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2010年10月

2010年10月31日 (日)

タラ・ダンカン ~ 幽霊たちの野望 (上) (ソフィー・オドゥワン・マミコニアン)

「タラ・ダンカン」シリーズ待望の第7巻です。年1冊ペース刊行なので、前巻までのストーリーを忘れてしまっています。まずは「これまでのあらすじ」をじっくり読んで復習です。上巻の目次はつぎのとおり。

  1. なだれこむ幽霊たち
  2. 最愛の人、ロバン
  3. ふたりのカル
  4. タラのつぐない
  5. 謎の青年シルヴェール
  6. ファブリスとモワノーの再会
  7. ”光の手”を受け継ぐ者、アンジェリカ
  8. さすらいの騎士の冒険

幽霊がなだれこんできて、タラは何か償わなければならないようなことをしたことがわかります。だから表紙のタラは泣いているのでしょうか。

そう、タラはとんでもないことをしでかしたのです。父親を生き返らせるために作った魔法の水薬が原因で、あの世から(タラたちのいる)別世界に幽霊たちがなだれこんできて、人間たちを次々と乗っ取っていったのです。タラの恋人ロバンも幽霊に取り憑かれて死んでしまいます。なんとかして幽霊をあの世に追い返さねばなりませんが、ロバンの死にショックを受けたタラは「わたしも死んでしまいたい」。一方、オモワ帝国の女王リスベス女帝に取り憑いたのは宿敵マジスターだったのです!

例によって大事件を引き起こしたタラは落ち込んでいる場合ではなく、(犬猿の仲の)アンジェリカ、謎の青年シルヴェールと3人で幽霊退治の方法を探す旅に出るのでした。このシリーズの魅力のひとつは、次から次へと息つく暇もない展開で読者を退屈させないところ。いろんな登場人物があちこち動き回って張りまくる伏線を最後に丁寧に回収していくさまは見事です。あとは決して仲間を見捨てない点と、ユーモアに溢れている点でしょう。変装したアンジェリカが狼に変身したタラに驚いた様子は可笑しかったですし、宿敵マジスターでさえ、タラの母セレナにぞっこんなところが弱点になっていて失笑を誘うこともしばしば。

それにしても、ロバンの死に打ちひしがれていたはずのタラがシルヴェールに惹かれていったりと、どうも惚れっぽいのは、母親セレナに似たのか、あるいは(作者が)フランス人だからでしょうか。でもモワノーは一途みたいだから「人によりけり」ということなのでしょうね。 (下巻につづく)

2010年10月29日 (金)

涼宮ハルヒの動揺 (谷川 流)

「涼宮ハルヒ」シリーズ第6弾は、5巻同様の中短編集です。表紙はふたたびハルヒです。

  1. ライブアライブ
  2. 朝比奈みくるの冒険 Episode 00
  3. ヒトメボレLOVER
  4. 猫はどこへ行った?
  5. 朝比奈みくるの憂鬱

「ライブアライブ」は文化祭であるバンドが出演辞退の瀬戸際にあったのを、ハルヒがボーカル、長門がギターで飛び入り参加した話。「GOD KNOWS」は気恥ずかしいくらいストレートなラブソング。長門の超絶ギターテクニックもあわせて、ぜひアニメで見て(聴いて)ください。キョンいわく「(前略)そのイントロだけで俺は腰が砕けそうになった。長門がマーク・ノップラーかブライアン・メイかと思うようなギターテクで超絶技巧を開始したからだ」。マーク・ノップラーはダイア・ストレイツ、ブライアン・メイはクイーンのギタリスト。ハルヒが「動揺」したのはきっとライブ後のことでしょう。

「朝比奈みくるの冒険」は文化祭の映画撮影の話。「ヒトメボレLOVER」はキョンの友人が長門にひとめぼれした話。キョンは長門をその友人に会わせるのだが…。「無口を保つ長門の前をハンミョウのように歩きながら」。ハンミョウ(斑猫)はカミキリムシみたいな昆虫。一体どんな歩き方をするのでしょう?

「猫はどこへ行った?」は5巻の「雪山症候群」で行われた推理ゲームの話題。猫(シャミセン)が鍵となっています。古泉(作者)はシナリオを考えるのに苦労したみたいですが、最初からゲームだとわかっていたせいで緊迫感に欠けていました。

最後の「朝比奈みくるの憂鬱」が今回いちばん面白かったかな。なにやら悩みがありそうなみくるから日曜に付き合ってほしいと誘われたキョンは「(前略)拒否する理由など地底をモホロビチッチ不連続面まで掘り返してもでてきたりはしないだろう」。モホロビチッチ不連続面とは地球の地殻とマントルの境のことなので、そんなところまで掘り返すのは不可能であります。翌日、ふたりが日曜に会っていたことがハルヒにバレて「白状しなさい!」とつるし上げられるシーンが目に浮かぶようで可笑しかった。

意外な人名や科学技術用語が飛び出す「おもしろ表現」が多用されている話は作者の気合が入っているような気がします。さて、次の第7巻は長編のようなので楽しみです!

2010年10月27日 (水)

涼宮ハルヒの暴走 (谷川 流)

「涼宮ハルヒ」シリーズ第5弾。夏、秋、冬の出来事を描いた中篇集。表紙は鶴屋さんとキョン妹です。鶴屋さんは物語中でも存在感を増してきます。

「エンドレスエイト」は無限ループの8月。文字通り「暴走」の結果です。アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」では同じ内容を何度も見せられて閉口したっけ。オチもやや苦しい。(おいおい)

秋の「射手座の日」は「コンピュータ研」が自作のパソコンゲームでSOS団に勝負を挑んできた話。勝負と聞いて怯むハルヒではありません。歓ぶのです。(笑) 特殊能力を使用したインチキ、反則を封印したキョンですが、長門有希の活躍によりコンピ研のインチキが発覚し、返り討ちのする話。これは溜飲が下がりました。ま、ちょっと気の毒な感じもしますけど、コンピ研。

冬の「雪山症候群」は、鶴屋さんの別荘でミステリー合宿をする予定だったのになぜか冬山で遭難するハルヒたち。見知らぬ山荘にたどり着き、勝手に上がり込んだハルヒは勝手にくつろぎ楽しみます。しかし、なにかおかしい。ここはヤバい。しかし出ることができません。さて、どうする?

結局、ゼンブ長門有希の力を借りています。長門ファンには興味深いかもしれませんが、わたしとしては5巻はイマイチ、かな。おもしろ表現も少なめです。

翌日、雨でも降ればいいとテルテル坊主に五寸釘を刺していたのに、とんでもない日本晴れが到来し(後略)」。テルテル坊主を逆さに吊るすというのは聞いたことあるけど五寸釘とは徹底してます。バチが当たって二度と晴れないかも。(笑)

キョンが古泉を指して「(前略)いつチェレンコフ放射を始めるか予測不能な放射性物質の近所にいるようなものだろうし、ヘタに近づきたくなかったというのが本音かもしれん」。チェレンコフ放射とは、(核反応などにより)物質中の電子が光速を超えて移動する際、青白い光が出る現象。ハルヒは放射性物質ですか。

キョンがハルヒを指して「やはりデビルイヤー、聞こえていたらしい」。地獄耳、ね…。

ハルヒいわく「まるでマリー・セレスト号みたいね」。1872年、無人で漂流しているのを発見された帆船。それをもとにコナン・ドイルが「J・ハバクック・ジェフソンの証言」という短編小説を書いています。ハルヒは他にもオイラーの多面体定理がわかっていたりと、たしかに頭が良さそうです。

この「涼宮ハルヒ」シリーズを読んでいると「あれ、その話はまだ出てきてないじゃないか」というように、時系列がおかしな部分もありますが、それを気にしてはいけません。いずれどこかで解決します。おおらかな気持ちで楽しみましょう!

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2010年10月25日 (月)

尾張ノ夏 ~ 居眠り磐音 江戸双紙 (佐伯 泰英)

待ってました!

第31~32巻「更衣ノ鷹 (上) (下)」でそれまでの環境が瓦解して(リセットされて)しまい、33巻「孤愁ノ春」 で田沼意次の刺客から逃れるため、磐音とおこんは江戸を離れ尾張名古屋へ。逃避行は読んでいても侘しくストレスが溜まりましたが、この34巻「尾張ノ夏」で、待望の「居眠り磐音 江戸双紙」が帰ってきました!

