« 雛の鮨 (和田はつ子) | トップページ | 百万遍 古都恋情 上巻 (花村萬月) »

2012年3月 9日 (金)

始祖鳥記 (飯島和一)

江戸時代、天明期(1781〜88年、将軍は徳川家治→徳川家斉)に冷害、凶作、飢餓、疫病、火山爆発、農民一揆など災厄が続き、公儀の無策が多くの餓死者を出し、人心は乱れていた。そのころ、岡山に空を飛ぶことに魅入られた男がいた。

まさに歴史小説、いや大河小説。いえ、これは江戸時代の『下町ロケット』(池井戸潤)です。なにも幸吉が宇宙へ飛んでいくわけではなく、公儀(官庁)と大商人(大企業)が癒着して権益、利益を囲い込み、民(国民)は疲弊していく中で、諸国廻船や塩問屋など(中小企業が)自ら活路を見出していく経済小説でもあり、幸吉はその斜め上をぶっ飛んでいくわけです。

はじめは、淡々とした、読者に媚びることのない語り口に取っ付きにくさを感じましたが、第2部に入ると「え、話はどっちに転がっていくの」と興味を惹かれ、あとは第3部のラストまで一気に読み終えました。久しぶりに読み応えのある本と出会いました。

第1部は、1785年(天明5年)、備前岡山、総勢60名の町奉行所の捕り方が1軒の紙屋を取り囲みます。幸吉は夜な夜な凧で空を飛び「鵺騒ぎ」を起こしてご政道を批判した咎で召し捕られます。そして、時は1761年、場所は備前児島、幸吉が5歳のときに遡ります。

第2部は、一転して下総行徳に舞台が移ります。地廻り塩問屋・巴屋の当代伊兵衛は、塩田に流れ着いた幼い姉妹の亡骸をまえに「仇はかならずとってやる」。西国から流入してくる下り塩に地廻り塩は江戸から駆逐され、このままでは行徳の民が生きる術を失ってしまう。公儀と四軒問屋が結託して莫大な下り塩を一手に引き受けている状態を切り崩すには、江戸の四軒問屋を通さずに下り塩を入手し、行徳伝統の製法で苦汁分を抜いた「古積塩」を作って売り込むしかない。しかし、どうすれば下り塩の江戸打越が可能になるのか…。

人の縁は不思議なもの。伊兵衛が辿る縁の先に、いつか幸吉がつながってくるのだろうと思って読み進めます。この第2部がいちばん長く、読み応えもありました。そして第3部は、1798年、幸吉42歳。場所は駿府に移り、物語はクライマックスへ向かいます。

200年後の現代であれば「鳥人間」も法に触れず他人に迷惑にならなければ捕まることはありませんが、すでに飛行機もロケットも飛んでいるので当時ほど値打ちがありません。誰も思いもよらないことをやれば現代でも大騒ぎになるのは同じことでしょう。いつの時代も先駆者は孤独なのかもしれません。…などと、いろいろ考えさせられる一冊でした。

お勧め度:★★★★★

« 雛の鮨 (和田はつ子) | トップページ | 百万遍 古都恋情 上巻 (花村萬月) »

時代小説」カテゴリの記事