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2012年3月

2012年3月31日 (土)

ゆんでめて (畠中恵)

ちょっと変わったタイトルの「しゃばけ」シリーズ第9弾。「ゆんでめて」とは「弓手」(右方向)と「馬手」(左方向)という意味。

「長崎屋の若だんな一太郎は最初、弓手(ゆんで)、つまり左の道へ進つもりであった。なのに、右へと駆けていったのだ。」 これがすべての始まりでした。
  1. ゆんでめて
  2. こいやこい
  3. 花の下にて合戦したる
  4. 雨の日の客
  5. 始まりの日

4年後、3年後、2年後、1年後…と、時を遡って物語が進むという、これまでにないユニークな展開にわくわくします。

ある日、長崎屋に火の手が迫り、延焼を防ぐために離れが壊されたのです。そのとき、屏風のぞきの屏風が壊れてしまい、修理に出した屏風が行方不明になり、妖たちを家族同然に想う一太郎はひどく後悔するわけです。「あのとき弓手に行かなければ、こんなことにはならなかった」と。

後半、時売り屋・八津屋が登場したときには『古い腕時計〜きのう逢えたら』(蘇部健一)を思い出しましたが、ちょっと違うみたい。さて、屏風のぞきと再会することはできるのでしょうか。

お勧め度:★★★★★

2012年3月29日 (木)

ころころろ (畠中恵)

毎回災難に巻き込まれる若だんなですが、今回は突然目が見えなくなってしまいます。その顛末を語る連作短編集「しゃばけ」シリーズ第8弾です。
  1. はじめての
  2. ほねぬすびと
  3. ころころろ
  4. けじあり
  5. 物語のつづき

1話は、目を患う母のため、目の神様である生目社に7つの玉(金、銀、真珠、水晶、琥珀、瑠璃、瑪瑙)を納めたいという娘を、日限の親分が持て余して長崎屋へ。 2話は、久居藩の地元から江戸まで干物を運ぶよう頼まれた長崎屋から篭の中身(干物)が消えた!? 3話は、若だんなの目を治す手掛かりを握る河童を探す仁吉は見世物小屋から逃げ出した子供と妖たちに縋り付かれ大奮闘。4話は、佐助が所帯をもって小間物屋の主人に? 5話は、目を見えるようにしてもらうため神様との問答に挑む若だんなと妖たち。

いちばん面白かったのは3話と5話。3話で「若だんな命」の仁吉が他人(他妖?)に泣きつかれて困惑する様子が愉快。「ここで放り出すと若だんなが心配するだろうから」という理由で力を貸すあたり徹底してます。賽の河原で拾った銭がころころと転がっていく様が不思議で切ない。5話で昔話の続きを予想する場面、お題が「桃太郎」はヨカッタ。「鬼退治」に鳴家たちが黙っているわけがありません。

電気の発明で夜が明るくなり、科学の進歩で謎が謎でなくなって、世の中つまらなくなったような気がします。「しゃばけ」シリーズを読んでいるとそんなふうに思うのです。

お勧め度:★★★★★

2012年3月27日 (火)

いっちばん (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第7弾も連作短編集です。
  1. いっちばん
  2. いっぷく
  3. 天狗の使い魔
  4. 餡子は甘いか
  5. ひなのちよがみ

1話は、掏摸だと睨んだ男の証拠が掴めず、日限の親分が「このままでは十手を返上しなけりゃならねえかも」と凹んでいるのを若だんなが力になろうとします。一方、妖たちは若だんなを元気づける品を手に入れようと走り回るのですが…。2話は、西岡屋、小乃屋と長崎屋で品比べをすることになり、若だんなも店の威信を賭けて知恵を絞ります。3話は、管狐の黄唐に会いたい天狗の六鬼坊が、祖母の皮衣に口利きさせようと企んで若だんなを攫ったのですが…。4話は、栄吉が修行に出た老舗菓子屋・安野屋に盗みに入った八助がなぜか雇われてしまい栄吉はおもしろくありません。5話は、薄化粧のお雛は見違えるようにきれいになり、正三郎以外にもうひとり婿候補が現れて…。

