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2010年8月

2010年8月31日 (火)

エターナル・マインド 果てなき世界 ~ マインド・スパイラル 4 (キャロル・マタス&ペリー・ノーデルマン)

グレイグ国、ジェピス国、アンディラ国で冒険を繰り広げてきたレノーラとコリンが今度はいきなり現実の冬のカナダの街にあらわれた。果たして、元の世界にもどれるのか? 時空を越えたふたりの冒険が、いよいよ最終章を迎える!

レノーラとコリンは気がつくと雪の上に倒れていました。ここは一体どこ? 街の人に尋ねるとウィニペグ(カナダ)だといいます。街にはレノーラとコリンのそっくりさんが大勢いて「マインド・スパイラル」の著者を招いて(ファンの)集会が開かれることを知ります。ふたりは元の世界に戻る手がかりを探すため、集会でキャロルとペリー(本物の著者)に会います。

「マインド・スパイラル」シリーズの魅力は、レノーラとコリンが巻き起こす(巻き込まれる?)騒動と、それを解決していく様子にあります。想像力を駆使すれば時空も超えられるとはいえ、物語の主人公が著者に会うなんて反則だという気もしますが(苦笑)そこにもちゃんとオチが用意されています。

2010年8月30日 (月)

マーヴェラス・マインド 時空の扉 ~ マインド・スパイラル 3 (キャロル・マタス&ペリー・ノーデルマン)

レノーラ王女とコリン王子は、1巻でグレイグ国の独裁者ヘヴァークを倒し、2巻ではジェピス国に現われた巨人は、レノーラがジェピス国で自由を解き放ったため世界のバランスが崩れたためだとわかり、なんとか混乱を収拾しましたが、いずれもレノーラが原因だったのです。「マインド・スパイラル」シリーズ第3弾。

そして、レノーラとコリンの結婚式を行うためアンディラ国へ向かったのですが、そこでは想像の力が働かなくなっていて、城も街もボロボロの現実を晒していました。失われたバランスを取り戻すため「いなか」へ調査に出たふたりはコリンも見知らぬ町にたどり着きます。町の人間はみな青い服を着て厳格。まったく融通が利かず想像力もありません。牢屋に囚われたものの、手間がかかりすぎると追放されたふたり。城に戻ると大混乱で結婚式どころではありません。

バランスを作り出したのも、壊したのも結局はレノーラのせいだという痛快なストーリー。とんでもないお姫様を常識家のコリン王子が諌める(助ける)というパターンです。次巻で完結するはずなのですが、一体どうなることやら。大団円を迎えることができるのでしょうか。

2010年8月28日 (土)

ノーチラス号の冒険 12 ~ ノーチラス号の帰還 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

グリーンランドを離れ、ヴォータン号を追うノーチラス号。追い詰められた敵がいつ民間船を襲うかもしれないという危機感のもと、トラウトマンはある決意を固める。しかし、そこから発生する新たなトラブルがマイクたちをまさに絶体絶命の状況に陥れた。マイクと仲間たち、そしてノーチラス号は無事自分たちの居場所へと帰還することができるのか? 「ノーチラス号の冒険」シリーズ最終巻!

第12巻は総400ページ強あって、11巻までの2倍ほどの厚さがあります。ノーチラス号と酷似したヴォータン号、トラウトマンの息子など、脳裏に引っかかっていた疑問が解決し、ジュール・ベルヌの「海底二万里」に対するオマージュとして見事な大団円を迎えます。こういう冒険小説を子供たちと同じように楽しめる大人でいつまでもありたいと思います。

2010年8月27日 (金)

ノーチラス号の冒険 11 ~ 氷の下の街 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

ドイツの軍艦からの攻撃を避け、アイスランド沖に停泊中のノーチラス号は、グリーンランドから発せられた緊急救難要請を受信する。マイクとトラウトマンは救助のため、ノルウェーの小さな町に上陸し、そこで自称ドイツ商務官フォム・ドルフに出会うが、彼はドイツの軍艦を巻き込んだ企てを進めていた。「ノーチラス号の冒険」シリーズ第11弾。

