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2010年12月

2010年12月31日 (金)

ボックス! (上・下) (百田 尚樹)

「BOX」とは「ボクシングをする」という動詞。

「武士道シックスティーン」の剣道も痛そうだったけれど、ボクシングというのは、いかに相手にダメージを与えるか、相手を叩きのめすかという格闘技ですから、ほんとに痛そうです。とはいえ、舞台は大阪の高校のボクシング部ですから、若い選手の安全のために1ラウンド内に2回ダウンしたら試合終了というように、いくつもの制限が設けられています。

大阪でいうところの「アホやけど天才」の鏑矢義平と、幼なじみの秀才・木樽優紀のふたりを、恵比寿高校ボクシング部の顧問・沢木、英語教師の高津耀子らが助けます。中学の頃からボクシングジムに通っていた鏑矢と、勉強はできるが喧嘩が弱く、昔からいじめられては鏑矢に助けられてばかりいた木樽は対照的。しかし、木樽は同じクラスの女子の前で喧嘩に負けて悔しかったことと、高津先生の気を惹きたくてボクシングを始めます。

わたしは大阪出身なので梅田や箕面、阪急京都線、宝塚線などが出てくると身近に感じます。鏑矢に憧れた同級生・丸野智子がボクシング部のマネージャになったものの、そもそも身体が弱く、吹田の阪大病院に入院します。みんなで見舞いに行く際「蛍池からモノレールに乗って、途中万博記念公園で太陽の塔を見た」話が出てくるのですが、ふと「市民病院では対応できない病気だから阪大病院なのかな」。

作者の百田 尚樹は大阪出身。放送作家として「探偵ナイトスクープ」などの構成も手がけているそうです。

大会では優勝者以外のすべてが敗者。たとえ途中で心が折れても、また立ち上がって拳を握り締める。ほんとうの強さとは何かということを考えさせてくれる小説です。たとえナンバー1になれなくても、ボクシングをずっと真剣に続けてきたというだけで十分強いのかもしれません。

2010年12月29日 (水)

ガフールの勇者たち 1 ~ 悪の要塞からの脱出 (キャスリン・ラスキー)

メンフクロウのソーレンは、ティト王国で家族と幸せに暮らしていたのですが、ある日、巣から蹴り落とされたところを聖エゴリウス孤児院に連れ去られてしまいます。そこでは、さらわれてきた数百羽もの子フクロウが「月光麻痺」と呼ばれる催眠術にかけられ奴隷のように働かされていたのです。ソーレンはサボテンフクロウのジルフィーと月光麻痺から逃れて脱出しようとするのですが…。

以前ご紹介した「ウォーリアーズ」は野生で生きる猫の社会を描いていました。この「ガフールの勇者たち」は主人公がフクロウだというだけでなく、人間が登場せず、フクロウが独自の文化を築いている世界が舞台になっています。その一方で、愛情と憎悪、友情と敵対、信頼と裏切りといった人間社会に共通の問題をもつ点は共通しています。

現在、国内で発売されている翻訳版はつぎのとおりです。

  1. 悪の要塞からの脱出
  2. 真の勇気の目覚め
  3. 恐怖の仮面フクロウ
  4. フール島 絶体絶命
  5. 決死の逃避
  6. 聖エゴリウス 運命の戦い
  7. 宿命の子 ナイロック
  8. 〈新しい王〉の誕生
  9. 「ガフール伝説」の誕生
  10. 「ガフール伝説」と炎の王子
  11. 「ガフール伝説」と真実の王

8巻まではスリリングな展開を楽しめたのですが、9巻で「いにしえの書」を読むところで(わたしの)テンションが下がってしまいました。長編小説ってむずかしい。短いと物足りないし、長ければいいというものではないし。(勝手なことをいってごめんなさい>作者)

