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2011年5月

2011年5月31日 (火)

夏のロケット (川端 裕人)

新聞社の科学部担当記者・高野は、過激派によるミサイル誤爆事件を調べるうち、ブーメラン状の噴射板に目をとめる。彼は高校時代、火星に憧れ、天文部ロケット班でロケット製作を試みていたのですが、当時の仲間・日高が設計した噴射板に似ているのです。彼が過激派と…?

過激派との関係を疑いつつ、かつての仲間たちが密かに進めているロケット打ち上げ計画を知り、巻き込まれていく高野。警察、公安に追われつつも夢の実現に向けて走り出す男たちの、ひと夏の挑戦を描いた物語です。

フィクションではありますが、ロケットの歴史や構造について、かなり詳しく書かれているのも面白かった。地球の軌道まで衛星などを運ぶビジネスをいかに安く上げるかを眼目にしているのが妙にリアル。いつか火星への有人飛行が実現することを祈りたくなります。

お勧め度:★★★★☆

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2011年5月29日 (日)

2005年のロケットボーイズ (五十嵐貴久)

都立高校受験日当日、事故に遭ったため、私立工業高校に通うことになったカジシンこと梶屋信介。文系人間なので理系科目はちんぷんかんぷん。悪友ゴタンダと学校ではなくパチスロ三昧。そんなことをしていたら…退学寸前まで追いつめられた彼はひょんなことから「キューブサット」製作に挑むことになる。キューブサットとは、10cm角の立方体の人工衛星。それを地上300mから落下させ、パラシュートでより正確に目標に誘導することを競うコンテストに出場することになった。

理系音痴のカジシンだけではムリ。集まってきたのはオタク大先生、腕力の翔さん、寡黙なドラゴン、電気屋の娘・彩子、カジシンの祖父(ジジイ)ら異端児たち。カジシンの祖父の工場に機材を持ち込み開発を始めます。秋葉原に部品を買い出しに行くなど、なかなかリアル。東京に住んでいた頃、何度も秋葉原には通ったから懐かしいです。さて、コンテスト当日、テレビ取材を受け、学校中に実況中継されるなか、彼らのキューブサットが落下を開始した、のですが…。

学校をさぼるだけならまだしも、パチスロに入り浸るわ、酒を飲んでぶっ倒れるわ、およそ高校生とは思えません。ほんとは大学生だった設定を無理に変えたのか、しっくりきません。しかし後半、キューブサットをほんとうに宇宙に飛ばそうとするところから話は面白くなります。じつは「下町ロケット」(池井戸 潤・著)の流れで読んでみたのですが、おなじ「ロケット」でも本書はフィクション色がつよい。冒頭シーンはSFです。でも「下町ロケット」のような「大人のしがらみ」に囚われない自由な学生たちの姿が清々しい。

お勧め度:★★★☆☆

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2011年5月28日 (土)

涼宮ハルヒの驚愕 (後) (谷川 流)

SOS団入団試験をパスした渡橋泰水(わたはし やすみ)は天真爛漫で一生懸命。およそ危険は感じられないものの、突然キョンの自宅を訪ねてきたり、以前も電話をかけてきたりと「こいつは一体何者?」。

一方、対SOS団同盟とも決着をつけなければなりません。未来人・藤原は何故そこまで必死なのか。ハルヒではなく佐々木になにをやらせたいのか。

いやぁ、面白かった! 4年間は長いけれど、待った甲斐がありました。例によって煙に巻かれた気もするけど、なにが「分裂」して、なにに「驚愕」したのかわかって満足です。まさに「涼宮ハルヒの驚愕」です。

これまで何度もピンチを乗り切ってきて、SOS団の団結は強固なものになりました。不穏な未来を予感させる部分もありますが、ハルヒとキョンたちがきっとなんとかしてくれるでしょう。

