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2012年6月

2012年6月29日 (金)

真夜中のパン屋さん 〜 午前0時のレシピ (大沼紀子)

世田谷通りと246号線が交わる場所って…三軒茶屋ですか。そこにあるパン屋さん「ブランジェリークレバヤシ」でのお話です。

お人好しと変わり者。三十路男ふたりの店という点で 『まほろ駅前多田便利軒』 (三浦しをん)を思い出しました。あちらは便利屋ですが、こちらはパン屋。しかも23〜5時の深夜営業。おっとりタイプの店主は暮林。フランス仕込みのパン職人・弘基は腕はいいが口は悪い。そこへ暮林の妻・美和子の妹と名乗る女子高生・希美が転がり込んできて…。

希美は怒ってばかりなのに暮林は笑顔を絶やさず調子が狂いっぱなし。希美が戸惑う様子が可笑しい。

1章は篠崎希美の生い立ち、2章は母親を待ち続ける水野こだま、3章はのぞき魔・班目裕也、4章はニューハーフ・ソフィア、5章は美和子を追っかける柳弘基、6章が暮林陽介の人生。

班目もソフィアもどう見ても怪しいのだけど、パンに惹かれて店に通うようになり、こだまの問題に力を貸すようになり、気がつくと意外といい奴だったりするあたり、パンの焼けるおいしそうな匂いと相まって、ほっこりと幸せな気分になれる1冊です。

読み終えるなり「これ面白いから読んでみて」と次男に渡して、続巻を求めて書店へ走りました。

お勧め度:★★★★★

2012年6月27日 (水)

生徒会探偵キリカ 2 (杉井光)

キリカが気に入ってるのはウサギだと思っているひかげですが、キリカに懐かれて会話もすこしずつ増えそう。キリカの焼き餅が可愛い。

今回は文化祭実行委員会の委員長選挙に絡むお話。生徒会長・狐徹は「わたしを勝たせてみろ」と中央議長・神林朱鷺子の弟・薫とひかげを放ちます。要するに生徒会の予算案を呑む候補が当選すれば勝ちなのですが…。

一方、女子中学生に対する中古教科書詐欺事件やウサギ失踪事件に、生徒会探偵キリカが活躍します。しかし、当面いちばんの謎は狐徹。生徒会長は一体なにを考えているのでしょうか? 次巻が楽しみです。

お勧め度:★★★★☆

2012年6月25日 (月)

生徒会探偵キリカ 1 (杉井光)

以前から気になっていた杉井光の新作を読んでみました。『神様のメモ帳』の生徒会版。引きこもり偏食美少女が名探偵で、一見ぱっとしない男子高校生が実は名助手だというパターンが、妙にしっくり来て、安心して楽しめました。

舞台は生徒8,000人を擁する中高一貫マンモス校「白樹台学園」。その生徒会は部活動費用など年間8億円の予算を握っていて、予算案を組むのが生徒会総務部会計・聖橋キリカ。他に会長と副会長がいるのですが、これまたアクの強い女性たち。そこになぜか庶務として引きずり込まれたのが牧村ひかげだったのです。キリカと生徒会を救うためにひかげが考えた作戦は…。

図々しくて大胆不敵。だけどちょっと抜けてる。ラノベはこうでなくちゃ!

お勧め度:★★★★☆

2012年6月23日 (土)

ふたりの距離の概算 (米澤穂信)

『氷菓』に始まる「古典部」シリーズ第5弾。奉太郎たちも2年生になり、新歓ウィークに突入。古典部もブースを出したものの閑古鳥。奉太郎と千反田が向かいのブースについて話しているのを聞きつけた新入生・大日向友子が仮入部したのだが、後日急に入部しないと言ってきたのです。一体なぜ?
  1. 入部受付はこちら
  2. 友達は祝われなきゃいけない
  3. とても素敵な店
  4. 離した方が楽
  5. ふたりの距離の概算

