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2014年1月

2014年1月31日 (金)

ソフロニア嬢 、空賊の秘宝を探る 英国空中学園譚 1 (ゲイル・キャリガー)

ソフロニア嬢、空賊の秘宝を探る (英国空中学園譚) 『アレクシア女史』シリーズのゲイル・キャリガーの新シリーズ。アレクシアの娘プルーデンスが主人公の物語を期待していたのですが、これはその25年ほど昔の話です。つまり、人狼や吸血鬼が人間と共存している19世紀ヴィクトリア朝の英国が舞台。

『アレクシア女史』を読んでいなくても全く問題はありませんが、いくつか聞いたことのある名前が出てくるのがおもしろい。

今回の主人公は、英国南西部で生まれ育ったお転婆な14歳ソフロニア・テミニック。母親と来客の会話をこっそり聞こうと配膳用エレベーターに乗り込んで大失敗。テミニック夫人は末娘ソフロニアを花嫁学校に入れることに決めたのです。しかし、その学校は礼儀作法を教えるだけでなく、スパイ養成学校でもあったのです。

冒頭「ソフロニアは、配膳用小型エレベーターを地下厨房からバーナクルグース夫人がお茶を飲んでいる一階の表に面した応接間の外に引き上げようと考えた」。一回読んだだけでは理解できず読み返す羽目に。作者も訳者も『アレクシア女史』と同じなのに、読みづらい文章があるのは何故?

細かいことは気にせずに読み進めると、ソフロニアの活躍(と失敗)が愉快でおもしろくなってきます。14歳のお転婆娘と空飛ぶスパイ学校なんて、スタジオ・ジブリのアニメにぴったりじゃないですか。

シリーズ第2巻『ソフロニア嬢、発明の礼儀作法を学ぶ』も出ているので読んでみます!

お勧め度:★★★★☆

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2014年1月29日 (水)

ゲート 5 ―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり 冥門編 (柳井たくみ)

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈5〉冥門編 異世界(特地)との門(ゲート)が開いた銀座。ふたつの世界で地震が多発。門を閉じなければ双方に大災害が起こる可能性があり、日本政府は門を閉じること に決めますが、中国、ロシアなどは特地の利権を狙って強行策に出てきます。中国の強引な拡張政策の背景について「13億の国民の胃袋を満たし、13億人に希望を抱かせる。13億人の反感を宥めるためなら、我が政府は例え横紙破り、極悪人と批判され、他国から憎悪されても資源と食糧を掻き集め続けるでしょう」と言わせています。自衛官のリアルな見方、考え方が窺えるのが興味深い。

最終巻ということで、これまで広げた風呂敷を畳むのに大忙し。コロコロ場面が変わるのでついて行くのにつかれます。自衛隊は、総理大臣に指揮権があるので、どうしても政治の影響を受けます。政治が絡むと泥臭い話も多いわけで、それはわかるのですが、諸外国を含めた政治的な部分は退屈でした。そんなことはいいからイタミを出せ!という感じ。

門が閉じるとき、日本へ帰るのか、特地に残るのか選択しなければなりません。イタミは「同人誌即売会に行きたい」から日本に帰りたい。でも、テュカ、レレイ、ロゥリィは何とかしてイタミを引き留めたい。さて、イタミの決断は!?

お勧め度:★★★☆☆

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2014年1月27日 (月)

漫画で読破 神曲 (ダンテ)

神曲 (まんがで読破) ダンテの神曲は14世紀初頭のイタリアで「地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る、全14,233行の韻文による長編叙事詩」として書かれたもの。河出書房新社版の文庫3冊は各巻500ページ。これを読み通すのは容易じゃない。

そこで漫画である。ダンテが、愛しいペアトリーチェを亡くし途方に暮れていたところ、詩人ウェルギリウスの案内で地獄、煉獄を経て、天国にいるペアトリーチェの元へたどり着くというお話が完結にまとめてあります。