鶴屋さん家の花見大会が楽しみ。SOS団の原点回帰ですね。

以下、おもしろ表現集です。今回はちょっと少なめ。

ハルヒが泰水を紹介しようと「カノッサ城において神聖ローマ帝国ハインリヒ四世と面会した教皇グレゴリウス七世のような威厳たっぷりな満足笑顔と口調で」。これは11世紀、ハインリヒ四世が破門の解除を願って教皇に謝罪したとされる「カノッサの屈辱」を指します。
ハルヒ(作者)は四字熟語も好きですね。「ハルヒの墨痕淋漓(ぼっこんりんり)たる筆によって」。筆で書いた文字が黒々と生き生きとして勢いのあるさま。
ハルヒがため息まじりに口にした一首。「このたびは、ぬさもとりあえず、たむけやま、もみじのにしき、かみのまにまに」(このたびは幣もとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに)。百人一首から菅原道真。この先、無事に過ごすことができるかどうかは神のみぞ知るといったところでしょうか?

お勧め度:★★★★★

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2011年5月27日 (金)

涼宮ハルヒの驚愕 (前) (谷川 流)

「涼宮ハルヒの分裂」の続編がようやく出ました。当初、2007年6月刊行予定だったから4年間、長門は倒れたままだったわけです。「分裂」で、対SOS団(寄せ集め)同盟が現れて、話をややこしくするから続きが書けなくなったんだろうと愚考しておったのですが、谷川節は健在です。いとうのいぢさんのイラストが変わったかな。4年も経つんですものねぇ。(くどい?>作者)

さて、ハルヒ率いるSOS団は長門の住むマンションに向かいます。風邪をこじらせたと思っているハルヒは手料理でもって甲斐甲斐しく世話を焼きます。ハルヒが自分の母親のことを語るのは初めてではないでしょうか。ハルヒは生活感がなかったから不思議な感じ。

一方、高校2年の新学期を迎えたSOS団の面々は新入部員の入団試験を行います。ハルヒの行き当たりばったりの思いつきテストをクリアできる猛者はいるのでしょうか?

対SOS団同盟は「無自覚の神」たるハルヒの力を、キョンの中学時代の親友である佐々木に譲れと要求してきます。ハルヒに相談できないのでキョンは単身交渉に当たり、長門への攻撃をやめさせようとするのですが…。

例によって、おもしろ表現集です。

まずはキョンの独白。朱に交われば赤くなる。ハルヒと交わって赤くなった自分の色を変えたいかというと「たとえそんなことが可能だったとしてもゴルジ体の直径ほども思わんね」。ゴルジ体とは細胞内の器官で0.5μmほどの大きさ。
長門が部室で読書に没頭している限り「世界をマンドラゴラでダシを取ったスープに放り込むようなことにはならんだろう」。キョンの長門に対する信頼は厚いですねぇ。マンドラゴラとは別名マンドレイク。映画「ハリーポッター」で薬草の授業でマンドレイクを引き抜くと根っこが(人の形をしていて)叫ぶというシーンがありました。
浅倉と黄緑さんを比べて「TOWと閃光手榴弾くらいの違いだが、むやみに殺傷兵器を持ち出して俺に突きつけたりしないぶん、あの穏やかな先輩はかつてのクラスメイトより思慮深いと言える」。TOWはアメリカで開発された対戦車ミサイル。浅倉といえば、アニメ「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」に登場するアチャクラ(浅倉)は愉快です。
俺はガニメデとトリトンのどっちが大きいのかも知らないんだぜ」。木星の衛星ガニメデは赤道面直径約5,300km。海王星の衛星トリトンは約2,700km。ちなみに地球は約12,800km。

今度はハルヒの台詞。「あたしが試験試験と過剰に言い立てたのは、いわばええと、あれよ、ミステリでいうところのマクガフィンってやつなんだわ」。そこへ古泉が「それを言うならレッドへリングでしょう」。マクガフィンとは、泥棒ならダイヤモンド、スパイなら重要書類といった仕掛け。レッドへリングとは、読者の注意を真相から逸らすもの。すごく怪しい人物だけど真犯人じゃないとか。
ワシントン D.C.って何の略か?「さあ、ダイレクトコントロールじゃないの? なんかそれっぽいし」って、そうじゃなくて、District of Columbia(コロンビア特別区)の略。クリストファー・コロンブスにちなんだもの。今回のハルヒはとぼけた発言が目立ちますね。本調子じゃないのかな。なんといっても4年ぶりだから。(笑)

4年ぶりでもなんでも「分裂」で宙ぶらりんだった物語が進んでうれしい!