今回、奉太郎はマラソン大会を走りながら謎解きに挑みます。「省エネ」とは真反対の状況でご苦労さまです。三浦しをんの『風が強く吹いている』はひたすら走る話で、読んでいて疲れました。奉太郎もずっと走りっぱなしだったらどうしようかと思ったのですが、半分以上が回想シーンだったので助かりました。

これまでの4冊では、どこかしらツッコミを入れたくなったのですが、今回はそれがありませんでした。新入生を含む仲間うちでのちょっとした誤解の原因を探るのが目的でしたから、奉太郎が関係者の話を聞きながら推測するのは自然だったのです。

しかし、奉太郎も古典部に入って、というより千反田と出会って変わりました。恋愛未満が初々しい。続編も楽しみです。

お勧め度:★★★★☆

2012年6月21日 (木)

遠まわりする雛 (米沢穂信)

『氷菓』に始まる「古典部」シリーズ第4弾。折木奉太郎と千反田えるが高校に入学して1年間の短編集です。古典部の他2名には興味ありません。以下の目次うしろの括弧内はわたしが追記したものです。
  1. やるべきことなら手短に(5月)
  2. 大罪を犯す(6月)
  3. 正体見たり(8月)
  4. 心あたりのある者は(11月)
  5. あきましておめでとう(1月)
  6. 手作りチョコレート事件(2月)
  7. 遠まわりする雛(3月)

1話は、いうまでもなく折木奉太郎の生活信条。もっともらしいことを言っているようですが、要するに無精者。千反田さんが気になることにしても、どちらでもいいことが多い。

4話で「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」という校内放送を聞いて、どういう事情かを推理するのですが、手掛かりがない状況で憶測に憶測を重ねていく無駄。省エネに反します。これが『丸太町ルヴォワール』『烏丸ルヴォワール』の私的裁判「双龍会」ならわかります。真実はどうあれ、相手を納得させた者勝ちですから。

それはおかしいだろ!と突っ込みながらも、それなりに楽しく読んでしまうのはなぜ? 今回は5話がいちばん面白かった。

お勧め度:★★★★☆


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2012年6月19日 (火)

クドリャフカの順番 Welcome to KANYA FESTA! (米沢穂信)

「古典部」シリーズ第3弾。文化祭が始まったのだけれど、古典部の文集「氷菓」を手違いで作りすぎて一大事だと、文庫の裏表紙にあったので一体何千部印刷したのかと思ったら、30部作るつもりが200部「も」できてきたって…。少部数印刷は高くつくはず。わたしの感覚では印刷に出すなら1,000部単位。でも200部の原価が1部120円ということは印刷費24,000円。最近のネット印刷はちがうのかな。

だとしても、30部ならコピーで済みます。3日間の文化祭期間中に足りなくなりそうだったら簡単に増刷もできる。4人で急いで書いたのだからページ数もさほど多くないでしょう。それをB5かA4サイズで平綴じしたなら200部なんて一束です。それを山とあるかのように、大げさすぎ…と、つまらないところで引っかかってしまいました。最後に一気に在庫がなくなる程度の部数でなくてはいけなかったのでしょう。

それでも読み続けたのは面白かったから。4人の古典部員の視点で語られながらストーリーが進んでいきます。折木奉太郎は部室で留守番。ほとんど動かないから他の3人の動きが重要。それぞれが作り過ぎた文集を捌く方法を考えながら動くわけですが、そのなかでジュースや碁石、タロットカードといったものが盗まれる「十文字」連続窃盗事件が起こり、それを古典部、ひいては文集の宣伝に利用することを考えます。

今回、折木奉太郎は安楽椅子探偵なのだということがよくわかりました。最後に「クドリャフカの順番」の原作を読んでみたい!