すくなくとも8巻まではお勧めします。お子さんにも勧めて、同じ本を読んでみてはいかがですか? 我が家でもそうですが、親子で感想はちがうはず。それがお互いに面白いのです。

2010年12月27日 (月)

ハートビート (藤谷 治、他)

音楽小説6編を納めた本です。

  1. peacemaker (小路幸也)
  2. シャンディは、おやすみを言わない (伊藤たかみ)
  3. おれがはじめて生んだ、まっさらな音 (楡井亜木子)
  4. アルゴー号の勇者たち~短い叙事詩 (芦原すなお)
  5. 再会 (藤谷 治)
  6. フランソワ (花村萬月)

「船に乗れ!」(藤谷 治)のスピンオフ小説「再会」が読みたかった。再会した相手は高校の音楽科当時フルート専攻だった伊藤慧。あれから27年後、フランスからリサイタルのために帰国するというので招待状が届いたのでした。主人公も結婚して40代になり、久しぶりに引っ張り出したチェロを調弦しようとして駒を割ってしまい、それを修理に出すのですが、「船に乗れ!」が回想形式だったのと同様、「再会」も若かった頃を思い出して後悔したり、懐かしんだり、あきらめたりといったムードが漂っていてうら寂しい。もうすこし元気の出る話が読みたいところです。

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2010年12月25日 (土)

船に乗れ!III 合奏協奏曲 (藤谷 治)

高校の音楽科在籍中の出来事を主人公の回想形式で書かれた小説「船に乗れ!」全3部作のうちの第3弾。音楽小説なのに何故「船に乗れ!」なのだろう、と疑問に思っていたらニーチェの言葉のようです。

音楽といってもクラシック、しかもチェロに関する記述がひどくリアルです。

「一弦のDを2の指で押さえる。アップから入って十六分音符が続く。二弦の上で人差し指から小指まで大きく開いて、2、4、1、4、0、1、2……じゃない、エフの次のゲーも1だ。それから3。」

なんのことやらさっぱりわかりませんが、そんなことは気にならない。それよりも2巻でのふたつの事件(南枝里子が学校を辞めるに至った経緯と、哲学を教えてくれた先生が退職したこと)が主人公なりの決着を見ることのほうが大事。この話題を放置されたらどうしようかと不安だったので助かりました。

わたしが今年読んだ本の中では「重力ピエロ」(伊坂幸太郎)に次ぐ問題作です。「さまよう刃」(東野圭吾)は怖くて読めなかったように、露骨にショックを受けそうな本は(精神衛生上よくないため)避けているのですが「船に乗れ!」には意表を突かれました。音楽小説としては文句なく面白いと思いますしお勧めしたい。けれど、主人公が人に裏切られ、人を裏切った後味が悪すぎます。だから、この小説をどうしても好きになれません。(ごめんなさい>作者)

全く比較にはなりませんが、高校時代バンドを組んでギターを弾いていたことを思い出しました。満足できる「演奏」ではなかったかもしれませんがすごく楽しかった。「音楽」してたと思います。音楽は本来iPodなんかで聴くものじゃなくて、演奏すること、そして演奏を聴くことなのでしょう。

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2010年12月24日 (金)

船に乗れ!II 独奏 (藤谷 治)

「船に乗れ!」全3部作のうちの第2弾。1巻を読んだら2巻も読むしかありません。

主人公の津島サトルは2年の夏休みを利用してハイデルベルクに短期留学することに。先生には音階練習を叩き込まれ、楽器を弾くことと音楽を奏でることの違いを知ります。帰国すると南枝里子の様子がおかしい。学校も休みがちになり、自宅を訪ねても会ってくれません…。これも青春の光と影なのでしょうか。わたしにとって 2巻は非常にショッキングです。いくらフィクションでも納得できん、反則だ!