お勧め度:★★★★★

2011年5月25日 (水)

下町ロケット (池井戸 潤)

「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「民王」に続く、わたしにとって4冊目の池井戸潤です。中小企業がプライドを賭けて大企業に挑むという筋書きは、時代劇の勧善懲悪に似て、ハラハラしながらも最後は一件落着して溜飲を下げるという喜びがあります。

この作者は、中小企業を舞台にした経済小説が、ほんとうに上手い。「空飛ぶタイヤ」以上に手慣れてきた感じを受けました。金を稼ぐことに汲々として、いつしか夢を忘れてしまっているアナタにぜひ読んでいただきたい!

佃製作所の社長・佃航平はロケット開発の技術者だったのですが、打ち上げ失敗の責任をとって研究者を辞め、父親の経営していた製作所を継いだのでした。ところが、大手取引先が「上からの指示だから」と急に取引を断ってきたところに、大手ライバル企業であるナカシマ工業から特許権侵害で告訴されて法廷闘争に巻き込まれ、業績悪化を懸念したメインバンクから追加融資を断られ、大ピンチを迎えます。水素エンジンのバルブに関する特許を、大手ロケットメーカーである帝国重工が買い取りを申し入れてくるところからが本題となります。

ジリ貧からの巻き返しが見どころ。思わず手に汗を握ってしまいます。一気に読み終えてしまい、最後は感動してしまいました。もう一度読もうかな。

お勧め度:★★★★★

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2011年5月23日 (月)

神様のメモ帳 6 (杉井 光)

「神様のメモ帳」第6弾は、ラーメンはなまるの店主ミンさんに持ち上がった縁談をぶっ壊す話。依頼者はヒロさん。しかし、相手は香港マフィア—黄道盟「龍頭」の後継者・黄紅雷。ヤバいでしょ、さすがに。

しかし、ヤクザとかマフィアとか、この作者はよほどアウトローが好きなようです。ミンの父・花田勝に至っては訓練された傭兵ですから、もう好きにしてください!(笑)

ニート探偵アリスが、へたれ高校生のナルミを助手にしている理由がよくわからないのですが、アリスがホームズならナルミはワトソンだとか。以下、アリスがナルミに語る言葉です。

「探偵というのは、世界に対して、読者でしかいられないものなんだ。この世界の複雑さを受け入れ、その通りに読み取り、より分け、租借し、帰納するしかない。でも作家はちがう。(中略)作家は演繹できるんだ」
「ぼくにはできない。きみにしかできない」

なんだか、わかったようなわからないような…。思いつきで行動するナルミがストーリーを結末へと運んでいくのは、そういうことなのでしょう、きっと。

お勧め度:★★★★☆

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2011年5月21日 (土)

プリンセス・トヨトミ (万城目 学)

東京から会計検査院の3人の調査官がやってきて、大阪府庁などの他に「財団法人OJO」の調査を行おうとしたことが物語のきっかけです。会計検査院第六局副長の松平はアイスクリーム好きだけど仕事には厳しい「鬼の松平」と呼ばれ、彼の部下である鳥居は背が低く小太りなのに対して、旭・ゲーンズブールはフランス人とのハーフで長身の美人。この3人の凸凹トリオが大阪に眠る歴史の封印を解いてしまうのでした。

「鴨川ホルモー」も、あり得ない話に一瞬呆然としましたが「プリンセス・トヨトミ」も荒唐無稽な話をリアルに描いて驚かせてくれました。冷静になって考えれば、非常にばかばかしいことに必死になっている人たちが主人公なのです。

表紙絵にある大阪城と、書名にある豊臣家にまつわる話。本の帯に「5月末日木曜日、大阪全停止」とあったので「全停止ってどういう意味だろう?」と疑問をもって読み始めた方が多いのではないでしょうか。サイバーテロでも起こるのか思ったら…。

これ以上は書けないので興味のある方は読んでみてください。面白いです!