今回面白かったのは1話と5話。1話は、ばらばらに動いていた若だんなと妖たちが最後にひとところに集まる展開は秀逸。5話は、お雛と正三郎を心配する若だんなに対して「商売のことはふたりがなんとかすべき」と突き放す手代たちが好対照。人間の価値観とはなにかとズレがある妖たちですが、商売に関して手代たちは正しいようです。

反対に楽しめなかったのが4話。人間の狡猾さと卑屈さが露骨に描かれるのですが、それを中和するのが若だんな。登場人物中、若だんなはいちばん身体が弱いけれど、心はいちばん強いのかもしれません。

お勧め度:★★★★☆

2012年3月25日 (日)

ちんぷんかん (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第6弾は、以下の5編を収めてあります。
  1. 鬼と小鬼
  2. ちんぷんかん
  3. 男ぶり
  4. 今昔
  5. はるがいくよ

1話は、長崎屋が火事に巻き込まれ、煙を吸い込んだ若だんなは気がつくと三途の川にいた。2話は、上野広徳寺の寛朝僧都の弟子となった秋英は、和算指南の阿波六右衛門から無理難題を持ち込まれ…。3話は、若だんなの母おたえの若い頃の恋話。4話は、若だんなの兄・松之助に米問屋玉乃屋の娘との縁談が持ち込まれるのだが姉妹の取り違えがあったようで…。5話は、桜の古木が花を咲かせる頃、長崎屋に赤ん坊が届けられ若だんなと妖たちは大騒ぎ。しかし、その赤ん坊は日に日に成長し数日のうちに若だんなと同い年くらいの娘になってしまった。

「若だんながついにあの世に行っちゃった!?」という帯に驚いたのですが、宮部みゆきの「あかんべえ」のように、本当に死んだわけではなく賽の河原に迷い込んだだけのようです。この6巻では若だんなが妖たちとあの世を大冒険するのかと思ったら1話だけであっさり帰ってきちゃいました。

今回気に入ったのは5話の「はるがいくよ」。桜の花びらの精・小紅がいじらしく、切ない物語です。人の一生に比べると桜花の生涯はあまりに短い。けれど、齢三千年の妖からみれば人の一生もあっけないもの。考えてみれば、屏風でも印籠でも桜でも、本来しゃべることのないものが百年を経て付喪神となり動き話し出すというのは実にファンタジック。江戸時代にはいろんなものが潜んでいたのですね。

お勧め度:★★★★★

2012年3月23日 (金)

うそうそ (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第5弾は、若だんなが箱根に湯治に出るお話1本の長編です。1巻もそうだったのですが、中盤にむけて謎が謎を呼んでもつれた糸が終盤でほぐれていくのが面白いから短編よりも長編のほうが好きです。以下の章立ては移動していく地名です。
  1. 江戸通町
  2. 塔之沢
  3. 芦ノ湖
  4. 東光庵薬師堂
  5. 箱根神社
  6. 地獄谷

冒頭のプロローグが最初はなんのことかわからないのですが、終盤に差し掛かって来ると状況が読めてきます。湯治の話は若だんなの母おたえが言い出したのですが、あの過保護な親がひ弱な息子を平然と遠くにやるなんてどうも不自然。なんだか妖しい。いや、怪しい。

江戸から小田原まで舟に乗り、そこから籠で箱根に向かうはずが、途中で手代たちが消えてしまい、その隙に若だんなは攫われてしまいます。誘拐犯の問題だけでなく、他にもややこしい問題が重なって、若だんなはピンチに陥っていくのですが、主人公が死ぬことはない(たぶん)と信じているので安心して楽しめました。

「しゃばけ」シリーズは読みやすいので、時代小説は初めてという方にもお勧めです。

お勧め度:★★★★★

2012年3月21日 (水)

おまけのこ (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第4弾は、以下の5話を収めてあります。
  1. こわい
  2. 畳紙(たとうがみ)
  3. 動く影
  4. ありんすこく
  5. おまけのこ

1話は、狐者異(こわい)は妖仲間からも弾かれる嫌われ者。関わると不幸になると言われつつ若だんなは…。2話は、紅白粉問屋一色屋の孫娘お雛は厚化粧をやめたいけれどやめられず…。3話は、障子に映る影が勝手に動く。若だんなは近所の子供たちを束ねて影の正体を探ります。4話は、若だんなは吉原の禿かえでを足抜けさせるというのですが手代たちは本気にしません。5話は、鳴家(やなり)の大冒険。

