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2011年1月 4日 (火)

永遠の0 (百田 尚樹)

ニュージーランド最大の都市オークランドのドメイン広場に建つ「オークランド博物館」。イギリスの戦闘機スピットファイアと向かい合うように、その零戦は展示されていました。不時着した機体を修復したようですが、太平洋戦争中にこんなに遠く、はるか南まで飛んできたのか。搭乗員はどうなったんだろう。特別展示されていたミイラよりも生々しく「ゼロ」は狭い展示室に標本のように留め置かれていました。

開戦当時、抜きん出た旋回性能と戦闘力を誇った零戦。終戦から60年目の夏、宮部健太郎は姉・慶子の依頼をきっかけに、零戦乗りとして死んだ祖父の生涯を調べ始めます。いくつかの戦友会に調査を依頼し、宮部久蔵を知る人物を訪ね歩いて浮かび上がってきた祖父像は、一流の操縦技術を持ちながら、公然と「死にたくない」という臆病者、というものでした。「生きて帰りたい」と願い続けていたのに、なぜ終戦直前に特攻で命を落としたのか。

真珠湾に始まり、ラバウル、ガタルカナルと転戦し、沖縄戦で散った祖父は特攻出撃直前、旧式の零戦と交換してもらったのです。本の紙数も残り少なくなってきて「一体どういう結末になるんだろう」と訝しく思っていたら、意外な展開が待っていました。エピローグは壮絶ですが、最後に救われた気がします。

物事はその人の立場や考え方によって評価は異なります。健太郎の姉の恋人で、新聞社に勤める高田に一部の世論を代弁させています。特攻は9.11の旅客機テロと同じだというのです。しかし特攻予備員だった人物は、特攻は日本を攻撃し国民を殺す敵艦に対抗する戦争であり、テロのように罪のない一般市民を無差別に殺傷するものではないと主張します。どちらの行為も決して容認できない、忌むべきものですが、わたしは、それらを実行した人物よりも、実行を指示、鼓舞した人物(組織)を憎みます。

「神様のカルテ」同様、人が死ぬ話はいけません。泣けてきます。ひとりの戦闘機乗りが体験した太平洋戦争を知るという意味でも面白い小説なので息子たちにも読ませたいと思います。

お勧め度:★★★★★

米軍が開発した新型爆弾は先端に小型レーダーをもち、数十メートル以内に航空機を感知すると爆発するというものでした。「VTヒューズは言ってみれば防御兵器だ。敵の攻撃からいかに味方を守るかという兵器だ。日本軍にはまったくない発想だ。日本軍は敵をいかに攻撃するかばかりを考えて兵器を作っていた。その最たるものが戦闘機だ。やたらと長大な航続距離、素晴らしい空戦性能、それに強力な二十ミリ機銃、しかしながら防御は皆無。「思想」が根本から違っていたのだ。日本軍には最初から徹底した人命軽視の思想が貫かれていた。そしてこれがのちの特攻につながっていったに違いない。」

作中の話によると、零戦の航続距離が長いという「性能」はよいけれど搭乗員がそれに耐えられるかどうかなど一切考えられていません。それがために太平洋上を7時間もかけて往復するという無謀な作戦を軍部は立ててくるわけです。それでは零戦を飛ばす人間はたまったものではありません。機械としての性能重視、人間不在という開発思想は現代の国産自動車にも無縁ではないのではないでしょうか。

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