お勧め度:★★★★★

2011年5月19日 (木)

孔雀狂想曲 (北森 鴻)

下北沢の骨董店「雅蘭堂」(がらんどう?)を営む越名集治が主人公。「越名」を「古品」に引っ掛けてあるようです。本作は以下の8編から成っています。
  1. ベトナムジッポー・1967
  2. ジャンクカメラ・キッズ
  3. 古九谷焼幻化
  4. 孔雀狂想曲
  5. キリコ・キリコ
  6. 幻・風景
  7. 根付け供養
  8. 人形転生

下北沢といっても、外れのわかりづらい場所にあることもあって開店休業状態の骨董店。押し掛けアルバイト女子高生・長坂安積や、所轄の生活安全課の警察官・石森、あくどい同業者・犬塚らとの関わりの中で「古いモノ」が人から人へと渡っていくエピソードが綴られます。人が死ぬこともありますが、直接現場を見て推理するわけではないので生臭さはなく、人の業や恨みも昇華した「軽さ」が特長です。

骨董品の世界はよくわかりませんが、この本を読むと犯罪まがいの取引も多々あるようで、それこそ「生き馬の目を抜く」世界のようです。曲がりなりにもその世界で生きているということは主人公がそれなりの鑑定眼を持っている証拠でしょう。ぼんやりしているようで、意外と勘が鋭いようです。

肩肘張らずに楽しめるライト・ミステリーとしてお勧めです。

お勧め度:★★★★☆

2011年5月17日 (火)

名古屋時代MAP 江戸尾張編

「京都時代MAP」3部作に続いて、今度は地元「名古屋時代MAP」をご紹介します。

中心になるのは名古屋城。JR名古屋駅の北東にあり、築城の際、資材を運搬するために造った堀川(運河)が南の熱田へ続いています。名古屋港から堀川沿いに名古屋城まで家族とサイクリングしたことがあります。途中の納屋橋あたりは昔の風情が残っていましたっけ。

しかし、碁盤目の平安京を見たあとなので「名古屋の町は雑然としてる」と感じます。ざっと見たところ、古地図と現代地図が一致するのは名古屋城、堀川、東別院、呉服町通から裏門前町通、吹上から広小路葵に抜ける飯田街道あたりでしょうか。栄の三越が建っている場所には落合重次郎ら6軒の屋敷がありました。…なんてことがわかるのが面白いですね。

お勧め度:★★★★☆

2011年5月15日 (日)

京都時代MAP 安土桃山編

                         
「京都時代MAP」3部作は、平安京編、安土桃山編、幕末維新編に分かれていて、本書は歴史的に2番目。織田信長と豊臣秀吉が覇権を握っていた16世紀、応仁の乱によって焼け野原となった京の都が復興されます。
      
      平安京では大路、小路によって正方形だった地割りが、江戸時代には「町」が縦に二分され、細分化された理由がわかりました。天正年間、秀吉が「短冊形地割り」を行ったのです。従来の地割りでは、周囲の道に面して家屋敷を建てると中央に空き地が残ってしまうため、無駄をなくし密度を上げるために縦に道を作ったわけです。ただし、旧市街は秀吉も手を出せず、現在の四条烏丸周辺の「町」は短冊形になっていません。そこに大きなホテルやデパートが建っているのですから面白い。
      
      江戸時代の地図で、寺院ばかり集まった場所があるのが不自然に見えたのですが、それも秀吉の政策だったとか。商業地、農業地を分けて徴税を容易にしたのと同様、寺院街も独立させたと考えられるそうです。しかし、当時の京の人たちはいきなり家が壊されたり移転させられたりとずいぶん苦労したようです。それだけ圧倒的な武力と権力を握っていたのでしょう。
      
      また、伏見の古地図も載っていて、伏見桃山城の周囲には戦国武将たちの屋敷が建ち並んでいます。徳川家康、石田三成、伊達政宗、織田秀信、山内一豊、上杉景勝、前田利家、毛利輝元、小早川秀秋、加藤清正…。
      
