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2013年10月 1日 (火)

歌うクジラ (上)(村上龍)

歌うクジラ 上 大学2年の次男から借りて読み始めて驚いた。性表現、残酷シーン満載の、陰々滅々とした(ユートピア=桃源郷ならぬ)ディストピア(暗黒郷)小説。作者は一体なにが書きたいんだろう?

あらためて帯をみると「22世紀の『オイディプス王』『神曲』『夜の果てへの旅』を書きたかった」とあります。 帯裏には「2022年のクリスマスイブ、ハワイの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウグジラが発見された…。そして100年後の日本、不老不死の遺伝子を巡り、ある少年の冒険の旅が始まる。」

つまり、舞台は2122年の日本。九州北部の「新出島」には、大量に流入した移民や貧民層が隔離されており、その一方で、SW(Singing Whale)遺伝子を注入された、再富裕層がいたのです。

主人公タナカアキラは、父に託されたデータチップを本土の老人施設に届けるために新出島を脱出。彼がたどる道筋がそのまま章立てになっています。
  1. 新出島
  2. 食品モール
  3. トンネル
  4. 制限区域
  5. スタジアム その1
  6. スタジアム その2
  7. スタジアム その3
  8. 歓楽街 その1
  9. 歓楽街 その2
  10. ネギダールの飛行
  11. 羊バス その1
  12. 羊バス その2
  13. 羊バス その3

警察に追われながらの逃避行と、様々な人たちとの出会いと別れ。壊れた社会と文化と精神と日本語。抑圧された状態に馴らされた少年は、何者かに導かれるように淡々と行程をこなしていきます。

主人公は父親の影響で「敬語」を話すことができるのですが、世の中ではすでに「死語」。「文化経済効率運動」とやらの影響で敬語は使わなくなったとか。おまけに移民の子孫たちは助詞がうまく使えない。というか、社会に反抗するため、故意にまちがった使い方をしている部分もあるらしい。これが恐ろしく読みづらい。まさに日本語の崩壊。
「お前、何が笑ってるんだ」
「おれたちがお前は信頼するから絶対おれたちを嘘が言うな」
話し言葉ならある程度許容できても、活字でこれをやられたらたまりません。一字一句追っていたら頭が変になりそうなので助詞を読み飛ばすことにしました。それでも文脈から意味は取れます。

「わたしたち人間が言語を中心とする複雑な文化を生み出した背景には、発情期の喪失、そして長期の未熟性という犠牲が伴っていて、その補完には社会化しかなかったということになる。」

その社会化の結果、どうなったかというと…。(下巻へつづく)

お勧め度:★★★☆☆

ルイ=フェルディナン・セリーヌの『夜の果てへの旅』に興味をもって『セリーヌの作品1』を鶴舞図書館で手に取ってみたら、厚さ5センチのハードカバーに細かい活字がびっしり500ページ。おまけに、このくだけた文体と内容はいったい…? この小説を最後まで読んだという一事だけでも村上龍を尊敬します。

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