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2013年8月

2013年8月31日 (土)

勝利への誘い―デルフィニア戦記 15 (茅田 砂胡)

勝利への誘い―デルフィニア戦記〈15〉 (C・NOVELSファンタジア) 今回はイブンが大活躍。デルフィニア南方の島国キルサンタスを味方につけ、スケニアの艦隊を迎え撃つものの、北方から攻めてきたスケニアの先住民族の勇猛さにタウ勢は圧倒され、このままでは非常にまずい…。

イブンが戦いに出るというのに留守番しているシャーミアンではありません。結局、それがイブンを追いつめることになるのです。いえ、良い意味で。(笑)

今回に始まったことではありませんが、タンガとバラストのデルフィニア攻略はどうも詰めが甘い、というか、計画段階から無理があるように思います。スケニア艦隊を当てにするなら、デルフィニアに手を貸す恐れのある勢力はあらかじめ押さえておくべきだと思うのです。だからバラストもサンセベリアに背後を突かれるわけです。もっと、ウォルとリィがひっくり返るような作戦を立ててほしい。

といっても「デルフィニア戦記」も終盤。戦争にも飽きたので、気分転換に外伝『コーラル城の平穏な日々』を読んでみましょうか。

お勧め度:★★★☆☆

2013年8月29日 (木)

紅の喪章―デルフィニア戦記 14 (茅田 砂胡)

紅の喪章―デルフィニア戦記〈14〉 (C・NOVELSファンタジア) イヴンはシャーミアンは好きでも、結婚となると身分の違いに納得できず、ナシアスはバルロのお膳立てでエンドーヴァー夫人と結婚することになったものの釈然とせず(国王を筆頭として)ややこしいというか、情けない男が多い国です。 そんな城中を尻目にベノアの頭目ジルは、ずっと年下のアビーを(母親ベネッサの反対を押し切って)嫁にもらってしまう。この物語で、我が道を行くのは、リィとジルくらいでしょうか。

さて、デルフィニア包囲網は、タンガとバラストだけでなく、スケニアまで巻き込み、戦争になればタウはもちろん、サンセベリアも加わることになります。しかし、リィがサンセベリア王に「ウォルは領土を広げたいとは思っていない。手出ししなければ、昼寝している牛のように大人しい男だ」と語ります。それでも戦争がなくならないのは、人間の欲望には果てがないということですか。

一方、戦争のどさくさに紛れてリィを暗殺しようとファロットの刺客たちも動き始めます。10巻「憂愁の妃将軍」では、ウォルが敵の捕虜となって死にそうになるし、今回はリィも危ない…。 ただ、ウォルとリィが死んでしまうことはないだろうとたかを括ってます。

お勧め度:★★★☆☆

2013年8月27日 (火)

ロスジェネの逆襲 (池井戸潤)

ロスジェネの逆襲 半沢直樹シリーズ第3弾、らしいのですが『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』は未読です。それでも全く問題ありません。『下町ロケット』の次に書かれたということで手に取って読んでみて「ドラマの半沢直樹だ」と気づいた次第。前2作に手を出さなかったのは、銀行が舞台だったから。銀行の裏側の「仁義なき戦い」は見るに耐えません。

でも、それが銀行でなくても、世代がバブルだろうがロスジェネだろうが、関係ない。そんなことに拘っていても始まらない。あくまで顧客のために働き、ひいては社会の役に立つ。それが正しい働き方であり、自分(保身)のためだけに働く奴らがいるから組織が腐っていくのだ、というのが本書の、半沢直樹の総論。

東京中央銀行から子会社の東京セントラル証券に出向した半沢直樹(営業企画部長)は、新興IT企業・電脳雑技集団が同業の東京スパイラルを買収するためのアドバイザーの依頼を受けます。しかし、提案内容の検討に手間取っているうちに、アドバイザー契約を親会社(銀行)に持っていかれてしまいます。まさに「仁義なき戦い」です。

最後は、半沢が東京スパイラルのアドバイザーとして買収防衛に回ることに。こいつは最高に面白い! ただ、いくらなんでも子会社が親会社の面目を潰してしまうのはマズイのでは、と思っていたら…。

会社員(銀行員)のみなさん、これを読んで溜飲を下げましょう!

