2018年2月23日 (金)

最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常 (二宮敦人)

最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』』は東京藝術大学の学生や卒業生を取材して、まとめたルポルタージュ風の読み物です。音楽と美術はそれぞれ「音校」「美校」と呼ばれていて、多くの学科に分かれていますが、定員は少なく、全学で2千人ほど。上野動物園に隣接しているというのも初めて知りました。学園祭に行けば楽しそう。

感想をまとめるのも難しいほど、とんでもない話が多く、文字どおり、唖然。誰がいちばん面白かったかといえば、作者の奥さん(美校の学生)です。退屈しないでしょうね。

お勧め度:★★★★★

2018年2月19日 (月)

コルヌトピア (津久井 五月)

コルヌトピア
コルヌトピア 』は、日経新聞夕刊の書評欄で紹介されていて興味を持ちました。植物群を計算資源化するというのです。それってコンピュータですよね。植物計算機(フロラ)とは、俄かに想像しがたいものだけに「おもしろそう」!

一方「コルヌトピア」とは、ギリシア神話に出て来る「豊饒の角」のこと。ヤギの角のような小型アンテナ(ウムヴェルト)をうなじに取り付けて、フロラと通信できるらしいのです。余談ですが、人間がハックされそうで怖い。

フロラ開発設計企業の調査官・砂山淵彦(すなやま・ふちひこ)は、二子玉川近くのグリーンベルトで起きた火災事故を調査するため出向いた先で、天才植物学者・折口鶲(おりくち・ひたき)と出会いますが、彼女との作業中に突然意識を失い倒れてしまいます。

SFなのですが、文学的表現が多く、最初は戸惑います。淵彦の友人・藤袴嗣実(ふじばかま・つぐみ)との出会いの場面で「源氏物語の藤袴、藤田嗣治の嗣に」と名前を説明するのです。好きな人にはたまらないのでは?

ひたきの研究には、フロラに適さない植物について、また植物と昆虫の関わりについてなど、なかなか興味深いものがあります。そもそも未解明の部分が大きいフロラを都市のインフラに取り込むとは大胆です。それ以前にウムヴェルトを着けている背景説明がないのが、わたしとしては怖い。

東京よりも赤道付近のジャングルをフロラ化したほうが効率がいいはず。逆に緯度が高い地域は「量子コンピュータを利用している」らしい。50年後、現実はどうなっているでしょう?

お勧め度:★★★☆☆

2018年2月14日 (水)

風神雷神 雷の章 (柳広司)

風神雷神 雷の章
風神雷神 雷の章 』は『風神雷神 風の章 』の続編(下巻)。本阿弥光悦から田舎へ移住して自由に作品を作ろうという誘いを断り、家業を継いだ宗達が家庭を持ってからの物語です。

光悦の代わりに今度はお公家さんが登場。その烏丸光広の案内で、養源院の血生臭い噂を晴らすため、唐獅子図・白象図を描き、相国寺には蔦の細道図屏風を納めます。帝から法橋の地位を与えられた宗達は、宮中の名品を模写することができたのです。

他に、関屋澪標図屏風、舞楽図屏風も登場し、実物が見たくなりました。どんな絵なのかはネットで確かめたほうがストーリーもわかりやすい。最後は、あの風神雷神図です。建仁寺にさりげなく展示してあるのは「模写だよな」と思いつつ、改元のCMを思い出していました。冗談はさておき「屏風に風神なんてありえない」と聞いて目からウロコ。

徳川幕府の鎖国政策についてなど、時々うんちくが入るのが面白い。

すぐれたエンタメ時代小説です。興味がある方はぜひ!

お勧め度:★★★★★

2018年2月10日 (土)

風神雷神 風の章 (柳広司)

風神雷神 風の章
風神雷神 風の章 』は、建仁寺にある風神雷神図を描いた俵屋宗達(伊年)の物語。そもそも扇屋の絵師だったとは知りませんでした。

冒頭「醍醐の花見」の場面では、醍醐寺の桜と、上醍醐への参道の険しさを思い出し、かぶきおどりの阿国一座は、有吉佐和子の『出雲の阿国』を思い出しました。幼馴染の角倉与一が嵯峨野で印刷出版事業を始め、そこに本阿弥光悦が加わって、伊年は扇屋を超えた絵師としての才能を開花させていきます。

とにかく読みやすい。現代小説作家が手がけた時代小説はそういう傾向があるようです。時代小説、歴史小説は読みづらいと敬遠していた方にもお勧めします。ただ「コラボレーション」を連発されると違和感が募るのでほどほどに。

お勧め度:★★★★★

2018年2月 6日 (火)

たったひとつの冴えたやりかた (ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)

たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)
たったひとつの冴えたやりかた 』は三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されていたので読んでみました。

16歳の少女コーティは宇宙の冒険に出たくて仕方がありません。両親からプレゼントされた小型宇宙艇に思い切り燃料を積んで向かったのは辺境の基地。行方不明の宇宙船を探すうち、脳内にイーアというエイリアンが入り込んでしまって、さぁ、たいへん!

