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2010年7月

2010年7月28日 (水)

クビシメロマンチスト (西尾 維新)

連続殺人鬼に古都は揺れ、世界は崩壊する。京都の大学で戯言遣い「いーちゃん」が仲間と送る日常は、連続殺人鬼 零崎との出会いで一変する。戯言シリーズ第2弾。

高2の次男いわく、戯言シリーズのあとに化物語が出たときには「なんて読みやすいんだろう」と思ったとか。わたしは化物語から戯言に遡ったわけですが、同感です。表現の問題だけでなく(あとのことを考えて?)すべてを語らないせいもあるでしょう。化物語では薄れている殺人ミステリーの要素を戯言シリーズにはあります。捻りが効いています。

著者があとがきで書いているのは『本書には目的を見失った殺人鬼と手段を見つけられなかった殺人犯とが登場します。殺人鬼も殺人犯も「なんだか変だな」と意識しつつ、それでも結局行為を止めることなく、殺人鬼は手段を果たし続け、殺人犯は目的を追い続けます。』

本書の主人公は京都の大学生。個人的に、最近京都、京大を舞台にした小説に凝っているので親しみがあります。興味のある方は森見 登美彦の「太陽の塔」「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大全」、万城目 学の「鴨川ホルモー」「ホルモー六景」をごらんください。

複雑な人間関係とそれぞれの思惑に理屈。噛み合わないところで殺人が起き、噛み合ったところで人が死ぬ。殺伐とした出来事のあと、玖渚 友に会えたのが救いでした。 あのキャラはホッとします。(笑)

2010年7月26日 (月)

ノーチラス号の冒険 9 ~ 失われた人びとの街 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

アトランティスの王だというアルゴスの言葉は偽りだった。それでもマイクたちは危険を冒して、かれらを助けることに。そしてアルゴスたちに導かれ、たどり着いたのは、レムラと呼ばれる巨大な海底都市だった。しかし、レムラに到着してから、仲間はばらばらになり、マイクたちの時間と記憶は大きく狂い始める。アルゴスたちの真の目的とはいったいなんなのか。謎の海底都市レムラで、マイクたちは新たな陰謀に巻き込まれる。

「ノーチラス号の冒険」シリーズをここまで読んできて感じ入るのは、マイクたちは戦争を憎み、それが敵であれ味方であれ、最大限に人命を尊重する姿勢です。ただ、そのために自分たちの命が危険にさらされることもしばしば。嘘をついていたアルゴスたちを助けたのはよいのですが、気がつくとマイクはレムラという海底都市の「徒刑場」で看守の鞭に怯えながら珊瑚を採掘していました。しかも、記憶を奪われ、逃げようとすると自由意志まで失っていたのです。

海底4000メートルにあるレムラは1万年を経て崩壊の危険が迫っており、そこから脱出するためにアルゴスたちはノーチラス号を奪ったのです。ただ、ノーチラス号で脱出できるのはレムラ住民のごく一部。マイクたちは多くの住民を見殺しにできるのでしょうか?

2010年7月24日 (土)

移動都市 (フィリップ・リーブ)

最終戦争で文明が荒廃した遙かな未来。世界は都市間自然淘汰主義に則り、移動しながら狩ったり狩られたり、食ったり食われたりを繰り返す都市と、それに反撥する反移動都市同盟にわかれて争っていた。移動都市ロンドンに住むギルド見習いの孤児トムは、ギルド長の命を狙う謎の少女ヘスターを助けるが…。

「ロンドンは高原の斜面をのぼっていた」って… 。ロンドンというのは街です。それが動いてる!?