お勧め度:★★★★☆

2012年6月17日 (日)

日輪の遺産 (浅田次郎)

戦争が終わることがわかっているのに死んでいった人たちがいます。『終戦のローレライ』(福井晴敏)も終戦直前の話ですが、浅田次郎のほうが人間味に溢れていて、わたしは好きです。この『日輪の遺産』を読み終えて、もう一度最初の序章を読み返すと泣けてきました。戦争は外交の手段だという政治家がいますが、それは最低最悪の手段。太平洋戦争は日本にとって外交手段ですらなかったことが馬鹿げていて不幸です。

陸軍がフィリピンでマッカーサーから奪った200兆円は、敗戦後の日本を復興するための資金。それを占領軍から隠し、守るために人生を、命を捧げた人たち。ある老人が競馬場で偶然出会った不動産屋に一冊の手帳を託して死んでしまいます。そこへ、その老人が間借りしていたアパートの大家が出てきて…。

戦後、わたしたちが享受してきた平和を遺した人たちに想いを馳せる一冊です。

お勧め度:★★★★☆

2012年6月15日 (金)

終戦のローレライ 1 (福井晴敏)

太平洋戦争末期、昭和20年、連合軍に降伏したナチスドイツから1隻の潜水艦が特殊兵器”ローレライ”を搭載して日本へ向かっていた。ところが米潜水艦の攻撃を受け”ローレライ”を放棄したのだった。日本に到着した潜水艦は伊507と名を変え、五島列島沖に沈んだ”ローレライ”探索に向かうことになったのです。

講談社文庫版は全4巻あり、この1巻ではローレライとは何かについては明かされません。”ローレライ”探索の極秘任務に巻き込まれる男たちが描かれます。1巻は約250ページと比較的薄いので気軽に読めたのですが、2巻以後は読み応えがありそうです。

『亡国のイージス』は上巻の序盤で(テロリストが盗み出した化学兵器?をアレ呼ばわりするばかりなのに嫌気がさして)挫折したので不安です。おまけに漢字が多く、文字の密度が半端じゃないので読みづらいです。

お勧め度:★★★☆☆

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2012年6月13日 (水)

烏丸ルヴォワール (円居晩)

                         
『丸太町ルヴォワール』の続編。目次のつぎのページに京都の概略地図が載っていて、京都気分が盛り上がります。ほぼ中央を南北に走るのが烏丸通、東西に走るのが丸太町通。双龍神社は架空でも、京都御所西側のKBS京都、京都ブライトンホテルは実在します。烏丸御池を下ると、大垣書店、スターバックス三条烏丸店、新風館もあるから、実際の京都の街にフィクションを盛り込んだ地図といえます。
      
      今回は「黄母衣内記」という稀覯本をめぐる殺人?事件について私的裁判「双龍会」が開かれます。美術教師の綾織耕作が所有する「黄母衣内記」を狙って、弟で綾織紡績社長の綾織文郎が、兄のポルシェのブレーキに細工をして、下り坂の先の壁に激突して事故死というのが、ひとつの筋書きです。ただし、双龍会は警察も検察も関与しない「お芝居」ですから、もっともらしい理屈を押し通した者が勝ち。そのためにはでっち上げ、嘘、証拠捏造もなんでもアリ。つまり観客を楽しませたほうが勝ちなのですが、敗者は京都にいられなくなるなど、実際に不利な状況に追い込まれるので必死です。
      
      前回(丸太町ルヴォワール)で活躍した城坂論語と撫子はとくに親しくなったようには見えず、あくまで龍樹家の一員として動きます。龍樹家当主・落花が不在ということで、御堂達也を加えた3人で双龍会に臨むことになります。対戦相手は「ささめきの山月」という謎の怪人。彼は瓶賀流を取り込み、龍樹家を裏切らせます。
      
      京都という碁盤のうえの囲碁対局。「ルヴォワール」シリーズの「双龍会」はそんなふうに見えます。相手をはめたつもりが見事はめられることもあるわけで…。
      
      双龍会での瓶賀流(みつる)は、凡才が天才に挑む図であり、かなり無様なのですが、論語や達也とは異なるキャラクターということで確固たるポジションを得ています。
      
      自分の主張を通すために武器を持ち出す小説が多いなか、この「ルヴォワール」シリーズはあくまで「ことば」で戦うところがおもしろいのです。
      
      お勧め度:★★★★★

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2012年6月11日 (月)