お勧め度:★★★★★

2013年8月25日 (日)

丕緒の鳥 〜 十二国記 (小野 不由美)

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫) 「絶望」から「希望」を信じた男がいた。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「たいしや大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕 緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮する。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全 うすべく、走り煩悶する、名も無き男たちの清廉なる生き様を描く短編4編を収録。

「十二国記」の最新刊は外伝です。本編が王と麒麟など、国を治める人たちが主役なのに対して、本書は下々の官僚や民たちの物語です。
  1. 丕緒の鳥
  2. 落照の獄
  3. 青条の蘭
  4. 風信

「丕緒の鳥」は、陽子が王となった慶の国で、祭礼のひとつ「射儀」を司る役人が丕緒。いわば、クレー射撃の凝ったもの。鳥を模した陶器を打ち上げ、それを矢で射て割ると音が鳴ったり、香りが漂ったり、中から別の鳥が出て来たり、宮廷版花火大会みたいなイメージでしょうか。丕緒は「鳥を射落とすのは良くない」と思い悩みます。射儀を通じて、なんとかして王に自分の思いを伝えたいと願うのですが…。

「落照の獄」は、凶悪殺人犯を裁く官僚(検察官)の悩みを描きます。遺族はもちろん社会は「死刑」を要求するけれど、以前、王が死刑を禁じた経緯があります。安易に死刑を復活させれば、傾いた国では死刑が乱用される恐れがある。くどいくらい悩み抜く様子は、現代日本の法曹界にも通じるでしょう。要するに、犯人に更正の可能性があるなら死刑を避けることもできるのですが…。

「青条の蘭」は、山と森を守る役人が山毛欅(ブナ)が病害で倒れていくことに危機感を感じて奔走する物語。やっとのことで薬になる草の苗を手に入れ、それを王に卵果として国中に広めてもらおうと、雪のなか、決死の覚悟で王都へ奔る主人公。苗が枯れる前にたどり着けるのか!?

「風信」は、女は国を出よという無茶な命令を出した王。それを軽く考えていた蓮花は家族を殺されてしまいます。そして、身を寄せたところは暦を作る役人の住まい。そこに手伝いとして置いてもらいながらも疑問がつきまといます。暦なんて作って一体何の役に立つの?

第一印象は、懐かしい!

久しぶりに十二国記に帰ってきた気がします。そして、王や麒麟ではなく、多くの民や役人がいて、悪人もいれば腐った役人も多いものの、心ある人々もいる。そんなリアリティが加わりました。

「十二国記」ファンの方は是非読んでください。また、本編を読んだことがない方は、この機会に「十二国記」シリーズを読んでごらんになることをお勧めします。

お勧め度:★★★★☆

2013年8月23日 (金)

闘神達の祝宴―デルフィニア戦記 13 (茅田 砂胡)

闘神達の祝宴―デルフィニア戦記〈13〉 (C・NOVELSファンタジア) ウォルが白々しくも企んだ、パラスト・タンガ両国との「国交回復記念式典」に、どうやって王妃リィを引っ張り出すか。それでひと悶着あるのですが、今回のデルフィニアは結婚ブーム。

バルロとロザモンドの子供が生まれて結婚披露宴。ナシアスとエンドーヴァー夫人は、互いに惹かれつつも結婚に臆病になってるし、イヴンとシャーミアンは身分の違いが壁になってる。それを周りがやきもきしながら覗いてるのが可笑しい。

今回気に入ったのがシャーミアンとポーラ。シャーミアンの思い切りの良さと、ポーラの天然度胸。女性にはかないません。

他は、今後のためと思しき伏線が張られています。政治、戦争、陰謀、暗殺、恋愛、結婚と、様々なイベントがあるので、一冊すべてを気に入らずとも、自分が好きな部分を楽しめばいいと思って読んでます。わたしは、ウォルを含む王様たちの政治や戦争は理解できないので、そういうところはさらっと読み流し、おもしろ、おかしい部分を楽しんでいます。

お勧め度:★★★★☆

2013年8月21日 (水)

ファロットの誘惑―デルフィニア戦記 12 (茅田 砂胡)