地球では地殻の大変動が起き、一ヶ所に定住することはできなくなったため、各都市はタイヤやキャタピラをつけて移動できるようにしたのです。静止都市もあって、反移動都市同盟を組織していますが、移動都市は他の都市を「喰らう」ことで淘汰を繰り返しています。

都市が「都市を喰らう」というのは、都市を略奪、破壊、分解、リサイクルして物資を得て、その住民は奴隷として労働力にかえる行為です。複数階層から成るロンドンは、その最下層をガット(腸)と呼び、そこで「獲物」を解体しています。そこで主人公のトムは偉大な冒険家ヴァレンタインと出会います。自分のような史学ギルドの見習いに気軽に話しかけてくれる英雄に感激していると突如、顔にひどい傷のある少女へスター・ショウがナイフを振りかざしてヴァレンタインに襲いかかります。その攻撃はなんとか防いだものの、トムはへスターもろとも地表に突き落とされてしまいます。さて、トムはロンドンに戻ることができるのでしょか。

奇想天外な設定ですが、読み進めるうえで戸惑うことはありません。登場人物たちに引っ張られてストーリーが進んでいくなかで都市の様子などを想像するのが楽しい。「都市が動く」と聞いて「ハウルの動く城」を想像したのですが、ロンドンはもっと大きいでしょうし、煙突から煙が出ているというので動力は蒸気機関でしょうか。いくらキャタピラでも山や谷は移動できないでしょうし、海はどうするのかと思ったら、海を渡ることができる都市もあるようです。いずれにせよ、その世界は地図を作るのがむずかしそうです。(笑)

奇をてらったSFかと思いましたが、これは面白いです! 全4部作の第1弾なので続編も期待しましょう。

2010年7月22日 (木)

クジラの彼 (有川 浩)

有川 浩の「塩の街」「空の中」「海の底」が自衛隊3部作と呼ばれていて、これは番外編を含む自衛隊ラブコメ集。 つぎの6編が収録されています。

  1. クジラの彼
  2. ロールアウト
  3. 国防レンアイ
  4. 有能な彼女
  5. 脱柵エレジー
  6. ファイターパイロットの君

いちばん気に入ったのは「ファイターパイロットの君」。これは「空の中」の女性F15パイロットの武田二尉と春名高巳の結婚前後の話。「クジラの彼」は「海の底」の冬原の恋の始まりの話。クジラというのは潜水艦のことです。「有能な彼女」は同じく「海の底」で夏木が出会った森生 望との、その後の恋のお話。「航行中に外部との連絡がほとんど取れない潜水艦は、海自のあらゆる隊の中で最も恋愛難易度が高い」そうです。一度出航したら2ヶ月、3ヶ月は帰って来ないし、潜水艦は隠密行動が原則だからどこにいるかもわかりません。たしかにこれはキツイものがあります。

つまり、この本は自衛隊ならではの事情を恋愛面から覗いてみたお話です。それがなかなかリアリティがあって面白いのです。 「ロールアウト」のひたすらトイレねたと「国防レンアイ」の下ネタには「目のやり場」に困りましたが。(苦笑)

「空の中」や「海の底」を読まれた方には「クジラの彼」もお勧めします!

2010年7月20日 (火)

ノーチラス号の冒険 8 ~ 灰色の監視者 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

セレナの父親、つまりアトランティスの王と名乗るアルゴスを、マイクは信用できずにいました。一方、修理中のノーチラス号の周りに突如多くの鮫が集まってきました。これは偶然なのか、あるいは我々を狙っているのか?

アルゴスに対してセレナは自分の父親として接していますが、アトランティスの王としての威厳が感じられません。みんなを騙しているんじゃないかという疑念を持ったまま読み進めていうと、鮫たちはどうやらアルゴスだけを狙っていることがわかってきます。ノーチラス号の中に入ることができずにおぼれそうになったマイクたちを助けてくれたり、マイクやトラウトマンが船外に出ても鮫は襲ってくる様子はない上に、沈没しそうになるノーチラス号を支えてくれたり、何者かが助けてくれるのです。

一方、あるとき黒猫アスタロスが、ハッチから出ようするアルゴスに襲いかかったために船外に放り出され鮫たちに襲われて消えてしまうのです。アスタロスは死んでしまったのでしょうか?