今回の「怪しい人物」はフォム・ドルフという男です。人当たりはよいのですが、こんな小さな町で商務官にどんな仕事があるのでしょう。そこへドイツの駆逐艦と潜水艦の艦長まで現われ、マイクたちは逃げ出しますが捕まってしまいます。そして彼らが目にしたのが「氷の下の街」だったのです。

各巻のプロットがシンプルなので児童書としても読みやすく書かれているわけですが、謎を伏せておくことによってスリルを演出しています。大人が読んでも退屈しない、一級の冒険小説です。本シリーズも次の12巻で完結します。

2010年8月25日 (水)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド (下) (村上春樹)

上巻に続いて、老博士を孫娘と共に助けに向かいます。東京の地下奥深くへ。一方「世界の終り」では、門番が寒さのために死んだ一角獣を燃やす煙が上っていきます。ふたつの物語が続いていくなかで「世界の終り」の街は主人公が自ら作り出したものだということがわかってきます。それであれば自分で変えることもできるはず。「世界の終り」から脱出することができるはず。切り離された「影」との脱出計画が実行に移される日も近いでしょう。

しかし、結末は見事に予想を裏切ってくれました。最後のページを読み終えてしばし呆然。「え、どうして?」 これはもう一度読み直してみたほうがいいかもしれません。

ちなみに「世界の終り」をモチーフとした「灰羽同盟」というアニメがあります。興味のある方はこちらもどうぞ。

2010年8月24日 (火)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド (上) (村上春樹)

「僕」と「私」を主人公とする「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の章が交互に入れ替わりながら物語は進行します。「世界の終り」は、記憶を失った「僕」が、一角獣が生息する、壁に囲まれた街に入り、図書館の夢読みとして働きつつ、街のもつ謎を調べていく物語。「ハードボイルド・ワンダーランド」は、暗号を扱う「計算士」として働く「私」が、ある老博士から最高度の暗号処理技術「シャフリング」の依頼を受けたことから「記号士」や第三者の組織から付け狙われるようになります。

その老博士は様々な動物の頭骨のコレクションを持っていて、口蓋の出す音の研究をしています。その博士から「私」は一角獣のものと思われる頭骨を渡されます。「世界の終り」はどの時代のどの国とも知れないファンタジーワールド。一方「ハードボイルド・ワンダーランド」は近未来の東京と思しき世界。一見無関係に思えるふたつの世界が一角獣などの共通項で徐々に結ばれていきます。

上巻は、老博士の孫娘が「世界が終わっちゃう。祖父を助けて!」と駆け込んでくるところまで。下巻が楽しみです。

2010年8月22日 (日)

東の海神 西の滄海 ~ 十二国記 (小野 不由美)

その昔、麒麟 延麒は、焦土と化した雁国の王に尚隆を選んだ。20年を経て、ようやく野は緑に包まれ、田畑を耕し、実りを得ることができるようになってきた。前王が選んだ九つの州の州候を罷免せねばと考えていた矢先、元州が、延麒の旧知である更夜と妖魔を使い延麒を捕えた。上帝の権限を求めて麒麟を人質に取った元州に対して延王 尚隆は一体どうする?