ファロットの誘惑―デルフィニア戦記〈12〉 (C・NOVELSファンタジア) ポーラがウォルの愛妾になることを断ったのは、王妃に遠慮してのことだと考えたリィは、結婚誓約書を破棄しようと神殿に乗り込みます。王妃に離婚された国王なんて前代未聞、というかありえない。コーラル城は上を下への大騒ぎ。リィが本気を出せば神殿は壊滅。なんとか説得しようとするのですが…。

待ってました。1〜3章は「らぶこめ」。これがじつに面白い。しかし、人間同士でも価値観の違いから諍い、争いが絶えないのですから、いわんや別の生き物との間は…。人間の常識でもってリィを説得する、納得させることの難しさを痛感します。言葉は通じても、考え方が理解されない。この溝を埋めるのは容易なことではありません。

ポーラが芙蓉宮に住まうようになり、主立った貴夫人たちを招いた日、テーブルに出されたケーキを見たリィが「これは焦げてる。下げたほうがいい」。犯人探しをする間もなく、ポーラが連れてきた下女のレナが突然倒れて事切れてしまう。

真犯人を探すシャーミアンが人質に取られ、リィが指示された場所に単身出かけていくと、襲ってきたのは恐ろしく手強い敵。こいつは人間じゃない!

リィの暗殺を企んだのも敵国がデルフィニアの力を削ぐため。過去から現在に至るまで、人間は戦争ばかり繰り返しています。『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)を読んで「そういうことなのかも」とは思ったものの、悲しいことです。

せめてフィクションの世界では、戦争のない世界を実現してほしいのですが、タイトルがデルフィニア「戦記」では仕方ありませんか。

お勧め度:★★★★☆


2013年8月19日 (月)

妖雲の舞曲―デルフィニア戦記 11 (茅田 砂胡)

妖雲の舞曲―デルフィニア戦記〈11〉 (C・NOVELSファンタジア) デルフィニアを東西から挟み撃ちにしたタンガ、バラストがウォルを人質にしながらも破れた。しかも、ウォルを拷問したパラストのオーロン王の部屋に忍び込んだリィはオーロンを鞭打ち、恐怖を植え付けたのです。そのおかげで戦後処理がスムーズに進んだことは否めませんが、それだけでは甘い。

この世界の王様たちはほんとに懲りない連中なのです。タンガとパラストは、今度は北方のスケニアを巻き込んで、コーラルを海から攻めさせようという作戦を立てます。スケニアが捨て駒にされるのは目に見えているのに、実力を知らないスケニアを助っ人に立てれば「今度は勝てる」と思ってしまうところがお馬鹿としか言いようがありません。

もう彼らの国盗り合戦には興味が失せました。そんなことより、9巻で戦争が始まって「お預け」になっていたウォルの愛妾探しが気になります。最終章で、リィは久しぶりにポーラ・ダルシニを訪ねますが、すでに結婚が決まっていてガッカリ。それでもなにかお祝いを贈ろうとシェラに相談します。だけど、リィは「お金がない」「ウォルに頼めばいい」「そういうものなのか?」。シェラが頭を抱える様子が目に浮かびます。

後日、ウォルがバルロの私邸を訪れていた折、ポーラの弟キャリガンがバルロに決闘の許しを請いに飛び込んできたのです。事情を聞くと、姉ポーラが結婚相手から「未婚の娘が、見知らぬ男を何日も自宅に泊めたとあっては貞操が疑われる」と結婚を断ってきたというのです。疑惑の原因を作った男としては知らぬふりはできぬとウォルは黙って飛び出していきます。その後、キャリガンは真相を聞かされ…。お気の毒さま。(こういう下りがじつに面白い!)

そして、ダルシニ邸を訪ねたウォルは事情を聞き「ポーラに愛妾になってもらえまいか」と切り出しますが「とんでもない。国王ならともかく妾なんて」「国王なら問題ないのか。それなら話が早い」。その後、ウォルが国王であることを知って茫然自失のポーラたち…。はい、お気の毒さま。(かわいそうだけど面白い!)