漫画にすればとっつきやすく、わかりやすいのは確かだけど、こうしてさらっと流されると「これでいいのか?」という不安も湧いてきます。ただ、原書(翻訳版)に当たって砕けるくらいなら「最初の一歩」として読んでみてもいいでしょう。14世紀に書かれたものですが、21世紀になっても地獄のイメージはあまり変わっていないようです。

お勧め度:★★☆☆☆

2014年1月25日 (土)

know (野崎まど)

know (ハヤカワ文庫JA) 外出先で調べたいことができたときにスマホは便利。言葉の意味から、さっきレストランで食べた食材のこと、連載小説が現在何巻まで出ているのか、ここから目的地へ行くにはどの電車を乗り継げばいいのか等々、その場ですぐにわかるのがうれしい。

そういう意味で「電子葉」は便利なのかもしれません。『永遠の森 博物館惑星』(管 浩江) も学芸員が直接ネット接続できるという話でした。そうして、即座に何でも知ることができる人間は、すなわち何でも知っている人間ともいえます。全能ではなくても全知の人間。それってもはや神の領域? (ただ、現在のインターネット上の情報の精度はいまひとつ。)

生理的嫌悪感は拭えませんが、情報庁の官僚・御野・連レル(クラス4)が、中学生の時、京都大学の研究者・道終・常イチと出会い、物語は始まります。野崎まどは「究極」好き。さて、今回はどんな究極を語って見せてくれるのでしょう。

わたしにとって、この小説の魅力のひとつは舞台が京都であること。京都大学も進々堂も京都御所も出てきます。『史上最強の内閣』 (室積 光)も京都御所が舞台のひとつ。現在では皇居は東京だから、小説の舞台にも使いやすいのでしょう。

御野・連レルは14歳の少女、道終・知ル(クラス9)と出会い「世界が変わる4日間の始まり」を経験することになります。この話はどうやって終わるんだろう、と思いつつラストにたどり着いて「えっ!?」。魂消ました。たしかに世界は変わったようです。

お勧め度:★★★★☆

2014年1月23日 (木)

思い出のとき 修理します (谷瑞恵)

思い出のとき修理します (集英社文庫) 古書店、珈琲店のつぎは時計店か。どんな話なのだろうと興味をもって手に取ってみました。が、身近なお店に、ちょっとミステリアスな雰囲気の店主が、日常の謎を解いてみせるという、おなじみのパターン。
  1. 黒い猫のパパ
  2. 茜色のワンピース
  3. 季節はずれの日傘
  4. 光をなくした時計師
  5. 虹色の忘れ物

シャッター通り商店街にある時計店には「おもいでの時 修理します」というプレートがかかっていて「おもいでの時計」の「計」が取れたままになっているらしい。で「思い出を修理してほしい」という客が訪れたりするわけですが、過去を変える『シュタインズ・ゲート』ではなく、夢か現か幻か、はたまた妄想か、理由はともあれ本人が納得すればOKらしい。

残念ながら、わたしには本書の面白さは理解できませんでした。

2014年1月21日 (火)

仏果を得ず (三浦しをん)

仏果を得ず (双葉文庫) 主人公の健(たける)は、高校の修学旅行のときに文楽見学中、眠ってしまったのですが「突然、だれかに石をぶつけられたように感じて」目を覚まし、義太夫の迫力の虜になってしまったのです。そして研修所を経て、銀太夫の弟子となり10年、30歳。しかし、一人前にはほど遠く、悩みは尽きないのでした。
  1. 幕開き三番里
  2. 女殺油地獄
  3. 日高川入相花王
  4. ひらかな盛衰記
  5. 本朝廿四孝
  6. 心中天の網島
  7. 妹背山婦女庭訓
  8. 仮名手本忠臣蔵

文楽って人形浄瑠璃、近松門左衛門の世界。大阪と東京に国立劇場があることは知ってるけれど実際に見たことはない。文楽のことは全く知らないけれど、ちょっと興味があるから、という理由で本書を読んでみて、さすが三浦しをん、面白かった。