若だんなは人にも妖にも神にも、誰にでもやさしい。多少ぼんやりしてるのか、自分が危険な目に遭うことも厭わないのだからお守り役の手代たちは大変です。これは、やさしいを通り越してお人好しといったほうがいいかも。

気に入ったのは2話と5話。2話では屏風のぞきがお雛の相談相手として、いい味出してます。ちなみに、畳紙とは白粉を包む紙のこと。5話は、ちいさな鳴家が死にそうになりながらも若だんなのために大奮闘。ところで、妖って死ぬんでしょうか?

お勧め度:★★★★☆


2012年3月19日 (月)

ねこのばば (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第3弾。以下5編の連作短編集です。
  1. 茶巾たまご
  2. 花かんざし
  3. ねこのばば
  4. 産土(うぶすな)
  5. たまやたまや

1話は、兄の松之助に舞い込む縁談に始まる殺人事件。貧相な下男を雇うことになった長崎屋は…。2話は、迷子の少女・於りん(おりん)の家を探して送っていこうとすると「帰ったら、於りんは殺されるんだって」。3話は、広徳寺に捕えられた猫又を助け出そうと一太郎は、妖封じの法力をもつ寛朝御坊と対決することになるが…。4話は、犬神である佐助の昔話。5話は、放蕩息子になろうと決めた一太郎は、ある調査に出るが…。

面白くて、一気に3巻まで読んでしまいました。

お勧め度:★★★★★

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2012年3月17日 (土)

ぬしさまへ (畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第2弾。廻船問屋・長崎屋の若だんな一太郎は病弱ながらも、妖たちに囲まれて楽しく暮らしています。
  1. ぬしさまへ
  2. 栄吉の菓子
  3. 空のビードロ
  4. 四布の布団
  5. 仁吉の思い人
  6. 虹を見し事

1話は、手代の仁吉あての付け文(恋文)のなかに金釘文字で判読できないものがあって…。2話は、栄吉のつくった不味い菓子を食べた老人が死んでしまい、栄吉は番屋にしょっぴかれてしまう。3話は、一太郎の腹違いの兄・松之助は奉公していた桶家東屋から暇をもらったものの行くあてもなく…。4話は、一太郎に仕立てたばかりの布団から夜な夜なすすり泣きが聞こえてくる。5話は、仁吉が千年も思い続けた相手とは? 6話は、気がつくと妖たちがいなくなり、手代たちの様子もおかしい。これは夢の中なのか…。

前巻とちがって、今回は連作短編集になっています。前巻の最後で、長崎屋を訪ねてきた腹違いの兄を迎え入れるよう、どうやって母親を説得しようかと一太郎が思案しているところが終わって、その後が気になっていたのですが、いつの間にか長崎屋で奉公しているではありませんか。小説ではすべてを書き切れないため、あちこちに隙間ができてしまうようです。いつか作者が思い出して書いてくれることを祈るばかり。

2巻目も面白かった。快調に読み進んでおります。

お勧め度:★★★★★

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2012年3月15日 (木)

しゃばけ (畠中恵)

宮部みゆきの「あかんべえ」は少女と幽霊だったけれど、これは若だんなと妖怪か…と何気なく手に取った「しゃばけ」でしたが、いやはやこいつは面白い!

第一印象は「病弱な黄門さまと強者従者・助さんと格さん」。いや「一太郎と愉快な妖(あやかし)仲間たち」かな。実際は、江戸は日本橋の廻船問屋・長崎屋の若だんなである一太郎(17歳)と、兄代わりの手代・佐助と仁吉。ふたりの手代は祖父母が一太郎につけた世話係兼ボディガードで、じつは人ならぬ妖・犬神と白沢(はくたく)。

一太郎は生まれつき病弱なせいもあって、両親がものすごく甘い。ちょっと熱を出しただけで、文字通り死にそうなくらい心配する。おかげでほとんど外出させてもらえず退屈な日々を送っていたのです。
  1. 暗夜
  2. 大工
  3. 人殺し
  4. 薬種問屋
  5. 昔日
  6. 所以
  7. 虚実