11巻はこの最終章だけで★5つです。

お勧め度:★★★★★

2013年8月17日 (土)

素数ものさし (不便益システム研究所/京都大学サマーデザインスクール 2012)

                         
2013-08-1317.17.53.jpg         本でもゲームでもありませんが、面白いものが手に入りました。竹製の18cmものさしなのですが、目盛りが素数のみ。こんなケッタイなものを作るところが京大らしいというべきか。こういう遊び心は大好きです。
       
        上端がセンチメートルで、下端がミリメートル。「24以下の自然数は全て素数ものさしのどこかに隠れている」そうです。
       
             
  • 6cmは、11cmと5cmの間以外に2カ所、よく見ると更に19カ所隠れています。
  •          
  • 12mmは、17mmと5mmの間以外に20カ所隠れています。
  •          
  • 25mmは、イッパツでは測れません。ゴールドバッハ予想にお任せです。
  •        
       

まずはセンチメートルからいきましょう。たとえば、目盛りのない1cmを測るには2cmと3cmの間を使えばいい。つまり、1=3-2。

       
             
  1. 3-2
  2.          
  3. 2
  4.          
  5. 3
  6.          
  7. 7-3
  8.          
  9. 5
  10.          
  11. 11-5
  12.          
  13. 7
  14.          
  15. 11-3
  16.          
  17. 11-2
  18.          
  19. 17-7
  20.          
  21. 13-2
  22.          
  23. 17-5
  24.          
  25. 13
  26.          
  27. 17-3
  28.          
  29. 17-2
  30.          
  31. 18-2
  32.          
  33. 17
  34.        
       

しかし、18cmものさしでは24cmまで(一度に)測ることはできません。それでは、18以上はミリメートル目盛りで見てみましょう。

       
             
  1. 23-5
  2.          
  3. 19
  4.          
  5. 23-3
  6.          
  7. 23-2
  8.          
  9. 29-7
  10.          
  11. 23
  12.          
  13. 29-5
  14.        
たしかに、24以下の自然数は(ミリメートル目盛りを含めれば)素数ものさしに隠れていますが、25は無理みたい。2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47, 53, 59, 61, 67, 71, 73, 79, 83, 89, 97…という素数を眺めたとき、2を除くすべての素数は奇数です。23の次は29ですから、25を測るには奇数-奇数になってしまい偶数しか測れません。だから「25mmは、イッパツでは測れません」とあるのです。ここでいう「ゴールドバッハ予想」とは「4以上の全ての偶数は二つの素数の和で表せ、7以上の奇数は三つ以下の素数の和で表せる」というもの。
       
        この素数ものさしを使って「1センチから(1センチ刻みで)18センチまでの長さの線を引いてください」といって小学生に渡してみると頭の体操になりそう。幸い、ものさしには素数とは書いてありませんから、素数について説明する必要はないでしょう。
       
        冗談グッズかと思ってましたが、1センチ単位であれば18センチものさしとして使えるわけです。「定規貸して」「はい、どうぞ」。面喰らいながらも「これ、素数?」といえばセンスあり!
       
      

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2013年8月16日 (金)

すきまのおともだちたち (江國香織)

すきまのおともだちたち (集英社文庫) 主人公は女性新聞記者。ある街で突然迷子になって、たどり着いたのは「小さな女の子」の家。彼女はそこで「お皿」とふたりで暮らしてる。郵便局へ行きたいという主人公のためにクルマを出してくれることになったのだけれど小さな女の子は運転できない。お皿が運転してくれるというのです。

所々にやさしい挿絵がある、絵本のような小説です。主人公は突然「すきま」に落ちて、突然戻ってしまう。元の世界ではまったく時間が過ぎていない。主人公は結婚し、出産し、数年に一度「すきま」に落ちるけれど「小さな女の子」は小さな女の子のまま変わらない。逆に、年を取っていく主人公を不思議そうに眺めてる。

そう、学生時代に読んだ本を大人になってから読んでみる。ちょうどそんな感じでしょう。いつ読んでも、登場人物たちは変わらずそこにいる。なんだかほっとしますよね。

お勧め度:★★★☆☆

2013年8月15日 (木)

つめたいよるに (江國香織)