朝儀に顔を出さないばかりか、ふらりと城を抜け出すことも日常茶飯事の延王。側近からは毎日苦情、嫌味を投げつけられてもどこ吹く風の無頼漢。諌め役の麒麟 延麒も同じくらい不真面目。しかし、憎めないふたりなのです。延麒は尚隆のことを「あいつは莫迦だから」というけれど、何も考えていないわけではないようです。

麒麟を害されると王の天命も尽きます。つまりは死んでしまうのです。ましてや麒麟は血を見ただけでも病気になってしまうほどの仁の生き物。内乱を延王がどう収めるのかが見ものです。イチかバチかの賭けであっても天意に沿うものであれば延王は勝利するはず。実際、麒麟は自分を救いに来た人物を見て仰天します。

王が道を踏み外せば麒麟は失道といって病に伏せる。そのままでは王も斃れる。そんな命がけの政を総理大臣に求めるのは夢物語でしょうか。

2010年8月21日 (土)

風の海 迷宮の岸 ~ 十二国記 (小野 不由美)

天啓にしたがい王を選び仕える神獣・麒麟。蓬莱国で人間として育った幼い麒麟・泰麒には王を選ぶ自信も本性を顕わす転変の術もなく、葛藤の日々を過ごしていた。やがて十二国の中央、蓬山をのぼる人々の中から戴国の王を選ばなくてはならない日が近づいてきた。壮大なる構想で描くファンタジー巨編。

第1巻「月の影 影の海」は、ふつうの高校生 陽子が景国の王となるまでを描きましたが、今回の第2巻では戴国の麒麟が王を選ぶまでが描かれます。この麒麟 泰麒は生まれる前に蓬莱国、つまり現代の日本で生まれ育ち、10歳になってようやく蓬山に連れ戻され、自分が麒麟であることを知らされたのです。

自分が麒麟であることは不思議とすんなり納得できたものの、自分が王を選ぶことができるのかどうか自信がありません。育ちのせいなのか、心優しい反面、気が小さい点、周囲の世話係も心配です。それでも夏至には戴国の王になろうとする者たちが蓬山に登ってきます。泰麒は天啓を受け、王を選ぶことができるのでしょうか。

泰麒が日本で過ごした様子を描いた「魔性の子」もあわせてどうぞ!

2010年8月19日 (木)

ミッシング・マインド 時空の扉 ~ マインド・スパイラル 2 (キャロル・マタス&ペリー・ノーデルマン)

巨人が現われて暴れていると聞いたレノーラ王女はじっとしていられず、密かに城を抜け出す。自分がいなくなれば追手がかかると考え、自分の分身を作り出したのが混乱に拍車をかける。巨人に襲われたところをコリン王子が救ってくれたのはよいけれど、そのコリンは勇ましい剣士だった。なんか変。コリンらしくない。巨人が現われた原因を調べるには過去の世界を見てくる必要がある。そこでとんでもない事実が明らかに…。相変わらず奇想天外な冒険ファンタジー「マインド・スパイラル」シリーズ第2弾!

互いに惹かれあうレノーラとコリンですが、まだ結婚はしません。最後まで気を持たせる作戦でしょうか。それはともかく、巨人の正体は1巻で登場した小人だったとは! しかも今回は最後にもう一捻りあります。レノーラ、あんたは一体…。(苦笑)

2010年8月18日 (水)

スクランブル・マインド 時空の扉 ~ マインド・スパイラル 1 (キャロル・マタス&ペリー・ノーデルマン)

想像したことを現実にできる力を持つ、気が強い王女レノーラ。人の心を読むことができる力を持つ、気の弱い王子コリン。このふたりが飛びこんだ世界には、思いもよらない冒険が待っていた。エキサイティングなファンタジーアドベンチャー。

ジャジャ馬王女レノーラは、突然結婚相手を連れてきた父王に大反発。脱走を試みるも失敗し、明日結婚式を行うと申し渡されます。言われるがままに結婚するのは我慢ならないレノーラは、結婚式で清めの水盤に惹かれるまま別世界に飛び込んでしまいます。そこにコリン王子もついてきてしまい、ドタバタ・アドベンチャーが始まります。