      京都の歴史の厚みを実感できる「京都時代MAP」です。
      
      お勧め度:★★★★★

2011年5月13日 (金)

京都時代MAP 平安京編

                         
「京都の街は碁盤の目」なのは一部で「京都時代MAP 幕末・維新編」を見ても、大きな通りがまっすぐでなかったり、曲がったり、クランクになっていたり、どうも釈然としなかったのが、本書「平安京編」を見て納得。平安京はきれいに碁盤の目だったのです。
      
      平安京は東西4.5km、南北5.2kmあり、40丈(約120m)四方の「町」が小路、大路で区切られ、町が4×4=16集まった単位で構成されていました。道幅は、小路で4丈(約12m)、大路では8丈(約24m)以上あって、朱雀大路に至っては28丈(約84m)もあったといいます。現在の京都では、道幅も狭くなり「町」も縦長に分割されているところが多くなっています。
      
      201105031913.jpg
      
      平安京の中央北辺に大内裏が置かれ、それは現在の二条城の北西あたりに広がっていました。現在の京都御所が平安京の北東角に位置しているのは、平安時代中期、大内裏で出火した際の避難場所として「左京」に「里内裏」が設けられ、土御門東洞院殿が御所となったのです。
      
      京都の一条通と二条通の間がずいぶん開いているのが不思議だったのですが理由がわかりました。一条大路と二条大路の間に内裏があったのです。三条以後は九条までは等間隔になっています。しかし、なぜか現在の五条通(国道1号線)は平安時代の五条大路よりも南にずれていて、六条通りが消えて(?)しまっています。それでも1200年前の平安京の名残があるだけでも素晴らしい。
      
      平安時代と現在との地図を交互に見比べながら、御所や東寺、平安神宮などの歴史を調べるのは面白い。学校での勉強とはちがう切口から歴史を眺めるのは新鮮です。源氏物語の舞台も目に浮かぶようです。
      
      京都の歴史に興味のある方には是非お勧めしたい!
      
      お勧め度:★★★★★

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2011年5月11日 (水)

京都時代MAP 幕末・維新編

四条烏丸あたりを中心に、京都を4×4の16区画に分け、文久2年(1862年)当時の地図が印刷されており、その上にトレーシングペーパーに印刷された現代地図を重ね合わせて見ることができるようになっています。
北東は吉田山、京都大学から北西は北野天満宮、南はJR京都駅を越えて九条通までカバーしています。(伏見が17番目の区画になっています)

百万遍交差点の南東、京都大学キャンパスの時計塔から北側は当時、尾張徳川屋敷で(広い!)、吉田神社一帯は吉田村でした。鴨川や寺社、御所、二条城などはぴったり当時のまま。賀茂大橋はなく、北側の河合橋と出町橋あたりに橋があったのですが、そこに「鴨川デルタ」はまだありませんでした。当時の今出川通の百万遍から西へは、北西の細い道(マクドナルドの北側)で出町柳から鴨川を越えていました。いまも残る、旧い通りは趣があることが納得できます。

南禅寺は敷地が広大。明治時代に造られた平安神宮は当然存在しない、と。京都御苑の西、京都府庁は京都守護職邸だったのか。このあたりの道路は昔と変わってないんだな。京都の街は「碁盤の目」だというけれど、実際にクルマで走ると大通りが途中で曲がっていたり、クランクになっていたりと、初めてだと戸惑います。四角い敷地が並んでいるのですが、道路はまっすぐ抜けていない部分が多々あります。先に道路を縦横に通したところに建物を建てたわけではないことが、この地図からもわかります。

こりゃー、おもしろい! 地図から歴史をひも解くというのもまた一興であります。本書は上記のような地図パートと、幕末の池田屋騒動、禁門の変、龍馬暗殺、鳥羽伏見戦、新撰組の「事件現場を歩く」パートに分かれています。わたしは血なまぐさい新撰組は苦手ですが。

京都在住か、よく京都に出かける方は一見の価値があると思います。

お勧め度:★★★★★

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2011年5月 9日 (月)

墓場の少年 (ニール・ゲイマン)