丸太町ルヴォワール (円居 挽)

                         
舞台が京都だということで興味をもって、講談社BOXなので西尾維新の作品(『化物語』など)と似ているのかと思ったら、凝った言葉遊びが散りばめてあるという点はおなじでした。主人公は城坂論語。15歳のとき、病院長である祖父を殺した嫌疑をかけられたけれど、父と叔父は自然死として処理。その日、忍び込んできた自称”ルージュ”という女と丁々発止の甘い時間(なんだそりゃ?)を過ごした「論語」は、3年後、ふたたびルージュに会うために私的裁判「双龍会」の開催を企てたのです。
      
      作者が京大出身だということもあってか、登場人物にも京大生が多い。作中で「京大生にとっての京都とは左京区だけ」とあるのは、森見登美彦の小説を読んでも頷けます。吉田山と百万遍と哲学の道で完結してます。そして京大生は(長男を含めて)頭はいいけど変わった人が多い。この小説も、法律よりも、論理、文学、麻雀、将棋という香辛料が効いています。
      
      さて、主人公の論語は自分を指してこう言っています。
      
      「ぼくを誰だと思ってるんですか。この世に生を受け十と八と少し、言の偏と共に歩んできた、類稀なる語理論理の申し子、言吹きの論語ですよ。こんな泥沼の場だって、言の葉を吹いて寿と為して見せましょう」
      
      ね、芝居がかってるでしょう。「双龍会」というのは、観客がいて、検事役と弁護役の「龍師」という役者がいて、真実を暴くよりも、その場の状況に応じて筋道の通った主張で観客を納得させ、楽しませることが大事な芝居なのです。だから、嘘もブラフも証拠ねつ造も、バレなければなんでもアリ!
      
      1ページ2段組みで300ページ近くをじっくり読ませてもらいました。斜め読みしたのでは、筋がわからなくなるし、面白くないから。前半、ちょっと退屈だと思っても我慢してください。後半、三大祭りに、大三元に、どんでん返しが続いて目眩がしてきます。
      
      トドメは、論語のラストのひと言。なんて、めんどくさい奴なんだ!
      
      お勧め度:★★★★★

ロスト・シンボル (上・下) (ダン・ブラウン)



ダン・ブラウンの「ラングドン・シリーズ」(『天使と悪魔』『ダ・ヴィンチ・コード』に続く)第3弾。今回、ラングドン教授は、フリーメーソンの旧友ピーター・ソロモンからの依頼でワシントンDCにやってきたところ、ピーター本人ではなく、彼の右手と会うことになるのです。例によってのっけから血なまぐさい…。

犯人は、フリーメーソンの「古の神秘」を手に入れるためにラングドンを利用したのです。ワシントンDCの歴史や暗号解読のような、知的好奇心をくすぐる内容が散りばめられたサスペンスなので退屈はしませんが、途中何度も挫折しそうになりました。犯人の悪意はもちろん、CIAの横暴さも不快で、謎解きの魅力がそれを上回らないのです。フリーメーソンかワシントンDCに馴染みがあれば、楽しめたのかもしれません。(残念)

お勧め度:★
☆☆☆

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2012年6月 9日 (土)

シェエラザード (下) (浅田次郎)

当時弥勒丸に乗り組んでいたベーカー(パン焼き職人)やシンガポール駐在の特務機関員らが50年以上経って重い口を開き、過去がすこしずつ明らかになっていきます。なぜ2千人以上が犠牲にならなければならなかったのか。多くの一般人が乗っていることは承知していたはずなのにアメリカ潜水艦はなぜ客船に魚雷を打ち込んだのか。

引き揚げるのは台湾や中国、アメリカではいけないのか。宋英明は「弥勒丸を沈めたアメリカではなく、日本人が引き揚げるべき」と譲りません。どうも船と共に沈んだ金塊だけが目的ではないようです。