つめたいよるに (新潮文庫) 『東京タワー』が気に入ったので、江國香織の短編集を読んでみました。童話も書くようで、ファンタジック(一部ホラー)なお話が多いのですが、空想と現実の狭間をふわふわ漂う感覚を楽しめます。

いちばん面白かったのは、やはり冒頭の『デューク』。他に気に入ったのは『草之丞の話』『夜の子どもたち』『とくべつな早朝』。

軽く読める本をお探しの方にお勧めします。

お勧め度:★★★☆☆

2013年8月13日 (火)

東京タワー (江國香織)

東京タワー (新潮文庫) 図書館で作者名が目につき、手に取ってページを繰るうち「続きはうちに帰って読もう」。図書館の開架に残っている本は、人気がないか、発行から年を経ているかがほとんどなのですが、中には意外なヒット作があるのです。

東京タワーというと、首都高を走っていると忽然と現れるのが印象に残っています。地上から見上げることはあまりなかった。この物語は、東京タワーが見える街での、透と耕二という大学生の年上の女性との恋(不倫)の物語です。

透の相手は(母親から紹介された)年上の詩史。セレクトショップを経営する、透明感のある女性。透という名前ともイメージが重なって、お酒でいえばジントニックかな。

一方の耕二は、透を真似て年上の女性に手を出して失敗する。同年代の彼女もいるくせに泥沼化必至。お酒でいえばブラッディマリーか。

透と耕二の話が唐突に入れ替わり立ち代わり、読み手はふらふらと風に吹かれるが如く。とにかく軽いのがいい。たとえ修羅場でも「そりゃそうなるわな」と達観できます。

いちばんよかったのは、あとがきの最後で作者が「読みながら、あらまあ、と思っていただけたら嬉しいです」。なんだかほんわかしていて良いです。

お勧め度:★★★★☆

2013年8月11日 (日)

ドラフィル! 3 竜ケ坂商店街オーケストラの革命 (美奈川 護)

ドラフィル!〈3〉竜ヶ坂商店街オーケストラの凱旋 (メディアワークス文庫) 「ドラフィル!」シリーズ完結編です。

第1楽章「I'll String Along With You」は、小柄なチェリスト駒沢の「師匠」のお話。父親との不仲を戒めた師匠とも自ら絶縁してしまうって、精神的引きこもり状態? ありえない話ではないけれど無理があると感じるのはわたしだけでしょうか。

第2楽章「堅物おまわりさんの純情」は、七織がついに駐禁切符を切られる話。ではなく、駐在・大瀧がクリーニング屋の雪絵に惚れてるらしいことを知った七織が恋のキューピッド役を買って出る話。七織では、ちっちゃな矢ではなく、槍でブスッと突き刺されそうで怖いです。冗談はさておき、喫茶ぴっころの夫婦が旅行から帰ってくると旦那が食中毒で入院。飲食店主が食中毒では外聞が悪いので「ぎっくり腰」としたことに響介が突っ込まないのが不可解。だって、ぎっくり腰なら外科(整形外科)なのに、お見舞いに行ったら「内科ってどういうこと?」って、即バレるじゃないですか。

第3楽章「英雄たちの帰還」は、七織、その従姉ゆかりと元カレ・高柳が竜ヶ坂を訪れ、オケ練習で顔を合わせます。一方で、世界一禍々しいヴァイオリン「チェリーニ」のコピーをめぐる謎が展開し、徐々に七織とゆかり各々の母親について焦点が絞られていきます。

第4楽章「世界に触れたカデンツァ」は、響介が(七織の母)羽田野仁美の経歴を調べ始めます。そして、七織はドラフィルを世界一のオケにすべく、世界一のソリストを呼んだのでした。

中山七里の「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」同様、演奏に関する描写はすばらしいと思います。しかし「ドラフィル!」は、わたしの中では完結した気がしないのです。登場人物が納得しても、読者が納得できない、後味の悪さが残ります。七織のおっさん言葉も痛々しくて、もうすこし可愛げがあってもいいものをと思ってしまうのです。

本を読むというのは個人的な行為であって、勝手な期待とか思い込みがあるのでしょう。期待どおりであれば納得し、期待を越えれば大満足、みたいな。仮に期待を下回ったとしても、それは作者のせいではありません。わたしの好みの問題です。