若だんなが夜中にひとりで外出し、長崎屋に戻る途中、人殺しに追われるところから物語は始まります。若だんなは一体なにをしていたのか、人殺しの目的はなんだったのか等々、いきなり謎だらけでスタートです。上記のように9章に分かれていますが、1冊の長編小説です。

若だんなは、いわゆる「安楽椅子探偵」。外出できない若だんなの代わりに妖たちを手下として使って情報を集め推理します。そして、長崎屋にしばしば出入りしている十手持ちの親分に耳打ちする、というパターン。

「しゃばけ」シリーズは現在10冊。「しゃばけ」「ぬしさまへ」「ねこのばば」「おまけのこ」「うそうそ」「ちんぷんかん」「いっちばん」「ころころろ」「ゆんでめて」「やなりいなり」と、タイトルはすべて平仮名です。読みやすいので10冊くらい、一気に読んでしまいそうで怖い。

お勧め度:★★★★★

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2012年3月13日 (火)

大江戸暮らし 〜 武士と庶民の生活事情 (大江戸探検隊)

時代小説を読むための参考書。江戸の文化や風俗を知っておいたほうが楽しめます。この本はちょっと古いようですが、イラストや図版が多く、パラパラと繰っているだけでも参考になりました。

江戸の範囲から暦、時刻、長屋の内部、長屋の一日、江戸前の食材、女性の着物・髪型・化粧、町人の仕事(棒手振、奉公人)、結婚と離婚、出版文化(錦絵)、銭湯、相撲、祭り、富くじ、将軍の一日、武士の一生、武家屋敷、武士の作法・切腹、大名行列、町奉行所、町火消、郵便事情、江戸時代略年表、等々。切腹の話は痛そうだった…。

インターネットが便利になったとはいえ、知りたい情報を一定のクオリティで整理してあるという点ではまだまだ書籍のほうが便利です。

お勧め度:★★★☆☆

2012年3月11日 (日)

百万遍 古都恋情 上巻 (花村萬月)

                         
2010年の春、長男のおかげで京大と縁ができ、京都や京大にまつわる小説を探しては読んでいます。花村萬月の「百万遍」は分厚くて何冊も並んでいるので図書館の棚でも目立ちます。はじめてタイトルを見たときに(京大吉田キャンパス北西角の)百万遍交差点のことかと期待して一巻目「百万遍 青の時代」を繰ってみたら京都とは縁がなさそうでがっかりした覚えがあります。
      
      それが先日、同じ棚の前を通りかかると一番左にこの「古都恋情」が置いてあったのです。「古都って京都のこと?」とページをめくるといきなり京都の地図が! 近くの椅子に座って冒頭を読んでみると、惟朔(いさく)という17歳の少年が東京から夜行列車で京都駅に着き、烏丸車庫行きの市電に乗ります。そして「百万遍」というアナウンスを聞いて飛び降りたのです。
      
      そう、まさにあの百万遍です。市電が走っていた頃の話、1972年(昭和47年)のことです。とりあえず上巻だけ借りました。これくらいの厚さになると、横になって読むのは困難です。重さで腕がすぐに疲れてしまう。この本は行儀良く座って読むことにしたのですが、惟朔はごみ溜めのような京大西寮に転がり込んで…ぜんぜん行儀のよい話ではありません。
      
      風来坊があっちへふらふら、こっちへふらふら、恋情、痴情、欲情。何も考えていないわけではなく、鋭い洞察をみせる、面白い部分もあるのです。街角の風景でも何でもやたらと描写が細かい。それが、女のところへ転がり込んだ様子まで細かいので困ってしまうのです。
      
      「百万遍東入るに京大生御用達の進々堂という喫茶店があるらしい」とか、堺町通三条下るのイノダコーヒ本店とか、寺町から新京極のアーケード街とか、三条、五条、河原町、知恩院、平安神宮、京極かねよなど、いまでもある店や場所が登場します。市電が走っていなければ40年前の京都が舞台だとは思えません。かねよの「名前はようわからんけど、分厚い卵焼きがのった丼が名物や」というのは「きんし丼」のことかな。(ホームページで見るかぎり)べつに分厚くはないみたいだけど、昔は厚かったのでしょうか。
      