イギリスの作家ラドヤード・キプリングの「ジャングル・ブック」に影響を受けて書かれた小説の原題は「THE GRAVEYARD BOOK」です。「ジャングル・ブック」が、オオカミに育てられた少年が幾多の冒険を経た末に人間界に戻る話であったように、「墓場の少年」では場所が墓場に、親代わりが幽霊になっています。

冒頭、主人公の少年(赤ん坊)が殺人鬼の魔の手を逃れるシーンがまさにホラー映画ですが、分類としては児童書なので全体にはそれほど怖くはありません。映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のような怖さといえばわかっていただけるでしょうか。ダークで不気味だけど愛嬌があるんです。

ミスター&ミセス・オーエンス夫妻(幽霊)に預けられた赤ん坊はノーボディ(Nobody=誰でもない)・オーエンスと名付けられ、サイラスが後見人として、墓場の外の世界から食べ物を調達してくることになりました。通称「ボッド」(noBODy) は墓場の幽霊たちに守られて、すくすく育ち、人間の少女と出会ったり、グール(食屍鬼)の世界に連れ去られたり、学校に通ったり、様々な冒険をすることになります。ボッドは、何世紀も前に埋葬された幽霊たちの話を聞いて育ったので、歴史の裏話に詳しいあたりが可笑しい。

そもそもボッドと彼の家族は誰に、何故、命を狙われたのか。サイラスとは一体何者なのか。よくできた異色ファンタジーです。

お勧め度:★★★★★

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2011年5月 7日 (土)

スーパーヒーローの秘密~(株)魔法製作所 (シャンナ・ウェンドソン)

ロマンチック・ファンタジー「魔法製作所」シリーズ第5弾。前巻で故郷のテキサスに帰っていたケイティが、4ヶ月ぶりにニューヨークに戻ってきました。ケイティの実家もかなりの喧噪でしたが(笑)ニューヨークの地下鉄には及びません。怪しげな魔法が使われ、財布を盗む現場を目撃。犯人を取り押さえようとすると周囲の人たちも暴れ出して大騒ぎに。

久しぶりに(株)MSI に出社すると、マーリンからマーケティング部長としてカスタマーリファレンスを企画するよう指示を受けます。一方、ニューヨークでは魔法絡みのトラブル、犯罪が急増。嫌な予感は的中するもので、カンファレンスでオーウェンは、宿敵イドリスから自らの出生の秘密を告げられ、犯罪者としての汚名を着せられます。

4巻に続いて5巻も絶好調。いよいよオーウェンの秘密が明かされます。ケイティも気丈にオーウェンを支えながら大活躍。本シリーズ最高の出来だと思います。このシリーズを読み始めたら是非5巻まで頑張ってください!

強力な魔法使いだけど、人見知りする、引っ込み思案のオーウェンと、トラブルに巻き込まれることが多いけれど、聡明で行動力のあるケイティは良いコンビ。現実から逃げたがるオーウェンを叱咤しつつ、愛する彼のために奔走します。最後はめでたし、めでたしで大団円を迎えますが、シリーズがこれで終わるとは書いていないので続巻を期待したいと思います。

お勧め度:★★★★★

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2011年5月 5日 (木)

コブの怪しい魔法使い~(株)魔法製作所 (シャンナ・ウェンドソン)

ニューヨークの魔法使いオーウェンと、テキサス出身のイミューン(魔法が効かない体質)であるケイティが繰り広げる「じれったいロマンス」ファンタジー「魔法製作所」シリーズ第4弾。

第3巻「おせっかいなゴッドマザー」で、ピンチの際にもまずケイティを守ろうとするオーウェンの「弱点」に自分がなっていることに気づいて、ケイティはひとりニューヨークを離れ、故郷のテキサス州コブに戻ります。

そのときは「田舎に引っ込んでしまうのか」とガッカリしたのですが、ニューヨークに負けず劣らず大騒動になって面白いのなんの! 魔法とは全く無縁な土地だったはずなのに、新米魔法使いが市民から小銭をだまし取っているらしい。そして、その背後にはオーウェンの宿敵イドリスがいたのです。