お勧め度:★★☆☆☆

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2013年8月 9日 (金)

ドラフィル! 2 竜ケ坂商店街オーケストラの革命 (美奈川 護)

ドラフィル!〈2〉竜ケ坂商店街オーケストラの革命 (メディアワークス文庫) 「竜ケ坂商店街フィルハーモニー」(ドラフィル)の指揮者・一ノ瀬七織は、ヴァイオリニストの主人公・藤間響介を子分のように引きずり回す傍若無人ぶり。可愛くない、というか、可愛げがない。奇人変人ぶりが目に余り、冒頭からページを繰る手が鈍りがち。途中、何度しおりを挟んで本を閉じたことか。

中盤を過ぎて気づきました。ラノベ=ラブコメじゃない。これは音楽を背景にした安楽椅子探偵と助手(使いっ走り)の物語なのだと。事件は、ドラフィルのメンバーが抱える個人的事情。言ってしまえば、おせっかいのレベル。作者の言葉を借りると「家族の物語」らしい。

ただ、この探偵さんは椅子に車輪がついているし、自家用車も持っているので、町中を走り回ります。それに付き合わされる響介は大変ですが、こういう役どころは、お人好しと相場が決まっています。

今回は、響介と父との確執がメインテーマ。「お前にこれ以上、ヴァイオリンを続ける価値はない、弓を置け」なんて、父親とはいえ、ずいぶんな言い草。一方、七織も響介に対して「音楽から逃げたら、お前のところに音楽は二度と戻ってこないぞ」と断言します。

一挺のヴァイオリンを巡る謎が解けるとき、響介が父親の思いを知ることになるのです。迂遠な物語でした。

お勧め度:★★☆☆☆

2013年8月 7日 (水)

ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 (美奈川 護)

ドラフィル!―竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 (メディアワークス文庫) 中山七里の『さよならドビュッシー』『おやすみラフマニノフ』に続いて、音楽小説を手に取ってみました。その名も『ドラフィル』。新宿から電車で1時間半の郊外にある商店街が町おこしの一環として運営しているアマチュアオーケストラです。

新宿から1時間半というと、八王子から大月か青梅までの間でしょうか。そんな街の公民館の臨時職員兼ドラフィルのコンマスとしてやって来たのが藤間響介。都内の音大を卒業したものの就職先もないまま3ヶ月が過ぎ、実家からも絶縁状態。見るに見かねた楽器商の叔父がドラフィルを紹介したわけです。

わけもわからずヴァイオリンを抱えてやってきた響介を迎えたのが車椅子の24歳女性・一ノ瀬七織。彼女は公民館の非常勤職員であり、ドラフィル関係者でもあるらしい。それはよいのだけれど、傍若無人で乱暴な言葉遣い。初対面の礼儀もへったくれもありゃしない。七織に振り回される響介は、まるで涼宮ハルヒとキョン。いや、ちょっと違うか。七織はもっと生々しくて、過去を隠してる。

コンマスはメンバーのまとめ役。だから悩み事の相談にも乗らないといけないし、その解決に協力しなければならない。というわけで、商店街の個性的な面々と付き合うことになるのです。思っていたより面白くて一気に読んでしまいました。

3巻で完結ということなので続編も読ませてもらいます。

お勧め度:★★★★☆

2013年8月 5日 (月)

大日本サムライガール 6 (至道流星)

大日本サムライガール 6 (星海社FICTIONS) 日毬と颯斗がアメリカ大使館に入っていくと、そこではCIAと国防総省のエージェントが待ち構えていました。つまり、与党・自友党、野党・民政党、警視庁公安部も含めて、国内外から日毬は今後の日本政治の「台風の目」として認識され、協力を求められているわけです。

5巻まで、ひまりプロダクションとしては所属タレントも増えて順調に業績を伸ばし、日毬の日本大志会も会員を増やしつつあっても、日毬が日本の政治の頂点に立つというイメージは描けずにいました。それが6巻になって、ひょっとしたら…という可能性が出てきたわけです。