それでも音楽パートはおもしろい。今年のオーケストラの課題曲はリストの「プレリュード」。難しすぎると生徒たちは悲鳴を上げます。

「このホルンのパートを書いた人は、どこで呼吸をしろというのですか。私にホルンを吹きながら死ねと?」
「クラリネットにも死んで貰いたいらしいよ。あはは」
「こんなのできるわけないでしょーよ!」

妙にリアルで愉快です。というわけで、3巻に続きます。

2010年12月23日 (木)

船に乗れ!I 合奏と協奏 (藤谷 治)

音楽一家の津島サトルは祖父の勧めでチェロを学び、芸高を受験したけれど不合格。新生学園大学附属高校音楽科に進み、ヴァイオリン専攻の南枝里子と出会います。

チェロはもちろん、クラシックのことも専門用語はさっぱりわかりませんが、アンサンブルが決まったときの気持ちよさは伝わってきます。また、演奏者から見たオーケストラの難しさもよくわかりました。「船に乗れ!」全3部作のうちの第1弾。全29章を3冊に分けてあるので1巻から順番に読みましょう。

主人公は自分でも言っているようにいわゆる「お坊ちゃま」育ち。特に前半「なんだかなぁ」と感じることも多々ありましたが、中盤から南枝里子との恋もなんとなく進展して良い感じ。一気に最後まで読みました。音楽を志す人はもちろん、そうでない人にも楽しめる青春小説です。

2010年12月21日 (火)

フルメタル・パニック! 11/12 ~ ずっと、スタンドバイミー (上・下) (賀東招二)

いやぁ、懐かしい! 久々の「フルメタ」です。

「フルメタル・パニック!」の第1弾「戦うボーイ・ミーツ・ガール」が出たのが1989年。12年かかって、長編12冊、短編、番外編10冊の計22冊で完結しました。

  1. 戦うボーイ・ミーツ・ガール
  2. 疾るワン・ナイト・スタンド
  3. 揺れるイントゥ・ザ・ブルー
  4. 終わるデイ・バイ・デイ(上)
  5. 終わるデイ・バイ・デイ(下)
  6. 踊るベリー・メリー・クリスマス
  7. つづくオン・マイ・オウン
  8. 燃えるワン・マン・フォース
  9. つどうメイク・マイ・デイ
  10. せまるニック・オブ・タイム
  11. ずっと、スタンドバイミー (上)
  12. ずっと、スタンドバイミー (下)
  • 放っておけない一匹狼?
  • 本気になれない二死満塁?
  • 自慢にならない三冠王?
  • 同情できない四面楚歌?
  • どうにもならない五里霧中?
  • あてにならない六法全書?
  • 安心できない七つ道具?
  • 悩んでられない八方塞がり?
  • 音程は哀しく、射程は遠く
  • 極北からの声

最初は学園ラブコメでした。千鳥かなめを護衛するため、陣代高校に乗り込んだ相良宗介軍曹は戦争しか知らない大ぼけ野郎。拳銃、機関銃、手榴弾が炸裂し、そのたびに宗介はかなめにハリセンを喰らうというお決まりのパターンが面白かった。それなのに、かなめがその特殊能力のために狙われ、「アームスレーブ」と呼ばれる人型近未来兵器による戦いになり、殺伐とした陰謀、秘密工作、戦争へと発展していったのです。

途中、あまりに暗いので挫折しそうになったこともありましたが、今回「ずっと、スタンドバイミー」で無事大団円を迎えることができて、ホントーによかった! あとがきによると、まだ短編は出してくれそうな気配。楽しみにしてます。

2010年12月19日 (日)

よろずや平四郎活人剣 (下) (藤沢周平)

下巻も500ページ近い文庫本なので読み応えがありますが、10巻も20巻も続く大作とちがって上下巻で完結するため、各エピソードの結末を先延ばしにされてイライラすることがありません。

新たに道場を開く夢、かつての許婚・早苗との再会、御小人目付・奥田伝之丞との(剣による)対決という物語の縦糸も終盤にはちゃんと解決します。このあたりは安心して読むことができます。

それにしても主人公の神名平四郎はお人よし。お金がないときは食べるものにも苦労するくせに、ちょっと懐具合がよいと他人に親切にしてしまう。「これで100文では割に合わん」などとブツブツ言いながらも走り回るのです。細かな金勘定まで露にされてしまうなんて物語の主人公にプライバシーはありません。 (笑)

剣の腕は確かなようですが、いつも格好よく勝つわけではなく、かろうじて切り抜ける場面も少なくありません。無闇に人を斬ったりしないところがタイトルどおり「活人剣」なのでしょう。

2010年12月17日 (金)

よろずや平四郎活人剣 (上) (藤沢周平)

平岩弓枝の「御宿かわせみ」、佐伯 泰英の「居眠り磐音 江戸双紙」、風野 真知雄の「妻は、くノ一」など読んできましたが、今回は新たに藤沢周平を手に取ってみました。「よろずや平四郎活人剣」は市井に身を置く侍がさまざまな事件を解決していく連作小説です。主人公の立場が武家と町人の両方の世界に通じているという点では先に挙げた三作と同様です。

主人公の神名平四郎は旗本の末弟、つまりは冷や飯食い。居心地が悪く、落ち着かない実家を飛び出し、裏店に住み着いた平四郎は「よろずもめごと仲裁つかまつり候」という看板を掲げたのです。もめごとの仲裁で金をもらうというのが最初はうまくいかず苦労するあたりがリアルです。用心棒は引き受けないのですが、実際には剣の腕が必要になる場面も多々あります。

上巻には12話納められており、各話に事件が用意されているのですが「御宿かわせみ」みたいにバラバラではなく、それまでの話を受けて流れていきます。わたしは最後の「一匹狼」が好きです。文庫で460ページありますが、続きが楽しみでスラスラと読めます。さて、下巻に取りかかりますか。

2010年12月15日 (水)

万能鑑定士Qの事件簿 III (松岡圭祐)

「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズ第3弾なのですが…2巻で日本をハイパーインフレで崩壊させておいて、いきなり飯田橋ヒルズの人気ファッションショップの売上げが落ちてしまう話です。日本経済は崩壊しても3日で立ち直るのでしょうか。小説はフィクション。こういうのもアリなんだ、と目からウロコでした。

今回のキーワードは「音」です。かつての有名音楽プロデューサー・西園寺響は借金地獄から抜け出そうと詐欺を繰り返していたのです。ファッションショップの売上げを落としたり、落第寸前の女子高生に東大入試レベルの英語のヒアリング問題で100点を取らせたり…。仕掛けは興味深いです。

ただ、不特定多数の人間の健康を脅かすのはちょっと引っかかります。2巻のハイパーインフレ同様、ひとつ間違えばテロリズムです。しかも、目的を果たすには「風が吹けば桶屋が儲かる」くらいに遠回り。インパクトはあるけどリアリティがない。表紙絵を含めてライトノベルに近いような気がします。でも、1巻の紹介の冒頭に書いたように、軽く気分転換したいときの1冊にお勧めします。

2010年12月14日 (火)

万能鑑定士Qの事件簿 II (松岡圭祐)

「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズ第2弾は1巻の続き。大規模な偽1万円札事件が起こり、日本はハイパーインフレに陥り、経済は崩壊、生活も成り立たなくなってしまいます。1巻の「力士シール」事件はどこに行ったのかな、と思いつつ読み進むと…。

ハイパーインフレなんて設定自体SFみたいに感じますが、主人公の凛田莉子も「落ちこぼれ高校生」から「万能鑑定士」への変身も(説得力が欠けているため)これまたSFじみてて、まるで宇宙人。設定もストーリーもすべてぶっ飛んでる小説です。「ありえない」話をそれらしく描いてあるところが見事。角川書店本社ビルがどうとか、下手にリアリティを出そうとしないほうがよいのではないでしょうか。実は、どこか別の地球の話だったというほうが面白いかもしれません。

「鑑定」が必要になるような科学的スパイスを加えた美人探偵小説です。あまり難しく考えずに「たしかにそういう可能性もあるな」と流しながら楽しみませていただきます。

2010年12月13日 (月)

万能鑑定士Qの事件簿 I (松岡圭祐)

歯ごたえのある本を読んだあとの気分転換にはもってこい! 美人の頭脳派ヒロインのミステリー小説「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズ第1弾です。

主人公の凛田莉子は沖縄県の波照間島出身。高校での学業成績は劣悪、日本の地理さえわかってない。それでも持ち前の明るさでもって東京に出てきた莉子は就職活動に明け暮れるなか、リサイクルショップの社長から勉強の方法を教わり、実践するうち才能が開花。「万能鑑定士Q」という看板をもらって独立したのです。(ある意味シンデレラストーリー?)

都内に拡がっていく「力士シール」の謎を追って、週刊誌記者の小笠原はノーアポで鑑定してもらえそうな凛田莉子のオフィスを訪ね、彼女の洞察力と鑑定眼に仰天。章ごとに時間が前後し、いまのフラッシュバックは夢か現か幻か…という不思議な展開。

正義感がつよく、フットワークが軽い莉子は警察や大学の先生の協力を得ながら鮮やかに事件を解決に導いていきます。が、事態は想像以上に奥が深いようで…このエピソードは2巻まで続きます。

2010年12月11日 (土)

時の彼方の王冠~デイルマーク王国史4 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「デイルマーク王国史」シリーズ第4弾、完結編です。デイルマークの女王になろうと立ち上がった「唯一の者」の娘レノスを殺すようアベラス女伯爵に命じられた親衛隊員ミット。一方、現代の少女メイウェンは200年前の世界に送り込まれ、レノスとしてミットや吟遊詩人ヘステファンとモリル、ホーランド伯爵の息子ネイヴィスらと王冠を探す旅に出たのです。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本はちょっと難解なところがあって、一度読んだだけではわからないことがあります。何がどうなっていくのか、目を凝らしていないといけません。そんな3冊から集まった登場人物たちをどうやって動かして完結させるつもりなのか、見ものです。

第3巻で先史時代まで遡った物語もついに「現代」が登場。そこから200年前って「たったそれだけ?」と思ったものの、現代日本だって200年前といえば江戸時代後期。いきなり江戸時代に飛ばされたら異世界ですね。いくら歴史を勉強していても戸惑うでしょう。

1~3巻で南から北へ旅したのが4巻では「アドンの宝」(指輪、聖杯、剣)を探しつつ北から南へ向かいます。突然レノスとして振舞わなければならなくなったメイウェンがユーモラスに好演しています。それぞれが自分の役割を果たそうと努めるなかでエンディングに向かっていくとページを繰る手が止まりません。

最初は「デイルマーク王国史」なんて大袈裟じゃないかと思っていましたが、先史時代から現代までカバーされては脱帽です。骨太なファンタジーを読みたい方にお勧めします!

2010年12月 9日 (木)

呪文の織り手~デイルマーク王国史3 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「デイルマーク王国史」シリーズ第3弾。1~2巻は同時代の物語でしたが、この3巻はデイルマークの先史時代、まだ「川の国」と呼ばれ、神と人が身近だった頃の物語です。1巻では馬車で陸路を、2巻では船で海を、そして3巻では船で川を海へ向かって、すべて南から北へ向かいます。

機織りの少女タナクィは父クロスティ、姉ロビン、長兄ガル、次兄ハーン、弟ダックと共に、北部の村シェリングで暮らしていましたが、戦争に出征した父は戦死、長兄は正気を失って帰ってきました。そして彼らは村を追われ、邪悪な魔術師カンクリーディンが待ち受ける下流へと船で向かうのでした…。

魔術師のローブに織り込まれた物語はすべて事実となるという設定がユニーク。語り手のタナクィは魔法のローブを織ることができ、またそれを読み解くことができます。タナクィはもちろん、他の4人もそれぞれ重要な役割を演じるのですが「一致団結して困難に立ち向かう」といった雰囲気ではなく、反発して泣くわ、殴るわ、喧嘩ばかりで、逆にリアルです。(笑)

1~3巻に共通して、最初は取るに足らない人間が、ひとかどの人物になっていくのが頼もしく感じます。4巻はいよいよ完結編です!

2010年12月 7日 (火)

聖なる島々へ~デイルマーク王国史2 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「デイルマーク王国史」シリーズ第2弾。領主ハッドの圧制に対抗して少年ミットは海祭りの日にハッド暗殺計画を実行することを決意。その日のために準備した爆弾はハッドの目の前に転がり、そして…。

暗殺なんてとんでもないと思うところですが、ミットにも事情があるのです。母親とふたり暮らしなのですが、貧しくつらい毎日を送ってきて、領主に対する恨み骨髄だったのです。ところが逃げるところまではちゃんと考えてなくて、転がり込んだのはハッドの孫娘とその弟の船でした。命からがら追手から逃れたものの、姉弟とはひと悶着ありますし、小さな船で北部へ向かうのは容易ではありません。

原題は"DROWNED AMMET"、溺れたアメットさん。アメットというのは、海祭りの日に海に投げ込まれる、麦わらで作られた(かかしのような)人形のこと。それを拾い上げた船は幸運に見舞われるという言い伝えがあるのです。

1巻同様、いや、それ以上に主人公は悲惨な状況です。船で拾った水夫もとんでもない奴で、読んでいるこちらまでミットが気の毒になってきます。それでもくじけずに進んでいく主人公に連れられて先に進んでいくと「そういうことだったのか!」というサプライズが待っているのです。ストーリーは多少入り組んでいますが、道筋は「聖なる島々へ」の一本道なのでわかりやすい。1巻ずつしっかり楽しませてくれます。

2010年12月 5日 (日)

詩人たちの旅~デイルマーク王国史1 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

「ハウルの動く城」(1986)、「大魔法使いクレストマンシー」などで有名なイギリスのファンタジー作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの手になる「デイルマーク王国史」四部作の第1弾「詩人(うたびと)たちの旅」です。 クレジットは1975年と、比較的初期の作品になるようです。

  1. 詩人(うたびと)たちの旅 ("CART AND CWIDDER" 1975)
  2. 聖なる島々へ ("DROWNED AMMET" 1977)
  3. 呪文の織り手 ("THE SPELLCOATS" 1979)
  4. 時の彼方の王冠 ("THE CROWN OF DALEMARK" 1993)

括弧内は原書のタイトルと出版年です。2年ごとに出ていたのに4巻が出るまでに14年かかってます。日本では2004~2005年に4巻すべて創元推理文庫から出ているのでまとめて読むことができます。

1~3巻までは各々異なる主人公の物語になっていて、それが4巻(最終巻)でひとつにつながります。1巻は詩人(うたびと)=吟遊詩人の一家のお話。デイルマーク王国は当時、王が不在で各地を伯爵家が分割統治しており、南部は北部に比べて民たちはひどい領主に虐げられており、兵士に捕まったら縛り首にされてしまうのです。吟遊詩人クレネン一家は南部から北部に向けて旅をしている途中、見知らぬ少年を馬車に乗せたのですが、そこから父が殺され、兄ダグナーは捕えられ、末っ子モリルは父が遺した弦楽器クィダーを抱え、姉ブリッドと共に命からがら逃げ出したのですが…。

主人公のモリルはかなり悲惨な目に遭います。目の前で父親が殺され、縛り首にされるかもしれない兄を置いて逃げなければならず、父が「北部に送り届ける」と約束した少年を連れて(追手を避けながら)北部へたどり着かねばならない状況。そもそも何故父親が殺されたのかもわからないままモリルたちの旅は続くのです。

でも、そこでやめたらこの本の面白さを味わえません。夜もいつかは明けるし、トンネルを抜ければ陽も射すのです。父の死、少年の正体、クィダーの秘密などが目の前の霧が晴れていくように徐々に明らかになっていくのが快い。そうして、物語の世界に引き込まれていくのです。

王や領主といった権力者ではなく、庶民の側から描いたファンタジーは珍しいのでは? 主人公の運命と葛藤、勇気を存分に見せてくれます。リアルな登場人物と、ありえない魔法のアンバランスが面白いのと、しょうもない奴だと思っていたら大化けすることもあるのが愉快。これはもう4巻読み終えるまで止まりそうにありません。

2010年12月 3日 (金)

胸の振子~妻は、くノ一 8 (風野 真知雄)

「妻は、くノ一」シリーズ第8弾。抜け忍である織江は彦馬のそばにいながら会うことができません。今回も織江が幼い頃世話になったことのあるくノ一が、神田明神近くの裏通りに「浜路」という小料理屋を出して網を張ってきます。鳥居耀蔵や同心の原田とともに彦馬もその網にかかってしまうのでした。

忍者同士のうらみや死闘など暗くなりがちなストーリーを茶化してくれるのが中奥勤めの鳥居耀蔵や彦馬の跡継ぎである雙星雁二郎ら、とぼけた人物。まるで時代小説の名を借りた松竹新喜劇を観ているよう。彦馬と織江が夫婦としていっしょに暮らせるようになるとこの物語も終わってしまうでしょうから、このじれったい状態のまま、いろんな騒動が起きるのを見守るしかないのでしょうね。それはそれで面白そうです。

2010年12月 2日 (木)

涼宮ハルヒ大研究 (ハルヒ研究会)

文字通り「涼宮ハルヒ」シリーズの突っ込み本です。「読者おいてけぼりの比喩表現満載」というのはまさに同感。わたしがこのブログでご紹介した「おもしろ表現」に対する解説と突っ込みがメインです。ですから「涼宮ハルヒ」を全巻読んだ方にお勧めしたい。「なるほどそうだったのか」と思うところもありますが、さらっと用語解説だけで流されて物足りなく思うところもあり、もうすこし突っ込んで欲しかったというのが正直な感想です。(贅沢?)

長門有希は子供を生むことができるのか、という話題がありましたが、それ以前に長門の身体は(人間のように)年齢と共に成長するのでしょうか?

2010年12月 1日 (水)

とある飛空士への恋唄4 (犬村 小六)

「とある飛空士への恋唄」シリーズ第4弾。空族との先の戦闘で3人の級友を失ったカルエルはクレアに自分の正体(元皇子カール・ラ・イールであること)を明かします。するとクレアはカルエルから離れていってしまう。一方、空族による攻撃によって被害を受けた町を慰問に来たニナ・ヴィエントを見たアリエルは一目でそれがクレアであることを見抜き、カルエルの苦境を知るのでした。

しかし、ひとりひとりの気持ちなどお構いなしに空族は攻めてきます。飛空科の学生を囮にしようとする上層部に反発した教師たちは学生に避難を勧めます。が、それでも飛び立ったカルエルと3名。このままではクレアが乗る戦艦ルナ・バルコだけでなくイスラまで陥落してしまう。操縦するカルエルと射撃手のイグナシオの会話(怒鳴りあい)が愉快。戦闘中なのに愉快といっては不謹慎ですが、余裕のないカルエルと自信満々のイグナシオの性格が好対照です。

しかし、カルエルたちの奮闘も虚しく「もうダメだ~」というときクレアが立ち上がり…!

やっと面白くなってきました。次の5巻で完結だとか。期待しましょう!

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