想像したことが現実になったり、他人の心を読めるというのはすごい力です。誰でも一度はそんなことができたら、と憧れたことがあるのではないでしょうか。しかし、コリンが力を使わないようにしているように、よく考えたら、それは不幸を招くかもしれない、恐ろしい力です。一方のレノーラは幼い頃からその力で悪戯三昧だったようで、ふたりの性格は対照的。やんちゃなお姫様も嫌いではありませんが「あなたなんか湖の底に堕ちればいいのよ」と言われて、死にそうな目に遭うのはご遠慮したい。(苦笑)

ふたりが飛び込んだ先はグレイグ国。なにやら異様にすっきり、整然とした国。しかし、ふたりは力を失ってしまいます。ヘヴァーク総督は「力をあわせ、完璧な世界をつくり上げよう」とレノーラを魅了しますが、コリンだけは「あいつは信用できない」。そう、ヘヴァークはとんでもない奴だったのです…。

レノーラとコリンが知らないうちに互いに惹かれながら窮地を切り抜けていく冒険譚「マインド・スパイラル」シリーズ第1弾。

2010年8月16日 (月)

サイコロジカル (下) (西尾維新)

「ぼく」は兎吊木垓輔殺害の容疑で玖渚友、鈴無さんと共に研究所の地下に閉じ込められてしまった。このままでは犯人にされてしまう。そこへ現われた盗賊 石丸小唄が助力を申し出て「ぼく」は地下を抜け出し、真犯人を探し出すべく動き出した。

全部で7つある研究棟に窓は一切なく、出入口はひとつだけ。兎吊木が殺されていた7号棟に出入りした記録はない。すると密室殺人!? 基本的にホラー・ミステリーになっていて、最後に「ぼく」が種明かしをして事件は解決したかに見えるのですが、例によって「ぼく」は大怪我をします。毎度毎度お約束なのでしょうか。読んでて痛いです。

で、これまたお約束として、これで終わりではないのです。最後に小唄の正体が明かされ、事件の真相が見えます。「え…そう来ましたか」。良い意味で読者を裏切ってくれる展開をお楽しみください。

2010年8月15日 (日)

サイコロジカル (上) (西尾維新)

玖渚友(くなぎさとも)に連れられ山奥の研究所―堕落三昧(マッドデモン)斜道卿壱郎研究施設―まで兎吊木垓輔(うつりぎがいすけ)に会いに来た「ぼく」。別れ際、兎吊木は言った。 「きみは玖渚友のことが本当は嫌いなんじゃないのかな?」

まず装丁。表紙もよいのですが、裏表紙にはルパン3世よろしく、黄色の初代FIAT500(チンクエチェント)と「ぼく」と玖渚のイラストが描かれていて、takeさんのイラストも魅力のひとつ。内容は「戯言シリーズ」だけあって、戯言全開です。どこからどこまでが戯言なのかは読者の判断に委ねられると思うので、そのあたりも楽しんでしまいましょう。

京都からチンクに乗って訪れた愛知の山奥の研究所。そこには一癖も二癖もある研究員たちがいました。玖渚は兎吊木に「ここから出してあげる」と言い、所長には「兎吊木を返してもらう」と言い、その夜は古い宿泊所に泊まることになりました。「戯言シリーズ」のパターンとして、すべての登場人物に会って翌日になると誰かが死んでいるのですが…。予想的中。無残な死体が磔に、というところで下巻に続きます。

2010年8月13日 (金)

月の影 影の海 (下) ~ 十二国記 (小野 不由美)

夜ごと襲いかかる妖魔を水禺刀で切り伏せ、信じた者には裏切られ、疲れ果てた陽子が出会ったのは半獣の楽俊。彼は人と鼠の混血ですが、博学で向上心をもっています。彼は、海客にも市民権を与えられる雁(えん)国へ行くことを勧め、自分も半獣が軽んじられる慶国を出て雁国へ行きたいと同行を申し出ます。物知りな楽俊と話すうちに自分の正体を知りますが、にわかに信じられません。やっとの思いで雁国へたどり着いたふたりは意外な場所で延王に会います。

陽子は自分が巻き込まれた世界の状況と自分の立場を理解しますが、元の世界に戻りたい気持ちも捨て切れません。さて、陽子の決断は?