義太夫と三味線の掛け合い、登場人物の心情を掘り下げ、理解(解釈)しなければ自分のものにはならず、芸を究めるには長生きしなければならない。銀師匠は「芸の邪魔になるものは切り捨てろ」というけれど、健にも複雑な恋心があって…。

しかし、健はとんでもないところに住んでます。文字通り「芸一筋」。日々の生活のことなど瑣末なことなのかも。銀師匠もいい味出してます。

お勧め度:★★★★★

2014年1月19日 (日)

蝉しぐれ (藤沢周平)

蝉しぐれ (文春文庫) 海坂藩普請組の牧助左衛門と登世の家に養子として迎えられた文四郎は15歳。隣家の小柳甚兵衛の娘ふく(12歳)がちょっと気になってる。剣の筋がよく優等生タイプの文四郎に対して、親友の小和田逸平は豪放磊落。開けっぴろげで些事にこだわらないタイプで、島崎与之助は剣より学問が得意。この男3人と女1人の人生が「蝉しぐれ」をBGMに描かれます。

藤沢周平をちゃんと読んだのは初めて。斬り合いにしても『居眠り磐音 江戸双紙』の佐伯泰英は緊迫感ある派手な描写をするけれど、藤沢は必要以上に言葉を連ねない。それが、悩みや苦しみがあってもそれをあからさまにしない、武士の世の矜持のような気がして、逆に胸に染み入るようでした。

江戸時代は、いわば軍事政権下。全国の藩を束ねる将軍がいるわけですが、藩のなかにも藩主がいて、政権を握る派閥が存在する。その政権争いに巻き込まれたのが文四郎の父・助左衛門。そこから文四郎は運命に翻弄されながら、母親や友たちを守り、守られ、生き抜いていくのでした。

「半沢直樹」で有名な池井戸潤の経済小説では、どんなに激しく敵対、憎悪していても、それは法律に則った、経済的、政治的衝突であり、暴力を振るうことは(法律に触れるため)ありません。ただ「これがアメリカだったら撃たれてるだろうな」と思うことはしばしば。斬り殺されたり、切腹させられたりすることがなくなったという意味では平和な世の中です。

それじゃ、本書に描かれているような江戸時代が野蛮かというと「そういう時代だった」というだけで、そこに生きる人々の心根は現代人よりも健全だったかもしれません。

お勧め度:★★★★★

2014年1月17日 (金)

『聖なる怠け者の冒険』にまつわる京都探訪(北白川天然ラジウム温泉)

                         
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昨年7月、京都タワー大浴場には入ったのですが、もう一カ所、北白川天然ラジウム温泉にも行ってきました。出町柳から車で約15分走っただけで「山の中」ですから、京都が山に囲まれていることを実感します。
      
      自転車でも行けそうなくらいですが、銀閣寺の北を比叡山に向かう「山中越え」は(近江神宮に抜けるためにバイクで通った経験から)買い物自転車では上り坂で挫けることは必定。頑張ればなんとかなるだろうけれど頑張りたくない。温泉に着くまえに疲れたくないので、車でお迎えをお願いしました。
      
      温泉だけ入ることもできるのですが、わざわざ迎えに来てもらうのですから、一般客室を5時間使って温泉を楽しみ、会席料理をいただく「日帰りセット」(寿セット)をお願いしました。
      
      到着すると抹茶とお茶菓子が出てきて、こたつでテレビを見ながらぬくぬく過ごすもよし、2階の温泉に入るもよし。夕食は6時半からと決まりました。あれ、ケータイが圏外!? 宿の無線LANを使わせてもらいました。
      
      ホームページの写真はすごくきれいで、ホテルのようなイメージを抱きますが、実際は客室数6部屋の、こじんまりした温泉旅館。エントランスとロビー(写真2)は(改装したようで)新しくてきれい。気取らない接客は好感が持てます。一階突き当たりの「寿の間」は8畳くらい。窓の外は道路ですが、そのむこうは雑木林。お風呂は真上にあるので、窓外の景色は同じ。これを「森林浴」っていうのかなぁ?
      
      温泉が湧いているのではなく、湧き水(鉱泉)をボイラーで暖めていますから、いわば銭湯。でも、わたしには熱すぎずちょうどよかった。2階廊下の蛇口で鉱泉を飲むこともできます。試してみたけど(当然ながら)無味無臭で、効果のほどは実感できず。
      
      さて、お料理は予想以上に豪華で、しかも美味でした。長男の大学卒業祝いを兼ねて行ったのですが、わたしも贅沢をさせてもらいました。
      
      写真3が食前酒と前菜、お刺身。前菜は黒豆、数の子、くるみ豆腐、白和え、からすみ、エゾシカ肉など、まだお正月モード。お刺身の器のうえに氷のドームが載ってます。お刺身も一切れが大きくて美味しい。観光地の飲食店って高いわりにおいしくなかったりするけれど、ここは京都でもとってもリーズナブルだと思います。
      
      どんどん料理が運ばれてきます。あんかけ茶碗蒸し、みそ汁、牡蠣ごはんと牡蠣フライ(写真4)、大根とフォワグラ(写真5)、鯛と里芋の奉書焼き、牛肉の朴葉焼きと続き「もう満腹ぅ」といったところにトドメのデザート(写真6)。カダイフを衣にした牡蠣フライはサクサク絶品。残った牡蠣ごはんは持ち帰らせてもらいました。
      
      こんなに美味しいものをお腹いっぱい食べられて幸せ。海外の食材も取り入れたり、色々工夫されていて、こだわりを感じる料理の数々に感銘しつつ、とっても楽しく頂けました。ごちそうさまでした!(感謝)
      
      温泉もうれしいけれど、個室で(こたつで)のんびり、おいしい料理をいただけるのが最高です。長男の下宿から持って来た漫画『聖☆おにいさん』を読破しました。仏教寺院の多い京都で「これはどうなの?」。(笑)
      
      温泉に入ってビール1本飲んで帰るお客さんも多いそうですが、時間があれば是非お料理もご賞味ください。比叡山や銀閣寺が近いといっても車がないと不便だし、近くを散策するような場所でもありませんが、逆にいえば、銀閣寺から10分ほど山に入っただけで「山の温泉旅館」の風情を楽しめます。肩が凝りそうなホテルや料亭よりも、わたしは北白川天然ラジウム温泉をお勧めします。
      
      お勧め度:★★★★★

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2014年1月15日 (水)

沈まぬ太陽 5 会長室編・下 (山崎豊子)

沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫) 昨年4巻まで読んで力尽き、年が明けて(半ば義務感から)ようやく読破することができました。わたしにとって、とにかく「重い」小説でした。

国見会長が「世田谷区経堂の永田元総理の私邸」を訪れる場面がありますが、鈴木善幸氏のことでしょう。経堂の狭い路地の奥にひっそりと和風家屋が建っていました。しっかり取材されたことがわかります。

また、恩地がニューヨークの動物園を訪れた際、鏡に映る自分を "The Most Dangerous Animal in the World."と書かれていたのは苦笑もの。たしかに、世界でいちばん危険な動物は人間です。地球を破壊しかねません。

5巻とも「お勧め度:★★★☆☆」としましたが、これは「たいへんな力作として評価するけれど他人に勧めるつもりはない」という意味です。各巻とも読後感は最悪。この最終巻でも溜飲を下げることはできませんでした。娯楽小説ではないということです。

お勧め度:★★★☆☆

2014年1月13日 (月)

暖簾 (山崎豊子)

暖簾 (新潮文庫) 「沈まぬ太陽」最終巻の5巻目を前に疲れてしまい、ひと休みにと手にとったのが本書、山崎豊子のデビュー作です。200ページほどの文庫本なので「沈まぬ太陽」と 違って軽く読めるだろうと思ったら、そうは問屋が卸しませんでした。1ページ、1ページの中身が濃く、斜め読みなどできません。そんなことをしたら途端に 話がわからなくなる。

