈿迷宮』は、『チーム・バチスタの栄光 』、『ナイチンゲールの沈黙』に続く3作目。ユニークな凸凹コンビが活躍する「田口・白鳥シリーズ」からは外れていますが、白鳥がちょっと変わった登場の仕方をしているので番外編として楽しめます。

が、前2作が「現代医療ミステリー」なのに対して、今作はほとんど「ホラー」です。解剖され切り刻まれた臓器が山のように出てきます。その片鱗は『ナイチンゲールの沈黙』にもありましたが、もっと強烈です。

東城大学の留年医学生・天馬大吉も言っていますが、医学は罪深い学問です。人間の命を救うことを錦の御旗に、動物を実験台にして人間を解剖しています。そして、作者は死因を特定するには解剖が必要なのに、政府は「死んだ者より生きている者に金を使う」といって予算をつけない。たしかに、昨年身内が死んだときにも外傷がないため「心不全」で片付けられました。あれで金を取る警察医って一体なに?

東城大学医学部付属病院が表(光)ならば、病院+火葬場+寺の碧翠院桜宮病院は裏(闇)。主人公天馬は幼い頃、両親を交通事故で亡くし、育ててくれた祖母も亡くなって天涯孤独の身。気の毒な人だと思っていたら、最後にどんでん返し!

桜宮病院から姿を消した男の行方を探すため、スパイとして送り込まれた天馬の活躍を描く「ホラー」サスペンス。いろんな意味で怖いです。

お勧め度:★★★★☆

« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »