2017年10月17日 (火)

水の家族 (丸山健二)

水の家族
水の家族 』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されているの見て興味を持ちました。読み始めると、いとうせいこうの『想像ラジオ 』を思い出しました。そう、主人公は死者なのです。

半島の片隅、忘れじ川が流れる草場町に暮らす一家には、馬を育てる祖父、漁師の父、桃を育てる母、銀行員の兄と兄嫁、やくざな弟、天真爛漫な妹がいます。主人公は大学まで出してもらいながら親不孝な奴でして、家を飛び出したかと思ったら密かに舞い戻り、密かに死んでしまうのです。

そして、主人公は成仏できず、雨のこと、川のこと、山のこと、家族のこと、赤子のこと、馬のこと、魚のこと、亀のこと、凧のこと等々、自然と家族の営みを眺めながら自省を込めて語っていきます。本書のタイトルは「水の家族」以外にありえません。

作中「私は肉体無しの状態に疲れを覚える」とあります。幽霊ってそうなのでしょうか。疲れるのは肉体であって、肉体から解放された魂であれば疲労とは無縁だと思っていました。片足を失っても、まだそこにあるように感じるように、肉体もまたそうなのでしょうか。

三浦しをんが勧めてくれる本は骨太な小説が多く、読み応えがあり、新鮮です。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月14日 (土)

かんじき飛脚 (山本一力)

かんじき飛脚 (新潮文庫)
かんじき飛脚 』は、図書館で手に取った児玉清の『ひたすら面白い小説が読みたくて 』で絶賛されていたので借りてみました。文庫で560ページなので、そこそこ読み応えがあります。

幕府の松平定信は加賀藩の力を抑え込むことにやっきになっていました。加賀藩主前田治脩の内室が重い病だと知り、内室同伴で新年の宴に招くことにしたのです。もし同伴できなければ幕府から無理難題を吹っかけられることになりかねないため、加賀藩江戸詰要人 庄田要之助は浅田屋伊兵衛を呼び、加賀の秘薬「密丸」を急ぎ国元から取り寄せるよう言いつけたのでした。しかし、密丸のことも御庭番を通じて松平定信には知られていたのです。屈強な飛脚たちといえど、御庭番に狙われてはひとたまりもありません。さて、加賀藩の大ピンチ!

読み進めていくと、12月のことですから加賀は雪の中。途中難所がいくつもあります。それに加えて手練れの御庭番に邪魔されるのですから、ふつうはあきらめます。文字通り命がけなのですから、読んでいて気の毒になります。これもすべては性格の悪い松平定信のせいです。やることが陰湿で好かん。武力を背景に権力で人を押しつぶそうとするなんてひどい。

それでも飛脚は飛脚の使命を果たすべく全力を尽くします。果たして松平定信の鼻を明かしてやることができるのか!?

お勧め度:★★★★☆

2017年10月11日 (水)

怨讐星域 3 約束の地 (栃尾真治)

怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)
怨讐星域Ⅲ 約束の地』はシリーズ最終巻。地球を飛び立った宇宙船ノアズ・アークがついに約束の地・エデンの衛星軌道上に到着します。しかし、母船は着陸できないため、宇宙艇を建造し、その一方でエデンの地表に探査機を送り込み、データ収集を行うのですが…。

エデンには知的生命体が存在する兆候が見られる。地表の95%は海なので、残る5%の陸地で共存していくことは可能なのか。凶暴な敵となったら勝ち目はあるのか。最高会議は紛糾し、地表への降下計画は頓挫します。

一方、エデンでは首長アンデルスが「裏切り者の末裔は皆殺しにすべし」と唱え、少年兵に槍を持たせて訓練を行なっています。さぁ、ジャンプ組と宇宙船組が出会ったときに何が起こるのか、目が離せません。

ラストはご自分の目で確かめていただくとして、最後にサプライズが用意してありました。「なんじゃ、そりゃー!?」。生きていくって大変ですね。

SFとしてはツッコミどころ満載ですが「もし地球が滅亡するとしたら」というIFで始まる物語としては実に面白いものでした。それぞれの立場の人間がそのときどう感じたのかが丁寧に描かれていて、その都度「彼(彼女)に幸せになってほしい」と願わずにはいられません。

最後に、表題になっている「怨讐」について。内の結束を固めるために外に共通の敵をつくるという方法があることは理解できるのですが、地球滅亡をまえにしてアメリカの大統領が宇宙船で脱出したからといって、その何世代も後の子孫を皆殺しにするという恨みは筋違いだと思います。作者もそんなことは承知のうえで、現在の地球でも同様の「恨み」が存在することを想起させようというのかもしれません。

果たして人類に希望はあるのか。ドキドキしながら読んでください。

追記:星間移住つながりで、Amazonビデオで『インターステラー』と『オブリビオン』を観ました。後者は崩壊した地球が舞台なのですがアンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」が象徴的で面白かった。興味のある方はどうぞ!

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 8日 (日)

怨讐星域 2 ニューエデン (栃尾真治)

怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅱ ニューエデン 』はシリーズ2作目。宇宙船ノアズ・アークも、約束の地エデンも、人類は3世代目になっています。孫の世代になると、地球のことを教育でしか知りませんから、どうもピンと来ない部分が増えてくるようです。

昨年の降誕祭というイベントでは「かぶと虫」というグループの「昨日」という曲が披露されて盛り上がったとか。5世代目になると、地球の文化と文明もある程度戻ったようです。生きるのに必死だったから武器は進歩していないようで幸いです。ここは日本人が書いたからそうなのであって、アメリカ人なら銃を持たせているような気がします。人名などは翻訳物っぽいのですが、そういう意味では日本的なSF小説で、わたしにとっては逆に新鮮でした。

お勧め度:★★★★☆

2017年10月 5日 (木)

怨讐星域 1 ノアズ・アーク (栃尾真治)

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)
怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク 』は「太陽フレアによって数年後に地球が滅亡する」という予測のもと、アメリカ大統領と3万人は宇宙船ノアズ・アーク号で秘密裏に地球を離れ「約束の地」へ旅立ったのです。一方、大統領の娘ナタリーの恋人が星間転送装置を実用化。引き離された恋人を先回りして待つことに…。

舞台は3つ。ノアズ・アーク船内と172光年離れた惑星、そして地球です。

実際にこんなことになったら一体どうなるのだろう? 読み進めるうちに引き込まれます。

ノアズ・アークが目的の星に到着するのは数百年後。地球を出発した人々の何世代も後のこと。冷凍睡眠かと思ったらそうじゃない。ただ次の世代にバトンを渡すためだけに生きるのでは、自殺者が増えるのもわかるような気がします。

一方、目的の星に転送された人たちも悲惨です。そもそも無事に転送された人は限られています。海上だったら溺死、高いところだったら転落死、山や木や石のある場所だったら合成死? 生き残ったとしても、水と食料を確保するだけでも苦労が絶えず、謎の捕食生物の犠牲者も後を絶たない。文明がリセットされた状態から未知を惑星の生活をスタートするのは、地球でのキャンプとは訳が違います。恐ろしい。

そして、もし地球が明日滅ぶとしても、最後まで見届けようとする人たちもいます。そうなったら毎日がまさに「神に与えられた」貴重な時間。そこに幸せを見出す人もいるのです。「自分だったらコレかなぁ。出不精だし」などと思いつつ読みました。

まさに三者三様の極限状態。

タイトルに「怨讐星域」とあるように、地球に取り残され組は、ノアズ・アーク組を深く恨んでいます。転送先のコミュニティでは「ノアズ・アークがこの星に着いたとき、裏切り者の子孫たちに鉄槌を下すのだ」と子供らに言い聞かせています。でも、これはちょっと違和感がある。アメリカ人なら「国民を見捨てた大統領」ということで糾弾できるけれど、日本人であれば文句をいう筋合いではないでしょう。

本作は3巻完結。さて、どうなっていくのか興味津々です。

お勧め度:★★★★★

2017年10月 2日 (月)

灯台守の話 (ジャネット・ウィンターソン)

灯台守の話 (白水Uブックス175)
灯台守の話 』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されていて「旅をする物語」に興味を持ちました。

Caperas

母を亡くした10歳の少女シルバーは、スコットランド北端のラス岬の灯台守ピューに後継者として引き取られます。ピューは盲目ですが、夜ごと、牧師バベル・ダークのお話をしてくれます。灯台守の仕事は光を守るだけでなく、船乗りたちから物語を集め、語ることなのです。

やがて灯台が無人化されることに決まり、シルバーはピューと別れ、ピューが物語を通して教えてくれた真実の愛を求めて彷徨います。そうしてシルバーとダークの魂の遍歴が交互に語られていくのです。

I Love You. この世でもっとも難しい、三つの単語。でも、他に何が言えるだろう?

物語ることで人は救われる。自分のつらい境遇さえも突き放してフィクションにしてしまうことができれば耐えられるかもしれない。全き闇と容赦ない光。荒波に翻弄され押しつぶされる船。それでも物語ることをやめない人間の、〈物語〉です。

お勧め度:★★★★☆

2017年9月29日 (金)

不等辺三角形 (内田康夫)

不等辺三角形 (幻冬舎文庫)
不等辺三角形』は、日経新聞夕刊の文化面で紹介されていて、地元名古屋が舞台になっていることに興味をもって、読んでみることにしました。

名古屋の覚王山日泰寺の東側に「揚輝荘」という、松坂屋初代社長が建てた、いわゆる私設迎賓館が舞台。現在は名古屋市指定文化財となっていて、北園は無料、南園の聴松閣が入場料300円。先月長男といっしょに訪れたところだったのです。長男の感想は「1ヶ月くらい借りて住んでみたい」。そりゃ最高ですね。エントランス2階部分の明るい書斎でゆっくり本を読んでいたい。

小説では丁寧に取材されたことがわかります。漢詩が出てきたところで「リアルと同じだ」。もう一方の舞台である東松島のことはわかりませんが、おそらく同様かと。あとがきによると本書を書き上げるのに5年かかったそうです。