明治、大正、昭和と激動の時代を生き抜いた大阪の昆布屋「浪花屋」を守った親子二代の物語。淡路島から大阪に出てきて、丁稚から叩き上げた吾平もすごいけれど、戦争から復員して父のあとを継いだ孝平の方が、戦後の混乱を真っ正直に乗り越えたという点で頭が下がります。

「暖簾を守る」というのは命懸けだったのだと驚くと同時に、こんな働き方は私にはできないと思うのでした。

お勧め度:★★★★☆

2014年1月11日 (土)

沈まぬ太陽 4 会長室編・上 (山崎豊子)

沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫) 大阪の繊維会社の社長を、総理自ら国民航空会長として招聘したとされる人物は、当時のカネボウの伊藤淳二氏。ただ、伊藤氏が本書で描かれているような人物かどうかはわかりません。

招聘されたのが1986年であれば、当時の首相は中曽根康弘。小説ですから、あくまでフィクションではありますが、現実に当てはめて読むとリアリティがあります。

さて、その国見会長の会長室部長として恩地が抜擢され、労働組合の統合を進め、社内の腐敗構造にメスを入れていくのですが、結局「会社はすでに不治の病にかかっており、どんな名医が執刀したところで死は免れない」といったところだったようです。

人間の欲望は際限なく、寄ってたかって航空会社を食い物にした挙句、大勢の犠牲者を出したうえに潰してしまったわけです。歴史から何も学ばないのは現在の企業経営者と政治家もご同様ですか。考えれば考えるほど虚しくなってきます。

お勧め度:★★★☆☆

2014年1月 9日 (木)

沈まぬ太陽 3 御巣鷹山編 (山崎豊子)

沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 (新潮文庫) 11年の海外左遷を経て、ようやく本社に戻ったものの、そこは「窓際族」。そして、御巣鷹山墜落事故が起き、恩地は救援隊として現地に赴き、遺族係として補償交渉等の窓口を勤めるのですが…。

航空機墜落現場には遺体が散乱し、安置所は大混乱。医師も気分が悪くなって倒れるほどの惨状のなか、家族の「せめて遺体の一部でも」と求める真剣さが胸を打ちます。あまりの惨状に言葉を失いました。しかし、まったく懲りていない連中もいるようで…。大きな会社になると、大事故が起きても非難の矢面に立たない限り他人事で済むのでしょう。

あの事故が起きた翌日、わたしは知人のANAの機長さんのお宅にお邪魔していました。テレビのニュースを見ながら「もし垂直尾翼が破損したら操縦できなくなるんですか」「無理だ」。どんなに優れた乗務員でも、機体が致命的に破損しては為す術はありません。JALはこれからもずっと重い十字架を背負って飛び続けなければなりません。

山崎豊子さんには、東日本大震災後の原発も描いてほしかった。おかしなことばかり起こる「原子力村」を斬ってほしい!

お勧め度:★★★☆☆

2014年1月 7日 (火)

沈まぬ太陽 2 アフリカ編・下 (山崎豊子)

沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫) 労働組合委員長としてストライキを決行し「首相搭乗機を止めようとした」として執拗な報復人事に甘んじる恩地。パキスタンからイラン、ついにはアフリカ・ケニアへ。

「今後一切、労働組合活動はしない」と約せば日本に帰ることができるのに、恩地は「日本の組合でがんばっている者がいる限り、わたしが筋を曲げることはできない」。戦中、戦後の現役世代にはまだ「侍」がいたのかと感心したり、驚いたり。正義なんて決してかっこいいものじゃない。泥だらけ、傷だらけになる。

本書を執筆するのに、作者がどれだけの取材をしたのかを考えると気が遠くなります。恩地も忍耐づよいけれど、作者も負けていません。

お勧め度:★★★☆☆

2014年1月 5日 (日)