上巻では見るも無残な状況が続きましたが、下巻では次々に謎が解けていって胸がすく思い。陽子に与えられた使命は重いけれど、主人公がいかにして困難を克服していくかが見所です。アニメにもなった「十二国記」をどうぞ最後までお楽しみください!

2010年8月12日 (木)

月の影 影の海 (上) ~ 十二国記 (小野 不由美)

「…見つけた」。陽子が通う高校に突然現われた若い男はそう言った。「どうかわたしとおいでください」。いきなり窓ガラスが割れて職員室は大騒ぎ。ケイキと名乗る男と屋上に逃げた陽子に、角をもつ鷲のような巨大な鳥が襲いかかる。剣を渡され「決して手放さないように」。 これはほんの始まりに過ぎなかった。一大冒険スペクタクル「十二国記」の幕開け!

気がつくと陽子は見知らぬ土地でひとりきり。古代中国に似ているけれど何故か日本語が通じます。虚海を越えてきた異国の者を「海客」と呼び、ここ慶国では役所に突き出され尋問、処罰されるといいます。とにかくケイキを探さないといけない。人に騙され捕えられたと思ったら妖魔が襲いかかってくるわ、猿の幻に悩まされるわ、命がいくつあっても足りません。金も食料もなく、あるのは剣と、その剣技を支えてくれるジョウユウなる化物だけ。

ふつうの女子高生に切り抜けられる状況ではないと思うのですが、そこは物語の主人公。なんとか上巻を生き抜きます。ここまで読んだらもうやめられません。下巻ではケイキに会うことができるのでしょうか。乞うご期待!

2010年8月10日 (火)

地に埋もれて (あさの あつこ)

気がつくとわたしは埋められていた!? 「いっしょに死んでほしい」というから心中したはずの恋人がわたしを埋めたなんて…。遠のく意識の奥でシャベルの音がして、わたしが掘り出されたところには一人の少年が立っていた。『NO.6』『バッテリー』のあさのあつこが贈るホラーファンタジー。

殺されて埋められる。なかなかショッキングな始まりです。主人公が葬儀社に勤めていたというのも皮肉な設定です。すべてを捨てて死んだつもりが、謎の少年に救われ「生前やり残したことを7日以内にやりなさい」。森絵都の「カラフル」みたいですが、雰囲気はもっとダークです。

恋人に会いに行ったり、実家に帰って弟に会ったりする中で主人公の過去が明らかになっていきます。 どう生きればいいのか、どう死ねばいいのか、強い意志を持った魂は迷うことがないけれど、弱い魂は迷い、行先を見失ってしまう。人ならぬ「少年」を案内役にして「人は何度でも生き直すことができる」というメッセージを伝えてくれます。一度死んで気になってやり直すというのはこういうことでしょうか。

2010年8月 8日 (日)

美姫の夢 妻は、くノ一 (風野 真知雄)

「妻は、くノ一」シリーズ第7弾「美姫の夢」。夫、彦馬に逢いたいがため、お庭番を抜けて逃亡中の織江。彦馬が暮らす妻恋坂近くを歩いていて、怪しげな男が落とした奇妙な形のものを拾う。それは新たな追手の罠だとも知らずに…。

彦馬が出入りしている静山の屋敷で「これが何か探ってほしい」と頼まれます。赤い勾玉のようですが、紐を通すような穴は開いていません。静山の娘がいくつも持っていたというのです。考えあぐねていたところ、それを見た子供が「○○かい?」。一方、同じようなものを織江も拾っていたのです。