7巻「石と化す疫病」から続く物語は8巻「失われた人びとの街」でフィナーレを迎えます。テンポよく進んでいくストーリーにワクワクする冒険譚です。

2010年7月18日 (日)

京大少年 (菅 広文)

ロザン菅が描く、IQ芸人・宇治原ができるまで。幼稚園入園以前から「賢かった」宇治原の目から見た大人たち。優秀であるがゆえに、常に違和感を抱いていた宇治原の内面に、相方大好き芸人の菅が突っ込みながら「宇治原ができるまで」を描く。『京大芸人』に続く、 待望の自伝的小説第2弾。

  1. 「京大と府大ってどっちが賢いん?」
  2. オーディションに受かったメンバー同士の戦い
  3. 金玉綱引きとふんどしゲーム
  4. 京大少年
  5. 「高性能勉強ロボ」ができるまで
  6. 僕らの小学校時代
  7. 宇治原包囲網と卒業文集
  8. 「高学歴コンビ」の仕事
  9. 大人になってからの勉強法
  10. 京大卒芸人

「京大芸人」で、京大に合格した宇治原と、1年遅れで大阪府立大に入学した菅のふたりが吉本興業のオーディションに合格したところまでが描かれました。続編「京大少年」は、幼い頃からのふたりとデビュー後7年目まで、宇治原がなんとか京大を卒業できるところまでのお話です。

宇治原が京大に合格できたのは奇跡でもなんでもなくて、才能+努力の結果であったのだと納得できます。しかし、たしかに変わり者ではあったようで、たとえば、オニごっこで鉄に触れている間はタッチしても鬼にできない「鉄オニ」で、宇治原はタッチした相手に、

「それ、鉄ちゃうで、アルミやで」
「え? 鉄やで」
「だから、鉄ちゃうで。アルミやで。鉄オニやろ? アルミオニちゃうやろ?」
(中略)
「もういいよ! わかったから」
宇治原は本当のオニになった。

このように漫才のネタになりそうな話が淡々と綴られています。軽く、面白く読めるので「京大芸人」が気に入った方はぜひどうぞ!

 

2010年7月16日 (金)

有頂天家族 (森見 登美彦)

糺ノ森に住む狸の名門・下鴨家の父・総一郎はある日、鍋にされ、あっけなくこの世を去ってしまった。遺されたのは母と頼りない四兄弟。長兄・矢一郎は生真面目だが土壇場に弱く、次兄・矢二郎は蛙になって井戸暮らし。三男・矢三郎は面白主義がいきすぎて周囲を困らせ、末弟・矢四郎は化けてもつい尻尾を出す未熟者。この四兄弟が一族の誇りを取り戻すべく、ある時は「腐れ大学生」ある時は「虎」に化けて京都の街を駆け回るも、そこにはいつも邪魔者が…。

かねてより犬猿の仲の狸、宿敵・夷川家の阿呆兄弟・金閣&銀閣、人間に恋をして能力を奪われ落ちぶれた天狗・赤玉先生、天狗を袖にし空を自在に飛び回る美女・弁天。狸と天狗と人間が入り乱れて巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。

「夜は短し歩けよ乙女」とほぼ同じ舞台、京都に住まう狸と天狗と弁天の巻き起こす騒動の物語。父の総一郎が捕まって狸鍋にされてしまったのは、その夜いっしょに飲んだくれた挙句に父を置き去りにした次兄が自分のせいだと思い、井戸に篭ってしまったのですが、最後に意外な真実が明らかになります。

なかに、こんな言葉遊びもあります。

「寿老人ってどんな人です?」
「彼はアイスだね」
「アイス?」
「氷菓子なのよ」と言って弁天が笑った。
「かき氷屋さんですか」
「高利貸しだね」

「わたしは父のことを考えているのです」
「乳? 何をたわけたことを」
「先生、乳ではなく、父であります」

また、手土産に出町ふたばの豆餅を買っていくという話がありますが、時間帯によっては店の前に行列ができるから買うのも大変だろうなと余計な心配をしてしまいます。というように京都の町になじみのある方は一層楽しめるかと思います。

狸たちの家族愛とささやかな矜持を面白おかしく、しんみりと描いた物語です。

2010年7月14日 (水)

梅原猛の授業 道徳 (梅原猛)

学校でも家庭でも、日本は道徳をきちんと教えていない。「よりよく生きる」ということに必要不可欠なのが「道徳」であると、常日頃考えている著者が、自ら中学校に赴き、道徳の授業を行う。教育勅語の批判から、儒教や仏教、夏目漱石や宮沢賢治の小説、そしてすべての生きとし生けるものを題材に、道徳とは何かをやさしい言葉で説いてゆく。

梅原猛の授業 仏教」に続く第2弾です。「武士道エイティーン」の中で紹介されていた本書を読んでみました。昔、学校で「道徳」という科目がありましたが、内容はまったくといっていいほど覚えていません。そもそも「道徳」などと聞くと、説教されそうで身構えてしまいます。(苦笑)

しかし、ここでいう道徳とは人として大切な、当たり前のこと。もっと自然なものなのです。この本にあるように、道徳は本来家庭で教わるというか、身に付けるものなのでしょう。あとがきで著者が語っているところでは、前著の仏教は多くの原典があったけれども、道徳については類書が見当たらず、今回の洛南中学での授業は大学での講義よりも難しかったといいます。

以下、印象に残った部分を2ヶ所挙げます。

  • 天才とは努力する才能である

  • 創造するためには広い好奇心を持たねばならない。創造というのは、広いすそ野の知識から生まれます。だから知識を蓄えなくてはならない。その知識も専門の知識ばかりでなくて、ほかの領域の知識も蓄えると、そこからヒントが得られることが多い。

コメント「梅原猛の授業」シリーズの「仏教」「道徳」は家庭に揃えておきたい教科書です。

2010年7月13日 (火)

新・御宿かわせみ ~ 華族夫人の忘れもの (平岩 弓枝)

「かわせみ」に逗留する華族夫人・蝶子は思いのほか気さくな人柄だが、築地居留地で賭事に興じて千春を心配させる。「御一新後」の明治時代を描く「新・御宿かわせみ」シリーズ第2弾。 

  1. 華族夫人の忘れもの
  2. 士族の娘
  3. 牛鍋屋あんじゅ
  4. 麻太郎の休日
  5. 春風の殺人
  6. 西洋宿館の亡霊

「かわせみ」の女主人るい、大番頭 嘉助、女中頭 お吉が箱根へ法事に出かけている間、るいの娘 千春、番頭 正吉、女中 お晴たちが宿を切り盛りしています。医師となった神林麻太朗と法律を勉強中の畝源太郎も大活躍。新シリーズ第1巻では、突然の世代交代に戸惑いましたが、2巻目ともなると各々の役割が板についてきました。もちろん失敗もしでかしますが、そこは周囲の人間が助けてくれます。そこは江戸が明治になっても変わらぬ「かわせみ」の人情があります。

「西洋宿館の亡霊」では、神棚の奥を片付けていた千春が父 東吾の遺書を見つけ、麻太郎が東吾の息子であることを知ります。驚いた千春は麻太郎に会おうと慌ててかわせみを飛び出し、事件に巻き込まれます。

2010年7月12日 (月)

ノーチラス号の冒険 7 ~ 石と化す疫病 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

タイタニック号沈没の原因となった異星の船には、それに触れたものを、すべて石に変えてしまうという恐ろしい力があった。異星船を破壊するかどうか迷いながらも、その痕跡を追って、カリブ海の群島をめざすマイクたち一行。一方、ノーチラス号の船内には、これまでにない険悪で張りつめた空気がただよっていた。ノーチラス号の冒険シリーズ第7弾。

これまでは各巻完結していましたが(あとがきによると)今回から複数巻に及ぶ話になるようです。

前回「黒い同胞団」で、異星人たちが故郷の星に帰っていき、タイタニックに衝突して食い込んでいた円盤状の宇宙船は自爆したはずなのですが、トラウトマンたちが再度潜って調べたところ、宇宙船はまだ残っていて、次に見たときには消えていました。つまり、まだどこかに潜んでいることになる。それをどこかの国が悪用したら戦争被害が広がる。それを阻止すべくマイクたちは行方を追います。

もうひとつ謎だったのはタイタニック号内部に1500人もの犠牲者の姿が見当たらないこと。その理由も含めて最後に意外な結末が待っています。

2010年7月10日 (土)