結局、人命軽視の理不尽な戦争がいけないのです。満州に留まっていればよいものを、引き時を見失った帝国陸軍はどんどん南方まで戦線を拡大し、日本を道連れに自滅します。非情に重い話なので、読んでいても暗くなりがちですが、元気のいい3人に救われます。

本書の紹介文に「日本人の尊厳を問う、感動巨編」とありますが「日本人の」ではなく「人間の」でしょう。戦後、後悔と苦悩を抱えながら生きてきた者と、戦後生まれの者とが見せてくれる、戦争が生んだ亡霊の物語です。

お勧め度:★★★★☆

2012年6月 7日 (木)

シェエラザード (上) (浅田次郎)

実際の「阿波丸事件」を題材にした小説。「シェエラザード」とは、アラビアンナイトに登場する女性であり、リムスキー・コルサコフの交響組曲。豪華客船・弥勒丸をシェエラザードになぞらえました。ただ、アラビアンナイトとちがって、こちらの「彼女」はアメリカの潜水艦に沈められてしまいましたが…。

台湾の宋英明という老人から「昭和20年に台湾沖で沈没した弥勒丸を引き揚げたいから100億円貸してほしい」という依頼を受けた栄光興産の軽部社長と日比野専務。それは表の顔で、実態は共道会のヤクザ。他に、政界ルート(衆議院議員・高松貞彦の第一秘書)と財界ルート(九洋物産の財務部長)にも同様の依頼をしたという。軽部は依頼の裏を取ろうと、昔別れた恋人・久光律子に相談すると、彼女は新聞社をやめて仲間に加わってきた。3人で調査しているうちに、政界ルートと財界ルートの担当者が次々と自殺に見せかけて殺されてしまう。お尻に火がついた軽部、日比野、久光はボスに相談するのですが…。

宋英明とは何者なのか。なぜ殺人を犯してまで弥勒丸にこだわるのか。そして、なぜ弥勒丸は沈められたのか。これらが明かされるべき謎です。

小説は、軽部たちの「いま」と、弥勒丸に乗船した人間たちの「当時」が交互に語られます。宮部みゆきは『蒲生邸事件』に寄せて「歴史をあとから批判するのはフェアじゃない」と言っていますが、そういう意味でも『シェエラザード』は登場人物がその場でなにを思い、どう行動したかを綴ってあるのが興味深い。フィクションではありますが「ひょっとしたら事実はこうだったのかも」と思わせてくれます。

お勧め度:★★★★☆

2012年6月 5日 (火)

雨の日のアイリス (松山剛)

大学1年の次男に「軽く読める本を」と借りました。紹介文には「ここにロボットの残骸がある」って…どうしようもなく暗いです。冒頭、主人公の家事ロボット・アイリスは明るいのですが、ロボットが人間の都合で壊され、作り替えられ、使われ、捨てられる話です。

ロボット研究博士アンブレラが事故で亡くした妹に似せて作ったのがアイリス。ただ、幸せは長くは続かず、アイリスは転落の一途を辿り、人間のような感情を持つが故に悩み、苦しみます。容姿が変わってしまっても同様の自我を持ち続けるのはむずかしい。人間だったら自殺してしまうかもしれない。一応「ロボット三原則」(アイザック・アシモフ)の縛りはあるようです。
  1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  2. ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
  3. ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

いまひとつピンと来ませんでしたが、確かに軽く読むことはできました。暗くても最後に救いはありますのでご安心を。

お勧め度:★★★☆☆

2012年6月 3日 (日)

天切り松 闇がたり4〜昭和侠盗伝 (浅田次郎)