このような、いくつかの謎や事件が並行して進むのですが、彦馬は織江に逢うことができません。逆に織江は彦馬を陰から見守っていますし、静山も事態は把握している様子。知らぬは彦馬ばかりなり。ただ、静山の娘が彦馬に近づいてくるもので織江は心中穏やかではありません。「わたしはこのまま消えたほうがよいのか」。そこへ呪術を操る追手が襲いかかり、織江は追い詰められます。

彦馬と織江の再会が待ち遠しい「妻は、くノ一」です。

2010年8月 6日 (金)

後宮小説 (酒見 賢一)

「腹上死であった、と記載されている。腹英三十四年、現代の暦で見れば一六〇七年のことである」

このように書き起こされるのは、史家の視点で綴られる素乾国の後宮のお話。とくに宮女の「銀河」を中心に進んでいきます。先帝の崩御に伴い、新帝の後宮に田舎娘の銀河が入宮することになり、女大学で半年間(帝王の子を宿すため)性戯を教え込まれ、みごと正妃の座を射止めた。ところが、折りしも反乱軍が城に向かってきており、銀河は後宮を守るべく反乱軍に立ち向かうのだった。第一回ファンタジーノベル大賞受賞作。

なんとも人を食った絵空事を淡々と第三者の視点で書いたものです。銀河が後宮に入るときに通ったトンネルを「たると」と呼び、それは膣(産道)を意味するとか、女大学で「男と女は子宮の有無で区別される」といったり、結局のところ、後宮そのものが子宮を模していることがわかります。ただ、あきれることはあっても嫌悪感はありません。なかなかたいした腕前の作家による、面白い小説だと思います。

「後宮小説」を原作として「雲のように風のように」というアニメも制作されました。著者はアニメの制作には関わっていないそうですが、本書のあとがきに控えめに意見を述べています。

  • 「たのむわ…菊凶」
  • 「王斉美をだせ」
  • 「幻影達たちが遊郭で遊びまくるところは入れて欲しかった」

菊凶というのは女大学の若い助教授みたいな役どころで宮女たちに人気がありますが、キャラが軽いのです。性的な表現は抑えてあるので子供でも楽しめますが、それではどうしても原作の妖しい魅力を伝えきれません。大人が洒落として楽しむ小説「後宮小説」と、子供が楽しむ歴史アニメ「雲のように風のように」という位置づけでいかがでしょうか。

2010年8月 4日 (水)

氷上都市の秘宝 (フィリップ・リーブ)

レン・ナッツワーシー15歳。「死の大陸」の片隅に眠る、かつての氷上都市アンカレッジに住んでいる。平和な日々に物足りなさを感じていた彼女の心の隙に付け込んだのが、盗賊「ロストボーイ」。狙いはアンカレッジの図書館にある一冊の本。口車に乗りこっそり持ち出した挙句、彼らの本拠地に連れていかれるはめに。さらに途中で海賊狩りにあい、水上都市ブライトンで囚われの身になってしまう。そこにいたのは、昔両親を裏切ったペニーロイヤルだった。一方、トムとヘスターは愛娘を救おうとあとを追う。最終戦争後の遥かな未来、移動都市が互いに食い合う奇妙な世界を描いた「移動都市」クロニクル第3弾。

両親(トムとレスター)の冒険譚を聞いて育ったレンは、アンカレッジでの平和な暮らしに退屈していました。そのために盗賊の口車に乗って、アンカレッジ図書館から1冊の本を盗み出し「わたしも連れていって!」。「おい、そんな奴の言うことを信じちゃだめだ!」と叫びたくなります。トラブルに巻き込まれるのがわかっていて、見ているしかない歯がゆさもあれば、逆に「バンっ」と銃砲一発で死んでしまったり、なかなか刺激的な展開を見せてくれます。

反移動都市連盟「グリーンストーム」の最高司令官「ストーカー・ファン」はいわゆるサイボーグ。生前出会ったトムのことをかすかに覚えているので、いずれトムと再会するのを楽しみにしていたら、ファンが部下の裏切りにあってバラバラに壊されて」しまいます。がっかりしていたら、壊れたはずの腕が勝手に動き出して…おまえは「アイアンマン」か!?。(笑)