ノーチラス号の冒険 6 ~ 黒い同胞団 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

前回、北極圏でレオポルド号の爆発から逃れたものの、ノーチラス号は満身創痍。カイロで部品調達してノーチラス号の修理を行いながら、マイクたちは束の間の休暇を楽しんでいた。そこでレディ・グランダスミスという未亡人に出会い「ホテルよりもピラミッド近くにあるわたしの屋敷にお越しください」と誘われ、クフ王のピラミッドに案内される。ピラミッドを見たセレナは「お父様の宮殿のほうが4倍も大きいわ」とこぼします。おいおい、グランダスミスに聞かれたら怪しまれるでしょうが。

黒装束のふたりの従者を連れたレディ・グランダスミスは表面は無邪気そうでも、絶対なにか企んでる。それなのに、みなさんゾロゾロついていくから難儀なことになるのです。でも、それを言っちゃ身も蓋もないか。(苦笑)

今回、クフ王のピラミッドの謎と、おまけにタイタニック号沈没の謎まで明かされます。「黒い同胞団」に至っては我々の常識では計ることができません。海洋冒険ファンタジー第6弾は絶好調です!

2010年7月 9日 (金)

四畳半神話大系 (森見 登美彦)

大学ではバラ色のキャンパスライフを想像していたのに現実はほど遠い。悪魔の如き悪友の小津には振り回され、謎の自由人 樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女 明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと2年前の1回生に戻って大学生活をやり直したい。4つのパラレルワールドで繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴり切ない青春ストーリー。

第一話 四畳半恋ノ邪魔者
第二話 四畳半自虐的代理代理戦争
第三話 四畳半の甘い生活
第四話 八十日間四畳半一周

第一話は映画サークル「みそぎ」、第二話が樋口師匠の弟子、第三話がソフトボールサークル「ほんわか」、第四話が秘密組織「福猫飯店」。この物語はフィクションですが、舞台は京都大学のようです。噂によると名称と実態が異なっている怪しげなサークルも多いと聞きます。我が家の長男も入学時「○○サークルは気をつけろ。実際は宗教団体だ」と先輩から注意されたとか。京都大学は「自由な学風」を標榜しているので「君子危うきに近寄らず」と、怪しげなサークルを徹底的に避けるもよし、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と、あえて奈落に陥って後悔するのも、結果としてなにかしら「学ぶ」ことができればよいのでしょう、たぶん。老婆心ながら、この主人公の後悔の念を鑑みて、各自4年間(あるいは6年間)を悔いのないように過ごしていただきたいと思います。

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2010年7月 8日 (木)

夜は短し歩けよ乙女 (森見登美彦)

                                                 
                                            

                    クラブの後輩である「黒髪の乙女」に想いを寄せる「私」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に「ナカメ作戦」を繰り広げた。それは「なるべく彼女の目にとまる作戦」を省略したものである。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。                

               

                    「太陽の塔」に続いて、この「夜は短し歩けよ乙女」を読みました。舞台は同じ京都、京大周辺。クラブのOBの結婚祝いのため、木屋町の西洋料理店を訪れた主人公は、ひと目惚れした後輩の彼女と同席していたものの、声をかけられずにいました。お祝いがお開きになり「和気藹々と二次会へ流れ去ろうとする人々の中にあって、私は彼女と私を結ぶ赤い糸が路上に落ちていないかどうか、鵜の目鷹の目で探していた」。(笑)                

               

                    彼女は「もっとお酒が飲みたい」と、ひとりで歩いていってしまいます。その先で「個性溢れる曲者たち」と出会うことになるのです。主人公自身も「曲者」にちがいありませんが、彼女は折に触れて出会う先輩のことが気になって、どきどき思い出します。彼女は悪意や害意はなく、無邪気で素直な子です。しかしながら、だからといって罪がないわけではありません。乙女心が一体どっち向いて転がっていくのかをお楽しみください。                

               

                    とっても怪しいキャラが登場しますが、主人公も含め、なぜか憎めない。演劇を見るような恋愛小説です。                

            

2010年7月 7日 (水)

太陽の塔 (森見登美彦)

京大5回生の「私」は自分を袖にした「水尾さん」の後を「研究」と称して日々つけ回していた。そのレポートの中の手書きの週間予定表を見れば、彼女が今どこで何をしているかが大体わかるのだった。そして、私はカップルを憎悪する友人たちと「打倒クリスマス!」を目指しておかしな計画を立てるのだが…。

