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2014年1月19日 (日)

蝉しぐれ (藤沢周平)

蝉しぐれ (文春文庫) 海坂藩普請組の牧助左衛門と登世の家に養子として迎えられた文四郎は15歳。隣家の小柳甚兵衛の娘ふく(12歳)がちょっと気になってる。剣の筋がよく優等生タイプの文四郎に対して、親友の小和田逸平は豪放磊落。開けっぴろげで些事にこだわらないタイプで、島崎与之助は剣より学問が得意。この男3人と女1人の人生が「蝉しぐれ」をBGMに描かれます。

藤沢周平をちゃんと読んだのは初めて。斬り合いにしても『居眠り磐音 江戸双紙』の佐伯泰英は緊迫感ある派手な描写をするけれど、藤沢は必要以上に言葉を連ねない。それが、悩みや苦しみがあってもそれをあからさまにしない、武士の世の矜持のような気がして、逆に胸に染み入るようでした。

江戸時代は、いわば軍事政権下。全国の藩を束ねる将軍がいるわけですが、藩のなかにも藩主がいて、政権を握る派閥が存在する。その政権争いに巻き込まれたのが文四郎の父・助左衛門。そこから文四郎は運命に翻弄されながら、母親や友たちを守り、守られ、生き抜いていくのでした。

「半沢直樹」で有名な池井戸潤の経済小説では、どんなに激しく敵対、憎悪していても、それは法律に則った、経済的、政治的衝突であり、暴力を振るうことは(法律に触れるため)ありません。ただ「これがアメリカだったら撃たれてるだろうな」と思うことはしばしば。斬り殺されたり、切腹させられたりすることがなくなったという意味では平和な世の中です。

それじゃ、本書に描かれているような江戸時代が野蛮かというと「そういう時代だった」というだけで、そこに生きる人々の心根は現代人よりも健全だったかもしれません。

お勧め度:★★★★★

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