だと私は思うのですが、本人は意外に冷静。イーアに悪意も害意もないことがわかると、ともに探検に乗り出していくのですが...。

切ない物語でした。

お勧め度:★★★★☆

2018年2月 2日 (金)

スローハイツの神様(上・下) (辻村深月)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)
スロウハイツの神様 』は、若きクリエイター達が暮らす「スロウハイツ」での出来事を、登場人物ごとに視点を切り替えつつ語られる小説です。オーナーの赤羽環(あかばね・たまき)が、人気作家チヨダ・コーキを迎え入れると、まるで手塚治虫が住んでいた「ときわ荘」みたいです。

▼上巻
1. 赤羽環はキレてしまった
2. 狩野壮太は回想する
3. チヨダ・コーキの話をしよう
4. 円屋伸一は出て行った
5. 加々美莉々亜がやってくる
6. 『コーキの天使』は捜索される

▼下巻
7. 森永すみれは恋をする
8. 長野正義は鋏を取り出す
9. 拝島司はミスを犯す
10. 赤羽桃花は姉を語る
11. 黒木智志は創作する
12. 環の家は解散する
13. 二十代の千代田光輝は死にたかった

上巻5章で美少女作家・加々美莉々亜が登場したあたりから雰囲気が怪しくなってきます。(こいつはなにかあるな) また、環が憧れのコーキと初めて出会ったとき、コーキから「お久しぶりです」と言われて(初めて会ったのに誰かと勘違いしてると)ショックを受けたのですが、これも引っかかります。編集長の黒木は文字どおり腹黒い。

下巻を最後まで読むと、それまでの伏線が拾われて、謎がひとつずつ明らかになっていって、気分すっきり。ミステリーの要素もあります。上巻を読んだなら下巻まで読みましょう。

お勧め度:★★★★☆

2018年1月25日 (木)

ペガサスの解は虚栄か?Did Pegasus Answer the Vanity? (森博嗣)

ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)
ペガサスの解は虚栄か?』はWシリーズ第7弾。今回、ハギリ博士が向かうのはインドの富豪宅。パリ万博会場から逃亡したウォーカロンが逃げ込んだ可能性が高いというのです。護衛はウグイに代わってキガタと、アネバネ。せっかくウグイに慣れて来たのに残念です。と思ったら最後にちらっと登場します。お楽しみに!

毎回地球を飛び回るハギリですが、スーパーコンピュータやデボラのようなトランスファもネットを通じて瞬時に世界を一周するわけで「電脳社会」というのが文字通り実現しています。人間が生殖能力を失い、ウォーカロンに受胎能力を持つものがいるという噂もある中、クローンは違法だけどウォーカロンならOKという、いかにもありそうな法律。ここで描かれる社会の未来像はすでに見えているのに、それをいまさらどうしようというのでしょうか。

もはや惰性で読んでいます。そろそろ意表を突いてくれないと退屈です。

お勧め度:★★☆☆☆

2018年1月21日 (日)

七つの人形の恋物語 (ポール・ギャリコ)

七つの人形の恋物語 (角川文庫)
七つの人形の恋物語 』は、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されていたので読んでみました。パリに出て来たものの仕事を失い、行くあても失った少女ムーシュは、川に飛び込もうかと歩いているところを人形劇一座の人形に声をかけられます。

7体の人形たちは個性的で、ムーシュは彼らと上手に掛け合い、周囲には自然と人垣ができるのでした。ムーシュは彼らと共に行くことにしたのですが、問題は偏屈な座長キャプテン・コック。事あるごとにムーシュに辛く当たります。さて、物語の結末は?

パリを出た一座はランスに向かいます。先月「ランス美術館展」を観たところなので親しみを覚えます。

お勧め度:★★★★☆

2018年1月17日 (水)

八日目の蟬 (角田光代)

八日目の蝉 (中公文庫)
八日目の蝉 』は、昔読みかけて断念したのですが、三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ 』で紹介されていたので再挑戦しました。

赤ん坊を連れ去って、自分の娘として育てる。薫と名付けられた子のあどけない笑顔や容赦ない泣き声。赤ちゃんてそうだったなぁと思い出します。とくに生後1ヶ月以内の母親はたいへん。24時間態勢で世話しなければなりません。天使であり悪魔でもある。それでも可愛くて、愛おしい。

東京から名古屋へ来ても、身元を詳しく説明できず、行き場を失ったところを老女に拾われます。しかし、母子手帳もなければ住民票もない。予防接種は、病気になったらどうするのか、学校に通うことができるのか。当然のように社会サービスを受けることができるというのは恵まれているのだと気付かされます。

そして仮初めの親娘が逃げ込んだ先は...なるほどそういう手があったか。しかし、それでも逃げ続けなければならないことに変わりはありません。そこまで「子」に拘るのは母性の為せる技なのかどうか。そして、その娘はどう育つのか。最後まで目が離せません。

お勧め度:★★★☆☆

2018年1月13日 (土)

政と源 (三浦しをん)

政と源 (集英社オレンジ文庫)
政と源』は、三浦しをんの新作小説。じいさん二人が主人公では食指が動かなかったのですが、作者に敬意を称して拝読しました。

1. 政と源
2. 幼なじみ無線
3. 象を見た日
4. 花も嵐も
5. 平成無責任男
6. Y町の永遠

東京都墨田区のつまみ簪職人・源二郎は破天荒な性格のくせに職人としての腕はいい。幼馴染の国政は元銀行員だけあって生真面目で融通が効かない。真反対の性格なのに、なぜかいつもつるんでる。現実には「大人としては」できない無茶をやってくれるから愉快です。

本文イラストは完全に三浦の趣味ですね。コメントは差し控えます。

お勧め度:★★★☆☆

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