要するに、彼女に振られた男の独白小説です。

著者の私小説ではないかと思わせるリアリティがありますが、その真偽は読者にとっては重要ではありません。銀閣寺や鴨川、百万遍、叡山鉄道、四条河原町、東大路通りなど、京都、しかも京大周辺の地理に明るい方には身近に感じられることでしょう。文庫本 240ページとそれほど厚いものではないのですが、小説のわりに文字数が多い。独白が延々と続くため改行が少ないのです。しかも、その文章が堅苦しく冗長なようで、豊富なボキャブラリーを駆使した妄想で彩られているのです。しかしながら、いかに巧みに表現したところで、その内容(主人公の行動)はあまりにくだらなく、アホなのです。笑うしかありません。「京大生ってどうなのよ?」と我が家の長男が心配になるのでした。(笑)

タイトルの「太陽の塔」は大阪万博のそれです。万博開催当時、お祭り広場の大屋根で隠されていた部分が現在ではすべてあらわになり、広い公園に堂々と屹立していて迫力があります。主人公が水尾さんを万博公園に連れていったとき、彼女は太陽の塔にいたく感動し、これは「宇宙遺産」だと言ったのです。たしかにあれは神か宇宙人のモニュメントにちがいありません。

同じ著者が「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」という本も書いています。じつは「四畳半神話大系」のアニメを数話見たのですが「太陽の塔」の流れを汲んでいます、「ゴキブリキューブ」とか。その2冊も読んでみようかな、怖いもの見たさで。(笑)

2010年7月 6日 (火)

梅原猛の授業 仏教 (梅原猛)

宗教教育に基づいた道徳を教えたいという著者のその願いは中学校で一学期間授業をする形で叶った。その授業は、やさしい言葉で教える仏教の「いちばん大切なこと」。仏教を通して質の高い生き方を、中学生だけでなく、すべての学生から熟年世代まで語りかける名著。

武士道エイティーン」の中で紹介されていた本書を読んでみました。京都の東寺境内にある洛南中学校での授業内容を本にまとめたものです。「仏教」というとなにやら堅苦しそうですが、中学生向けなのでたいへん読みやすく、わかりやすいもので、キリスト教などヨーロッパの宗教との対比など、わたしにとっても勉強になりました。

「宗教がないところには文明も道徳も存在しない」というのが著者の持論で、現在の日本の教育には道徳が欠けているという危機感をもっているわけです。中学生、高校生には一度は読んでほしい1冊です。

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2010年7月 5日 (月)

ノーチラス号の冒険 5 ~ 海の火 (ヴォルフガンク・ホールバイン)

ヨーロッパ各地で謎の巨大軍艦が無差別攻撃を開始した。マイクたちは、その軍艦がヴィンターフェルト艦長率いるレオポルド号であることに気づく。祖国に忠実な軍人の彼がどうして? 攻撃は戦争を止めるためと語るヴィンターフェルトに、いったい何が起こったのか? 世界を揺さぶるおそるべき計画を、マイクは止めることができるのか!。海洋冒険ファンタジー第5弾。

昨今レオポルド号は、フランスの貨物船、ドイツの駆逐艦、イギリスの港を攻撃しており、ヴィンターフェルト艦長はどうやら大量の火薬を集めていることがわかってきます。いったいその火薬で何をしようというのでしょう? この戦争(第1次世界大戦)をどうやって止める気でしょうか。

またしてもヴィンターフェルトに拿捕されたノーチラス号とそのクルー。マイクの友人であり、ヴィンターフェルトの息子パウルは、ドイツのフリーゲート艦と交戦中に死んだという。逃亡兵であるヴィンターフェルトを追ってきたのです。表面上は正気を保っているように見えるヴィンターフェルトですが、息子が死んでしまい狂気に陥ったのかもしれません。狂気と紙一重の権力者は怖いです。不気味です。

ヴィンターフェルトはとんでもない方法で戦争を止めようと考えていました。ノーチラス号は彼の凶行を阻むことができるでしょうか?