ブライトンは、イギリス南部の港町。沿岸に白い建物が並ぶ美しい街です。本場の Fish & Chips は油っこかった。桟橋の遊園地は水上都市ブライトンにもあるようです。この物語はフィクションですが、現実の都市のイメージを重ねる楽しみもあります。

本国では「移動都市」の前日譚も出ているとか、第2部も計画されているとか。それも楽しみですが、まずは創元SF文庫から4巻目の完結編が出版されるのを待ちましょう。

2010年8月 3日 (火)

略奪都市の黄金 (フィリップ・リーブ)

炎上する移動都市ロンドンから飛行船で逃げ出したトムとヘスター。2年間、物資輸送などを請け負って、ふたりだけの気ままな旅をしていたが、ペニーロイヤル教授と名乗るうさんくさい人物を乗せてから事態は急転。見に覚えがないのに戦闘飛行艇に襲われ、命からがらたどり着いたのが移動都市アンカレッジ。都市が都市を喰らう、弱肉強食の未来世界「移動都市」の続編。

移動都市アンカレッジでロンドンを思い出したトムは、辺境伯フレイヤ・ラスムッセンに厚遇され、すっかり落ち着いてしまいます。一方ヘスターはトムとフレイヤの仲を裂くためにも早く飛行船を修理して出発したい。そこで話をややこしくしていく元凶がペニーロイヤル。彼の言葉を信じたフレイヤは、祖先の故郷アメリカを目指しますが、盗賊集団「ロストボーイ」が密かにアンカレッジに潜入していたのです。

ひとつひとつの事件が別の事件へとつながっていき、アンカレッジは強大な移動都市に追われる羽目に…。喰われてしまえばアメリカにたどり着けないばかりか、全員奴隷にされてしまいます。アンカレッジの、そしてトムとヘスターの運命は?

フィリップ・プルマンの「黄金の羅針盤」を思わせるスリリングな展開の冒険譚。第3巻「氷上都市の秘宝」に続きます!

2010年8月 1日 (日)

ノーチラス号の冒険 10 ~ 火山の島 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

とある小さな島の近くでマイクとセレナが海で泳いでいると、水が温かいし肌がちくちくする。そのうちに熱い泡が海底からせり上がってきて、慌ててノーチラス号で退避したところ、海底火山が大噴火。島の半分が吹き飛んでしまった。島に小屋の残骸を見つけたマイクたちは上陸し、ドゥラメールという男を救出。火山学者である彼の話によると、他の仲間たちが原住民に捕えられてしまったという。マイクたちは捕虜を救うべく原住民の島へと向かった。

マイクと念話ができる黒猫アスタロスは神出鬼没。気まぐれで、期待どおりには動いてくれないけれど、いざというときには助けてくれます。今回も活躍するのですが、へそ曲がりなのでマイクは神経を逆撫でされることもしばしば。(苦笑)

新たに登場する人物は腹に一物を隠しているというのが「ノーチラス号の冒険」のパターン。マイクは火山学者ドゥラメールを信用できません。まったく信用できないというより、すべてを話さないという感じ。火山の爆発を予感しつつ命がけで行動する仲間としては問題があります。それでも見捨てないところがマイクたちの偉いところ。見ている(読んでいる)こちらがイライラするくらいです。

原住民に捕えられた捕虜の解放を交渉するだけでなく、原住民たちを火山の爆発から救うことを考えるマイクたち。彼らのヒューマニズムは常に生命の危険を要求してきます。「ノーチラス号ならばできる」はず。可能性に賭けてでもやり遂げるクルーたちですが、いつもそんなにうまく行くのでしょうか。本シリーズも12巻中10巻まで来ました。いよいよ大詰めです!

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