沈まぬ太陽 1 アフリカ編・上 (山崎豊子)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫) 1985年(昭和60年)8月12日、JAL123便が群馬県の御巣鷹山に墜落し、520名が犠牲になった事故をモチーフにした小説。重大事故を引き起こすに至った、日本航空の企業風土を鋭く斬っています。傍目には華やかに見え、新卒学生に人気だったJALも、2010年1月に経営破綻。国としても倒産させるわけにいかないため、2011年3月に会社更生し復活しましたが…。

主人公は国民航空社員・恩地元。いきなりアフリカで猛獣狩りしている場面から始まるので面食らいます。本社予算室勤務時に労働組合の委員長を押し付けられ、会社との交渉を2年続けたら、海外に左遷されたわけです。それはまさに「流刑」に等しく、国を代表する企業の行う人事とは思えません。自己保身に終始する幹部たちの言動は、読んでいて不愉快を通り越して、気分が悪くなります。

文庫版は全5巻。読むなら最後まで読破する覚悟で臨んでください。正義感の強い方にはお勧めしません。JALに乗れなくなります。

お勧め度:★★★☆☆

2014年1月 3日 (金)

永遠の森 博物館惑星 (管 浩江)

永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA) 博物館といえば『100のモノが語る世界の歴史』で大英博物館の収蔵品が紹介されていました。それを美術品、工芸品、動植物、音楽、舞台芸術などに関わる、人類が入手した、あらゆる物を収めた巨大博物館、それが「アフロディーテ」なのです。タイトルに「博物館惑星」とあるのは、地球の衛星軌道上に持ってきた、オーストラリアと同面積の小惑星だから。

それはギリシア神話の、愛と美を司る女神ヴィーナスのこと。そこで働く学芸員は、中枢データベースを利用するのに端末のキーボードを叩く必要はありません。コマンドを意識するだけで直接接続でき、回答は内耳に直接返ってくる。
  1. 天上の調べ聞きうる者
  2. この子はだあれ
  3. 夏衣の雪
  4. 享ける形の手
  5. 抱擁
  6. 永遠の森
  7. 嘘つきな人魚
  8. きらきら星
  9. ラヴ・ソング
以上、9つの短編集。1章で、音楽(天上の調べ)が聴こえるという絵画が持ち込まれ、学芸員の田代孝弘が鑑定するのですが、どんなオチになるのかワクワクしながら読んで肩透かし。「そりゃそうだわな」と思いつつ、ちょっとがっかり。それでも「ちょっといい話」的な部分もあります。わたしは4章「享ける形の手」が気に入りました。

お勧め度:★★★☆☆

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2014年1月 1日 (水)

想像ラジオ (いとうせいこう)

想像ラジオ 電波ではなく想像力で人々をつなぎ、軽妙なトークをつづける「DJアーク」は、高い杉の木の上に引っかかったまま。一体なにがどうなっているのやら…。

DJアークがどんな声なのか、それは聞き手次第。ザ・モンキーズの『デイ・ドリーム・ビリーバー』がかかっても、ザ・タイマーズや山崎まさよしのカバーを聴いてるリスナーもいる。そして、お便りやメール、電話?も同時に飛び交う。ラジオに喩えた「想像コミュニケーション」。それはまさにAMでもFMでもなくIM(Imaginative Modulation)です。

彼の目的は、妻に自分の放送を聴いてもらい、彼女の声を聴くこと。

「東京大空襲の時も、広島への原爆投下の時も、長崎の時も、他の数多くの災害の時も、僕らは死者と手を携えて前に進んできたんじゃないだろうか? しかし、いつからかこの国は死者を抱きしめていることが出来なくなった。それはなぜか?」
「声を聴かなくなったんだと思う」

あなたは死者の声を聴くことができるか。

想像することの大切さを教えてくれる小説です。

お勧め度:★★★★★

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