はやぶさ新八御用帳 ~ 大奥の恋人 (平岩 弓枝)

南町奉行根岸肥前守の懐刀「隼 新八郎」は頭脳明晰にて心やさしい好青年。おおやけにできない犯罪を密かに探る内与力の役についている。折しも淀橋と成子坂で2件の殺しが発生し、さらに雑司ヶ谷の鬼子母神に参内した大奥の女中に悲劇が…。斬新な江戸ミステリー第1弾。

同じ奉行所でも同心ではなく「内与力」という立場上、難解な事件を扱うことが多いようで、今回も大奥が絡む事件と睨んだ新八郎。しかし、大奥は明らかに管轄外。手がかりを得るには女子を送り込むしかありません。そこで、以前まで新八郎の家に奉公していた「お鯉」が密かに大奥に上がったのです。

  1. 大奥の恋人
  2. 江戸の海賊
  3. 又右衛門の女房
  4. 鬼勘の娘
  5. 御守殿おたき
  6. 春月の雛
  7. 寒椿の寺
  8. 春怨根津権現
  9. 王子稲荷の女
  10. 幽霊屋敷の女

今回の「大奥の恋人」で明かされた真実はちょっと後味が悪かった。2巻以後に期待したいと思います。

2010年7月 4日 (日)

ガール・ミーツ・ガール (誉田 哲也)

前作「疾風ガール」で、柏木夏美は敬愛するボーカリスト城戸薫の自殺のショックを乗り越え、フェイス・プロモーションからメジャーデビューへと踏み出す。早速、スポーツ飲料のCMタイアップが決まったが、録音に関してプロデューサーと意見が合わない。一方、人気女性ミュージシャン島崎ルイが大晦日の音楽番組に生出演するのをバックアップすることになる。ルイの音楽を好きではなかった夏美だったが…。

「ガール・ミーツ・ガール」は即ち「夏美・ミーツ・ルイ」であり「ルイ・ミーツ・夏美」。

「疾風ガール」は自殺騒動が大半を占めていて、音楽活動パートが物足りなかったのを本書が埋めてくれました。楽曲づくり、スタジオやスタッフの手配、打ち合わせ、録音といった作り手の内情を垣間見ることができます。夏美とルイがレンタル楽器店で時給250円で(笑)バイトするところが面白かった。

直情型の夏美と、情熱を内に秘めたルイが対照的。「疾風ガール」と「ガール・ミーツ・ガール」を2冊合わせてお勧めです!

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2010年7月 3日 (土)

疾風ガール (誉田 哲也)

ロックバンド「ペルソナ・パラノイア」のギタリスト柏木夏美は魅力的なルックスと天才的なギターの腕前の持ち主。そのライブを見たフェイス・プロモーションの宮原祐二は夏美にひと目惚れ。自分の手で売り出したいと交渉するが彼女には軽くいなされる始末。それでもあきらめずに通ううち、ペルソナのボーカル城戸薫が自殺してしまう。警察は自殺に間違いないというが、右手には不審な切り傷があり、しかも、彼の名前は偽名だった。夏美は、強引に祐二を巻き込み、薫の過去を調べるため新潟へと向かった。

夏美のギターは、ギブソン・レスポール・ジュニア、Wカッタウェイモデル、チェリーレッド。エフェクターの切替など、ペルソナのライブの様子はなかなかリアル。音楽小説を期待していたんだけど、全体の3分の1ほどのところで城戸薫が自殺。一時はふさぎ込んだ夏美が突然走り出したのです。実家の連絡先はもちろん、本名もわからないところからひとつずつ手がかりを辿っていく夏美と祐二。途中、薫と同棲していた塔子と出会い、薫の父親と会って、薫のつらい過去が明らかに…。

結局、薫が自殺した本当の理由は(遺書がないので)わからず仕舞いですが、夏美は薫を知ることができて納得。このあたりがミステリーではなく、青春小説といわれる所以でしょう。「天辺」を目指す夏美を応援してます!