冷静になれば突っ込みどころ満載で実現の可能性なんかゼロに等しいのですが、それを言ってはおしまいです。フィクションなのだから楽しみましょう。日本の新聞は絶対に書かない(書けない)ことをフィクションだからこそ書いてあるのが痛快です。

現実に、自民党が参議院でも過半数の議席を確保し「ねじれ」は解消。自衛隊を国防軍と改めるため、憲法96条の改正を目指すとか。国の自主独立を目指すなら軍事力が必要という理屈なのでしょうが、それを周辺国が許すはずがない。かといって日米安保に安穏としていてよいのか。要するに、日本として対中、対米戦略をどうするのか。本作のなかで語られている話は恐ろしいことに、絵空事ではないのです。

ひまりプロダクションは順調に進み過ぎだと思いますが、そこにリアリティを求めると暗くなりそうなので、このままの路線で突っ走ってほしいと思います。しかし、日毬はもっと成長させないと、仮に日本のトップに立っても理想は実現できそうにありません。

でも、実現できちゃうんだろうなぁ、フィクションだから。7巻も期待してます!

お勧め度:★★★★★

2013年8月 3日 (土)

大日本サムライガール 5 (至道 流星)

大日本サムライガール 5 (星海社FICTIONS) 「大日本サムライガール」は、右翼女子高生の天下取り物語。右翼には良いイメージがないのですが、日毬みたいな可愛い女の子だったら許す!(フィクションですから)

ラノベっぽい舞台のうえで、芸能、政治、経済の実話を交えてストーリーが進んでいくのが興味深い。新聞なんかより、よほどリアルな話を読むことができます。(フィクションですから)

順風満帆のひまりプロダクションは、着実に発展し売上を伸ばしていきます。1巻で日鞠、2巻で千歳、3巻で凪紗、4巻が槇野栞、そしてこの5巻では、大物アイドル片桐杏奈がひまりプロダクションに加わります。しかも、杏奈が移籍する目的は社長業をやりたいから。日鞠がkaguraブランドのデザイナーになったこと同様、じつに都合よく事業が用意できるものだと感心します。しかも資金は潤沢。なんでも買えちゃう。贅沢な気分を味わえます。

最初は一癖も二癖もある人物が「じつはいい人だった」というパターンが続いています。そのほうが安心して読めるので有り難いのですが、そろそろ裏切られるような予感がしています。いちばん怪しい人物といえば…。

さて、芸能活動も多角化も結構ですが、日鞠の目的は政権奪取のみ。まだまだ先は長いのかと思っていたら、既存政党が日鞠に接触を図ってきます。この調子なら、日鞠が政権に手が届く日も近いのかな。ただ、日鞠の主張は現実の政府とだぶる部分もあるので危険な臭いがします。どうなることやら目が離せません。

お勧め度:★★★★☆

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2013年8月 1日 (木)

残月 〜 みをつくし料理帖 (高田 郁)

残月 みおつくし料理帖 (ハルキ文庫) 「みをつくし料理帖」シリーズ第8弾。年2回ペースが今回1年空いたもので久しぶりに澪に会うことができました。やっぱり、いいなぁ、この雰囲気。落ち着きます。安心して読めるのです。

歌と同じで、安心して聴ける歌手と、音が外れないかハラハラしながら聞く羽目になるアイドル歌手とのちがい。プロならば最低限のレベルはクリアしてほしいと思うのですが、気に入らないなら、聴かなければ(読まなければ)いいのかもしれません。

前回、吉原の料理人・又次が大火で亡くなったことを引き摺っていて雰囲気が暗い。又次は「つる家」の下足番・ふきとどういう関係だったっけ?

文化13年(1816年)は、3年に一度の「閏月」があって、葉月(8月)のあとにもう一度8月があったそうです。今年の暑さで8月31日の翌日が8月1日だったらうんざり。でも、夏休みが倍になる子供たちはうれしいかも。

それはさておき、作者の高田郁は上手になりました。吉原の火事のあと、幼なじみの野江(あさひ太夫)はどうなったのか。そして若旦那・佐平衛の行方は?

どちらもすこしずつ進展があります。もし、野江を身請けするなら四千両が必要。そんな大金は「つる家」で稼ぐことなど不可能。だとしたら…。

お勧め度:★★★★★

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