名古屋の寺に身を寄せた磐音とおこんは、他に伝手もないまま偶然通りがかった呉服屋の尾州茶屋家で神君家康公より拝領の陣羽織をめぐる騒動に巻き込まれ、騒ぎを収める手助けをするのです。正体を伏せたままの磐音とおこんに、茶屋の大番頭が興味を持ち、「剣の稽古ができる場所と相手を探している」という磐音を尾張藩道場に案内すれば、師範をあっという間に転がしてしまい、同席していた両家年寄 竹腰をも巻き込んで大騒ぎに…。

江戸の両替商 今津屋に出入りするようになったときのことを思い出しました。どこに行っても磐音は剣の腕だけでなく、その温厚で誠実な人柄ゆえに皆に信頼され、助け助けられる関係を築いていくのです。個人的にはご当地 名古屋ネタもうれしい。時代小説の醍醐味のひとつは、その時代背景や文化を知るきっかけになること。 当時、名古屋の城下町につながる街道は「五口」といい、熱田口、枇杷島口、大曾根口、清水口、岡崎口があったそうです。熱田、枇杷島、大曽根、岡崎は地名として残っていますし「清水口」はそのままあります。ちなみに「尾州茶屋家文書」が名古屋市蓬左文庫に残っているとか。

「磐音 Vs. 田沼意次」の構図は変わらず、磐音側に尾張藩と尾州茶屋が加わりました。尾張藩は徳川御三家の筆頭であり、尾州茶屋は表向きは呉服問屋ながら裏では諜報活動も行っています。一方、江戸の仲間である三味線づくりの鶴吉や今津屋も、磐音とおこんの力になろうと動き出します。やられっぱなしじゃイケマセン。まずは、おこんが無事に元気な子を産んでくれることを祈り、磐音たちの尾張名古屋での活躍を期待しています!

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2010年10月23日 (土)

涼宮ハルヒの消失 (谷川 流)

「涼宮ハルヒ」シリーズ第4弾。今回はタイトル通り、ハルヒが消えてしまいます。ある日突然ハルヒがいなくなっていて、キョン以外には誰もそのことに気付いていません。動揺したキョンは学校中走り回りますが、朝比奈みくるはキョンのことを知らないし、文芸部の長門有希は普通の女の子だし、古泉一樹にいたっては在籍していたはずの1年9組そのものがなくなっています。おまけに、消えたはずの天敵 朝倉涼子が復活してる。さぁ、キョンはパニックです!

落ち着いて考えれば、ハルヒのいない平和な世界も悪くないはず。でも、キョンはハルヒに会いたいのです。そう、素直にならなくちゃね。困ったときには長門有希が助けてくれる、はずなんだけど…。

では、おもしろ表現集。

(ハルヒが)世界一有名な猫のような笑いを浮かべている。これはチェシャ猫のことでしょう。よほどニタ~っとしたのでしょうね。

とある所にとても不幸な人がいたとする。その人は主観的にも客観的にも実に見事なくらいの不幸な人で、悟りの奥義を極めた晩年のシッダルタ王子でさえ目を逸らしてしまうような本質的な不幸を体現している人間である」。お釈迦様でさえ目を逸らしてしまう不幸な人間って一体?

(長門を指してキョンいわく)「それともこの時期の平均的な高校女子一年のメンタリティはクジラ座α星の変光周期並みに不規則なのか?」 クジラ座はうお座やてんびん座の近くにあって、そのα星はミラ。変光周期は331.65日だから、女子高生の気分ほどコロコロ変わるわけじゃない(と思う)。

キョンが長門宅で朝倉涼子と3人でおでんを食べているときの様子。「そんな地獄の門前でビバークしているような食事風景が一時間ほど続き、カチコチに肩が凝った」。これには大笑いしました。キョンは朝倉涼子に殺されかけたことがあるので「地獄」なんですね。猛吹雪の中でテントを張って凍えていた気分なのでしょう。 ちなみに、第4巻の表紙は朝倉涼子です。学校でも人気者の美人なんだけど実は怖い人なのです。

さて、ここでハルヒが消えたままだと続巻も存在しないわけで、ちゃんと帰ってきますから安心してください。見所は、キョンがどうやってハルヒのいる世界を取り戻すか。これはSFになるのかな。この「涼宮ハルヒの消失」はアニメ映画になりました。興味のある方はどうぞ!