      惟朔は「途轍もない自由の真っ只中にあって」下巻へ続くのですが、わたしはもう満腹です。
      
      お勧め度:★★☆☆☆

2012年3月 9日 (金)

始祖鳥記 (飯島和一)

江戸時代、天明期(1781〜88年、将軍は徳川家治→徳川家斉)に冷害、凶作、飢餓、疫病、火山爆発、農民一揆など災厄が続き、公儀の無策が多くの餓死者を出し、人心は乱れていた。そのころ、岡山に空を飛ぶことに魅入られた男がいた。

まさに歴史小説、いや大河小説。いえ、これは江戸時代の『下町ロケット』(池井戸潤)です。なにも幸吉が宇宙へ飛んでいくわけではなく、公儀(官庁)と大商人(大企業)が癒着して権益、利益を囲い込み、民(国民)は疲弊していく中で、諸国廻船や塩問屋など(中小企業が)自ら活路を見出していく経済小説でもあり、幸吉はその斜め上をぶっ飛んでいくわけです。

はじめは、淡々とした、読者に媚びることのない語り口に取っ付きにくさを感じましたが、第2部に入ると「え、話はどっちに転がっていくの」と興味を惹かれ、あとは第3部のラストまで一気に読み終えました。久しぶりに読み応えのある本と出会いました。

第1部は、1785年(天明5年)、備前岡山、総勢60名の町奉行所の捕り方が1軒の紙屋を取り囲みます。幸吉は夜な夜な凧で空を飛び「鵺騒ぎ」を起こしてご政道を批判した咎で召し捕られます。そして、時は1761年、場所は備前児島、幸吉が5歳のときに遡ります。

第2部は、一転して下総行徳に舞台が移ります。地廻り塩問屋・巴屋の当代伊兵衛は、塩田に流れ着いた幼い姉妹の亡骸をまえに「仇はかならずとってやる」。西国から流入してくる下り塩に地廻り塩は江戸から駆逐され、このままでは行徳の民が生きる術を失ってしまう。公儀と四軒問屋が結託して莫大な下り塩を一手に引き受けている状態を切り崩すには、江戸の四軒問屋を通さずに下り塩を入手し、行徳伝統の製法で苦汁分を抜いた「古積塩」を作って売り込むしかない。しかし、どうすれば下り塩の江戸打越が可能になるのか…。

人の縁は不思議なもの。伊兵衛が辿る縁の先に、いつか幸吉がつながってくるのだろうと思って読み進めます。この第2部がいちばん長く、読み応えもありました。そして第3部は、1798年、幸吉42歳。場所は駿府に移り、物語はクライマックスへ向かいます。

200年後の現代であれば「鳥人間」も法に触れず他人に迷惑にならなければ捕まることはありませんが、すでに飛行機もロケットも飛んでいるので当時ほど値打ちがありません。誰も思いもよらないことをやれば現代でも大騒ぎになるのは同じことでしょう。いつの時代も先駆者は孤独なのかもしれません。…などと、いろいろ考えさせられる一冊でした。

お勧め度:★★★★★

2012年3月 7日 (水)

雛の鮨 (和田はつ子)

江戸は日本橋にある料理屋「塩梅屋」の料理人・季蔵が主人公の時代ミステリー小説。

「みをつくし料理帖」シリーズ(高田郁)が好きなので、同じ料理人シリーズとして興味を持ったのですが「みをつくし」と比べると料理の話題が少なく、起こる事件も(いきなり料理屋の主人が殺されるなど)血なまぐさい。北町奉行が登場するなど、やや硬派なムードが漂うあたり「みをつくし」のほんわか、切ない雰囲気とは異なります。「みをつくし」はあくまで「料理帖」であって「捕物控」ではありません。

事件が起きるたびに調べて回っていては料理をしている暇がないのは仕方ありません。まだ1巻なので今後の展開はわかりませんが、料理人は世を忍ぶ仮の姿、という設定になっていくのかもしれません。

お勧め度:★★★☆☆

2012年3月 5日 (月)

風が強く吹いている (三浦しをん)