浅見光彦シリーズ三部作の最終巻だとか。主人公の浅見光彦はフリーのコピーライターなのですが、警察庁刑事局長の兄を持つため、本人が望まずとも警察に顔が効いてしまうので、探偵として通用するようです。

探偵としては上品というか押しが弱いところがあるのですが、嫌味がなく安心して読むことができました。

お勧め度:★★★★★

2017年9月26日 (火)

Apple Watch 3 が欲しい、けれど

2017年9月、iPhone X、iPhone8 に加えて Apple Watch Series 3が発表されました。iPhoneはSEで満足しているのですが、新しい Apple Watch のLTE通信対応を試してみたい。

Watch3

発表されてみると「ナンバーシェア」という機能によって、iPhoneにかかってきた電話をWatchでも受けることができるし、Watch単体で発信もできるらしい。たとえばランニングに出るとき、iPhoneを持たなくても電話やメール、メッセージを受信できるし、ワークアウトの記録も取れます。わたしはワークアウトというほど本格的なことはしませんが、Watchだけで外出できれば身軽です。

ところが、わたしが契約しているMVNO(Biglobe)は「ナンバーシェア」に対応していません。Watch 3のLTE通信機能を使いたければ大手3社(ドコモ、ソフトバンク、au)とiPhoneを契約しなければなりません。au のホームページで概要を調べてみたところ、現在のMVNOよりも基本的な月額費用が高くなります。つまり、Watch 3のために月額いくらまで出せるのか、という問題なのです。

Watch 3のLTE通信は、現時点ではわたしにとって必須ではありません。必須だったのは、現在のWatch 2の防水機能とSUICA対応です。だから、買い換える理由があるとすれば「LTE 通信が面白そうだから試してみたい」だけ。Watch 3 GPS モデルには魅力は感じません。何の役に立つのか、ではなく、何の役に立たなくても使ってみたい。そこには何かしらの発見があるはず。それが面白い!

「ナンバーシェア」を利用できるのは現在 Apple Watch だけですが、これは他メーカーも追随してくるはず。当然、以後のWatchはGPSモデルとGPS+Cellularモデルの二本立てで続いていくでしょう。それならば慌てる必要はありません。新しいオモチャはしばらく我慢しましょう。

MVNO も来年には「ナンバーシェア」対応を実現してくれるはず。なので、わたしはそれを待ちたいと思います。いまさら大手には戻りたくない。大手のプランを見ていると、わたしには必要ないサービスを買わされるような気がするのです。一等地のショップを維持する利益も必要なのですからある意味当然かも。自分にとって必要なサービスだけを選択できる、無駄の少ないMVNOのほうが好きです。

「格安SIM」と言われますが、わたしの感覚では、それが妥当な金額であって、大手が「割高SIM」なのです。「物を買うときは自分が納得できる金額で」が鉄則です。

2017年9月25日 (月)

花咲舞が黙ってない (池井戸潤)

花咲舞が黙ってない (中公文庫)
花咲舞が黙ってない は、TVドラマになった『不祥事 』の続編。なんと13年ぶりだそうです。

1. たそがれ研修
2. 汚れた水に棲む魚
3. 湯けむりの攻防
4. 暴走
5. 神保町奇譚
6. 小さき者の戦い

上記6編の連作短編集という形をとっていますが「東京第一銀行が抱える闇を暴く」という筋が一本通っています。膨大な不良債権によって業績が悪化している東京第一銀行は、産業中央銀行との合併交渉の最中、不祥事の発覚は不利に働くため隠蔽しようと躍起になるのですが…。

花咲舞と臨店班コンビを組んでいる相馬健は「長いものには巻かれろ」主義で頼りないのですが、それでも相馬がうしろにいるから舞は(安心して?)思いっきりやれるのでしょう。相馬にすれば迷惑以外の何物でもないようですが。

突然、半沢直樹が登場したので驚きました。そういえば、花咲舞と半沢直樹って行動パターンが似ていますね。跳ねっ返りと倍返し。

経済エンタメ小説として一流といってもよいのではないでしょうか。とっても楽しめました!

お勧め度:★★★★★

2017年9月21日 (木)

コインロッカー・ベイビーズ (村上龍)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)
コインロッカー・ベイビーズ』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されているのをみて爆笑し「そういえば読んだことないな」というわけで図書館で借りてきました。

冒頭からショッキングな掴み。コインロッカーに捨てられた嬰児のうちのふたりが奇跡的に生き延びたのちのお話なのですが、狂気の連鎖に目を背けたいのに目が離せません。これを三浦しをんは中学のときに読んだというのは刺激が強すぎやしないでしょうか。

そういえば村上春樹の新作小説も読んでいません。前評判の高い小説は敬遠してしまい、何年か経ち、図書館で待たずに借りられるようになって初めて読むことが多いのです。

コインロッカーは「荷物」を預ける装置であって「人」を捨ててはいけません。しかし、自分のまわりをよく見ると、そこはコインロッカーの中だったりして…!?

わたしにとってはほとんどホラー小説でした。(怖かった)

お勧め度:★★★★☆

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