2010年10月21日 (木)

涼宮ハルヒの退屈 (谷川 流)

涼宮ハルヒの「憂鬱」「溜息」につづく第3弾。「憂鬱」が高校一年の春のことで、「溜息」が秋。その間の出来事を短編集として集めたものです。このシリーズのプロローグが気に入ってます。キョンの独白なのですが、ユーモアとアイロニーを絡めた、溜息まじりの語りがおもしろい。ハルヒだけではどこに飛んでいくかわからないのをキョンが現実につなぎ止める鍵になっているというのは恐らく本当でしょう。キョン自身は「SOS団のなかで俺だけが普通の人間だ」と悩んでいますが、ハルヒと付き合えるだけで既に普通ではありません。普通に見えるだけです。

今回の表紙は長門有希です。登場当初はメガネをかけていたのですが、キョンに「メガネがないほうがいい」と言われて外した模様。無口、無表情、無感情な宇宙人ですが、すこしずつ人間化?しているのかもしれません。なにを考えているのかさっぱりわからん彼女ですが、キョンがピンチのときに助けてくれるのは彼女です。今回も野球大会で密かに大活躍。

退屈したハルヒが思いつきで参加を決めた市民野球大会。SOS団の相手は優勝候補の強豪チーム。キョンはさっさとコールド負けして帰る気マンマンだったのですが、負けず嫌いのハルヒの機嫌が悪くなり、閉鎖空間が生まれ、ヤバい雰囲気に…。そこで長門有希がバットに呪文のようなものをかけると「誰でもホームラン」バットに変身。11打者連続ホームランで見事逆転。投げては「絶対ストライク」ボールまで登場し思わず爆笑。反則もここまで来ると芸術です。

恒例、おもしろい表現集です。

内野を一周する敵の三番手を、ハルヒはまるでイアソンに裏切られた王女メデイアのような目で見つめていた」。これは古代ギリシアのエウリピデス作のギリシア悲劇「メデイア」が出典。予想だにしていなかった仕打ち(ホームラン)を喰らったというわけでしょう。

とはいえ、今日ばかりはなぜかハルヒは妙にテンションが低かった。(中略) 讃岐に流されたばかりの崇徳上皇も最初の二、三日はこんな感じだったに違いない」。1156年の保元の乱によって崇徳上皇は後白河天皇によって讃岐国への流刑にされた話です。日本史、覚えてます?

ハルヒもメデイアになったり崇徳上皇になったりせわしないことです。でも、偉い人が多いな。気のせい?

液体ヘリウムみたいな長門の目が俺を見つめている」。一体どんな目じゃい?とキョンに突っ込みたくなりますが、絶対零度の(冷たい)という意味なのでしょう、たぶん。

2話目の「笹の葉ラプソディ」はキョンが3年前にタイムトラベルする話。これはハルヒシリーズを貫く重要な話なのですが、わたしは「誰でもホームラン」バットのほうが面白かった! みなさん、各々の楽しみ方をなさってくださいませ。

2010年10月19日 (火)

精霊の守り人 (上橋 菜穂子)

短槍使いの女用心棒バルサは、川に落ちた新ヨゴ皇国の皇子チャグムを偶然助ける。その身に精霊の卵を宿したチャグムを、父帝は国に災いをもたらすものと刺客を差し向けてくる。そして二ノ妃に呼び出されたバルサはチャグムの命を守るよう頼まれる。

この世界には、人間の目に見える世界(サグ)と目には見えない精霊の世界(ナユグ)があり、呪術師はナユグの世界を見たり、そこの生き物と話をすることができたりします。独自の世界観やユニークな登場人物たちが、読者をグイグイと物語に引き込んでくれます。そもそも児童文学として発表されたものですが、大人たちにも是非読んでほしいシリーズです。

  1. 精霊の守り人
  2. 闇の守り人
  3. 夢の守り人
  4. 虚空の旅人
  5. 神の守り人(来訪編)
  6. 神の守り人(帰還編)
  7. 蒼路の旅人
  8. 天と地の守り人 <第1部> ロタ王国編
  9. 天と地の守り人 <第2部> カンバル王国編
  10. 天と地の守り人 <第3部> 新ヨゴ皇国編
  11. 流れ行く者(守り人 短編集)

以上、タイトルに「守り人」とあるのがバルサが主人公、「旅人」とあるのがチャグムが主人公になっています。 アニメ「精霊の守り人」も面白いです。

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2010年10月17日 (日)

涼宮ハルヒの溜息 (谷川 流)