たいへん疲れる小説でした。無名大学の弱小陸上部10人が箱根駅伝に挑戦するお話。たしかに500(文庫版は670)ページの長編ではありますが、ページ数の問題ではなく読み進めるのが苦しかった。まさに駅伝をいっしょに走る感覚。中盤過ぎまでは上り坂でつらかったけれど、終盤になると下りで勢いがつきました。

三浦しをんは自身のエッセイで、小説の主人公の命名には苦心する、と書いていました。本書の主人公は蔵原走(くらはら かける)。そのまんまじゃないか、と突っ込みたくなります。しかし「名は体を表す」というのは本当だな、と息子たちを見ていて思うことがあります。それだけ名前は大事です。

物語は世田谷の小田急線・祖師ケ谷大蔵あたりのおんぼろアパート「竹晴荘」から始まります。そこには、近くの寛政大の学生9人が住んでいて、世話係の清瀬は「10人目」を探していました。そこに転がり込んだのが「走」だったわけ。

素人同然の10人で箱根駅伝に挑むなんて無謀かもしれないけれど、そんなことができたら楽しいね、という小説です。箱根駅伝に出場するには、まず記録会で一定以上の記録を残し、予選会を通過しなければなりません。本の厚さからして箱根に挑戦できることは明白。そうは思ってもハラハラしました。駅伝を10人で戦うということは、11人のサッカーチームが関東大会に挑むようなもの。補欠選手がいないので、ひとりでも故障したらアウトです。

「ただ速く走ればいい」というのではなく、もっと精神的な、内面的な強さを求める主人公たちの成長が見どころです。

お勧め度:★★★★★

2012年3月 3日 (土)

人生激情 (三浦しをん)

作者いわく「日常の微妙な刺激を集めた一冊」。「銀玉はどこへ行った」「アリバイがない」「鉄の箸じゃないといい」「遅々たる進歩に歯噛みする」といったエッセイのタイトルだけ見てもまったく内容の想像がつきません。

とくに3編目。円卓に座った罪人がごちそうを前にすごく長い箸を持たされ、自分で自分の口に料理を運ぶことができない。さぁ、あなたならどうする?」という故事(なの?)に対して作者の回答は「手づかみで食べるか、箸を適度な長さに折る」。爆笑です。たしかに鉄の箸では折れません。本人は大真面目で答えたであろう様子が想像できて余計に可笑しい。

また、モーニング娘。のメンバーがTVで「うちのお母さんがぁ」と言ったらしく「私の母が、だろう!」と激しく反発。作家だけあって言葉には敏感みたい。たしかに嘆かわしいことですが、私だったらため息ついておしまいかな。微妙な物事に対して生じる彼我の温度差が興味深い。

大体こんな調子なので、ちょっとした空き時間に気軽に読んでやってください。

お勧め度:★★★☆☆

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2012年3月 1日 (木)

まほろ駅前多田便利軒 (三浦しをん)

まほろ駅前にある便利屋「多田便利軒」。多田の事務所に高校の同級生・行天が転がり込んできた。
  1. 多田便利軒、繁盛中
  2. 行天には、謎がある
  3. 働く車は、満身創痍
  4. 走れ、便利屋
  5. 事実は、ひとつ
  6. あのバス停で、また会おう

まほろ市とは「幻」をもじったもので、いわばユートピア。この物語の場合、東京郊外の街、町田市がモデルになっているらしい。小田急線と国道16号が交差しているから間違いないでしょう。しかし、青線やらヤクの売人やら怪しさ満点。お人好しの多田は、よせばいいのにおせっかいを焼いて、やっかい事に巻き込まれる。そんなとき、便利屋としてはほとんど役に立たない行天の「腕っぷし」が物を言ったりして…三十路男たち、凸凹コンビのおかしな便利屋のお話です。

便利屋に舞い込むのは「それくらい自分でやれ!」と言いたくなる依頼がほとんどのようですが「おかげでオレは仕事がある」と多田は淡々と働きます。犬を預かったら、実は次の飼い主を探す羽目になったり、小学生の息子を塾に迎えに行ったら家庭の事情が透けて見えたり、年老いた母親を代理で見舞う話とか、単なる「仕事」を越えておせっかいを始めるところに人情味があったりするのが魅力です。

お勧め度:★★★★☆


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