はやぶさ新八御用旅 ~ 中仙道六十九次 (平岩 弓枝)

隼新八郎は、京の町で御所役人の不正を暴き、江戸への帰路、母子を信濃まで送り届けるために中仙道を行くことにした。しかし、先々で怪しい影が待ち受け、新八郎に女難も降りかかる。「はやぶさ新八御用旅」シリーズ第2弾。

新八郎は妻帯者なのですが、あちらこちらで思いを寄せられ苦労する様子が愉快です。奉行所の役人であっても毎回事件が起きて捕り物になるわけではないので「御宿かわせみ」よりもゆったりとした展開に感じます。「御用旅」ではありますが、文字通り旅日記を読むような気分でお楽しみください。

2010年7月 2日 (金)

武士道エイティーン (誉田 哲也)

東松の香織と福岡南の早苗は高校3年、最後の夏を迎える。わたしたちは、もう迷わない。この道をゆくと、決めたのだから。

目次は前二作同様、香織と早苗が交互に章を連ねる中に4つ、手書きの目次がありました。早苗の姉、桐谷道場の主、福岡南の吉野先生、東松の田原美緒の話がサイドストーリーとして織り込んであって、それが物語に広がりを持たせています。

「武士道シックスティーン」ではとんでもない乱暴者だった香織ですが、悩みながら成長し、心身ともに安定した存在になったことに感慨をおぼえます。それに比べると早苗は相変わらず「お気楽」なのですが、それでも彼女なりの道を探し求めていることを頼もしく感じます。いちばん愉快なのは、そんな凸凹コンビのやりとりです。

後半、早苗が書店で梅原猛の本を手に取る場面があります。「日本文化論」「梅原猛の授業 道徳」「「梅原猛の授業 仏教」など。また読んでみようと思います。本が世界を広げてくれるのがうれしい。

武士道一筋の香織と、進むべき道を模索する早苗にエールを送りたいと思います。

2010年7月 1日 (木)

武士道セブンティーン (誉田 哲也)

早苗は香織に「剣道やめちゃうかも」と嘘をつき、転居先も告げずに福岡へ向かった。一方、香織は自分だけが勝つことから、部として勝つことに心を砕くようになる。ふたりが求める武士道が見えてきた…。「武士道シックスティーン」につづく第2弾。

早苗が転校した福岡南の剣道部は練習方法から考え方まで異なっていました。香織に2回勝ったことを知ると早苗は試合の補欠に選ばれ、結果的に試合に出ることになる。すこしずつ周囲に認められるのはうれしいけれど「福岡南の剣道」には馴染めず、早苗は孤独を深めていきます。ついに我慢できず香織に電話して…。

剣道とはなにか、という話。

まず、香織の父親の言葉です――。

「ごく大雑把にいえば、お前の剣道は武士というより武者のそれに近い。早苗くんの方向性の方が、武士的というか、我々のような世代の剣道家には趣があって受け入れやすい」
(中略)
「武者の生業は戦うこと。武士の生業は、戦いを収めることだ」
「武士は戦わなくていいの」
「武士も戦う。だがその最終目的が違う。武士ならば、いくつ勝ったかより、一つひとつの戦いをどう収めたかを重視する。そういうことだ」

もうひとつ、福岡南剣道部の変わり者の顧問の言葉――。

「試しにいつもの剣道を、木刀でやってみればよか。メンも、ドウもコテも、どこを叩いても、まず相手は死んだりせん。その代わり、一発で、戦闘能力ば奪える。…頭蓋骨が割れる。手首の骨が折れる。肋骨が折れる。そげな状態で、続けて戦えるとか? 戦えんばい。戦ったところで、怪我がひどくなるだけたい。ばってんそれこそが、武道の目的たい。武士道の、本懐たい」

「剣道は、どこまでいっても…路上でやっても、防具がなくても、心に武士道があれば、武道たい。暴力に成り下がってもいけんし、暴力に屈してもいけん。剣道は、武道は、武士道は、相手の戦闘能力ば奪い、戦いを収める。そこが終着点たい。相手の命も、自分の命と等しい、たった一つの命…。さらにいえば、試合や稽古で相手をしてくれるのは敵ではなか。常に、同じ道ば歩む、同志たい。やけん礼に始まり、礼に終わる。そういうこったい」

早苗と香織の成長が頼もしくもあり、眩しくもある、好著です。

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