「涼宮ハルヒの憂鬱」につづく第2弾。表紙は朝比奈みくる。なぜ「溜息」なのかは不明です。溜息をつきたいのはキョンかも。謎の同好会「SOS団」の団長 涼宮ハルヒは傍若無人、猪突猛進、他人の言うことなんか聞きやしません。しかし、なぜかキョンだけはSOS団の中で唯一ハルヒに意見できるのです。1言ったら100億倍になって返ってきますから、ふつうは怖くて何も言えません。(笑)

たかがライトノベルと侮ってはイケマセン。ぶっ飛んでるハルヒを冷静に分析しつつ語ってくれるキョンをはじめとして、登場人物のもつユーモアと教養のレベルは意外と高いのです。たとえば… (以下、太字が引用部分です)

そう言ったハルヒの顔は、第二次ポエニ戦争でアルプス越えを決意したばかりのハンニバルのような、迷いのない晴れやかな輝きを放っていた」。紀元前3世紀、カルタゴのハンニバル・バルカは、ローマ軍の意表を突いてアルプスを越えて北から攻め込んだ伝説の将軍。 また、

どこでなにを撮ろうがそれはハルヒの自由であり、その自由はインノケンティウス三世時代のローマ教皇権のように侵しがたいものなのである」。12世紀末から13世紀初頭にかけてローマ教皇権が最強の時代でした。そして、古泉いわく、

僕のクラスではシェイクスピア劇をやることになっているんですけどね。『ハムレット』です。僕はギルデンスターン役を仰せつかりまして」 知らん名だ。どうせ脇役だろう。「本来はそうだったんですけどね。途中でストッパード版に変更になったんですよ。ですので僕の出番も結構増えてしまいました」。これはイギリスの劇作家トム・ストッパードがハムレットの裏側を描いた『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(1967年) のことですね。端役から主役に変わったのですから科白も増えたことでしょう。

と、そんなことは知らなくても「涼宮ハルヒ」シリーズを読むには困りませんが、ちょっと調べてみると深読みしているような錯覚に浸ることができます。(笑)

閑話休題。今回、SOS団は学園祭の出し物に映画を撮ることにしました。そのドタバタ劇です。プロローグで、キョンがハルヒに長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹の正体を明かしたのですが、彼女のリアクションは「ふざけんなっ!」。変なところで常識的なのです。その後のキョンの独白がいい味だしてます。

うっかり時限爆弾のスイッチをいれてしまったばかりに、爆弾抱えて右往左往するマヌケ役を押し付けられた一般人的高校生。それが今の俺の置かれた立場である。しかも「涼宮ハルヒ」と書いてあるこの爆弾には爆発予定時刻までのカウントダウンが表示されないのである。(中略) ほんと、どこに捨てたらいいんだろうな、これ。

キョンがなにを叫ぼうが、どんなに嘆こうが、ハルヒは取り合いません。つまり誰も傷ついたりしないから笑えるのです。ハルヒとキョンの間にある微妙な信頼関係がこれからも壊れずに続くのであれば、この世界も捨てたものじゃないと思うのです。

2010年10月15日 (金)

涼宮ハルヒの憂鬱 (谷川 流)

「世界はお前を中心に回っているわけじゃない」。テレビドラマだったか、本の中だったか、10代の頃、何度も聞いた覚えがある科白。その、前頭部をバシっと打ち据えるような科白を跳ね返してくれる人物が涼宮ハルヒなのです。この世界はもちろん、この銀河も、この時間平面も、彼女を中心に回っています。本人にはまったく自覚がないけれど…。つまり、神が神であるという自覚がないまま神をやっているわけで、かなり危険な状態であるといえるでしょう。

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」。高校入学当日、クラスの自己紹介での科白です。ハルヒは黙って座っていればすっごい美人なのですが、中学時代から変わり者で有名。ほとんど誰とも会話が成立しません。彼女は一体なにを望んでいるのか、なにがしたいのか? これは、ふつうの高校を舞台に、ふつうじゃない女の子が巻き起こす超常騒動を描いた物語です。

語り部は、ハルヒと同じクラスの、それもすぐ前の席の、通称キョンという男子。本誌プロローグにある自己紹介によると、彼は幼い頃、サンタクロースは信じてなかったけれど、アニメやマンガに出てくる宇宙人や未来人や超能力者は信じていたし、そんな世界に憧れていたといいます。異能の悪者相手に闘いたくても彼には特殊能力などありません。だから、誰かが闘うのに巻き込まれてフォローする役になれればいいな、と…見事にキョンの願いは叶ったわけであります。