いつもは困った事態になってもひとりで抱え込んでしまうケイティなのですが、今回は素直に(株)MSIに連絡、相談します。送り込まれてきたスタッフはガーゴイルのサム。そして、やはりオーウェンが登場します。娘の彼氏がニューヨークから会いにやってきた、というわけで、ケイティの母親は自分の家に泊めて歓待攻め。両親に3人の兄とその妻子、ちょっと変わり者の祖母らの巻き起こす喧噪の合間を縫って、謎の魔法使いを捕まえるべく動き始めるわけですが、なんと、その魔法使いは…。

あとで思えば、ありえる展開だったわけですが、実際にはサプライズでした。なかなか進展しない、オーウェンとケイティの恋に「おまえたちは高校生か」とイライラしていたのですが、今時貴重な天然記念物的存在。「奥ゆかしくていいかも」と思うようになりました。(笑)

1〜4巻まででいちばん素直に楽しめました。オーウェンでもマーリンでもなく、なぜか、いつもケイティのまわりで魔法騒動が持ち上がるのです。さて、オーウェンはイドリスを懲らしめることができるのでしょうか。

お勧め度:★★★★★

2011年5月 3日 (火)

ヒプノスの回廊 〜 グイン・サーガ外伝 22 (栗本 薫)

2009年5月に作者の逝去により、未完の大作となった「グイン・サーガ」。わたしが大学生のときに第1巻が出て、着かず離れず読み続けてきたシリーズが、同年12月の第130巻「見知らぬ明日」が遺作となり、おおきな喪失感を味わいました。そこへ2011年2月、「グイン・サーガ ハンドブック」などに収録された外伝を集めた本書を書店で見かけたときはうれしかった。「世界最高の大河ロマン、誕生32年! 最後のグイン・サーガ」と帯にあり、思わず手に取りました。

グインファンの方はすでにご存知の作品なのでしょうけれど、わたしにとっては初めての作品ばかり。本編の謎に関わる「ヒプノスの回廊」は面白かったし、「クリスタル・パレス殺人事件」では元気なナリスに会えたし、「アレナ通り十番地の精霊」では、ダンとアリスの双子たちの成長を見てみたいと思わせてくれました。

誰かがグイン・サーガを書き継いでくれれば…と思っていたのが現実になりそうです。早川書房から文庫形式で「グイン・サーガ・ワールド」が季刊で刊行される予定だとか。いつの日か、ほんとうの完結編「豹頭の花嫁」を読むことができますように!

お勧め度:★★★★★

2011年5月 1日 (日)

パズルの軌跡 (機本伸司)

「神様のパズル」の続編です。その後、無事就職した綿貫基一に、ネオ・ピグマリオンという見知らぬ会社から、天才少女・森矢沙羅華に、若者の失踪事件の調査を依頼してほしいと頼まれる。精子提供者である森矢と母親が結婚したため、穂瑞から森矢姓に変わった沙羅華は、ふつうの女子高生として生活を送っていた。そこにまたややこしい話を持ち込んだ綿貫だったが…。

人工授精で生まれた沙羅華は、父親に望まれて生まれてきたわけではないことがトラウマになっていて、綿貫にも「人間ってなに?」と問いかけます。そうして悩むのは「自我」があるから。「死んだほうがましだ」と思っている自殺志願者同様、もしも自我を消すことができれば悩みも消えて幸せになれるはず、という筋書きが浮かび上がってきます。

綿貫と沙羅華が失踪者を追っていくうちに「神様のパズル」の命題だった「宇宙を作る」に引っ掛けて「内宇宙を作ればいい」という方針と、沙羅華の専門である加速器が絡んできて、例によって綿貫は置いてけぼりを喰う羽目に…。

過去の経緯を踏まえた組み立ては秀逸なのですが、物語としては多少盛り上がりに欠けます。沙羅華の魅力不足かなぁ。綿貫はひそかに好意を寄せているのですが、沙羅華は全く無頓着。理屈っぽくて自分勝手。頭は良くても(家族も含めて)人とどう付き合えばいいかわからない。対人関係が成立しないキャラではむずかしいかもしれません。(残念)

お勧め度:★★☆☆☆

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