それまでの大正から昭和に時代が移り、関東大震災からの復興は進んだものの、いきなり昭和大恐慌で、資源を求めて帝国陸軍(関東軍)は満州へ進出。

いちばん印象的だったのが第1話「昭和侠盗伝」。第3巻で寅が湯屋の銭を与えたイサオを実の息子のようにずっと可愛がってきたのだけど、イサオの元へ赤紙が届いた。徴兵を防ぐことはできずとも、盗人にしかできないことがあるはず…。これがまたカッコいいのです。それと、松蔵に「天切り松」という二つ名を与えた人物が、とんでもない大物なのです。是非読んでみてください。
  1. 昭和侠盗伝
  2. 日輪の刺客
  3. 惜別の譜
  4. 王妃のワルツ
  5. 尾張町暮色

第4話は、中国(満州)の王子と結婚させられる嵯峨公爵家のお姫様は、じつは黄不動・英治のファン。なんとかして会いたい。会ったらわたしを盗んでもらおう。

満州の話は『中原の虹』とだぶります。小説はフィクションだけど、登場人物の語る歴史観や戦争観は作者の影響を受けるはず。作中で天切り松はこう言います。

「関東軍は関東平野って意味じゃあねえ、万里の長城は山海関の東にいるから関東軍てえのがその名の由来さ。その当座、不況にあえぐ日本にとっちゃ、資源豊かな満州は生命線、いずれは朝鮮同様に乗っ取っちまおうてえのが関東軍の肚だった。満州事変、上海事変のどさくさまぎれに、天津で不遇をかこっていた元清国皇帝愛新覚羅溥儀をかっさらい、大清復辟の餌をちらつかせて満州国をこさえたのが昭和7年。(中略)つまるところは、国を挙げての盗っ人稼業さ。」「戦争は外交手段のひとつ」などと嘯く政治家や軍人はくたばりやがれ!

やせ我慢の美学。それがこのシリーズの魅力でしょう。

お勧め度:★★★★★

2012年6月 1日 (金)

天切り松 闇がたり3〜初湯千両 (浅田次郎)

大晦日の夜、松蔵と湯屋に向かった寅は、湯銭を落として泣いているイサオに五銭をくれてやった。聞くと、父親はシベリアで戦死、母とふたり暮らしだという。湯から出てイサオを長屋まで送っていくと、気丈な母親は生活に困ってなどいないというのですが…。

寅自身、二百三高地で地獄を見たもので放ってはおけない。撤退を進言したのに、非情な突撃を命じた当時の上官は陸軍大臣に出世しているのが許せない。寅は真夜中に忍び込み、二百三高地東堡塁に一番乗りしてもらった功四級勲章を置いて「お代は千円、おしいただいて受け取りやがれってんだ」。ク〜、カッコいい!

千円の上に有り金はたいて、イサオの長屋に放り込んでしまった寅は正月からスカンピン。初湯の祝儀に千円出すのかと思ったら「初湯にまつわる千円のご祝儀」でした。不条理を許さず、情け深く、粋な盗人たち…というと、妙な感じがしますが、それをいうなら『プリズンホテル』に登場するヤクザ、いや任侠たちもそうでした。江戸の粋(意気)を大正ロマン風味に、愉快、痛快に語り聞かせてくれる闇語り第3弾でした。

他に「共犯者」「宵待草」「大楠公の太刀」「道化の恋文」「銀次蔭盃」の全6話を収録。「大楠公の太刀」もよかった。肺を病む幼なじみの宮子、小龍姐さんに、その名の由来となった小龍景光という名刀を見せてやりたくて英治は安吉親分に相談します。伊藤博文が名付けた小龍という名が重くて仕方ないという小龍を不憫に思った英治は「赤坂の小龍からただの宮子に戻して、冥土に送ってやりてえんだ」。しかし、小龍景光は天皇家の宝物。まさか皇居から盗み出すわけにいきません。そこで安吉親分が相談した相手が森林太郎大臣、森鴎外です。

人と人が心の奥底で深く結びついているのは、時代なのか、人なのか。世の中、便利になったけれど、その代わりに失ったものを「闇がたり」に聞いているような気がします。

お勧め度:★★★★★

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