ハルヒがでっち上げた同好会「SOS団」のメンバー、無口な長門有希、可愛い朝比奈みくる、いつも冷静な古泉一樹も個性的かつ魅力的。ハルヒは知らないうちに最強のメンバーを揃えたわけです。

この第1巻を読んで面白いと思った方は続巻もどうぞ! わたしは長男の蔵書を借りて読みました。

  1. 涼宮ハルヒの憂鬱
  2. 涼宮ハルヒの溜息
  3. 涼宮ハルヒの退屈
  4. 涼宮ハルヒの消失
  5. 涼宮ハルヒの暴走
  6. 涼宮ハルヒの動揺
  7. 涼宮ハルヒの陰謀
  8. 涼宮ハルヒの憤慨
  9. 涼宮ハルヒの分裂
  10. 涼宮ハルヒの驚愕(予定)

4巻の「消失」までは読んでほしい。そこから先はどっちでもいいです。(おいおい)

アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」もあります。長門有希が読んでいる本の表紙がちらっと見えることがあります。本好きにはたまりません。(笑)

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2010年10月13日 (水)

少女ノイズ (三雲 岳斗)

黒髪の美人女子高生と、進学塾でアルバイトする大学生は、まるで鋭い洞察力と分析力をもつ名探偵と、不器用でお人よしの助手のよう。ふたりは進学塾を舞台に起こる連続殺人事件やストーカー事件などを解決していきます。全5章から成る、ちょっぴりライトノベル風な小説です。

  1. Crumbling Sky
  2. 四番目の色が散る前に
  3. Fallen Angel Falls
  4. あなたを見ている
  5. 静かな密室

その大学生は殺人現場の写真撮影が趣味?であり、女子高生は学校でも家庭でも優等生を演じている反動のために塾では死んだようになっているという、どこかしら世間の間尺に合わない部分のあるコンビです。はじめは素っ気無い彼女ですが、次第に彼に対して心を開いていきます。その微妙な心理の変化がひとつの読みどころでしょう。

最後の「静かな密室」のトリックはちょっと苦しいかと思うのですが、慌ててアメリカから帰国した彼女はかわいいから許します。(笑)

2010年10月11日 (月)

孤愁ノ春 ~ 居眠り磐音 江戸双紙 (佐伯 泰英)

前回「更衣ノ鷹」で、作者はこれまでの流れに区切りをつけました。磐音たちが支持していた11代将軍候補 徳川家基が病死(暗殺?)し、佐々木玲圓、おえいは自裁。尚武館佐々木道場は幕府から閉鎖を命じられたのです。磐音にとっても、読者であるわたしにとっても青天の霹靂。こんなふうにリセットスイッチを押すなんて…と恨み言のひとつも言いたくなりました。

が、磐音とおこんが戻ってきました。すごく懐かしい。「久しぶりっ!」と声をかけたいところですが、顔色が冴えません。それもそのはず、幕府では田沼意次が権勢をふるい、磐音をはじめとする家基擁護派は粛清にさらされることになります。密かに暮らしていた今津屋の御寮にも刺客が送り込まれてきたため、磐音とおこんは江戸を脱出し、佐々木家の墓があるという刈谷へ向かいます。

これまで磐音は、町人から忍びや幕府の要人まで多くの人たちと関わり、親交をもってきたことが思い出されます。田沼の監視下にあっては、そういった人たちを訪ねることはもとより、手紙を出すことさえ憚られる始末。ほんと、磐音は「いい人」です。ふつうこういう人物は長生きできないのですが、磐音は主人公ですから死にません!

お腹に子を宿したおこんとふたりの逃避行。今回は熱田神宮に参詣し、尾張名古屋泊り。田沼一派に一矢報いる日を楽しみにしています。

2010年10月 9日 (土)

トリツカレ男 (いしい しんじ)

「ジュゼッペ、今度はなににトリツカレたんだい?」

凝り性のジュゼッペは、オペラにはじまり、三段跳び、サングラス集め、外国語習得、探偵稼業、等々。ハツカネズミに凝った挙句、言葉をしゃべるネズミまで生み出してしまいます。毎日レストランで働くジュゼッペですが、接客がすべてオペラ調では大迷惑。おかげで暇を出される始末。しかし、長くは続かないのがジュゼッペです。そんなことを繰り返すうち、街で見かけた風船売りの少女に恋をしました。見た途端、固まってしまうのが可笑しい。外国からやって来て、まだ会話が不自由な少女の名はペチカ。ヒロインの名前が「ペチカ」というのは「童話物語」 (向山 貴彦)と同じ。偶然でしょうけれど。

素敵な笑顔を見せてくれるペチカですが、ジュゼッペは彼女の笑顔の影に「こころのくすみ」を見つけます。その原因をハツカネズミに調べさせては密かに解決に奔走します。そこで過去に習得した技術が生かされるのです。それにしても「おいおい、そこまでするか?」という無私無欲な献身ぶり。果たしてジュゼッペの恋は成就するのでしょうか?

文庫本で160ページと比較的薄くて、文章も読みやすい。ドキドキしながらも、ほっとするストーリー。まさに現代の「童話」。泣いて笑える、気分転換剤としてお勧めします!

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2010年10月 7日 (木)

片手斬り ~ 若さま同心 徳川竜之介 11 (風野 真知雄)

左手を大怪我したため、柳生新陰流の秘剣「風鳴の剣」をつかうことができなくなった徳川竜之助。しかし、師弟相伝の秘剣は、最後に師弟が真剣勝負しなければならず、それはどちらかが斃れることを意味する。竜之助はそんな「呪われた剣」は封印すべきだと考えていた。ところが尾張柳生はそうは考えていなかった…。

「若さま同心」は竜之助が左手を切り落とされた時点で第1期が終了し、これが第2期のはじまりという気がします。傾いていく幕府と、襲いかかってくる剣客を縦糸に、奉行所同心として出会う不思議な事件の謎解きが横糸になって物語りは進んでいきます。

「水戸黄門」ではないけれど、時代ものには「安心」を期待してしまうのかもしれません。主人公が死ぬことはなく、最終的には勧善懲悪が約束されている、みたいな。でも、そこに安住していてはマンネリ化してしまうのかもしれません。

  1. 動かぬ手
  2. 顔が犬で
  3. 瘠せた権八
  4. 天女とごぼう
  5. くわばらくわばら

実際は「動かぬ手」は序章なので、以下4章にそれぞれ事件と謎解きが用意されています。いちばん面白かったのは「天女とごぼう」。結末は哀しいけれど、ごぼうの謎が意外でした。気になるのは、竜之助が同心で終わるのかどうか。最後まできちんと描いてほしいと願っております。

2010年10月 4日 (月)

重力ピエロ (伊坂 幸太郎)

両親とひとり息子の3人家族を強姦魔が襲い母親が妊娠。父親は自分の子として育てることを決意し、兄弟は育っていきました。DNA(遺伝子)関連企業に勤める長男 泉水と、落書き(グラフィティアート)を消す仕事をしている次男 春。出生の秘密は兄弟も承知しています。重い過去を背負った小説はともすると暗くなりがちですが、それをあえて「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」と春に言わせます。

これは落書きと放火と遺伝子の物語です。連続放火事件に興味をもった兄弟は、落書きと放火に関連があることに気付きます。そして、さらに遺伝子にも関わっていることがわかるのです。父親が異なる兄弟にとっても遺伝子は大きな問題です。癌の手術のために入院している父親も放火事件の謎解きに興味を持ち、親子それぞれでの調査が続きます。

なぜ「重力ピエロ」なのか。「陽気に伝えるべき」だからピエロであり、空中ブランコを飛ぶピエロにとって「重力は消えるんだ」。それが冒頭「春が二階から落ちてきた」とかかっています。重力を跳び越え、遺伝子も飛び越えてしまう家族。それでも、生と性は分かち難い現実。

もしこれが裁判になって、その裁判員に選ばれたならどう裁くか…考え込んでしまいました。

2010年10月 2日 (土)

きつねのはなし (森見 登美彦)

きつねのようで、もっと胴の長いケモノ。古道具屋と、その怪しげな客。祖父の通夜に、先代から預かったという家宝を持ってきた古道具屋。それは水の入った瓶だった。京都の闇に潜む「魔」を描く、ホラー短編集。

  1. きつねのはなし
  2. 果実の中の龍
  3. 水神

上記4編が収められています。森見登美彦らしく、京都が舞台になっているのですが、ひたすら暗~い怪談です。夏に読むと涼しくなるかも。(苦笑)

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